第二百三十一話 罠
「バウムさん!」
「久しいなカケル」
「再会の挨拶は後だ。風斬の、さっきのはどういう意味だ?」
フェルゼン師匠がアウロラから目を離さずに尋ねると、バウムさんはさらに弓を放ちながら答える。
「言葉の通り、女中身は女神アウロラだとしても体は破壊神。倒せるとすれば我等『勇者の力』を持つ者ということだよ」
キィン!
『なにを馬鹿な――』
バリアが矢を弾き、アウロラが首を振って反論しようとしたが、バウムさんは構わず、さらに矢を放ち話を続ける。
「そうかな? 現にあなたは最初にフェルゼンを狙い、次にその女性を貫いた。月島 芙蓉さんだったかな? 初代光の勇者なら脅威になる。だから攻撃したのだろう?」
『……』
キィン!
バウムさんの言葉を聞いて黙りこむアウロラ。全部が当たっている訳では無さそうだが、遠からずといったところか。
『そうだとして、私を倒せるとは思わないことだ! ≪氷結牙柱≫』
激昂したアウロラが巨大な氷の柱を作り、俺達に向かって降り注がせようとする。そこにバウムさんが前衛に立っている俺達に叫んできた!
「フェルゼン、カケル、それにあの時の少年よ、今だ!」
「あいよ!」
「はあああ!」
「そこだっ……!」
パァァァァン!
『衣が……!』
「まだだ、もう一撃!」
「これでも喰らえ!」
驚くアウロラに俺とクロウが、もう一歩踏み込んで攻撃をかける。俺の槍がアウロラの肩を貫き、クロウの闇を纏った拳がアウロラの腹へとめり込む!
『つけあがるなよ、人間! 落ちろ!』
「うわ!?」
「ぐふ……!」
アウロラがのけぞりながら光の衝撃波で俺達を弾き飛ばす。だが、まだこちらの攻撃が終わった訳ではない。
ヒュ! ドスドス!
『チッ』
バウムさんの矢が俺のつけた傷に追い打ちをかけるように刺さり、フェルゼン師匠と芙蓉が間合いに入る。フェルゼン師匠が上から、芙蓉は姿勢を低くして下から行くようだ。
「女神を殺すのは気がひけるが、終わらせるわけにはいかねぇんでな。"山崩"!」
「アウロラ、あなたの身勝手でこの世界に召喚されたみんなの仇よ!」
『ぐぬ……!』
脳天にフェルゼン師匠の重い一撃が降り降ろされるが、それは身をよじって右肩に被弾する形になり、芙蓉のダガーは右と左の脇腹に突き刺さる。
しかしティリアより少しだけ背が高い程度のアウロラがフェルゼン師匠を蹴り飛ばし、芙蓉の頭を掴んで力を込めた。
『私が与えたとはいえ、やはり勇者の力は私を滅ぼすのに十分だということか。本来なら力を返してもらうところだが、今の私では意味が無い。手足を千切って魔力の回復道具として役に立ってもらう』
「そうは行くか! ”斬岩剣”!」
「グランツさん!」
いつの間にか背後に回り込んだグランツが、俺も教わったことのある師匠の技でアウロラの背中をばっさりといった。反動で芙蓉を取り落とすが、直後――
「ぐ……!」
『少し痛かったが、馬鹿め、勇者でないものが私を倒せるもの――』
アウロラが即座にきり返して魔法を放ち、グランツの右胸に氷の槍が突き刺さる。口上を垂れるアウロラにグランツが血を吐きながら攻撃をする。
「まだだぁ!」
『なに!? うあ……』
「無茶するな!」
「はあ……はあ……こ、これで少しは……うぐ……」
グランツを急いで回収し、還元の光で回復して壁を背に座らせる。グランツの剣がアウロラの左目を斬り裂いていたようで、片目を抑えて呻いていた。
『おのれ……魔力……魔力が足りない……! 柱よ、一気に吸収し尽くせ!』
アウロラがバッと手を掲げると、辺りの空気がひんやりしてきたような気がする。
「あれはいかん! ティリア、ラヴィーネ!」
「もちろんです! ≪閃光撃≫」
「わらわが動きを封じるぞ≪凍れる葬送の棺≫」
ティリアが空を飛んで上から光の射撃を放ち、ラヴィーネがルルカ達を氷漬けにした魔法で足元を凍らせていく。
「返してもらうわね。おまけよ!」
『ぐふ……!?』
芙蓉が脇腹に刺したダガーを回収しつつ、腹をズタズタに斬り裂きその場を離れ、とどめの一撃がメリーヌから飛んできた!
「女神とてわしらをいいようにして良いものではない! それを思い知れ……! ≪大爆焔≫」
『う、お、おおおおお!』
ドゴォォォン!
「やったか!?」
アウロラに直撃したのが見え、大爆発を起こす。この威力なら、と期待していると、期待通りの結果が待っていた。
『おのれぇ……魔力……を……』
「まだ動けるの? すごい」
トレーネの言うとおり、まだ手を掲げて魔力を回収しようとしている。ならば、トドメは俺がと思っていると、開いた天井から一つ、影が降りてきた。
「ウォォォォン! そいつが敵だな、カケル殿! 我が渾身の一撃! ≪双爪流武≫!」
『ぐああああ!』
「ベアグラート!?」
天井から降ってきた影は闇狼の魔王ベアグラートだった! 着地と同時に見えない攻撃でアウロラがズタボロになる。
ばっさばっさ
「猫さん?」
「空飛ぶ猫とは……」
アニスとチャーさんがベアグラートを追ってきた生物に目を向けて首を傾げていた。確かに空飛ぶ猫だ。いや、それよりもアウロラだ。
「それだけ傷つけられたらもう反撃は無理だな、アウロラ」
『……』
倒れたまま俺達を睨みつけてくる。まだ切り札あるかもしれないことを考えると迂闊には手を出せないが……
「トドメを刺そう。仮に元に戻ったとしても、世界を壊すつもりならいくら勇者の力をくれたとはいえ女神アウロラは明確な敵だ」
「バウムさん……分かったよ、なら異世界人の俺がやろう」
「いいえカケルさん、私がやるわ。みんなの無念を……」
何とも言えない表情の芙蓉がダガーを手にアウロラへと近づいていく。一人では危ないので俺も横について行き、アウロラの傍にはベアグラートも立っていた。
「サンキュー、助かった」
「気にするな。あの時助けられた時はもっと嬉しかった」
「……アウロラ、言いたいことはあるかしら?」
俺とベアグラートが挨拶をしていると芙蓉がアウロラを見下ろして言う。
『フフフ……これで私を追いつめたつもりか? あの時は信仰を集める理由としてエアモルベーゼは封印という処置にしたから、殺せないわけではない。が――』
「黙りなさい!」
ゾブリ!
アウロラの心臓にダガーを突きたてる芙蓉。
「はあ……はあ……」
息を荒くしている芙蓉の横でアウロラを見つめていると、やはりというか、まだ終わらないことを告げる。
『……気は済んだか?』
「下がれ、二人とも! ナルレア!」
<ほいきた合点!>
<お姉ちゃんもいるわよ!>
カッ! っとアウロラの目が見開き、衝撃が俺達を襲う! 芙蓉とベアグラートは『生命の終焉』の手で後ろに投げ飛ばしてもらい、俺は起き上がろうとしていたアウロラを押さえつける。
「やっぱりまだ終わっていなかったか……!」
『いい勘をしているな回復の魔王よ。ただの余興だ、全てが揃うまでの』
「どういうことだ」
『さて、役者が揃ったようだ』
アウロラがチラリと入り口を見ると、そこに赤い髪をした男がなだれ込むように入ってきた。
「バウム! フェルゼン、俺が来たぞ! ……む、ウェスティリアか? 綺麗になったな!」
「あ、あなたは!?」
「来て当然だが……アウロラの言葉を聞く限り状況は悪くなったか?」
ティリアが少し嫌そうな顔をし、バウムさんが難しい顔をするので、俺は独り言のように口を開く。
「ありゃ誰だ?」
『あれは『火焔の豪傑』だ。これでここに全ての女神の力が揃った。力のバランスはここに集中する!』
アウロラは俺に組み伏せられたままニヤリと笑う。
「あ、あれ……力が抜ける……よ……」
「なんだ、これは……」
直後、ルルカやリファ、トレーネやエリン達『魔王ではない』者が苦しみを訴え出した。
そしてアウロラの傷が、癒えていく――
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