第二百三十話 アウロラを止めろ

 


 キュボ!


「くうう!」


 アウロラの魔法をティリアの防御魔法が遮り、俺達は無傷。だが、ティリアの呻き声と、防御範囲外の床が抉れていて、威力の凄さを物語っている。


 『まだ完全では無いか。殺すまでの威力は出さなかったとはいえ、防御壁を破れぬとは』


 手の感触を確かめながらアウロラが独り言のように呟いている隙を見て、すかさず俺とフェルゼン師匠、グランツとクロウが飛び出した。


「やべ、武器!? えっと……槍……槍っと……」


 走りながら槍をカバンから探しているとフェルゼン師匠がツッコんでくる。


「先に出しておけよ!? 俺から行くぞ! 世界を創ったって話だがそんなくだらねぇ理由で壊されちゃたまらねぇな。初代土刻の魔王の恨みとして晴らさせてもらうぜ」


「女神様、俺達も生きています。すみませんが抵抗させてもらいます!」


 フェルゼン師匠とグランツによる連携がアウロラを狙う。だが、アウロラは微動だにせず立ったままで、指先一つ動かさずその様子を見ていた。


「殺しはしねぇ、大人しくなってくれりゃあな!」


「覚悟!」


 『……』


 ガキン!


「何!?」


 驚いたのは俺。槍を手にして迫ろうかとしたが、先に攻撃をしたフェルゼン師匠とグランツの剣がアウロラの一歩手前で弾かれたからだ!


「届いていない? カケル、僕達もやるぞ! 『滅牙葬』!」


「おお、何かかっこいい!? それはともかく、もうやめろアウロラ!」


 ドゴッ!


 ビキィン!


「くっ、固い……!?」


「いや、でもヒビが入ったぞ! もう一回だ!」


 『ノコノコと近づいてくる……馬鹿め≪救われぬ光≫』


「うわ!?」


 アウロラがボソリと呟くと、俺達はアウロラの近くから引きはがされて壇上を転げ落ちる。だけどバリアらしきものにヒビは入った。その内壊せるはずだと思っていると、メリーヌとトレーネにラヴィーネの魔法使いが後衛で援護に入ってくれた。


「わしらも援護じゃ! ≪焼きつくす短剣≫!」


「人を抹殺する計画を持って女神とは笑わせてくれる。≪水斬り≫」


「≪炎極弾≫」


 ドドドドドド!


 ビシィ!


 炎と水がアウロラへとぶつかり、爆発を起こす。水蒸気で見えないが、さらにバリアにヒビが入った音が聞こえてきた。後一押しか? なら――



「まだまだあ!」


「斬岩剣だ! これなら砕けるだろ!」


 俺とフェルゼン師匠が水蒸気の中へ突撃をかけると、立っていたはずのアウロラの姿はなく、俺とフェルゼン師匠はお互いぶつかりたたらを踏む。


「どこだ!?」


「カケルさん上!」


 『遅い≪断罪の鎌≫』


 芙蓉の声で上を向くと、両手に光の鎌を作り出しているアウロラが目に入る。マズイ、と思った時にはすでに放たれていた。


 <懸!>


「姉ちゃんか!?」


 俺の左肩から『生命の終焉』である黒い手が伸び、鎌を弾く。しかしもう片方はフェルゼン師匠の肩にめり込んだ。


「ぐお!?」


「師匠!?」


 『まずは一人』


 アウロラがもう一度魔法を使おうとしたところで俺が叫ぶ。


「大丈夫だグランツ! エリン! ティリア!」


「任せてください! 『強速弓』!」


「≪煌めきの戦槍≫です!」


 『……』


 ガキン! ボシュ!


 二人の攻撃はやはりバリアで掻き消される、一瞥するアウロラ。だが、その隙のおかげで俺はフェルゼン師匠を治療することに成功。


「すまねぇカケル」


「気にすんな!」


 『そこだ』


 アウロラは構わず無機質な鎌を落としてきたが、そこは俺も反撃の手が無い訳じゃない。クロウに目配せをして手を翳す。


「ナルレア、フルパワーだ!」


 <魔力にステータスを限界まで振り分けます! ≪地獄の業火≫!>


「こっちもだ! ≪闇竜の咢≫!」


 『!?』


 グォ!


 キェェェェェ!


 月島に放ったものよりさらに高出力の地獄の業火を放ち、アウロラが飲み込まれる。その後を追って、真っ黒な細長い(日本昔〇っぽい)ドラゴンのような影が業火へ突撃し大爆発を起こし、天井が粉々に砕け散った。


 くそ! クロウの魔法の方がかっこいい!


 <いいじゃない別に……>


「カケルさん! !?」


 そんな悔しさを心の中で姉ちゃんに呆れられていると、芙蓉がダガーを両手に持ち、アウロラの方を見ながらこっちへ走ってくる。もうもうとした煙が霧散しようとした時、煙から一筋の光が飛び出し、芙蓉の肩を貫いた!


 ドシュ……!


「きゃああああ!」


「芙蓉!」


「芙蓉さん!」


 俺とティリアが叫ぶと、スッと壇上にアウロラが降りてくる。まだ、無傷だと!?


 <フルパワーでした!>


「分かってるミニレア! 『速』に振り分けろ!」


 <はいですー!>


 ステータスが入れ替わり、即座に芙蓉へ駆け寄って『還元の光』を使って治療をする。


「あ、ありがと……咄嗟に身を捻って躱したけど、アウロラは頭を狙っていたわ」


 芙蓉が立ち上がると、アウロラは俺達を見て目を細めてから口を開く。


 『……回復の魔王とはよく言ったものだ。先程の土刻の英雄を治療した件といい、見事だと言っておこう』


「そいつはどうも。お前もあんなきわどい下着をよく穿いているな? 恐れ入ったぜ」


 『こんなものがどうした? 私が恥じるとでも思ったのか?』


 ひらひらとスカートをめくり疑問形で答えてくる。黒い大人っぽい下着は目に悪い……いや、それより動揺もしないとは……!


 『あれは私の趣味よ』


 まだスマホが繋がっていたようで、エアモルベーゼがキリッとした感じで言う。


「お前かよ!? ああそうか、元はお前の体なんだしな……」


「カケルよ。後で話があるからの?」


「うん」


 とりあえず殺気を感じるメリーヌととルルカの声は無視して、俺はアウロラに槍を向けて言い放つ。


「ま、アウロラ、お前の言うとおり俺の回復は一瞬だし、ステータスを変更すればこの範囲なら余裕でカバーできるぞ。お前のバリアはどういう原理か分からないが今の攻撃で綻びがある。このまま攻めればお前の方が先にまいるだろ」


 『”神の衣”のことか。そう簡単に考えているのが愚かだと思え。ふぅぅぅ……』


 アウロラが深く呼吸をすると、アウロラを覆っていた膜のようなバリアが元通り復元する。


 『六カ所の封印に立てた柱は、私のためにここへ魔力を集めるアンテナのようなもの。柱を壊さなければ私はいくらでも衣を纏うことが可能だ。そしてその衣は、地上の人間達から頂いている。長引けば外の人間の死が早まるだけ――』


「マジか!? なら一気に倒させてもらう!」


「やり直しかい? 僕はいくらでも相手になるよ」


 クロウが構えると、アウロラがクロウに向かって話し出す。


 『不憫な少年よ。ガリウスに疑心を植え付けられ、今度は破壊神の力を宿すとは。お前が力を放棄するなら、こやつらを始末した後、そこの白い娘とお前は助けてやっても良い。どうだ? 新しい世界で子を作る権利をやろう』


「……」


 アウロラの話を聞いて一瞬アニスの方へ目をやるクロウ。


「クロウ君、ダメ。私はみんなを見捨ててまで助かりたくない」


 感情の戻ったアニスが、泣きそうな顔で言うと。クロウは再びアウロラに目を向け、息を大きく吸った後に大声で叫んだ。


「馬鹿にするな! 僕はアニスを守ると約束したけど、カケル達を見捨てるような真似をするつもりはないよ! それにガリウスの名を出したな? 唆すようガリウスに頼んだのはお前じゃないのか? 僕は師匠から受け継いだ力で女神様、あなたを止める」


 『チッ』


 クロウに詰問され、アウロラが初めて感情を出して舌打ちをする。それを見て俺は確信した。


「舌打ちをするってことはアテが外れたか。無敵っぽいことを匂わせておいて、実はそうじゃないんだな? なら、バリアを再生する暇なく攻め立てたらどうなるか――」


 俺が言い終わる前に、アウロラの雰囲気が変わる。


 『だからどうしたと言うのだ! お前達が束になろうと私には勝てん。神を倒すことは絶対にできないのだ!』


 ビリビリと部屋がアウロラの声で震える。どうやら本気になったようだが、これでいい。理性が少しでも崩れていればつけ入る隙はあるはず。


 そう考えていると、入り口から声が聞こえてきた。


「それはどうかな? お前が私達『勇者の力』を恐れているのは分かっているぞ」


 ヒュン!


 ガキン!


 通路から高速で矢が飛んできて、アウロラを一直線に目指すが、アウロラのバリアによってやむなく弾かれてしまう。そして通路から姿を現したのは――


「久しぶりだな、カケルよ」


「バ、バウムさん!?」

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