第二百八話 おっとり型の破壊神(の力)様
「ふわ……」
「お目覚め、クリーレン」
「あらぁ、ネーベルさん。おはようございます。あなたが封印を?」
「うんうん。久しぶりだね! そっちにもお仲間がいるわよ」
【無事復活したようでなによりだ】
「シュラムもいるのね! ふあ……これだけ力が復活しているってことはぁ……ついに世界が終わるのかしらぁ?」
あくびを噛み殺しながらクリーレンと呼ばれた女性がうっすらと笑いながら言う。
【いや……実はだな――】
かくかくしかじかと、シュラムはここまで経緯をクリーレンに話す。途中で寝そうになっているのをネーベルが叩き起こしたりと忙しかったが、何とか説明を終えることができた。
「なるほどねぇ……エアモルベーゼ様はすでに復活……いえ、300年前のあの時からすり替わっていたなんて、狐につままれたみたいな感覚よぅ? で、エアモルベーゼ様の体に入っているアウロラを復活させてみよーって訳ね」
おー、と片手をあげて微笑むクリーレン。それを見てシュラムは口をへの字に曲げた後、口を開いた。
【軽いが……その認識で構わない】
「おっけー。それじゃ、まずは影人って人のところに行きましょうか。私の嫌いな人種みたいだしぃ? あ、そこの人間は餌?」
「ひぃ!?」
口に指を当ててギルドラに笑いかけるが、ネーベルが肩を竦めながら諫めた。
「まあそうなると思ったけど、餌じゃないよ。というかアタシがいる前で人間は食わせないって」
「そうだったわねぇ」
まだギルドラをじっと見ていたクリーレンだが、ネーベルの後ろからギルドラが尋ねていた。
「あ、あの……ネーベル様やクリーレン様は人間ベースですよね……? やっぱり人間を食らうのですね……?」
「うん? ああ、アタシやフェアレイター翁は極力食わないようにしているけど、やっぱり大量に力をつけるなら人間を食らった方が早いね。クリーレンは人間に裏切られて力を欲したやつだから、人間には容赦ないよ?」
「一体何が……」
ギルドラが恐る恐る聞くと、シュラムが入り口へ向き直りながらポツリと呟く。
【……そいつは、300年前かなりの力を持っていた。魔法の強さはもちろん、簡単な予言や予知、発想の凄さなど色々な。今なら聖女というやつになっていてもおかしくないだろう】
すると、続けてクリーレンが面白くなさそうに眉をしかめてギルドラに近づく。
「そうなるとぉ、やっかむ連中が出てくるのよぅ。【あいつは魔女だ】とかねぇ? 同じ人間にする仕打ちかしら、ってくらい酷いことができるのよ。人間はぁ。それで、私は力をもって人間を殺す側へ回ったのぉ。ほら、その時の痕♪」
「……」
ドレスの前をはだけると、傷か火傷か分からない痣があった。それを見たギルドラは、自分も虐げられたことはあるが、これに比べれば大したことは無い、そう考えてごくりと喉を鳴らす。
「はい、昔話はこれでお終いよぉ! というわけで、人間、私をおぶっていきなさいねぇ」
「ど、どうして私が!?」
「だってぇ、一滴の血で復活して人間を食らうこともできないしぃ? 弱々なのよぉ。だ・か・ら、おねがぁい」
ね? とウインクをするクリーレンはドキリとさせるほどの美人だった。渋々ギルドラは背を預ける。
「あは♪ ありがとぅーよいしょっと……お、大きいモノが背中に……!」
「ははは、良かったじゃないか」
ネーベルが腹をかかえて笑うのを尻目に歩き出すギルドラ。確かに役得だが、実態は破壊神の力で、自分を食料として見る人外だ。すぐにおっぱいのことを忘れてため息をついた。
「はあ……なんで私がこんなことに……」
カプッ
「ひぃやぁぁぁ!? 噛んだ! この人、私の首筋を噛みましたよ!」
「いやぁあねぇ、甘噛みよ甘噛みぃ」
「甘噛みとかやめて!? 大人しくしないと捨てますよ!」
「はぁい(さて、と。どうやらすでにこの世界は蝕まれつつあるわねぇ。鍵はアウロラかしらぁ? ま、今は影人とやらを消しましょうか。人の心を操って先導する……私が一番忌むべき存在ですからねぇ――)」
スタスタと外へ向かうギルドラを見ながらシュラムはネーベルに呟く。
【怖いやら、頼もしいやら、だな】
「そうだね。エアモルベーゼ様の本質は闇……その中にある光の力を貰っただけのことはあるね。ちゃんと力を取り戻せば、今の世界ならあの子一人でもなんとかなるだろうし」
【天秤はどちらに傾くか、か。カケルとやらと影人。そしてアウロラの復活……その行く末を見て我等も考えよう】
「それしかないね。おーい、待ちなよギルドラ! 置いて行くんじゃないよ」
クリーレンを解放したネーベル達は影人の居城がある北へ向かう――
◆ ◇ ◆
「ガァァァァァ!」
ドン! ドゴン!!
「う、うわぁぁぁ、やられちまう!?」
「ぐえ!?」
「くっ……これほどとは……倒すどころか、足止めにすらならんぞ!? ≪縛縄の糸≫!」
「ジャマダ! ドカヌナラ、シヌダケダゾ!」
ビシィ! と、ガリウスの放った魔法でカケルの体が拘束される。
ここは北の大地に近い場所。
村を飛び出したカケルは、すでに意識が奥底へ沈んでおり、容赦なきキリングマシーンと化していた。村から出て二日ほどだが、ウェスティリア達の馬車で追いつくには四日ほどかかるであろうというくらい距離が離れていた。
そこに、ガリウス率いるヘルーガ教徒がカケルを発見。攻撃を仕掛けたのだが――
「ガ、ガリウス様! このままでは全滅です!? 100人からの精鋭があっという間に! 何ですかあの化け物は!」
「ぐぬ……(これ以上の損害は後に響くか? 潮時だな)」
ガリウスが教徒に報告を受けながらそんなことを考えていると、指示を出す前に離脱を始める者達がちらほら出始めていた。
「う、うわあ!? 動けない内に逃げろ! 殺されるぞ!?」
「アアアアアア!」
ヘルーガ教徒が戦慄し背を向けると、直後にぶちぶちと音を立てながら糸を千切り捨てるカケル。そして逃げ出した教徒に襲いかかり、後頭部を掴み、顔面から地面に叩きつけた。
「ぶへ!?」
「……」
攻撃が止んだのを感じたカケルはスッと構えを解き、また北へ歩き出す。ヘルーガ教徒は動けず、それを呆然と見届けた。
「……撤退だ。負傷者を回収して治療に当たれ」
「は……死ぬ覚悟はありましたが、アレに殺されるのは違う、と本能が訴えておりました。何なのでしょう、あの男は……教祖様は勝てるでしょうか……」
教徒がそれだけ言って一礼をし、ガリウスの元を離れて負傷者の手当てを始めていた。
「(勝てるかだと? 私の見立てでは五分か、魔王の方が強いくらいと見た。これはもしかすると――)」
ガリウスはカケルの去った道をじっと見つめながら胸中で呟くのだった。
そして、村を出たウェスティリア達は今――
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