第百八十六話 次の場所へ!
ドゴォォォォン!
「やった……! やったぞ! 僕はついに強くなった! あの大岩を一撃で破壊出来た!」
「クロウ君、やったね」
「ああ! アニス見てくれ、この筋肉! 腕も太くなったしこれでアニスを守ることができるよ!」
「うん、クロウ君素敵……ってなるわけない。ムキムキでキモイ」
「え!?」
「やっぱりスマートで強いカケルお兄ちゃんがいい」
タタタ……
「あ! アニス! 待ってくれよ!? 僕はアニスのために筋肉を……! アニス! アニース!!」
――――――
――――
――
「うわああああああ!? アニス!!」
「呼んだ?」
「うわあああ!? 近いぃぃぃ!?」
ベチっ!
「あいた!」
「クロウ君、声が大きい」
「ご、ごめんよ……あれ? アニスはカケルのところへ行ったんじゃ……? 僕はどうなって……」
「? 私はずっと一緒にいたよ? クロウ君は爺ちゃんの技を教えてもらっている時、転んで気絶したの」
そう言われてクロウは、アニスにひざまくらをしてもらっていることに気づく。
「そうだ、走り込みでフラフラなところに蹴り技の練習させられていたんだっけ……」
「まだ動いちゃダメ」
起き上がろうとしたクロウを、アニスが頭を押さえて膝へ戻す。そこにフェアレイターが桶を持ってやってくる。
「む、起きたか。すまんな、いきなりで無理をさせたわい」
よく冷えた水で濡らした布を額に乗せられ、ひやっとしつつ、クロウはフェアレイターへ話しかけた。
「いや、いいけどさ。でもこんな体たらくじゃ一週間で強くなるのは難しいかなあ……」
「一週間で強くなるのは不可能じゃ。基礎の段階を伸ばすのが目的だから、そう悲観的になることもあるまい。あの狼獣人に力を返した後からが本番だと思え」
「……分かったよ。でもどうして破壊神の力の一部が敵を鍛えるようなことをするんだ?」
ひざまくらを惜しみながらも体を起こして尋ねるクロウ。
「それは……」
「それは?」
アニスがコテンと首を傾げておうむ返しすると、フェアレイターが続ける。
「内緒じゃ」
ガクンとクロウがアニスの膝から落ちてずっこけた。
「もったいぶらなくてもいいじゃないか」
「その内わかるはずじゃ。良くも悪くもな。ほれ、修行再開じゃ。狼獣人が来たぞ」
フェアレイターが視線を横に向けると、視線の先にベアグラートがいた。神殿で会った時と違い、完全武装状態で。
「待たせた。俺は何をすればいい?」
「わしと模擬戦じゃ。それでメニューを決める。クロウは少しわしらの戦いを見ておれ」
「僕は格闘戦を覚えるのかい?」
「それと魔法じゃな。闇属性はわしが少し教えてやる。それとあの投擲武器は有用じゃが、牽制程度にしておこう。それでは始めるぞ」
「僕はこれでもデヴァイン教の神官なんだけど……」
クロウがげんなりして言うと、フェアレイターの拳骨がクロウの頭に落ちた。
「昔おった修道僧などは殺生をせず相手を制圧するために拳を鍛えていたことがある。それにいざというとき頼れるのは己の体なのじゃぞ。鍛えておいて損は無い!」
「痛ー!? わ、わかったよ……」
「よしよし」
「や、やめてくれよ……」
フェアレイターが二人の様子を見て微笑むと、ベアグラートへ向き直り構える。すると、ベアグラートも構え、一言叫んだ。
「よろしく頼む!」
◆ ◇ ◆
――と色々あったが、あれよあれよと言う間に一週間が過ぎた。
あのいけないホテル騒動後、俺達は食事をして適当に散歩をして城へ戻った。晩飯は厨房を借りてブリ大根に刺身を作りティリアがとんでもない食いっぷりを発揮した。
クロウも修行で疲れていたのか、いつもよりがっついて料理を食べていた。
「ほわあ……白身の魚が汁を吸って見事な味に……大根も味が濃くて美味しい……」
「ちょっとティリアさん、食べすぎ! 僕の分が無くなるだろ!」
「俺のやるから喧嘩するなよ……」
二日目に師匠達の洋服を買いに町を奔走し、三日目はアニスの修行開始し、四日目に俺もクロウ達に混ざる。敵ながら爺さんの修行は本格的で、1ランク上の経験が積めた気がした。
「槍を使うなら接近を許すでないわ! 囲まれないよう動かんか!」
こんな感じだ。
もし人間一人分を生贄にしたらどれくらい強いのか聞いてみると、島国なら数時間で制圧できるとの答えだった。
で、最終日は全員休みにし、町で美味しいものを食べ、クロウとアニスの装備をプレゼント! アニスは爺さんにプレゼント!
「わし、生きてて良かったわい……」
爺さんか。あ、爺さんだったな。孫に弱いただの爺さんにしか見えないが強いんだよなあ……
んで、最後は鍛冶屋へ寄って剣を回収した。だけど驚愕なことがあった。
「旦那、こいつはただ錆びている訳じゃなさそうだ。どんなに磨いても錆が落ちない。恐らく何か魔法がかかっているぜ? これだけ錆びているなら呪いかもしれないがね。解放するには、知識が必要だと思う。貰ったヤツにでも聞いてくれ」
親方いわくそんな感じらしい。フェルゼン師匠が何を思ってくれたのか。そもそも要らないからくれたのかは分からない。すくなくとも曰くつきであることが判明したというわけだ。
……正直、あの脳筋が何か知っているとは思えない……仕方がないので再び腰に下げておくことにしたのだった。
そして――
「ではクロウ、いいのだな?」
「うん」
庭でクロウとベアグラートが対峙し、いよいよ魔王の力を変換する時がきた。二人が握手をすると、芙蓉が継承方法を教えてくれた。
「クロウ君の中にある魔王の力を意識して。それをベアグラートさんへ手を通して流し込むようにイメージするの」
「こう、かな? う……!?」
ドックン! と、心臓の鼓動のような音が俺達にまで聞こえてくる。脂汗を流しているクロウ達を見ていると、しばらくしてからフッとクロウの力が抜け倒れ込みそうになる。
「おっと」
「あ、ありが、とう……」
素早く抱きとめてやり、肩を貸す。相当披露しているな……
そのままチラリとベアグラートを見ると、疲れてはいるものの気力が充実しているように見えた。
「戻った……! ありがとう、クロウ。お前が、お前達が困っていたら、この獣人の国、デンメルク一同、力を貸すと誓おう」
ぺこりと頭を下げると、控えていたドルバッグさん達も涙を流しながら膝をついた。
「また、セフィロト通信経由で状況を伝えるよ。最後の封印を解く時には頼むかもしれない。フェルゼン師匠とバウムさんにベアグラート。それにティリアが揃っているから、後二人か」
「うむ。極北とフエーゴは正反対の位置にあるから、考えて動くといい。まあそのドラゴンが居れば楽だろうが」
【グルルル……(寒いところは苦手ですがね)】
やっぱドラゴンは爬虫類なんだな?
「すぐ出るのか?」
ちょいちょい出てくるウサギ耳獣人が煙草をふかしながら俺に聞いて来た。お前、宿はいいのかよ……と、どうでもいいことを考えながらも答えてやる。
「このままファライディに乗って一旦シュピーゲルの町まで飛ぶよ。悪いけどギルドラは連れて行く」
ファライディの首に縛り上げられたギルドラを見ながら俺が言うと、ギルドラが青い顔をしながら叫んでいた。
「わ、私は何も知らない!? 高いところはダメなんだ! た、助けてくれ! アニス!」
アニスは目を瞑って無言で首を振った。その仕草がおかしくて、ティリア達がクスクスと笑う。
全員がファライディに乗り、羽ばたきはじめる。すると下でベアグラートが手を振って見送ってくれた。
「本当に世話になった! また会おう、回復の魔王達よ!」
「気にするな! エアモルベーゼとの戦いで活躍してもらうからな! ……よし、ファライディ! 船着き場まで頼むぜ!」
【ガウガウガー! (合点承知! いきやすぜー!)】
「いやあぁぁぁぁ高いぃぃぃぃ!?」
「ははは、悪人にはいい薬だな!」
リファが笑いながら泣き叫ぶギルドラを見てそんなことを言う。割とSっ気があるのかもしれない。
こうして俺達は闇と獣人の国を後にするのだった。
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