第百八十七話 手段の確認
【ガウ(旦那、そろそろ船着き場へ到着しますぜ。あれですよね?)】
ファライディがそういうので、眼下を見てみると確かに芙蓉の船があった。近くにはシュピーゲルの町も見える。経過をミリティアさんへ報告しておくべきかな?
「ユニオンに報告しておいた方がいいと思うか?」
みんなにも意見を聞いてみようと、振り返って尋ねてみた。
「このまま出発でもいいと思うわ。ベアグラートさんから通達をしてくれるって言ってたし、悪気はないとはいえ、このドラゴンは町を襲っている犯人だし、余計な不安は煽らない方がいいわね」
「そうじゃな。国王も戻ったんじゃ、後はこの国の者に任せていいと思うわい」
「国とユニオンはそういうものだから、カケルは気にしなくていいと思う」
芙蓉と師匠はあっさりとそう言い放ち、リファも同意見のようだった。まあ確かに報告したところであまり変わらないか。
「よし、ファライディ、あの中で一番大きい船の甲板へ降りてくれ!」
【ガウガウー(OKですー!)】
「この後はどうするんですか? ファライディさんに乗ってエスペランサまで?」
「そこはこの後、相談だな。距離が分からないからファライディにずっと飛んでもらう訳にもいかないだろ?」
「確かにそうだね。ボクは船旅でもいいから大丈夫だよ」
俺達はひとまず芙蓉の船へと降り立った。
◆ ◇ ◆
<アドベンチャラーズユニオン・シュピーゲルの町支店>
「さあ、魔王様達を歓迎する準備はできてる? いつ来てもいいようにね!」
「はりきってますねマスター」
「もちろんよ! 私が魔王様に依頼してからこの短期間で事態を収束させてくれたのよ? 手厚く歓迎しないとバチが当たるわ。フフフ……それにあの新しい魔王様、私好みだったしお酒の勢いで……フフフ……」
「(マスター、発情期だっけ?)」
「(受付が言ってたけどそうらしいわ……兄上のベアグラート様が無事で安心したせいか、一気にきちまったみてぇだな)」
「(いい女なんだけどな、マスター。発情期中はマジでダメ獣人になるからなあ……)」
「(ま、新しい魔王様に任せようや)」
「さあ! カモン! カケル様!!」
しかし、この後、カケル達一行が現れることは無かった――
◆ ◇ ◆
「戻ったわよー」
「お頭、おかえりなさい! ……って、変装はもうやめたんですか」
ドラゴンを警戒して甲板に武器を持った乗組員がずらりと集まり、俺達を迎えてくれた。攻撃されなかったのは、途中で芙蓉が身を乗り出して大声で呼びかけてくれたからに他ならない。
「一応、予定通り正体を明かしたから必要無くなったの。次の目的地はこちら、リファル姫の故郷”エスペランサ”よ!」
ずいっと芙蓉がリファを前に出し笑顔で叫ぶと、乗組員が『うおおお!』と、歓声を上げた。そこでリファが俺の後ろに隠れて、抗議の声を出す。
「は、恥ずかしいじゃないか!? いきなりどうしたんだ!」
「いいじゃない、本当のことだし。さ、みんな持ち場へ戻って! 私達はこれから作戦会議に入るわ」
『アイアイサー!』
芙蓉がパンパンと手を叩くと、船員が散っていく。
「それじゃ、娯楽室へ行きましょう♪」
芙蓉に言われ、俺達は娯楽室へ向かい、芙蓉は後から行くね、と途中で分かれた。しばらく娯楽室でチャーさんと遊んでいると芙蓉がやってきて、話しあいが始まる。
「一旦アウグゼストを経由して、ファライディで向かうか?」
「あそこからでも結構距離あるし、途中小さい島もないから休憩できないと思うよ? 人数が多いから速度も出ないと思うし」
地図を見ながらリファとルルカが言い、ティリアがそれに混ざる。
「それとも二手に分かれますか? ファライディさんに全員乗るのは止めて、船とファライディさんというのはどうです?」
「いや、戦力を分散するのは危ないじゃろうな。特にカケルは何者かに狙われておる。その時、足りませんでしたでは後悔が残る」
師匠がティリアに反論をすると、爺さんが頷いた。
「メリーヌの言う通り。ドラゴンの速度は魅力的じゃが、復活しているわしの同僚と鉢合わせにならんとも限らん」
「だな。芙蓉には悪いが、また世話になる」
「問題ナッシング! ファライディはちょっと窮屈かもしれないけど、船旅で行きましょう」
「僕達はついていくだけだからいいけどね……ふっ……ふっ……」
「うん」
「吾輩もお主らにお任せで良い」
何故か娯楽室のスミでチャーさんを抱っこしたアニスを背負ってスクワットをしているクロウ達が口を揃えていた。
向こうにはグランツ達もいるが、少し待ってもらうとしよう……それよりも今は、だ。
「――で、どうしてお前はそんな恰好をしているんだ……?」
「え? もう正体を明かしたからいいかなと思って! 久しぶりに着たのよこの学生服! 読者サービスも必要だよね」
あー、こっちに来たのはその歳くらいなのか……確かにこういう学生服があった覚えはある。そして似合っているのも分かる。だが――
「ははは! お前、もう300歳越えてるんだろ? 師匠より年上なのに、読者サービスとか意味分からないし、それにそんな足を出して大丈ぶげら!?」
「言っちゃいけないことを言ったわね……?」
俺の顔が前方から飛んできたナックルでへこみ、ユラリと芙蓉が立ちあがるのがチラリと見えた。ペキペキと指を鳴らす音が響く中、俺は『こいつ勇者の力が無くても十分強いよな』と思いながら気を失った。
◆ ◇ ◆
「ストップ! すとーっぷ! 芙蓉さん! もうカケルさん気絶してるから」
「な、何をするか分かんないけどそれ以上はダメだから!」
「ティリアさん、ルルカさん。大丈夫、この人は回復能力が高いから、腕の一本や二本……」
ふしゅーと息を吐く芙蓉を止めるティリアとルルカ。メリーヌが慌ててカケルを逃がすため抱きかかえようとしたその時、むくりとカケルが起き上がった。
「お、おお……大丈夫かカケル! 鼻血を拭くのじゃ」
「ありがとうございます、メリーヌ様。大丈夫です」
「メリーヌ様……? お主カケルではないな……何者じゃ」
不信な目を向けながらカケルの鼻血を拭くメリーヌ。メリーヌとは対称的に、ティリアと芙蓉は目の前にいるのがナルレアだと言うことに気付いた。
「あら、ナルレアさん?」
「はい、レヴナント様改め、芙蓉様。カケル様が気絶したので、出てきました。そろそろ例の件、実行に移そうかと思います」
ナルレアが芙蓉へ微笑むと、ウェスティリアが前へ出てぺこりと頭を下げた。
「エリアランドではありがとうございました!」
「いえ、何とかなって良かったです。ルルカ様もリファ様もカケル様を通していつも見させていただいております」
「ふえ!? ボク達!? ま、まあ話は聞いていたから大丈夫だけど、目の当たりにするとびっくりするよね」
「あの時死なずにすんだのはあなたのおかげだと聞いている。ありがとう、これからもよろしく頼む」
ルルカとリファが握手をし、遠巻きに見ていたクロウが会釈する。そこに芙蓉がナルレアへ尋ねた。
「例の件ね。一応カバンに入れていたんじゃないの? いざという時のために」
「ええ。ですが、今回はフェアレイター様が良い方でしたので出番はありませんでした。次の戦いに備えて、練習をしておこうと思いましてね」
「そういうこと。船で一番広いところは甲板だから、そこでやりましょうか」
「あ、あの、芙蓉さん……一体何の話をしているんでしょうか……?」
「ん? ああ、ナルレアさんはカケルさんのナビゲーターなんだけど、強いでしょ? だからゴーレムに近い感じの肉体を作って、その中に移動できるようにしたいんだって。で、造形ができる船員がいたから、外回りはその人に作ってもらって、後は移動できるか実験が必要なのよ」
それに食いついたのはルルカだった。
「人口生命体! 錬金術的なやつ! ちょっとボクを差し置いて面白そうなことをしないでほしいなー。もちろん参加していいんだよね?」
「そうねー失敗してもカケルさんが燃え尽きるだけだろうし、いいんじゃない? それじゃ行きましょ♪」
「おー!」
ナルレアと芙蓉、ハイテンションになったルルカが甲板へ向かう。それを見送ったウェスティリアがぼそりと呟いた。
「まだ怒ってた……」
「みたいだな。怒らせない方が良さそうだ、へそを曲げたら船から落されるかも……」
リファがしみじみ返答していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます