第二十二話 用心深く時を待つ


 

 「おばちゃん一番安い部屋!」


 「あいよ、素泊まりで一泊1500セラ。一週間連泊で8000セラだ、どうするね?」


 「連泊で! はい、お金!」


 「確かに8000セラいただいたよ。 部屋は204を使いな!」


 たったこれだけの会話で部屋を確保できた。おばちゃんは話が早くて助かる。



 俺はソシアさんと(半ば強引に)別れた後、逃げるように宿へと駆けこんだ。『お嬢様』と呼ばれていたソシアさんとあのまま一緒に居たら良くて命の恩人、悪くて誘拐犯になる事は想像に難くない。トラブルに巻き込まれるのは


 「まあ、流石に会って数時間の俺を追いかけて来るとは思えないけど」


 ガチャリ


 ドアを開けて中へ入ると、質素だけど布団付ベッドと、机がある六畳くらいの部屋だった。あまり広い部屋は落ち着かない貧乏性な俺にはありがたい。


 「トイレと風呂は共同か、まあカルモの町みたいに銭湯があれば別にいいか」


 とりあえずベッドに寝転がり俺は目を瞑る。ユニオンを探したいところだけど、ソシアさんが探していないとは限らない。まだ昼を少し過ぎたところだという事を考えると少し勿体ないが、今日はこのまま夜まで引きこもらせてもらおう。


 「しかし、何だってあんな所に居たんだろうな……」


 町から数時間程度だが、それなりに山に近いので人気は少なかった。しかも普段着と思われる格好だったし、お腹が空いていたというのも気になる。一日抜いただけにしては……。


 「ああーやめやめ! もう関わる事も無いんだ、気にするな俺!」


 寝転がっていると要らんことを考えてしまう、気を取り直して俺はオープンを使う。


 【ジュミョウ カケル】


 レベル5


 HP:255/255


 MP:2531/2531


 ジョブ:(未収得)(回復魔王)


 力:23


 速:17


 知:10


 体:19


 魔:28


 運:16


 【スキル】


 回復魔王


 ヒール:消費MP 25


 ハイヒール:消費MP 30

 

 能力値上昇率アップ


 全魔法適正


 全武器適性


 ステータスパラメータ移動


 全世界の言語習得:読み書き


 【特殊】


 寿命:99,999,887年


 魔王の慈悲:相手に自らの寿命を与えて回復させることができる。


 生命の終焉:触れた相手の寿命を吸い取る事ができる。スキルが強力になると一瞬で絶命させる事も可能

 

 TIPS:触れたスキルの説明を見る事が出来る。


 音声説明アシスト:レベルアップやスキルを覚えた際、音声で色々と知らせてくれる。


 運命の天秤:死ぬ運命にあった人間を助けようとすると、自身の寿命が減る代わりに死の運命を傾ける事が出来る。ただし#$%&――。



 とりあえず変更は無しだな。


 TIPSもあるけど、音声アシストが何気に便利かもしれない。試しにヒールについて確認しよう。


 <ヒール、回復魔法の最下級。ケガを治療することが可能。ただし、血液の補充はされない>


 うん、シンプルでいいな。ハイヒールも聞いておくか。


 <ハイヒール:中級回復魔法。カケル様の使用するものは一般的な治癒術士と違い、ケガ・大ケガの治療に加え、衣服の再生が可能。ただし、血液の補充はされない>


 ……そういやアンリエッタがおかしいとか言ってたな……これは迂闊に使えないか。良かった、見といて……!


 血液の補充はできないとなると、血を流し過ぎていたら死ななくても戦闘中だったら逃げてもらう方がいい感じだな。俺は勝手に寿命が減るから何が致命傷だったのかが分からないのがネックかなあ。


 で、気になるのは運命の天秤か。血液の補充と一緒で『ただし』がついているけど、その後の文字は化けて読めない。これを聞くことはできるだろうか?


 <運命の天秤:死ぬ運命にあった人間を助けようとすると、自身の寿命が減る代わりに死の運命を傾ける事が出来る。ただし#$%&>


 ダメか。文字化けした部分を読むときに「あばばばばば」みたいな怪しい言語になってしまい耳障りなだけだった。音勢アシスト、結構美人さんって感じの声なんだけど、それが「あばばばば」となって聞こえるのは中々込み上げてくるものがある。



 「もう一回聞いてみよう」


 <運命の天秤:死ぬ運命にあった人間を助けようとすると、自身の寿命が減る代わりに死の運命を傾ける事が出来る。ただし#$%&>


 「ぷふ……」


 <運命の天秤:死ぬ運命にあった人間を助けようとすると、自身の寿命が減る代わりに死の運命を傾ける事が出来る。ただし#$%&>


 「ふ、ふふっ……」


 <運命の天秤:死ぬ運命にあった人間を助けようとすると、自身の寿命が減る代わりに死の運命を傾ける事が出来る。ただし#$%&>


 「あははは! やべぇ面白い! もう一回!」


 <……>


 「あれ? 『運命の天秤』をぽちっと……」


 <……>


 おかしいな? 何も返って来なくなったぞ? どうした? もう一回っと。


 <本日の営業は終了しました>


 「嘘つけ!?」


 思わず俺は叫んだが、その後、何度聞いても答えが返ってくることはなかった。……もしかして怒ったのか……?


 と、音声アシストには拗ねられてしまったので、他のスキルを確認しようと試みるが……。


 「……ヒール以外使えないじゃん」


 『魔王の慈悲』は対象が必要で、寿命を使う事になるし、『運命の天秤』はいわゆるパッシブスキルなので、俺が発動させる条件は特に無い。


 「必殺技とかもありそうだけど、ゼルトナ爺さんに教わる前に出てきちゃったしなあ……」


 後は魔法もだった。魔力があれば誰でも覚えられるらしいけど、一応魔力の使い方を学ばないとうまく発動しないらしい。ゼルトナ爺さんの講習によると、この世界では魔法を使う事を魔力を『編む』と表現しているみたいだった。

 それはともかく、今の俺は何かを試すほどスキルを持っていないのでほとぼりが冷めるであろう夜までふて寝するしかなかった……。




 ◆ ◇ ◆



 「おばちゃん、どっか安くていい飯屋ないかい? 宿でも別料金で食えるならお金を払うけど?」


 「あーちっと遅かったね。ウチは二十時を過ぎたら料理は提供してないんだよ。この時間からは本職の料理屋と酒場の出番って訳さ」


 ベッドの横になっていたら少し眠ってしまい、もう少し早く起きる予定だったのに、すっかり遅くなってしまった。昼も食べていないので腹はかなりやばい。


 「あー、でもアンタは冒険者じゃないかい? ならユニオンに行けばいいじゃないか、あそこなら酒も料理もそれなりで割引があるんだろ?」


 「そういえばミルコットさんがそんな事を言ってたな。ありがとう、ちょっと行ってみるよ」


 「ここは開いてるから何時でもいいよ。女を連れ込むときはアタシにばれなきゃ許してやる!」


 ひっひっひと笑いながらおばちゃんが見送ってくれた。田舎のおばちゃんってあんな感じだよな……嫌ではないが。

 で、おばちゃんに場所を聞いたので、早速俺はアドベンチャラーズ・ユニオンへと向かう。俺が歩いて来た大通りをさらに進んだところにそれはあった。


 「『アドベンチャラーズ・ユニオン ウェハー支店』か」


 相変わらず銀行の支店みたいな名前の建物はカルモの町よりも数段大きかった。三階建ては同じだけど、横幅が全然違うのだ。


 「お邪魔しますよ、と……」


 ワイワイ……ガヤガヤ……


 中に入ると熱気が凄かった。ポツリポツリとしか居なかった冒険者が、ここではたくさん席を埋めていた。作りはカルモとそれほど変わらない。ただ、フードコートみたいな場所は格段に広かった。


 「へえ、賑やかだな。町がどういった役割を果たしているのか興味あるな。お、あれ美味そう」


 若い兄ちゃんも居れば、ローブで全身を覆った女魔法使いみたいな人など様々だ。中にはネコミミの女の子も居て俺を興奮させてくる。


 「うは! 本物のネコミミ……! うおお……ぴこぴこ動いておられる……!」


 近くに行って声をかける度胸などミジンコの心臓ほども無いので遠くからモジモジと観察するだけにとどまる。

何人かが俺に訝しげな目を向けてきた辺りで俺は我に返った。


 「んん……。さて、飯にしようか……」



 【今日のオススメ】


 『ホワイトロブスターの炭火焼き』 


 『カルモ産チキンのトマトソースがけ』


 『フォレストボアの卵とじ』


 スープ&パン付 800セラ


 スープ&ライス付 1200セラ


 「何!? ライスがあるのか!」


 アンリエッタの家ではパンしか食べなかったから分からなかったけどどうやら米があるらしい。驚きの声を上げているとコックのおじさんが俺に声をかけてくれた。


 「お、兄さん見かけによらず通だね? 最近南の大陸から仕入れる事が出来てね、試してみるかい? 流通ものだから少し高いけど……」


 「頂こう! フォレストボアの卵とじを!」


 「よしきた、ちょっと待ってろ!」


 何故か嬉しそうなおじさんが厨房へ消え、俺は注文札を持ち、料理が出てくるのを待つ。フフフ、まさか米が食えるとは……こういう異世界は米や味噌、醤油は貴重か自分で作るしかないというのが相場だ。


 ぐぅ~……


 「まあ、落ち着け相棒。もうすぐ満足させてやるからな」


 などと無駄にテンションが高くなったその時、入り口がざわついていることに気付く。


 「何だ……?」


 俺がひょいっと人ごみをかき分けて入り口を見ると、青い鎧を着た男性に軽い皮鎧を着た女性と、弓を背負った女性が血だらけで足を引きずりながら入って来た所だった。近くにいた冒険者が慌てて支えてやる。


 「お、おい、病院はここじゃないぞ!」


 「な、何……? この町はユニオンと医療施設が一緒になっていないのか……くっ、頼む、回復魔法を……俺も意識が……」


 直後、三人とも気絶してしまう。嫌な現場を見てしまった……。


 「『生命の終焉』」



 『???


 寿命残:三十分


 ハイヒールで生存可能』



 女性二人もそれほど変わらない時間でおさらばって感じだった。ここで死なれたら飯がまずくなる……しかもお肉だし……。


 「仕方ないか」


 俺がため息をついて歩き出そうとしたその時……。


 「ほら兄ちゃん、フォレストボアの卵とじだ!」


 「うおお!? このタイミングで!?」

 

 俺はお金を払い、料理の乗ったトレイを持ち、スプーンを口に咥えなが三人組に近づいた。


◆ ◇ ◆


 『作中の専門っぽい用語』


 ※パッシブスキル


 キャラが独自に持っているスキルの事で、 パッシブスキルはとくに何かをする必要はなく自動でスキルが発動するという便利な能力と考えてOKです。ただし、条件付きで発動するものもあります。『運命の天秤』はこの条件があるようですが……?

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