第百五十七話 ひとまず休憩を……しようと思ったのに


 「ようこそ、シャッテンの村へ! ミリティア様から話は聞いております! あの憎き人間どもを成敗していただける魔王様一行だとか! え? 仲間に人間がいるけど平気か? もちろんです! 憎いのはあの城を占拠した者どもだけですからな。闇狼の魔王様もどこにいらっしゃるのか……おお、立ち話もなんですな、では早速宿屋へ」


  「ああ、はい、お願いします」


 村へ到着すると、村長だという短めの鹿の角をつけたおじさんが快く出迎えてくれた。やはり獣人の国だけあって、なにごとかと集まってきた村人は耳が何かしらの動物をしているか、顔が動物っぽい感じだ。


 ……ちなみに道中、デッドリー熊さんを探して馬車から目を皿のようにして森を見ていたが、熊さんはおろか、狼一匹見ることは無く、さらにそれを目的にもして速度を落としたので予定より大幅に遅れての到着となった。


 「……期待外れだ、師匠……」


 「ま、まあ、そういうこともあるじゃろうな! そ、そうじゃ! お風呂で背中流してやろうか?」


 珍しく慌てて目を逸らす師匠。


 「嘘だよ、戦えればいいかな、くらいだったから気にしないでくれ」


 「な、なんじゃ……無駄な時間だったかと気を使ったのに……」

 

 ぶつぶつと頬を膨らませて呟く師匠はさておき、俺達は宿屋へと到着する。


 「兄さんたちがあのクソ野郎どもを追い払ってくれるってか?」


 「うむ、ミリティア殿によると魔王様だそうじゃ! これは勝つる!」


 宿のカウンターにいたうさぎ耳をしているのに目つきの鋭いワイルドな男が咥え煙草をふかしながら俺達に笑いかけてくると、村長がドヤ顔で紹介してくれた。


 「まあ期待にそえるか分からないけど、魔王ベアグラートを探すならまずそいつらを尋問した方が早そうだしな」


 「へへ、襲撃する時はぜひ呼んでくれよ。野郎達は、村を一つ滅ぼしてくれやがったからな……」


 パシン! と、手を合わせて憤るうさぎ耳。


 俺が逆の立場なら、元凶の『人間族』を交えた一行であるこのメンバーを受け入れることが出来るだろうか……? 恐らく獣人達は気の良い人が多いのだろう。


 しかし油断はできない。アヒルの村のように、脅されている可能性も高いからだ。部屋に通された後、俺はみんなに念のため一人で行動しないよう通達し、ティリア達は部屋へと行った。


 そして俺とクロウ、チャーさんが男部屋に残った。静かになった途端、クロウとチャーさんが口を開く。


 「……おい、猫。女の子の部屋じゃなくて良かったのか?」


 「ふん、クロウ少年こそ、おっぱいが欲しいのではないか?」


 「なんだと!」


 「フー!」


 最初の印象が悪かったのか、クロウとチャーさんは仲が悪かった。が、その内いがみ合いも少なくなるだろう、俺とクロウがそうだったし。


 ということで俺はベッドに寝転がりながらクロウ達に話しかける。クロウがチャーさんの尻尾を掴んで宙釣りにし、クロウはひっかき傷でいっぱいになったのでそろそろ止めた方がいいと思ったからである。


 「チャーさん、敵の人数とかは分かるか? ドラゴンはあのファライディ一匹だけ?」


 「あの時襲ってきた人間の数は5人だったかな? その内一人だけ青い鎧を着ていた。恐らくリーダーだろう。それとドラゴンは一匹だった。この深い森にある村では素早く動けないから本当に移動手段として使っただけだったみたいだがな」


 「いてて……お前の村には戦える人は居なかったのか?」


 「……残念ながらいなかったのだ。吾輩の村は言った通り城に近い。普段から衛兵が一定時間巡回をしてくれるから比較的安全なのだ。都合の悪いことに、巡回する衛兵が魔物を倒すため、冒険者も吾輩の村にまで足を延ばさないのだよ」


 「なるほどな。城に近いのも良し悪しか……まさか先に城が乗っ取られるとは思わないだろうからな」


 するとクロウがベッドの縁へ座りながら片手を上げながら言う。


 「意外とそうでもないよ。今回は旅人を装って入りこんだみたいだけど、僕達がエリアランドでやったみたいに、誰かを抱き込んで毒を盛り、それを治療する名目で入りこむこともできるからね」


 苦い顔をしながらボフッと隣のベッドへ寝転がる。


 「敵は今のところリーダーを含めて5人、か。他にも居ないとは限らないから、城へ突入する時は慎重に行かないとな。『存在の不可視』を使って俺だけ入りこむのもアリか?」


 「なんだいそれ?」


 「あ、クロウは知らないのか。こういうやつだ」


 俺がスッと姿を消すと、クロウが慌ててベッドから起き上がってキョロキョロする。


 「あれ!? ど、どこだカケル!?」


 「ここだここだ」


 「声しか聞こえないよ!?」


 こういう時はこどもっぽい反応をしてくれるので嬉しいところだ。しかし、チャーさんがふんふんと鼻を鳴らしながら俺の足元に近づき……


 「ここだ!」


 チャーさんが俺の足にしがみつくと、スゥっと俺の姿が現れる。


 「あ! そんなところに!」


 チャーさんが触れたことにより、窓際に移動していた俺をクロウが発見する。


 「なるほど、姿を消すスキルか。人間にはいいかもしれん。獣人には吾輩のように鼻が利くものが多いからアテにし過ぎない方がいいと思うが」


 「あー、確かに。肝に銘じておくよ。さて、どちらにしてもチャーさんの村まではまだかかるし……明日は一気に抜けた方がいいかな?」


 「封印のことも村長に聞いておいた方がいいんじゃないか?」


 クロウが、目的の一つでもある封印についても言及してくる。まだ17時くらいだし、夕飯前に話を聞くのもいいかと思ったところでナルレアが話しかけてきた。


 <カケル様、ウェスティリア様や、ルルカさん、リファさんのフォローをしておいた方がいいのではないかとナルレアは進言します>


 「急に話しかけるな……びっくりするだろ……。で、フォロー?」


 <はい。レヴナント様との取引とはいえ、勝手にこの国に連れてきたのは不満に思っているはずです。ここはご機嫌取りをしておいた方がいいかと……>


 要るかな……でも、国に戻れると思っていたところで、まったく逆の大陸に連れてきてしまったのは事実か……俺が不甲斐ないせいもあったし……


 「……分かった。なら、今日は俺が夕飯を作るか」


 俺が呟くと、クロウの耳がピクッと動いた。こいつは俺の料理が好きだから目も少し輝いている。


 「……本当かい? 何を作るんだ?」


 「そうだな……チャーさんと出会った記念だ、チャーハンを作ろうかな」


 「……その名は正直不本意……」


 チャーさんが不服そうに体を起こすと、クロウが慌てて手元に引き寄せる。


 「(シッ、滅多なことを言うな。カケルのご飯は美味いんだぞ。きっとお前の名前を模した料理でも美味いに違いない。やっぱり止めた、とか言われたくないからここは黙っててくれ)」


 「(う、うむ……)」


 「後は……村長のところへはティリア達に行ってもらおうかな」


 「そ、そうだね。ん? じゃあカケルはどうするんだい?」


 「俺は――」





 ◆ ◇ ◆




 俺は宿を出て、近くの森にやってきた。野菜はあるが、チャーハンに使う肉が欲しかったからだ。ティリアとルルカ、リファには封印について村長さんや村の人に何か心当たりがないか聞き込みに行ってもらっている間、食材探しというわけだ。宿のうさぎ耳の兄ちゃんには俺が夕食をするからと伝えているので無駄にはならないだろう。


 「で、どんな魔物がいいんだ?」


 「結局来たんだなお前達……」


 「吾輩はカケル達がいなければおもちゃにされること請け合いだからな……」


 クロウは俺の作る料理の食材ならとはりきり、チャーさんは女性陣から逃げてきた。まあ、一人で行動するなと言ったのは俺だしいいけどな。


 「できればフォレストボアかな? チャーハンには色々使えるけど、やっぱりシンプルな焼豚チャーハンがいい」


 「ははは、焼豚チャーさんだってさ!」


 「フー!!」


 またもクロウがからかい、チャーさんが襲いかかる。


 「あ、おい、危ないぞ」


 「何度も引っかかれてたまるか! ……痛っ!?」


 舌を出しながらチャーさんから逃げるクロウが、前を見ないで走っていたせいで目の前にある岩に気付かず激突していた。


 「はっはっは、吾輩を貶めた罰だな」


 「くそ……なんでこんなところに岩があるんだよ!」


 ガッ! と、岩を蹴るクロウ。


 すると……


 ムクリ……


 「動いた?」


 俺が呟くと、岩だったものがゆっくりと動き出し……いや、立ち上がった。そして涎を垂らしながらこちらを振り向く。


 「あ、ああ……で、でかい……!」


 「こいつ……まさか……」


 「フー!! そのまさかだ! こいつがデッドリー熊さんだ!」


 ゴガァァァァァァ!!


 昼寝でもしていたのだろう、それを邪魔されたデッドリー熊さんが怒りの咆哮を上げた!

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