第百六十七話 カケル達の完全勝利と合流



 「さて、それじゃこいつらを――」


 と、チャーさんのご主人を見送った後、イグニスタとギルドラの二人を拘束しようと動こうとしたその時、まだいた残りの騎士達やヘルーガ教徒が次々と現れ、俺達を取り囲んだ。



 「イ、イグニスタ隊長!? 貴様等……生きて帰れると思うなよ」


 「ヘルーガ教徒どもはギルドラ殿をお助けしろ! 我等はイグニスタ様を助ける」


 騎士達が好き勝手言っているのを聞いていると、黒ローブがギルドラの槍を抜こうとしていた。


 「ギルドラ様……今、お助けしま――」


 「≪炎弾≫」


 ゴウゥ!


 「う、うわ!?」


 出力補正はほぼしていない炎弾を放ち、黒ローブを下がらせる。そいつはもう少し苦しんでもらわないと割に合わない。


 「さて、とりあえず全員拘束してやろうかね」


 俺が腕を回して言うと、クロウが俺の腕を引っ張る。アニスは意識のないチャーさんを抱えて俺達の後ろへと回ってくれた。


 「カケル、ここは僕が」


 「……流石に一人は無理だろ。あの騎士相手にも苦戦していたじゃないか」


 「そうだけど、そうじゃないんだ……見ててくれ。『支配する魔眼』!」


 クロウが叫ぶと、クロウの目が真っ赤に染まる。その瞬間、その場に居た俺とアニス以外の人間がビクンと身震いした後動かなくなる。


 「か、体が動かん……!?」


 「う、うう……」


 「……」


 指一つ動かせないようで、脂汗をかいたり、気絶したり、果ては前のめりにぶっ倒れるなど、様々な状態変化を起こしていた。


 それよりも驚きなのが――


 「その眼って魔王の証!? なんでクロウが!?」


 「あの男、どうやら僕たちに恐れを抱いたみたいで、戦意を失った瞬間……魔王の力が僕の中に入ったんだ」


 ……そういえばゼルトナ爺さんが言ってたな『倒せば次期魔王になれる』とか。それじゃあクロウが倒したという判定になったのか……


 「カケル、早く拘束を! まだうまく使えないから効果時間は未知数なんだ……!」


 「よし、任せろ!」


 呻くように言うクロウを置いて、俺はカバンからロープを取り出し、一気にその場にいたやつらをぐるぐる巻きにしてやった。


 「ぐ……おの、れ……後少しのところで……!」


 「残念だったな。だが、アニスの秘密を暴露してくれたことは助かったぜ。これで死にたいなんて言わないだろうからな」


 「僕が言おうとしたセリフが盗られた……!?」


 「大丈夫。クロウ君が頑張ったのをわたしは知っているよ」


 ぽんぽんと、アニスがクロウの背中を叩いているのを見て苦笑しながら、イグニスタとギルドラに≪ハイヒール≫をかけて傷を癒す。ギルドラはそれなり。イグニスタは腕を一本失った上に魔王の力もないので、大人しくなるだろう。


 「そういえばカケルはどうやってここに来たんだい?」


 俺が回復魔法をかけ終えて立ち上がると同時にクロウが話しかけてくる。


 「ん? そんなに難しい話じゃないぞ。何となく嫌な予感がしたからお前のポケットにチャーさんの主人のイヤリングを一個入れておいたんだ。転移魔法の片割れとしてな。で、お前が案の定出て行ったから、機を見てから『存在の不可視』を使って転移したって訳だ。転移したらお前が槍で刺されそうになってたから焦ったぞ」


 「う……ご、ごめん……」


 「まあ二人とも無事で良かった。んで、後はっと……」


 俺は床で寝そべっているギルドラに目を向け尋ねることにした。



 「で、お前達はやはりアウロラの封印狙いか?」


 「そんなこと言う必要はないと言いたいところだが勝ったお前達に教えてやらんでも無い。そのとおりだ。しかし、封印を解くことはお前達にとっても悪い話ではないと思うがな。エアモルベーゼ様は復活するが、同時にアウロラも復活する」


 「まあ、言わんとすることは分かるが、前提がおかしいからな? この世界の大半はアウロラに頼っていないし、そもそも封印されていることを知っている人も少ない。というか一番分からないのは、俺はこの世界に来たときアウロラに会っているんだ。エアモルベーゼとやらが封印されて、今現在、姿が無いのならアウロラも同じはずじゃないか? となると、あのアウロラはなんだったんだ? それと、お前達に封印のことを教えているのは誰だ?」


 「ふん……そこまで教えてやる必要はない。アウロラに聞いてみたらどうだね?」


 「聞けたら苦労はしないんだよ……というか態度悪いな。分からせてやらねばなるまい……! クロウ、アニス、手伝え。拷問だ……!」


 「え、ええ!?」


 「らじゃー」


 困惑するクロウにハッキリと返事をするアニス。結局、拷問(という名の嫌がらせ。どんなものかは想像に任せる!)の結果、封印がある場所を吐かせることに成功。獣人達はギルドラの持っていた『減衰の秘宝』というもので、身動きを封じて部屋に閉じ込めたり、昏睡状態に陥らせていた。秘宝の力を解除すると、少しずつだが獣人達が目を覚まし始める。


 俺はイグニスタやギルドラを牢に入れた後、ティリア達を迎えに行った。




 「……お、雨が止んだか」



 



 ◆ ◇ ◆





 「はい、はい……そうです。城は解放されましたから、村から城へ移動します。一応置手紙を残していくので、到着したら城までお願いしますね」


 ティリアがセフィロト通信でミリティアさんへ経緯を説明し、切断する。意外と早くカタがついたから、送り込んでくれた冒険者はまだ到着していないため念のため書置きを残して元・村長の家を出る。


 「結果的には良かったわけじゃが、まさか魔王が倒されておったとは。カケルより強いやつだったら危なかったかもしれん」


 「その可能性はあったかもしれないな。まあ、大丈夫だ。スキルがあるから、簡単には死なないし俺」


 「そういうのはダメだよ? カケルさんはいいかもしれないけど、一緒にいるボク達は心配なんだからね」


 師匠の言葉にさらっと返したが、ルルカが人差し指を立てながらぷんぷんと怒っていた。詰め寄ってくるルルカを窘めていると、リファが馬車を運んできてくれた。


 「屋根があったからこいつらもゆっくり休めたみたいだ。それじゃ、クロウとアニスのところへ行こう!」


 それぞれが馬車へ乗り込むと、ゆっくり馬が歩き出す。



 「……それで、クロウ君は魔王に?」


 「ああ。闇狼の魔王はイグニスタのやつに倒されていた。それを負かしたクロウが魔王の力を手に入れてしまった形になった」


 レヴナントが真剣な目で俺に言い、言葉を続けた。


 「ベアグラートはいなかったのかい?」


 「ん? 前魔王のことか? だったらそうだな。少しだけ起きた城の住人にちょっと探してもらっただけだから何とも言えないが、どうも姿がないらしい」


 「そうか……なら、到着して落ち着いたら君とティリア。そして魔王の力を受け継いだクロウに話がある。勿論、ルルカやリファル姫、メリーヌ女史にも聞いてもらいたい」


 「……?」


 そういえば船でここに来るよう言った時に『満足の行く結果がでれば知っていることを話す』とか言っていたな。その時が来たのか?


 <……>


 ゴトゴトと揺られながら俺達は城へ到着し、クロウ達と合流を果たした。 

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