第二百二十話 さあ、復活だ!
――そんなこんなでファライディに限界を越えた力を出してもらい、一昼夜ほどで城の頭が見えてきた。これでルルカ達を助ければ後はアウロラの封印のみである。
エアモルベーゼの真意は俺の体を奪うことだったようだが、月島を倒してから特に妨害も連絡も無いのが不気味さを感じさせるな……
【ガウガウン(そろそろ到着しますけど、どこに降りますかね? あっしはいきなり射かけられるのはごめんですぜ?)】
「あ、そうか。城にはファライディを連れて行っていないから、敵だと思われたら困るな」
「もう到着しますし、私が先に行って話をしてきますよ! ファライディさんはゆっくり追いかけてきてくださいね」
ティリアがフワリと浮き、そのままビュン! と、城へ向かって飛んでいく。速いな……
「もう完全に光の勇者の力を受け継いだからカケルさんが暴走する前と比べたらかなり違うわよ?」
俺の考えを見透かすかのように芙蓉が微笑みながら俺に言う。それなら納得いくというものだし、今後の戦いで大きな力になってくれると思う。あいつが俺に最初に言った願いである『世界を救う』ことも可能だ。そんな中、後ろではフェルゼン師匠とグランツが興奮気味に……いや、興奮しているのはグランツだけだが、二人が話しているのが聞こえてくる。
「師匠も月島には手も足も出なかったのですか!? 俺ならともかく、師匠までとは……」
「いやいや、良いところまで行ったんだぜ? 三人がかりだったけど。まあ、確かに負けたんだから言い訳はしねぇけどよ」
「でも、カケルさんと同じで異世界人だったんでしょ? だったら仕方ないんじゃないかな?」
フェルゼン師匠は肩を竦めてグランツを諫める。それをエリンがフォローして、グランツが口をへの字にして座り込んだ。
「……戻ったら稽古をつけてください! 一緒に行ったのに俺は役に立てなかった」
「そうだな、俺ももっと強くならねぇとダメらしいし、城に着いたらちっと考えるか」
「ですね。この後、破壊神エアモルベーゼとの戦いもありますし。ですよね、カケルさん!」
「だな。俺が意識を失っている間にギルドラがこの国の封印を解きに行ったみたいだし、封印はあと一つか」
水氷の魔王も、極北の封印を解いてここにきたようなので残りは1つ、フエーゴの封印だけだ。それもブルーゲイルのニド達がグランツと別れる時に向かったらしいので、ユニオンで結果待ちとのことだ。
「できれば魔王全員を集めておきたいところだけどな。バウムはどうしてんだ?」
「バウムさんは一旦グラオザムがいた山を調べるって言って別れったきりだな。魔王同士はどこにいるか分かるんだから大丈夫だろ」
「~!」
俺がそう言うと、横でハニワのへっくんが腕組みながらコクコクと頷いていた。こいつ、喋れないくせに結構表情ゆたかだよな……
で、しばらくゆっくりとファライディの飛行を楽しんでいると、チャーさんが起き上がり声をかけてきた。
「む、戻ってきたようだ」
前方を見ると、確かにティリアがこちらへ向かってきているのが見えた。
「おかえりティリア、どうだった?」
「はい、話はしておきましたのでお庭を使っていいそうです! ……エリアランドのドラゴンだからなるべく早く移動して欲しいらしいですけど……」
「ああ、そういや本当なら国から出られなかったんだっけ? ま、ドラゴンの飼育監督責任はエリアランドにあるし、何か言われたら俺達が擁護すればいいだろ」
「そうですね!」
「それじゃ早いとこメリーヌさん達を助けましょう」
「ファライディ頼む」
【ガウガウーン! (お安いご用でさあ! 庭ですね!)】
スィーっと降下し、ファライディは難なく庭へ着地すると、リファの兄であるジェイグが走ってきた。
「おおーい! も、戻ったか!? 今、騎士からドラゴンが来ると報告があったのでな、慌てて走ってきたのだ」
「リファが心配だろうし、申し訳ない。すぐ治療に入ろう、どこに居るんだ?」
「うむ。こっちだ。……まあ慌ててきたのはリファルの件だけではないんだがな……」
「? 何かあるんです?」
ティリアが尋ねると、疲れた顔をしたジェイグがこちらを振り向かず、呟くように言葉を吐く。
「水の破壊神の力と光の破壊神の力が合流した」
「!? ギルドラがうまくやったのか……まさか暴れたり……?」
すると歩きながら首を振り、乾いた笑いを出しながら話を続ける。
「そうじゃない……女性二人なんだが、水のやつは水氷の魔王にべったりで、ことあるごとにぶっとばされていてな。壁の修繕が追いつかん。光のやつは……お嬢様気質というか……わがままなのだ……」
「あー……」
芙蓉が目を細めて口を開く。
「まあ、来てくれ……」
ジェイグの足取りは重かった。すぐに会議室へ通され、中へ入るとそこには――
「ねえ、お姉ちゃんって呼んで! お願い!」
「ええい、うっとおしい!? わらわに姉は居らんわ!? あ、こら頬をすりすりするんじゃない!?」
「ギルドラぁ、おやつはまだなのぉ? お茶も欲しいわぁ。このままだとあなたの頭を潰しちゃいそう……」
「た、ただいま……!?」
あの美人さんが、水氷の魔王、かな? 何か目を輝かせた野獣に抱きつかれ、ギルドラが金髪美人にお茶とケーキを運んでいた。ちょこんと座るアニスが俺に気付き、手をあげる。
「カケルお兄ちゃんおかゑり。やっぱりちゃんと戻った」
「おう、ただゐま。なんか変だな……悪いな、手間をかけた」
「ちょっと心配したけど、みんながいるから大丈夫だと思ったの」
泣かせる子だ……顔は無表情だけど、言葉は暖かいと感じる。
「吾輩も戻ったぞ」
「~♪」
へっくんを乗せたチャーさんがアニスの元へ走り、膝へ乗っかると、アニスはキョロキョロしながら呟いた。
「クロウ君は?」
「あいつは爺さんとヘルーガ教徒を近くの村まで引率することになってな、先に俺達だけが戻って来たんだ」
「そっか。じゃあもう少し待たないと」
アニスがチャーさんを抱っこしてこっちに歩いてくると、後ろで水氷の魔王が水の力の破壊神を吹き飛ばしていた。
「ええい! ≪激流の咢≫!」
「あはーん!」
ドゴン!
壁に大穴が開き、肩で息をしながら俺達に振り向いた。
「い、一応初めましてじゃな……わ、わらわは『水氷の魔王』ラヴィーネ。どうやら戻ったようじゃな」
握手を求められ、それに応じるとチラリと氷の棺に目をやりながら言う。
「初めまして、ルルカ達を仮死状態にしてくれたそうだな。ありがとう、本当に助かるよ」
「良い。それより早いところ処置を頼めるか?」
「ああ、任せてくれ」
スッと身を横にし、俺を奥へと通してくれる。そこにはルルカ、リファ、トレーネ、メリーヌ師匠の凍りついた姿があった。
「(生命の終焉、と)」
『ルルカ=フローイ 寿命残:約7分』
『メリーヌ=オルラージュ 寿命残:9分20秒』
『トレーネ 寿命残:4分13秒』
『リファル=シュトラール 寿命残:12分9秒』
何気にトレーネが危ないな……氷を溶かして、すぐ還元の光ならいけるか?
<大丈夫です、私が氷の中に黒い手を入れて――>
と、ナルレアが俺に進言してくれていると、金髪美人がフラフラと寄ってきて――
「あ……」
わざとらしくつまづいて、俺に抱きついて来た。
「悪い、いまちょっと立てこんでるんだ、離れてくれないか?」
「ううーん……近くで見ると、いい男ねぇ。あんな女達よりぃ、私と遊びましょう?」
「ちょ……近いな……!?」
キスをするかのごとく顔を寄せてくる金髪美女、その直後物凄い音が部屋に響く。
ビキッ!
見れば三人の氷にヒビが入っている!? おいおい、動けるのかよお前達!?
「ねぇん、いいでしょう?」
ビキビキ……!
尚も氷にヒビが入る。このままでは四人が外へ放りだされてしまう!?
「……悪いが、あいつらを『あんな』呼ばわりは容認できないな。さ、離れてくれ」
「ううーん、靡かないなんて……いいわぁ、あなた……」
横にどけた後も縋ってくるので、どうしようかと思ったその時、金髪美女の肩を叩く者が現れた。
「はぁい、クリーレン♪ 久しぶりね」
「誰よ、今いいとこ……ひぃ!? フ、フヨウ!? あなたなんでここに!?」
「その話を聞かせてあげるから……カケルさんの邪魔をするんじゃないわよ!」
「ああ、いやぁ!? ギルドラ! 助けなさいギルドラぁ!」
「ふう……芙蓉様、感謝します……」
「なんでょぅ!?」
ずるずると引きずられるように下がっていく芙蓉たち。
「やれやれ、やっとできるか……ナルレア、頼む」
<合点承知です! お姉さんは眠っているから、そっちの手はミニレア、お願いしますよ>
<はいです!>
「トレーネからいくぞ――」
氷をすり抜けた『生命の終焉』がそれぞれの肉体へ到達した時点で俺が還元の光を使い、氷の中で完全に傷を回復させるという荒業が完成した!
全員の寿命が通常に戻ったところで、ラヴィーネに氷を水にしてもらうようお願いをする。
バシャ……
「リファ! ルルカ!」
床に倒れ込む四人に、ティリアが駆け寄ってくる。俺が一番近かったルルカを抱き起すと、ゆっくりと目を開けて少し微笑みながら口を開く。
「……おかゑり、カケルさん……」
「ただゐま……って、やっぱり何かおかしくないか!?」
すると、むくりとメリーヌ師匠が起き上がり俺をチラッと見た後、不機嫌そうな顔で歩き出す。
「わし、ちょっとあの金髪を殴ってくる」
「元気だね師匠!? あんたも金髪だからな!?」
「カケル、久しぶり。会いたかった」
トレーネはいつの間にか俺の後ろに回り込み、抱きついていた。
「ああ!? 感動の抱擁、楽しみにしていたのに!?」
「ちょっとリファ、まだ動いたらダメですよ!?」
「良かったぁぁぁぁぁ! リファルゥゥゥゥ!」
「兄上!? く……離してくれ! 私はカケルと……!」
思った以上にカオスな空間が元に戻るまで、割と時間を要したのは言うまでもない。
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