第三十九話 王子はイケメン、でも残念?

 「ま、まいった……!」


 「……」

 


 「ツォレ君の勝利~!」


 ネーレ先生のジャッジでツォレの勝ちが決まり、壇上から降りる際にチラリと俺と目が合ったがすぐにレムルの元へと戻って行った。



 ――ハッキリ言うと、特に面白い点は無かった。というより、手の内を出さないようかなり手加減して戦っていたようで、何度かいいのを貰っている場面もあったのだ。

 相手も『勝てるかも』と、思っていたのだろう、いいのが入った時にラッシュをかけたが体力切れを起こして降参と相成った。


 ちなみに武器は拳で、グローブを装備していた。


 そこで俺の横で戦いを見ていたグランツがポツリと漏らす。


 「手ごわい、ですね」


 「……戦うと仮定した場合、できれば俺かグランツで当たりたいところだな。去年はどうだった?」


 俺はソシアさんに去年はどういった戦い方をしていたか聞いてみるが、ソシアさんは首を横に振る。


 「去年、彼はこの学院にいませんでした。今年からの編入生なので、お互いの手の内を知られていないのが幸いかもしれませんね」


 なるほどな。まああっちも燃える瞳と俺のデータは無いから五分か。


 あいつらと当たるのは決勝だけど、レムルがあの調子なら勝ち上がってくるだろうし、次の戦いも見ておいた方がいいだろう。


 「カケル。王子が戦うみたい」


 俺が腕を組んで考え事をしていると、トレーネが制服を引っ張って壇上を指差していた。そちらに目を向けると、黄色い声援を受けながらにこやかに壇上へとあがる。


 「ははは! みんなありがとう! 勝利をもって応えるよ!」


 「レリクス様! 頑張ってくださいー!」


 ソシアさんが笑顔で手を振ると、それに気づきウインクで返していた。いかにもな感じだ。


 「実際、ソシアとレムルお嬢さんが婚約者候補でしょ? ソシアなら間違いなくお似合いよね」


 「ありがとうエリン。でもレムルさんも可愛らしいのよ?」


 「え、マジで!? お手洗いに行っては絡んでくるし、食堂で足を引っかけてきたりするのに!?」


 お手洗いでそんなことがあったのか……食堂の件は知っているけど、こっそりと絡んでくるとは悪役令嬢の認識は間違っていなかったようだ。



 「(学院内での嫌がらせはレムルで間違いなさそうだな)」


 俺はエリンに小声で話しかけ、俺の見ていない時の事を聞いてみた。


 「(うん。取り巻きの子が実行犯みたいですけどね。誰もいない教室に忍び込んでペンを隠すとか、廊下の角でわざとぶつかってくるとか、ほんっっとに小さなことをいくつか。後は決まってカケルさんがいない時やあたし達しかいけない場所を見計らって、取り巻きの子とレムルさんは突っかかってきますね)」


 俺がいないときはそれこそトイレに行っている時くらいだ。俺がいないことを誰かがどこかで見ている……? そこで『わっ!』と歓声が上がる。


 「おっと……」


 「どうしました王子様! 鍛え方が足りないんじゃないですかね!」


 「ふ、ふふん、それほどでもあるけど……!」


 壇上を見ると、レリクス王子が足をもたつかせながら相手の攻撃を受けていた。後、それほどでもあっちゃダメだ。だが、レリクス王子も負けてはいない。


 「≪火撃≫!」


 「う……!?」


 相手の男子生徒が手から出た火を浴びて驚くように呻きながら後ろに下がり、すかさず王子の得意武器であろうレイピアが唸りをあげる。


 ヒュ……!


 「つっ……」


 「ふふふ、形勢逆転かな?」


 男子生徒にレイピアが刺さり、少し顔を歪めた姿に満足しながらそんなことを言うが、男子生徒はすぐに気を取り直して剣で斬りかかっていた!


 「あれ!?」


 「ちょっと痛かったですが、大したことはありませんよ! お覚悟を!」


 カン! キン! シュ!


 「おっとっと!?」


 「でやああああ!」


 男子生徒の気迫にじりじりと押されていく王子。女生徒たちの悲鳴に近い声もあがり、俺達ももうダメだと思っていたところで事態が変わった。


 「うーん、手がしびれてきちゃったね。……あ」


 こともあろうに、王子がレイピアを手放してしまったのだ。それをチャンスと捉えて斬りかかる男子生徒。


 「武器を捨てるとは! 私の勝ちですね!」


 「わわ……危ない!?」


 「え!?」


 王子は男子生徒の攻撃をしゃがんで回避。すると、空ぶった反動で王子につまづいた。


 「あ、ごめん!?」


 「うおわ!?」


 慌てて立ち上がる王子のせいでさらにバランスを崩し、男子生徒は壇上から転がり落ちてしまった。そこでネーレ先生から終了の合図がかかる。


 「え~と、場外になりますから~レリクス王子の勝利です~!」


 「く、くそ!? 場外か!」


 「え? 僕の勝ち? ……ふふん、僕の華麗な技に対処できなかったみたいだね?でも、あそこまで僕を追いつめるとは大したものだよ。騎士団を目指してもいいんじゃないかい?」


 髪を『ふぁさ』とかきあげながら悔しがる男子生徒へと労いの言葉を投げかけるのを見てトレーネがポツリと呟いていた。


 「偶然が重なっての勝利?」


 「シッ! トレーネ、滅多なことを言っちゃダメよ。王子に憧れている女子に何されるかわからないわ……!」


 「?」


 トレーネが首をコテンと傾げているとエリンが慌てて口を塞いで黙らせた。


 大げさかもしれないが……


 『キャー! レリクス王子ー!』『かっこいい!』『負けた男子生徒、いい気になってんじゃないわよ?』『流石レリクス様……お優しい……!』『実力は王子の方が上ですから当然です!』



 と、女子生徒は大盛り上がりなので、ヘタに王子を貶める発言をしたら校舎裏に呼び出されるのは明白。ソシアさんの護衛として、余計な問題に巻き込まれるのは避けたいのでエリンは正しいと思う。


 ――それはそれとして、今の対戦は二対二のイーブンまで持ち込まれていたようで、王子が最後に勝利したためFクラスが駒を進めることになる。


 「次の相手は王子のFクラスですね。見たところ全員それほどではないみたいでしたからやはりレムル様が最後の相手になりそうですね」


 下準備をしっかりするタイプのグランツは、Fクラスの試合もしっかりチェックしていたらしい。イーブンに持ち込まれて大将戦になるあたりそんな気はしないでもない。



 やってみるまでは分からないと、そのまま残りのクラスの戦いを見て時間を過ごし、全ての一回戦が終了した。あっけらかんとした生徒や、悔しがる生徒など中学の運動会を見ているようで中々面白かった。


 「(騎馬戦は負けると悔しいんだよなあ。あの感覚に似てそうだ)」


 などとニヤニヤしながら見ていると、ゴリラが俺達を集めて壇上から叫び始めた。


 「まずは一回戦お疲れだった! 負けそうになっても決して諦めないその姿に俺は感動した!」


 お、労いか? 珍しいな……などと思っていたが、チラチラとネーレ先生の方を見ながらの演説だった。


 「うるせえゴリラ! さっさと昼飯にしろや!」


 「やかましい! 今、いいところだろうが! ……負けた者も今日のくゃしさを忘れずに精進を……」


 「噛んだ。カケル、あのゴリラ噛んだ!」


 「なんでそんなに嬉しそうなんだよ……」


 何がツボに入ったのか知らないが、トレーネがはしゃぐ。


 俺達はゴリラの話が終わった後、昼ご飯へと向かう。


 ちなみに今日は王子のはからいで学院の食堂はタダらしい……! いつもは食べられないメニューを食べるチャンス……!


 「ご飯、ご飯」


 「おう! もう定食三つくらい行っちゃうか?」


 「カケル達と半分こで色々食べたい」


 「いいなそれ、一個あれば十分なやつ……ん?」


 トレーネと腕をぶんぶん振りながら食堂へ向かっていると、建物の影でローブのようなものがサッと消えたのが見えた……気がした。


 「仲がいいですね。私も半分こしたいわ。でも、レリクス王子に呼ばれているから……カケルさん? どうしました?」


 レムルは……見当たらない。王子もすでに姿を消していた。罠、だろうな。


 「……王子の所へ行くのはソシアさんだけ?」


 「ええ、私だけです。生徒もいっぱいいますし、王子も居れば大丈夫だと思いますから、久しぶりに羽を伸ばしていただいて大丈夫ですよ!」


 この騒ぎなら校舎に入って、食堂に行けば大丈夫か? 王子が敵だと考えても手は出しにくいと前向きに考えよう。


 「分かった。グランツ、エリン、トレーネ。俺はちょっと用事ができたから、王子のところまで頼めるか?」


 「え、ええ……それは構いませんが……」


 「カケル、私も行く」


 「お前の仕事はソシアさんを守るのが仕事だ。すぐ戻る」


 「……うん」


 この世の終わりみたいな顔をして俯くトレーネにエリンが話しかける。


 「トレーネ、お仕事がんばろ? そしたらカケルさんがご褒美くれるかも♪」


 「仕事が終わったらいいぞ」


 「頑張る! いってらっしゃい」


 現金なやつだが、今はエリンに感謝だ。


 さてと……


 俺はステータスを変更しながら影を追う。 

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