第百九十三話 疑惑の男
「おっと……時間切れか」
馬車から降りた瞬間、俺は自身の『存在の不可視』が消えたことに気付く。
「丁度良かったんじゃない? どうせ顔は見せないといけないだろうし」
「そうだな。私が無事なのが明確だから問題は無いと思うが、父上に話をするなら魔王であるお嬢様とカケルも説明してくれれば話は早いと思う」
芙蓉とリファが歩きながら俺に話しかけてきた。勝手知ったるというやつで、従者や騎士といったお供を連れずずかずかと城を歩いている。目指すは謁見の間ちいうところか。
できれば父上とやらには会いたくなかったがそうも言っていられない……俺が苦い顔をして歩いていると、ルルカが横に立って呟く。
「大丈夫、ボクとお嬢様が証人だからカケルさんには迷惑をかけないよ。それより、どうしてリファが死んだことになっているのかをしっかり聞かないとね」
「……そうじゃな」
師匠が険しい顔のまま一言だけ呟くと、やがて謁見の間へと到着し、リファが重々しい扉を開いた。
ギギギ……
「父上! いらっしゃいますか!」
リファが大声で叫ぶと、玉座に座っていた白髪交じりの男性が立ち上がり口を開く。この人が国王で間違いなさそうだ。
「リファル! リファルか! 先程、騎士に聞いていたが……ほ、本物なのか!?」
「もちろんです。このリファル、そう簡単に死ぬわけがありますまい!」
ドヤ顔で言い放つリファに、国王が駆け寄り抱きしめる。横の椅子に座っていた、リファと同じ紫の髪をした女性も涙を流しながら肩に手を置いていた。こっちは母親だな。リファと同じく美人で……胸が大きい。
「うむ、確かに本物のようだ。無事で良かった」
「ええ、あなた。そうとわかれば他国に攻め入るなんて馬鹿なことはおやめ下さるのですよね?」
「……そうだな。そっちに居るのは賢者ルルカか。それに……『光翼の魔王』ウェスティリア殿」
国王が俺達に目を向けると、ルルカが膝をつき、ティリアが微笑みながら会釈をし、それぞれ口を開く。
「お久しぶりです、国王。リファ様はこのとおり、ご無事でございます。偽物だということもありません。この命を懸けて誓いましょう」
「私も魔王の名に懸けて。無事の再会を喜ばれているところ大変申し訳ありませんが、今回の騒動についてお伺いしてもよろしいでしょうか?」
ティリアが一歩前へ出てから、真面目な顔で国王へ質問を始めた。国王は玉座に座り直し、語り始めた。
「正直、私も困惑している。この話を聞いたのは二週間ほど前のことだ。デヴァイン教徒と名乗る者が謁見を申し出てきたのだ。その者の話は『新しく誕生した魔王に姫が殺された』と私達に告げた。ウェスティリア殿と新しい魔王を探しに旅を出たのは知っていたから、あり得ぬことではない……」
色々と謎は残るが、俺は一つ気になることを尋ねてみることにした。
「しかし、証拠も無いのによく信じる気になりましたね?」
「む、そなたは?」
「俺はカケル。話しに出ていた『新しい魔王』ってやつです。そのデヴァイン教を名乗った男は何かリファが死んだという証拠を持っていたりしましたか?」
「そなたが……む、いや、言われてみれば証拠は何一つ無かったな。しかし、何故かその男の言葉は信用するに値すると思ったのだ。状況としては――」
国王が困惑する中、思い出そうと頭をひねり出す。すると、そこにドタドタとけたたましい足音を立てて、イケメン謁見の間に入ってきた。
「リファァァァァァル! 無事だったんだね!」
「兄上! ……わぷ!?」
イケメンは即座にリファをロックオンし、抱きしめた。ひとしきりぐりぐりした後、両肩を掴んでリファを見つめながら口を開く。
「ふう……私に黙って旅に出たというのを知った時には追いかけようにもすでに遅しでね。もやっとした日々を送っていたら、リファルの死亡騒動だ。新しい魔王をどうやって殺してやろうかと今日まで過ごしてきたよ。八つ裂きか火あぶりか……あらゆる拷問を考えたね」
妹が殺されたらそうなるのは分からないでも無いが、言っていることが物騒すぎて怖い。こちらは父の国王と同じ茶色い髪を伸ばして、後ろに束ねていた。
「ふふ、兄上は心配し過ぎです。私も連絡をしなかったから反省しないといけませんね。それと新しい魔王はとても優しい方ですよ。こっちが回復の魔王、カケルです」
国王と話している途中なんだけどな……と、思ったが、ずいっと前に出されたので俺は仕方なく片手を上げて挨拶をする。
「ちっす、カケルっす。魔王やってます」
すると、兄は眉をピクッと動かし、俺に握手を求めてきた。
「……君が新しい魔王かい。よろしく頼むよ」
「ええ、こちらこ……そ!?」
ギリギリギリ……何と、王子とは思えぬ握力で俺の手を握ってきた!
「旅の間、リファルと一緒だったんだね。男が! リファルと! ええい、うらやま……けしからん! ぬう!?」
<『力』をあげておきましたー!>
そう言われては黙っていられない。ミニレアが俺の意図を汲んでくれ、壊れない程度に握り返す。もちろんメンチを切って。
「ええ、一緒でしたよ。同行するつもりは! 無かった! ですけどね!」
「ぐぬ……!? リファルと一緒に居られてその発言! ……リファルに手を出していないだろうな! ん? ルルカか? なんだ?」
そんなつもりはないと言おうとしたところで、そこにルルカが俺達のところへ来ると、王子に耳打ちをすると、目を見開き俺の手を優しく握り返し、優しい目をしてきた。
「なんだ、それを早く言っておくれよ! 私は、ジェイグ。リファルとその姉である、リチェルの兄だ。歓迎するよ、回復の魔王カケル!」
ええ……気持ち悪いくらいの変わりようだな……
「(おい、ルルカ、何て言った?)」
「(んー別にー。ほら、国王様に話を聞かないと!)」
後でじっくり聞かせてもらおう。さて、続きをと思っていたら国王が咳払いをして話を戻してくれた。
「ゴホン! ジェイグ、はしゃぎ過ぎだ。少し下がっていろ。ふむ、カケル殿は特におかしな感じはせぬな。先程の続きだが、その男は新しい魔王……カケルは世界を滅ぼす存在と言っておった。雰囲気からすると、それもかけ離れているな」
「ご理解いただけて何よりです。それで、その男は――」
ドサリ……
「え?」
俺が話を続けようと口を開いた瞬間、背後で人が倒れる音がした。ティリアの短い声が聞こえた後、この場の誰でも無い男の声が響いた。
「私は嘘はいませんよ国王。
「こふ……」
「あ……」
涼しげな男の声が終わった次の瞬間、リファが血しぶきを上げて膝から崩れ落ち、ルルカのお腹から、刃が突き出ていた――
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