第二百十八話 決着をつけるために


 「どうした!」


 プレハブを出ると、ティリアやヘルーガ教徒達が空を見上げていた。俺もそれにならい目線の先を見ると、見知った顔が手をかざしながら見下ろしている。あいつは――


 「ガリウス大司教! 一体何のつもりだ!」


 そう、空にいる見知った顔はガリウスだ。


 アウグゼストの大聖堂でヘルーガ教徒と正体を現したヤツが姿を現していた。


 「何のつもり、とはご挨拶だなクロウ。ここはヘルーガ教の拠点だぞ? 私がいて何がおかしい? そして……招かれざる訪問者は排除しないとな≪大いなる火柱≫」


 ゴゥ!


 「くっ! ≪漆黒の刃≫!」


 火柱に対抗してクロウが漆黒の刃を放つが、空にいるガリウスはスィっと簡単に回避してしまう。空と言うフィールドはアドバンテージが高いな。


 「どうやら、影人は死んだようだが、ヘルーガ教はこれで終わりではないぞ? ……次の教祖はこの私、ガリウスだからだ。さあ、教徒達よ、そいつらを捕えよ。そしてエアモルベーゼ様に捧げようではないか。……逆らうものには……死んでもらう」


 ザア……


 「こいつら、いつの間に」


 この要塞に居た教徒とは違い、ガリウスの手の者達であろうティリア達を囲み、本人は高みの見物というところか。とりあえず俺はガリウスに声をかける。


 「おい、ガリウス! 影人の後釜に座りたいようだな? だけど、この人達はお前について行くかな? あ、おじいちゃん『還元の光』」


 「おお、疼く古傷が消えて行く……! さすが魔王様じゃ!」


 この爺さんを皮切りに、次々とガリウスに対して抗議の声が上がり始めた。


 「この魔王様は無償で治療をしてくれたんだ! もう復讐するのは無しでいいんだよ!」


 「ああ、見返すなら別の方法だ! それに混沌を起こすとか言いながら結局どうなっているか知らせてくれないしな。それに教祖様が死んでから姿を現すとはとんだ臆病者だ、信用できるか!」


 そのほかにもワーワーと大きい声が続けざまに出るとガリウスは目を細めてスッと手をかざす。


 「! いけない! ≪光の壁≫」


 ティリアが杖を翳して魔法を使うと、そのすぐ後にとてつもない炎が襲ってきた! ティリアの魔法が無ければこの場に居たヘルーガ教徒は焼け死んでいたかもしれない。


 「光翼の魔王か、邪魔をするな。使えぬ教徒は排除せねばならん」


 「させませんよ! せっかく前向きに生きられるようになったのに、その芽を摘むことは許しません! それに私は魔王、あなたでは私を倒すことはできません」


 「吠えたな魔王。私とて大司教と言われた男、やれぬことはないはずだ」


 「万が一私を倒しても他の魔王やカケルさんもいます!」


 ティリアが浮き上がり、光の羽を展開させる。あれ? 6枚から8枚になってる。どうしたんだ? 俺が考えていると、チラリと俺を見てガリウスが口を開いた。


 「確かに月島を倒したあの男は厄介だ。そうだな、ここは逃げるとしよう。『元』ヘルーガ教徒達はお前達が消えた後、ゆっくり始末してもいいしな」


 「それを聞いて逃がすとでも?」


 「逃げるさ。こうやって」


 パチン!


 ガリウスが指を鳴らすと、黒ローブが素早く動き先程、俺が助けた親子を狙いに走った! させるかってんだ!


 「そら!」


 「ぐ!?」


 「悪いがこういう油断はもうしないって決めたんだ、ここで終わらせるぞ」


 「チッ……仕方あるまい、全員かかれ!」


 進退窮まったガリウスが手駒に号令をかけると、一斉に飛びかかってくる! 数は30ってところか? こっちは元100人くらいいる、狙われた面倒だな……それを庇うようにグランツとイヨイド、クロウが立ちはだかる。そしてイヨイドが魔法を使いつつ黒ローブへ叫んだ。


 「あの男は使い捨てにするつもりだぞ! それでも着いて行くと言うのか? 魔王に敵わなかった時逃げたあの男を!」


 「もはや我々にはこれしか道は無い。ここで死んでも、エアモルベーゼ様の糧に」


 「くそ! リンデとか言ったな、動くなよ!」


 「は、はい!? なんで私こんなところに着いてきちゃったんだろ!?」


 「みなさん、こっちへ!」


 元ヘルーガ教徒も戦える者がいるようで、混戦になりはじめた。エリンが非戦闘員を誘導していると、師匠や爺さんが動き出す。


 「俺も参加するぜ!」


 「儂も行こう。何とかなりそうじゃが、手が多い方がよかろう」


 【私は行かんぞ。人間共のことは人間がやれ】


 グラオザムはプレハブ小屋に背中を預け、傍観に徹するようだ。俺がチラ見していると、ティリアがガリウスに攻撃を仕掛けたところだった。


 「≪光刺≫!」


 「当たりはしない。そこをどけ、魔王」


 「出来ない相談です。私は空を飛べますし、あなたより速い。観念しなさい」


 睨みつけるティリアがうっとおしくなったのか、一度目を閉じた後見開いて


 「覚醒していない魔王が吠えるな! ≪灼熱の爪≫!」


 「残念でしたね、私はお父様から力を完全に受け継ぎましたよ! ≪光の刃≫!」


 パァン!


 燃え盛る炎の爪がティリアの生成した剣で弾け飛ぶと、ガリウスが初めて動揺を見せた。


 「何!? 大聖堂の時はまだ覚醒して居なかったはずだ!」


 「私の家はこの国にあるんですよ? 寄り道しました! ≪煌めく星の光≫」


 「うお!?」


 ズドドドド! と、ティリアの羽からレーザーのようなものが発射され、ガリウスを攻撃する。きちんと致命傷を避けているあたりティリアらしいといえばそうだな。


 「(ぬう……!? 覚醒前の魔王なら逃げ切れると思ったがこれは誤算だ! 教徒獲得どころかこっちの身が危うい! こうなったら仕方がない――)」


 「降参しなさい! 命までは取りません!」


 「舐めるなよ小娘。≪大熱閃≫!」


 防戦一方と思われたが、ガリウスが反撃をし、光とぶつかった炎が大爆発を起こす。


 「さすがは大司教まで上り詰めただけはありますね、ですが――あ!?」


 「怯んだ一瞬が命取りだ! ≪大轟熱閃≫!」


 「あの野郎!」


 ガリウスが狙ったのはティリアではなく……地上にいる俺達。しかもエリンが誘導している非戦闘員の集団だった。


 というかまずい、俺は防御魔法を持っていないのだ、もし死人が出たら俺のスキルじゃ復活させられない……!


 「でも走らないとな! エリン! 伏せろ!」


 「ええ!? わ!? 何アレ!?」


 「間に合って! ≪光の槍≫!」


 ティリアも魔法で止めようとするが、ガリウスの方が早い! しかし俺も着弾するであろう地点に間に合った! ここから迎撃すれば……!


 「何をするつもりか知らんが先程と違い特大だぞ! 魔王は助かるかもしれんが、その他大勢は熱で死ぬ!」


 そのための魔法か、だけど死ぬ前なら回復ができる……俺がそう考えていると、まさかの事態が起きた!


 「ガリウスッ! あの時の借りを返すぞ!」


 「なに!? クロウだと!?」


 ズドッ!


 「ぐはあ!?」


 なんと、クロウが地上からガリウスに向かって飛んでいき、腹へ一撃を加えたのだ! どうやったんだあいつ!?


 クロウがいたであろう地点を見ると、ファライディの背に爺さんがなにやら構えて立っていた。爺さんが飛ばしたのか……


 「秘技『螺旋咆哮弾』」


 それっぽい名前はともかく、ガリウスとクロウは!?


 「大人しく操られていればよかったものを! ならばお前にこの魔法を叩きこんでやる……!」


 「そんな恨み言を言う前にさっさと撃つべきなんだよ! ≪暗黒の指≫!」


 クロウの手が漆黒に染まっていく。


 「なんだ、それは!? ぐあああああ!?」


 ゾブリ……


 クロウがガリウスの腹に広げていた手を握りこむと、腹の肉が抉り取れるように消え、大量の血を腹から流しながらガリウスは地上へ落下していった。


 「はあ……はあ……僕と聖女様を騙した報いだ……」


 「クロウ君、無茶し過ぎです!」


 落下しかけたクロウをティリアが掴まえ、俺は安堵する。


 「が、ガリウス様がやられた!?」


 さて、あれはさすがのガリウスも動けまい。ヘルーガ教徒達にも動揺が見られるな。


 となれば後は――


 「ヘルーガ教徒を倒すだけだな」



 そしてガリウスを失った教徒達を捕えるのは容易に終わるのだった。やれやれ、これでようやく戻れるかな? 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る