第二百十九話 決着後と最後の封印へ

 



「さて、影人の遺体も埋めたし、ガリウスも拘束できたな」


「ええ、後は戻ってルルカ達を助けるだけですね」


「しかし、この人達をどうする?」


 ガリウス率いるヘルーガ教徒達を制圧した俺達は今後の相談を行っていた。というのも、この要塞は人がずっと暮らしていくには気候も建物も厳しいからだ。さっきから爬虫類の親戚であるファライディはガタガタと震えているし。みんなで悩んでいると、イヨルドが手を上げて俺に進言してくる。


「……とりあえず、魔王様達は急ぐんだろ? 後は俺が何とかする。先に金をもらった仲間に合流すれば、何とかなるだろう」


 すると芙蓉が肩を竦めてイヨルドに言う。


「あのくらいのお金じゃ、ここに居る人達まではまかなえないわよ。私の身内がしでかしたことだから何とかしてあげたいけど渡せるお金は今持ってないのよね」


「ううむ……エリン、いくらある?」


「残念だけど、燃える瞳の財政状況は良くないわね」


 グランツが財布を預かるエリンに尋ねていたが、無しのつぶてのようだった。俺が出してもいいか、と考えていると、リンデという女の子がイヨルドの腕を取って笑顔で話しだした。


「なら一旦私の村に来ませんか? 若い人や単純に人手があると助かるんですよ」


「いいのか?」


「もちろんです! ……というか、こんなところまで来て収穫なしはおじいちゃんに悪いので……」


 俺が聞くと、そんな返答があった。さっきナルレアに聞いたけど、どうやら『魔王のフェロモン』にあてられて着いて来たのが切っ掛けらしい。


「悪かったな、俺のせいで」


「本当ですよ! 私と村を盗賊から助けてくれたのは感謝していますけど、まさかまったく覚えていないなんて……でも、ずっとカケルさんのことが気になっていたのに、今はすっきりしています! べーだ!」


「はは、でもいい男を掴まえたみたいだからいいじゃないか」


「……ですね! さ、みんなに伝えに行きましょう!」


「……」


 イヨルドが黙って顔を赤くし、大人しく引っ張られていた。フェロモンの効果は相手に直接その気がないとハッキリ言うことで切れるようで、スキルの説明が増えていた。隠しステータスだったけど、それも表に出てきたようだ。これで三人を呪縛から解き放てるので、リンデは大手柄といえた。


 イヨルド達が向こうへ行ったのを見計らって、今度は爺さんがこっちへ歩いてくる。


「話はまとまったようじゃな。では、村で変なことを考えんとする輩が居らんよう、わしとクロウが引率をする」


「いいのか爺さん?」


「うむ。今のところ脅威と言える存在はエアモルベーゼじゃが、動きは無い。城に行っても手持無沙汰じゃろうから修行がてら歩くわい」


「え!? ぼ、僕、早くアニスに会いたいんだけど……」


 クロウが困惑して爺さんに抗議するとポカリと拳骨をもらった。


「いった!?」


「そりゃわしもじゃ! ……いいから着いて来い、馬鹿弟子よ」


「くっそう……強引だ……カケル、ルルカさん達をちゃんと助けるんだぞ! 僕がこんなに頑張ったんだ、失敗したって言ったらぶん殴るからな!」


「ああ、絶対に助ける。ありがとな、クロウ」


「! ……お礼なんかいい……僕はもっと助けられてる――ああ、いや、今の無し! 師匠、待って!」


 【……】


 クロウが慌ただしく爺さんを追っていき、グラオザムが無言でクロウと爺さんについて行く。


「それじゃ、馬車はクロウ達に任せよう。ファライディ、この人数いけるか?」


 【ガウガウ(オッケー。あ、女の子は背中の中心あたりでお願いします! あっしも頑張ったんでこれくらいは……へへ……)】


「軽いなぁ……まあいいけどな。それじゃ、ヘルーガ教徒達を見送ってから出発だ!」


「はい! トレーネが助かるぞ、良かったなへっくん」


「~♪ ~♪」


「吾輩の背中で踊るな!」


 グランツがチャーさんの背中でくるくると器用に踊っているハニワを撫で、エリンもニコニコとしていた。何かこう、今回は本当に申し訳ないな……




 ――そして


 クロウ達を見送り、俺、芙蓉、ティリア、グランツ、エリン、フェルゼン師匠にチャーさんとへっくんというハニワが残された。人がいなくなればここも寂れていくに違いない。影人の墓標には使っていた刀を墓石替わりに突き立てておいた。


「芙蓉、行こうか」


「うん……今度こそさよなら、兄さん……」


 全員がファライディに乗り、ゆっくりと浮上を始めると、地上で大きな音が聞こえてきた。


 ゴゴゴゴゴ……


「あ……!」


「要塞が……」


 それは雪崩の音だった。俺が屋敷で放った地獄の業火で山が崩れてきたようだ。もう少し出発が遅れたり、あのまま元教徒が住んでいたら、みんな巻き込まれていたかも……


「完全に雪に覆われたわね」


「これで良かったのかも……さ、それじゃ帰りましょ! ファライディ、よろしくね!」


 【ガウガウー!! (合点承知!)】


 芙蓉がファライディの頭近くまで移動し大声をあげ、ファライディが応える。だけど俺は気付いていた。涙を隠すためだったことを。


「じゃあな、月島……」


 俺も地球から続く因縁が、ようやく終わったと実感した――





 ◆ ◇ ◆




「ふう……ふう……」


「島にこんな火山があるなんて……」


「こっちであってるのかい、魔王様?」


「無論だ。この俺に間違いなどあるはずがない」


「俺達を嘘つき呼ばわりして牢に入れようとしたくせに……」


「はっはっは、些細なことだ」


「うわ、腹立つー」


 と、燃えたぎる溶岩や熱気に当てられながら火山を登っているのは、ニド率いる”ブルーゲイル”の面々だ。フエーゴまで辿り着いたニド達は、女神の封印を解くべく『火焔の魔王』リオヘイドへ謁見をおこなったのだ。


 初めはレリクスのことや、破壊神の力のことを説明してもまったく聞き耳を持たなかったが、何とかユニオン経由で事実だと言うことが分かってもらえ、封印のある”ギブソン火山”へ赴き、登っているところだった。


「それにしても女神と破壊神が同時に封印されて、復活も同時になるとは流石の俺も驚いた。魔王がそれぞれ協力すれば負けることはあるまいが」


「しかし土刻の魔王であるフェルゼンさんや、光翼の魔王、ウェスティリアさんでも相当苦戦していた。リオヘイド殿はどれくらいのレベルか聞いてもいいですかね?」


 自信満々のリオヘイドに、少し不安を覚えたニドは失礼ながらも尋ねてみると、驚きの返答があった。


「聞いて驚け。俺のレベルは118ある! フェルゼンほどではないが、エリアランドのバウムよりは強いぞ? 俺に頼るといい。はっはっはっは!」


「(俺達よりは確実に高いけど微妙なレベルだな……)」


「(カケルみたいにレベルが低いのに強い! みたいな方がインパクトいいよな)」


 ドヤ顔で進むリオヘイドは散々な言われようだった。


「お前等静かにしろ! 魔物がお出ましだ、ファイアビートルの群れだぜ」


「へいへい、魔王様は下がっていてください。いざというときのために力を残しておいて欲しいんで」


「む、そうか。分かっているなお前。帰ったら私の側近になるか?」


「間に合ってます! オイラから行くぜ! (レベルアップのために前に出られたら困るもんな)」


 この後、一行は難なく進み、封印された神殿へと到着する。そこで待ち受けている破壊神の力とは――

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