集う身内(あいつに出番はあるのか?)

 「クリスマス?」


 「あ、いいわねそれ。私こっちじゃそんな余裕無かったから思いつかなかったわ」


 ルルカの疑問顔に対して、芙蓉は笑顔でパンと両手を合わせて喜んでいた。芙蓉の発言通り、俺はクリスマスを企画することにした!


 「……と言っても料理くらいだけどな」


 「うーん、それだとクリスマス感が無いわねぇ」


 「ねえクリスマスって何?」


 「わしも気になるぞ」


 ルルカに続き、メリーヌも参加。幸いというか、トレーネはティリアの出迎えに行っているのでここには居ない。


 「クリスマスって言うのはね――」


 芙蓉が一通り説明をすると、ルルカが鼻息を荒くして飛び上がった。


 「なるほど! ならお城の入り口にある大きな木を飾りつけしない? 絵があればボクがパパっと作るし」


 「お、流石は賢者。できるな」


 「えへへー」


 「……賢者が安っぽい感じに聞こえるわね……でもルルカさんにお願いしようかな。料理はメリーヌさんに任せていい? 私とトレーネで飾りつけに回るわ」


 「うむ。クリスマスケーキとやらを作ってみようぞ」


 「よろしくー! クリスマスークリスマス―♪」


 メリーヌがぐっと腕をまくると、芙蓉が鼻歌を歌いながらルルカを連れて厨房を出ていった。さて、それじゃ料理をするか。


 「あ、そうだ。メリーヌ、数はたくさん作ってくれ。レシピは……これで」


 「結構種類が多いのう。『ろーすとちきん』とやらは美味しそうじゃ」


 「ああ、食材はたくさんあるし、取りかかろうぜ」


 ステーキにグラタン、パスタに餃子、肉まんやサラダと、色んな料理を手掛けていく俺とメリーヌ。だがそこへ助っ人が登場する。


 「あれ!? カケルが厨房にいる! ってことはまた異世界料理を作ってるな? 俺も混ぜろよ。……これがレシピか?」


 「あたしも手伝おうかね。王妃にやらせてっちゃコックの名折れだよ」


 そう、芙蓉が持っていた船の乗組員、ツィンケルとシャルムの夫婦だ。この二人、というかあの船に乗っていた数人はこの城で雇っていたりする。残りはロウベの爺さんと共に船に残り、貿易船としてあちこちに出ているのだ。


 「お飾りみたいなもんじゃから気にせんでええぞ。しかし、わしが挨拶でヴァントに行った時のジャネイラの顔は忘れられんわい……若返って王妃になったからあやつとしては悔しかろう」


 思い出してぷふっと笑うメリーヌ。自暴自棄になっていたあのころに比べればかなり丸くなったなと思う。さて、残りをどんどん作っていきますかね!



 ◆ ◇ ◆



 「ベル、お星さま、金と銀の何か丸いやつ……綿……うん、こんな感じかな?」


 「おおー、ルルカは魔法以外の工作も得意なのね」


 「まあ、芙蓉が教えてくれるから。……でも、良かった。こうして皆で過ごせて。三年前は本当に辛かったんだよ」


 結婚してから芙蓉とルルカは互いを呼び捨てにするようになっていた。誰のモノ、という争いも無くなったので嫁達はギスギスしないで穏やかに過ごしていた。


 「ありがとう。あの時、水の中でもうダメだと思ったんだけど、気付いたらカケルが最初にこの世界に降り立った場所で、二人倒れていたの。もう三年が経っていてびっくりしたわ」


 「なんで三年経ってからここへ帰って来たんだろうね? で、不老不死はもうないんだっけ」


 「ええ、助かっただけでラッキーなのよ実際。カケルも『生命の終焉』はもう無いんだって言ってたわ。まあこれ以上脅威はないだろうしいいけどね」


 芙蓉がそう言ってウインクすると、ルルカもにっこりと笑う。そこへ――


 コンコン……


 「はーい」


 部屋がノックされたので、芙蓉が返事をするとガチャリと扉が開け放たれ、少し大人びたウェスティリアが顔を覗かせていた。


 「芙蓉さん! ルルカ! お久しぶりです!」


 「あ、ティリア! 久しぶりね! あ、トレーネも一緒だったんだ」


 芙蓉が後から入ってきたトレーネに声をかけると、扉を絞めながら頷く。


 「そう。カケルに頼まれて引き取りに行ってきた。そしたら先に芙蓉達に会いたいって言うからこっちに来たの」


 トレーネが淡々と言うと、ティリアが口を開く。


 「はい! とりあえず謁見の間に行きましょうか? 一応、王族に会いに来たわけですし……」


 「そういう堅苦しいのは要らないわよ、魔王様♪」


 「王妃様に言われたくはないですけど……それ、何ですか?」


 ウェスティリアは困った顔をしながら返事をし、芙蓉達がもっているオーナメントを指差し尋ねる。


 「明日はクリスマスっていう地球のイベントをやろうってカケルが言い出したのよ。で、外の大きな木に飾りつけをするの」


 「面白そうですね! 空を飛べるわたしなら上の方は任せてください!」


 「お、頼もしいね! じゃ行こう行こう!」


 「リファは来てないの?」


 「お見合いがですね――」



 三人が廊下へ出て外の大木を目指して歩き出す。すると、廊下でクロウとアニスがエドウィンに連れられて向こうから歩いてくるのが見え、アニスが笑いながら走ってきた。


 「ただいま、ルルカお姉ちゃん、芙蓉お姉ちゃん! それと久しぶりティリアお姉ちゃん!」


 「あら、帰ってきてたの? カケルは多分厨房にいるわよ。いいタイミングで帰って来たわね、喜ぶわ!」


 アニスが芙蓉に抱きついて笑う。かつて感情を失くしたアニスはもうどこにも居なかった。その後に成長したクロウが続く。


 「アニス、嬉しいのは分かるけどルルカさん達が困るだろ?」


 「いや、全然。むしろクロウも来なさい!」


 「カモン!」


 芙蓉とルルカが腕を広げて待つが、クロウは顔を真っ赤にして大声を上げる。


 「出来る訳ないだろ!?」


 「そうねえ、クロウ君にはできないよねえ。まあ、抱きついたらロッドでゴツンだけど」


 「止めてくれよ……」


 「いい尻のしかれっぷりですね! カケルさんみたいに!」


 「余計なお世話だよ!? ったく、王様なのに厨房にいるの? 相変わらず意味が分からないな……」


 クロウがため息を吐きながら呟くと、アニスがポンポンと肩を叩いてにっこり笑う。


 「カケルお兄ちゃんだから仕方ないよねー。また美味しいもの作ってるんじゃないかな? ところでお姉ちゃんたちはどこか行くの?」


 「あ、うん――」


 ルルカと芙蓉がアニスに説明すると、アニスは目を輝かせて両手を握りしめる。


 「ひあー! それわたしもやりたいやりたい! クロウ君! カケルお兄ちゃんのところへ行くのは任せた! 美味しいものを強奪してくるように」


 「ああ、行ってきていいよ。久しぶりだからテンション高いな……昔は大人しかったのに……」


 「人は成長するのだよ、クロウ君。あ、チャーさん!」


 「にゃーん」


 何故かドヤ顔で腕組みをするアニスを追い払うと、いつの間にかチャコシルフィドがアニスの足に頬ずりをし、抱っこされると、そのまま女性陣だけで入り口へ向かい、クロウは厨房へと歩き出した。


 「……カケルに会うのも久しぶりか……後で手合せを……いや、国王だし、止めとこうかな。でも強くなったのは見せたいし……」


 ぶつぶつと、一人葛藤しながらグラオザムの残したマントを揺らすのだった。

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