俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
八神 凪
-プロローグ-
『はーい! 異世界【ペンデュース】へ、お一人様ご案内!!!』
「待て待て待て!? どういうことだ! ちょ……蹴るな、押すな!? 落ち……落ちるだろうが!?」
『落とそうとしてるからね!』
いきなりクライマックスで申し訳ない。
気持ちよく微睡んでいたところ、急に身体が大きく揺れた。
覚醒して目を開けると、寝転がっていた俺を玄関みたいなところへ追い出そうとしている女がいたというわけである。
「ふんぬ!」
俺はありったけの力を使い、落とそうとしてきた女の手から逃れる事に成功した。
『あ! 持ち直した……もう、手間かけさせないでよねー』
「っと、っと……」
ゴロゴロと玄関口から離れていき立ち上がる。たたらを踏みつつなんとか立ち上がった。
声のする方向に目を向けると、そこには超絶美女といって差し支えない糸目の女性が腰に手を当ててプリプリと怒っていた。
周りを見渡すと天井は見えず、壁も途方もないくらい遠いのか奥が歪んでいた。
ただ、所々に柱が立っているというのはなんとなく見える。
そして近くには祭壇のようなものがあり、その前にはテーブルセットが置かれていた。テーブルの上にあるカップのお茶からは湯気が出ていた。
改めて思う。
「ここは、どこだ……?」
すると女性が近づいて来て俺の前に立ち、柔らかそうな口を開く。
『あれ、もしかして何にも覚えてない? 名前は? 年齢は? 趣味は? 『自分がどうして死んだのか』も覚えてない?』
「ええい、近い!?」
顔をぬっと近づけてきて矢継ぎ早に質問をしてくる女性を押しのけた。性格は悪そうだが顔は美人なのでドキドキしてしまう。
そして俺は彼女の言葉を反芻する。
「えーっと……名前、は
どどどどどどどういう事だ!?
いや、確かにここって『それっぽい』感じはするけど死んだ!? 誰が!? 俺が!?
俺が冷や汗をかいたり、顔を赤らめたり青らめたりしていると糸目の女性は椅子に座り、ティーカップを口につけながら俺に話しかけてきた。
『そうよ。ほら、よく思い出してご覧なさいな、あなたがどうやって死んだのかを……』
「お、俺は確か……」
そして俺は思い出す。
「そうだ! バイトが昼までしか無くなったからお昼を違うところで食べようと、お気に入りのミュージックプレイヤーを耳につけて駅に向かい、気付くと人目もはばからずに熱唱しながら滑走した! そして歌詞の最後『それが俺のジャスティス!』と叫んだどころでトラックに轢かれたんだ! 視界が真っ赤になって『もう赤信号なのか青信号なのかもわかんねぇなこれ』とか思ってたら通行人に大丈夫か! って声をかけられて『大丈夫なわけないじゃんっ』て冷静にツッコンだあたりで意識が遠くなって、あ、これもダメなやつだって思ってそれで――」
『はい、そこまで』
「うああああ!? 目がぁ!?」
狼狽えて叫ぶ俺に女性がサミングで両目を突いてきた。興奮状態だったため、回避ができず床へ転げまわる。
『ま、そう言うこと。あなたは死んだ。アニソンを熱唱しながら赤信号に突っ込んでね。ちなみに自転車に乗ってイヤホンをつけるのは違法……って、ゴロゴロとうっとおしいわね』
「お、お前がやったんじゃないか! 全然前が見えないんですけど!?」
『あー、ごめんね。勢いがつきすぎて眼球潰しちゃった♪ ほら、治してあげるわ』
ふわりと、俺の顔を暖かい光が包み込んだと思った瞬間、痛みが引き、目が見えるようになった。
「見える……」
『それはなにより。気付いてしまったから説明しないといけないか、ほら貴方も椅子に座ってくれる? 今後のことについて話をしないといけないから』
「今後……? さっき俺をあの玄関から出そうとしていたことか?」
『うん。本当はちゃちゃっと捨て……行ってくれた方が説明しなくて良かったんだけどねー。コーヒーでいい?』
「あ、ああ……」
逃げるにしてもこの空間からどこかへ行けるとも思えないので、渋々席に着く俺。まずは至極シンプルな質問をしてみることにする。
「……ここは死後の世界ってやつか? で、あんたは死神か神様?」
『とりあえずこれ飲んで』
俺が糸目の女性に質問を投げかけると、どこからともなく現れたコーヒーを差し出しながら続ける。
『んー、半分当たりで半分ハズレってとこね。ここは察しの通り死後の世界『エントラウム』。そしてハズレの部分だけど、私は死神じゃなくて女神よ』
「女神だと?」
『そう、女神。貴方の大好きなラノベに出てくるあの女神様よ! となると、この後なにが起こるかは想像に難くないでしょ?』
無論だ。
俺はファンタジー小説を大好物とするオタの一人……当然――
「異世界へ転生するということになるのか?」
『そう、その通り! アホなのによくできました!』
どこから取り出したのか、糸目でゆるふわ緑髪の女神を自称する女性はクラッカーを鳴らした。
「にわかには信じられないが……」
『さっき落とそうとしていた所あるでしょ? あそこが貴方の行く世界【ペンデュース】へと繋がっているのよ、百聞は一見にしかず。さ、行ってらっしゃい』
そう言ってティーカップに口をつけ一息ついた。
しばらく黙っていると俺と目が合い(糸目なので分かりにくいが)、何でまだ居るの? って感じで首を傾げた。
『なんで居るの?』
「居るよ!? それだけの説明で俺にどうしろってんだ!? こういう時はどうして俺がその世界に行くことになった経緯とか、スキルをくれたり、お金をくれたり、チートをくれたりする場面でしょうが! 大体お前の名前も知らないし? 『行ってらっしゃい』って近所の駄菓子屋に買い物にいくんじゃないんだぞ! この年増!」
『ああん?』
「目がぁぁぁぁぁ!?」
『あーもう、だからこうなる前に捨てたかったのに』
「今、ハッキリと言ったね!?」
『そういえば名乗ってなかったわね。私は女神アウロラ。迷った魂を別世界へと送るために存在しているわ……ええい、ゴロゴロしない!』
ふわり、とまたも暖かい光が俺の顔を包み目が見えるようになった。
これは回復魔法というやつだろうか? それはさておき、アウロラと名乗った女神が説明モードになったので俺は席に戻る。
『よろしい。ま、色々省くけど、死んだ魂を別世界に送って、生きてもらおう! というのがお仕事なの。人によるけど、姿・記憶はそのままで向こうの世界に送ることが多いわね。ラノベとかで目が覚めたら知らない場所だった……ってあるでしょ? 大抵は目が覚める前に捨て……行ってもらってるのよ」
目が覚めるとこういった説明をしなければならないのが面倒なんだと。適当過ぎる。
で、向こうの世界ペンデュースだけど、よくある剣と魔法の世界らしく、俺にも何かしらスキルや魔法といった技術を一つはつけてくれるらしい。
『本当は目が覚めたらお金と良い剣を手にできるようにするつもりだったんだけど』
「マジか!? 魔法とかは?」
『そういうのをつける予定は無かったわ』
「お前、ラノベとか知ってるなら俺みたいなのが魔法に憧れていることくらいわかるだろうが。それを剣とお金だけとか舐めてるのか?」
『ふん!』
「ハードナックル!?」
アウロラがフッと消えた瞬間、脇腹に重い一撃を食らわしてきた。
椅子から滑り落ちて俺は膝から崩れ落ちる。い、いつの間に……おぼろろろろ……
『そういうつもりじゃないけど……って汚いわね!』
急にしおらしくな……おえええ……それにしても、何も説明せず異世界に送るのはバツが悪そうだな? ここは畳み掛けてみるか……。
「……ちなみに、異世界行きを拒否したらどうなる?」
『私の評価が落ちるわ、黙って落としていれば、それだけで勝手に評価が……あ!?』
俺はそれを聞いてにやりと笑う。
そうか、それなら意識が無いまま異世界へ落としていた、ということは納得がいく。
そして恐らくだが、こいつは『聞かれたら答え無くてはならない』決まりでもあるのだろう。
で、異世界には何らかのデメリットがあるに違いない、だからこそ何も言わせずに世界へと送り込んでいるのだ。
なら、今が俺がすることは――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます