第百八十三話 不幸中のわいわい
――というわけで、ユニオン経由でグランツ達へ伝言を残した俺はベアグラートの城にしばらく厄介になることになった。
「ゆっくりしていってくれ。俺は敵ながら武人であるフェアレイター殿と稽古をして、エアモルベーゼの復活に備えよう」
「フフフ、よくぞ言った! クロウ共々わしが鍛えてくれるわ!!」
「クロウ君頑張れ」
「う、うん……」
「ふぁ……クロウ少年、死ぬなよ?」
やる気満々の爺さんに、すでに後悔をし始めているクロウ。チャーさんがアニスの頭の上であくびをしながら不穏なことを言っていた。
さて、爺さんも油断はならないが、一週間も城の中に居るのは勿体ない。刺客が来るという心配もあるが、ここは少し散歩をするのがいいかと思い準備を進めていた。そこへティリア達がやってくる。
コンコン
「ぜ、全裸じゃありませんよね? カケルさん起きてますかー?」
「おう、丁度でかけるところだ。どうした、みんな揃って?」
見れば、ティリアにルルカ、リファに師匠、芙蓉も俺の部屋になだれ込んできた。……改めて女性ばかりだな
と感じてしまう……俺がそんなことを考えていると、リファが嬉々として話しかけてきた。
「ここのところ破壊神関連で緊張の連続だったから久しぶりに羽を伸ばそうと思ってな。折角だしカケルを誘いにきたんだ!」
なるほど、考えることはみんな一緒ってことか。どうするかな、たまには一人になりたいときもあるんだけど。
「芙蓉さんが言うには獣人の作った服屋さんとか、デザートとかあって結構面白そうなんだよね。みんなデートみたいでいいかなーって」
ルルカがニコニコと俺の袖を引っ張りながら言うと、師匠も珍しく乗り気な様子で誘ってくる。
「わしはヴァント王国から出たのはアウグゼストが初めてでな、ここにも成り行きでとはいえ他国に来るのは初めてなのじゃ。たまには旅行気分を味わいたいと思う年寄りのわがままを聞いてはくれぬか?」
「えー……ここで歳のことを言うのかよ……」
「フッフッフ、こう言えば断りづらかろう?」
そのとおりです師匠。
しかし固まって動くのもなぁ……刺客に一網打尽にされたりしないだろうか。
「カケルさんは例のことを心配しているみたいだけど、私もティリアさんもいるし大丈夫だと思うわよ?」
「まあ、新旧魔王&勇者だしな……よし、考えていても仕方ない! 行くか! 俺も気になるし!」
そしてぞろぞろと城を後にする俺達。チラリと庭を見ると、クロウが走っているのが見え、アニスが手を振って見送ってくれた。
……何か土産でも買っていってやるか。でもあいつらの好きなものってよく分からないんだよな。チャーさんとアニスにいたってはまだ会って間もないし……
それにしてもいい天気だ。これは絶好の散歩日和だと空を仰ぐ。ゆっくり散策するかな。
などと平和なことを考えていた俺は、この後すぐ、とんだ騒動に巻き込まれることになるなんて、この時は思いもよらなかった。
「(はぐれたふりをして二人きりに……)」
「(わざとはぐれて、雰囲気の良い公園にでもしゃれこむのじゃ!)」
「(最近、私の出番が少ないからここらでアピールを……! 城に戻った時に紹介できるように!)」
「(んふふ、みんな虎視眈々と狙っているのかしらね? でも残念……カケルさんと二人きりになるのは私よ! ……というか、話したいこともあるしね……)」
「(夕ご飯はカケルさんの作ったご飯が食べたいですね……疲れていると思うから言いだしにくいです……! チャンスがあれば……!)」
「「「「「(フフフフフ……)」」」」」
◆ ◇ ◆
「いってらっしゃーい」
「出かけるみたいだな」
アニスが手を、チャコシルフィドが尻尾を振って門へと向かうのを見届けていた。
「はぁ……はぁ……ま、待ってくれ! 僕も……!」
クロウがカケル達の姿を見て、手を伸ばしながら追いかけようとするが、Tシャツの襟首をフェアレイターに掴まれ宙づりになる。
「ならん。今は我慢するのじゃ」
「ちぇ、分かってるよ。でも急にどうして僕を鍛えるなんて言いだしたんだ?」
しぶしぶクロウが納得し、地面に着地をするとフェアレイターはクロウの目を見て口を開く。
「……あやつら、特にあのカケルという男はこの先、必ず災厄に見舞われると思っておる。その時はクロウ、お主も戦わねばならん時が来るじゃろう」
「そりゃ、カケルはお人よしでよく巻き込まれるし、復讐者なんてのにも狙われているみたいだから当然じゃないの? もちろん僕も戦う覚悟はできているよ」
クロウがそう言うと、フェアレイターはクロウの頭を撫でながら微笑む。
「そういった類の災厄では無さそうでな……いや、それはよいか。なにより力はあったほうがいい。幸か不幸か、クロウよ、魔王の力を得たお前は今飛躍的に強くなっておる。しかし、それを返すと元通りの貧弱坊主に戻ってしまう」
「だ、誰がだよ!?」
クロウが抗議の声をあげるが、フェアレイターは構わず話を続けた。
「だが、魔王の力がある内に鍛えれば全体レベルの底上げができる。その為には旅立つ前の今が一番良い。アニスは明日からメリーヌと言ったか? あの者と賢者に魔法を鍛えてもらうつもりじゃ」
「……どうして敵の爺さんがそこまで……」
「わしの敵はわしがそう思った者に限られる。エアモルベーゼの力は授かったが、やつがわしの障害になるならこの身が朽ち果てようと倒しにかかるぞ? それと、わしもいつ消えるかわからん。わしの技を残したいとも思っておる……う! ごほ、ごほ……」
「爺ちゃん、しっかり」
「お、おい……」
「うむ、すまぬなアニス。カケルにも技を伝えようとは思っておる……じゃが、まずはお前じゃ。わしの技、覚えてくれるか?」
「わ、分かったよ! 老い先短い爺さんの頼みくらい聞いてやる! 走ればいいんだな?」
「まずは基礎体力を上げるのじゃ。ゆけ、クロウよ!」
フェアレイターの声でクロウは走り出す。後ろに回り込んだチャコシルフィドがぼそりと呟いた。
「達人、ケチャップ……」
「フッフッフ、バレたか」
「爺ちゃんずるい。私、心配したよ?」
「すまんすまん。だが、やる気を持ってもらわねば強くはなれんのでな」
アニスが頬を膨らませるのをみて苦笑するフェアレイター。しかし胸中では――
「(カケルを見てから嫌な予感がおさまらん。わしがエアモルベーゼと対峙した時とよく似ておるわ。この先、あやつに何か起こる……わしの勘がそう告げておる。次の国は光の力を持つ者の国……何事もなければ良いが、芙蓉よ、大丈夫なのか?)」
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