第二百四話 カケルの意識とクロウの受難
――蹂躪
リンデの頭にその二文字が浮かぶ。
それもそのはず。
カケルは襲いかかる盗賊達を千切っては投げ、千切っては投げを繰り返していたからだ。具体的に言うと、腕が飛んだり、目玉が潰れたりと、微妙に命にかかわるかかからないか、というレベルで無力化していく。ただ暴れているようでいて、確実に相手と見ている者を恐怖に陥れていた。
「う、うわああ!? 腕が……俺の腕がぁぁぁ……!」
「た、立てな……あ、足が……」
「ば、化け物……」
「赤い瞳!? ありゃ魔王だ! 散れ! 逃げろぉぉぉ!」
「ニガサン……」
時間にして数分――
盗賊達は完全に沈黙し、辺りにはリンデを含む呆然とした村人だけが残されていた。カケルはたどたどしい言葉を放つ。
「コウ、ソクしろ……」
「こう……? あ! は、はい! おい、生き残っているやつは盗賊達を縛り上げろ!」
「あ、うう……い、いてえぇよ……」
「くそ……また魔王か……あそこから寝気て北に逃げたのによ……」
「大人しくしろ!」
まだ動ける男達が盗賊達を縛り上げるのを見て、カケルは何事も無かったように再び北へ向けて歩き出す。
「す、すごい……あの人あっという間に盗賊達を……」
ドクン……
「(え? 何、この気持ち……あの人を見ていたら、何だか熱く……)」
『魔王のフェロモン』により、知らず、リンデもそのスキルの虜になってしまった。そんなことなど露知らず、リンデはカケルの前に出てぺこりと頭を下げた。
「あ、あの! た、助けてくれてありがとうございます!」
「……」
リンデを一度だけ見た後、カケルは歩き出そうとしたが、近くにリンデのお爺さんが頭から血を流して倒れていた。
「う、うう……リ、リンデ……無事か……」
「おじいちゃん! ああ、酷いケガ……」
「わ、わしはもうダメじゃ……た、旅の方……孫を、助けてくれて感謝しますぞ……」
「……」
カケルは目を細めておじいさんを見る。その後、村中を見渡していた。
「? どうしたんですか?」
リンデが声をかけると、カケルは盗賊達が全員縛られているのを確認し、一言だけ呟いた。
「『還元の光』」
ブワッ!
カケルを中心に光の幕が村中を覆い始めた。その幕が人に触れると、たちまち怪我が治り、焼き鳥になりかけていたニワトリはすっかり元に戻り、家屋に光の幕が触れると、焼けたことが嘘のように元通りになっていた。
「お、俺の家がぁぁ! あ、あれ? 何ともない」
「な!? おい、あんた大丈夫なのかい!?」
「あ、ああ……痛くもかゆくもないや……」
縛られていた盗賊達も、無くなっていた部位が元に戻り、目を白黒させていた。
「い、意味がわからねぇ……俺は確かに目が……あの魔王、とんでもないぞ……」
「う、腕が戻った……うぉぉぉん! お、俺もう悪いことはしねぇよー」
「これは……あなたの……?」
「……コロス……ツキシマ……コロス……」
「あ、待って! お礼を――」
リンデが駆け寄ると、カケルは頭を押さえながらリンデを突き飛ばす。
「ヨルナ……! ぐ、うう……よ、良かったな……ぐ、偶然にしちゃ上出来……お、俺に近づくな……つ、次はあんたを殺してしまうかもしれない……グウウ……グオォォォオ……!」
「旅の人!」
「リンデ! 近寄っていかん!」
「でも!」
おじいさんがリンデの肩を掴み止めると、カケルはフラフラしながら村の中を歩き出す。呻きながら転び、再び立ち上がるのを繰り返していたが、やがて地面に倒れ込み動かなくなった。
◆ ◇ ◆
「ごちそうさま」
「あれ、クロウ君、それだけでいいんですか? 食料はいっぱいありますから大丈夫ですよ?」
クロウがおかわりをせず、食器を置いたのを見て、ティリアは驚いてクロウの額に手を置いて熱を測る。その手をやんわり払いながら、クロウはぼそりと呟いた。
「……最近、みんなが僕に筋肉をつけようとさせる気がするんだ。アニスとか師匠の筋トレとか。最近だとマッセルさんに『君は素質がある!』とか言ってかなり食べさせられたし……このままだとちょっと怖くてさ……」
「そう? クロウ君ってまだ若いし、成長期だからじゃないかしら。大人になってからは中々成長しないから、今の内だと思うわよ。それに、カケルさんと出会ってからエネルギー不足じゃきついんじゃない?」
芙蓉がホウレンソウのバターソテーを食べながらそう言うが、クロウは首を傾げていた。そこにグランツもくわわってくる。
「芙蓉さんの言うとおりだと思うよ。カケルさんを救出するなら体力はつけておいたほうがいいいつ遭遇するかもわからないしね」
「うーん……そこまで言うなら……実際まだお腹いっぱいじゃないんだよね」
「はい! おかわりね!」
<あむあむ……串焼き美味しいですね!>
「……ナルレアさんは食事必要ないんじゃなかったっけ……?」
エリンがライスを盛り、串焼きを渡すと、クロウはナルレアにツッコミながら食べ始める。それを見てにっこりとティリアが笑い、何本目かわからない串焼きを口にした。
――その時だった。
「……!!」
<!>
ティリアとナルレアが串焼きを手に同時に立ち上がり、同じ方向を見る。その様子を芙蓉が眉をひそめて尋ねる。
「どうしたの?」
<今、カケル様の力が発動しました。とんでもない魔力が……>
「心臓がドキドキしています……! 距離は……ここから半日くらいのところですね」
ティリアの言葉に、グランツが地図を広げておおよその目算をする。
「今がこの辺りのはずだから……この先にある村にいるのかもしれない。力を使ったって、まさか村を破壊したとかじゃないよな……?」
「た、多分大丈夫よ……カケルさん、お人よしだし、ほら、もしかしたら人助けをしてるのかも!」
「あの状態だと期待でき無さそうだけど、行ってみるしかないな。すぐ行きましょう!」
「ええ! もぐもぐ!」
「クロウ君とティリアさんは早く食べて! 私とエリンで片付けるから!」
「ええー……おかわりしろって言ったの君達じゃないか……食べるけどさ」
芙蓉の言い方に不満を覚えるクロウであった。
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