第二百二十一話 手遅れ
――ルルカ達を救出してからすでに三日が経過していた。治療してすぐにも動ける『還元の光』の光ではあるが、国王やジェイグが(主にリファ)を心配し、大事を取ろうと言ったので俺達は城に厄介になっていた。
魔王であるフェルゼン師匠やティリア、こういう場に慣れているのか芙蓉やメリーヌ師匠は臆した様子もないが、グランツやエリンは恐縮して部屋からなかなか出てこなかった。
一方、トレーネやルルカ、メリーヌ師匠はというと――
「そこじゃ、凍らされている時から肩の調子が良く無くてのう」
「カケル、次は私」
「カケルさん、スマホ借りるよー」
俺の部屋に入り浸っていた……
「……なあ、ちょっと騎士さん達の目が痛いからもうちょっと自粛してくれないか……? 女性をとっかえひっかえしているとかひそひそされているんだが……」
「言わせておけばええ。男の嫉妬など醜いものじゃ」
「私達はカケルのせいでケガをした。だから癒してもらわないと困る。ねえ、へっくん?」
「~!」
コクコクと頷くハニワに若干イラっとしつつ聞いていると、ルルカがスマホを机に置いてこっちへ来る。ちなみにパジャマ姿だったりする。
「そうだよー。リファは来れないから一人少ないし、いいんじゃないかな?」
「でもケガは治しただろう?」
「う、いたたたた」
「~!?」
俺が言うと、トレーネがわざとらしくお腹の辺りを抑えながらベッドへうずくまる。絶対大丈夫なんだけど、こうリアクションされると心が痛い。
こうなったらアレを使うしかないか……
<あ、カケル様……!>
ナルレアが何か言いかけたが、とりあえず先にこの三人を何とかするのが先だ。意を決して俺は三人に向かって告げる。
「……その、お前達の好意は分かっている。分かっているんだが……俺はその気持ちに応えられない……! だから、諦めておれから離れてくれ!」
言った! 決まった! ハッキリ言ってやったぞ! あの村娘、リンデから分かったことだが、こっちに気が無いことをハッキリ告げることで『魔王のフェロモン』から解放することができるのだ。
スキルで好意を操るのは良くない。後でリファにも言うとして、これで俺から離れてくれるだろう。
……と、思っていたのだが!
「何を言うておるのじゃ? 前にも言ったが、わしの復讐を止めさせておいてあげく若返らせておいてはいさようならは無いじゃろう? お主はその責任があるのじゃ」
パキィン!
「へぶ!?」
謎の力で俺は弾かれ鼻血を出す。続けてトレーネが口を開く。
「私はカケルに命を救われた。私はそのお礼をしたい。だからいつまででも、カケルが私を嫌いでも何かを返す為に追いかける。必要ならこの体を使ってもいい」
「ごべ!?」
またも何かに殴られたかのように脳が揺らされ、鼻血がパタパタと飛び散って行く。そこへルルカが上目づかいで俺に言う。
「……最初はスカートは覗くし、お嬢様のお願いを突っぱねたりして変な人だなぁとしか思っていなかったけど、一緒にいると楽しいし、優しい人なんだよね。アヒルにされた時も必死で戻してくれたし」
「……」
「ボクは『魔王のフェロモン』とかいうスキルなんて関係なく、カケルさんが好きだよ?」
「その感情がすでに操られているかもしれないじゃないか」
「ううん、それはないよ!」
何故か誇らしげにルルカが肯定すると、鈍器で殴られたかのようなダメージを受けた! あれだ、『ガーン』ってやつだ。後、鼻血がすごいことになっている。
俺が頭を押さえてクラクラしていると、ナルレアが慌てて声をかけてきた。
<ああ、遅かったですね!? 『魔王のフェロモン』ですが、スキルを調査したところ『相手が本当にカケル様を想った場合』はもちろん解除されません。これが嘘から出た誠……>
うまいこと言ってないで!? 何とかならないのか?
<こればかりは……でもスキルで好かれたわけじゃなくて良かったじゃないですか! 芙蓉様もきっとそうだと思います!>
これ以上増えてたまるか!? 俺は脳内でナルレアと格闘していると、ずいっとルルカが顔を赤くして言う。
「……ダメ、かな?」
「ずるいよその顔!?」
「フフフ、お主、こういうの好きなんじゃろ? 洞窟で過ごしていた時の寝言は忘れんぞ?」
「あ!? 柔らかい感触が背中に!? あと、俺って何言ってたの!?」
「カケルはエロい。もとい偉い。すぐに手を出さないところもいい」
ぴったりとくっついてくるトレーネと師匠。
「嫌いってわけじゃないんだ……ただ、俺は魔王になっちまったから、この先……ああ、ダメだ……もう何がなんだ、か……」
ドサリ……
「きゃー!? カケルさん! カケルさん!?」
「むう、いいところじゃったのに……」
「このまま襲う?」
「それはちょっとダメだと思うよ、トレーネちゃん……でも、押せばいけそうだよね」
「何もかも終わったら国のしがらみがないアウグゼストでみんなで暮らせばええじゃろ。あそこなら多妻でも文句は言わん」
「それいい」
遠ざかる意識の中で俺は最終的に誰かを決めないと体がもたん……? などと考えていた。
◆ ◇ ◆
<道中>
「よし、フォレストボアなら栄養もあるし肉も結構取れるかな」
「うむ。魔法無しでよくぞ頑張った」
フェアレイターの訓練の一環として、魔法を使わず魔物を倒すということを行っていた。クロウはその期待に応え、最初にカケルを苦戦させたフォレストボアを仕留めてみせた。フェアレイターが肉を切り分けているのを横で学習しながら、気になっていたことを尋ねる。
「……どうして僕をこっちに回したんだい?」
「今、城に戻っても修行は難しいじゃろう。実戦経験を積むのと、この行軍はいい訓練になる」
「そうかもしれないけどさ……」
「ごほ……ごほ……ふん」
クロウが続けて言いかけた時、フェアレイターが咳き込み、血をぺっと吐き出した。
「え!? 師匠、あれは演技じゃなかったのか!?」
「……見ぬいておったか……そのつもりだったんじゃが、かなり体が弱くなってきたようじゃ」
「破壊神の力を持っているのに、そんなことが?」
「うむ。わしとネーベル、そしてクリーレンという光の力を持つ者は元は人間。月島影人のように不死に近いがそうではない。というのも、エアモルベーゼがくれたのは常人よりも強い力と寿命なだけで、普通に病気になったりするのじゃ」
クロウがごくりと唾を飲みこみ、恐る恐る尋ねた。
「じゃ、じゃあもしかして師匠……」
「うむ。体はもう病魔に侵されておる。その前に、お前にわしの技を全て託さねばと思ったのじゃ」
するとそこで後ろからグラオザムから声がかかる。
【その小僧はデヴァイン教徒……アウロラの手の者だぞ? いいのか?】
「どういうこと?」
「……クロウなら、と思っておる」
フェアレイターはゆっくりと目を閉じて、語り出す――
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