第百七十話 繋がる線

 

 レヴナントが俺の首を絞めたまま(ヘッドロック)語り出す。……何気に正体を現す前に比べて胸のボリュームが増している……


 「私が300年前に召喚されたのは、アウロラの意向によるものみたい。というより、たまたま未来の世界にチャンネルが繋がった……そんな感じと聞いているわ。で、カケルさん」


 「なんだ?」


 レヴナントが俺を放し、上目づかいで聞いてくる。


 「カケルさんはこの世界へ来るとき、アウロラから何かもらったわよね?」


 「アウロラから……ああ、『回復魔王』のスキルとかのことか? 俺は回復魔法が欲しかったんだけどな……」


 俺がぼやくと、レヴナントがニコリと笑い、人差し指を立てて言う。やっぱりこの顔……どこかで……


 「そう、スキル。私達も送り込まれる前にスキルを貰ったの。エアモルベーゼと戦うことは決まっていたから、みんな戦闘系スキルをもらっていたの。そんな中、私がもらったスキルは二つ」


 「二つ……やはりカッコいいスキルですよね?」


 ティリアがぐっと拳を握り言うが、レヴナントは困った顔をして続ける。


 「私は『不老不死』と『偽装』の二つを貰ったわ。あの時は破壊神と戦うなんて怖くて仕方なかった……死にたくないという思いから不老不死を選んだわ」


 「ふむ……思い切った選択じゃが、破壊神を倒すにはこの上ないスキルじゃな。死なないのだからいつか必ず倒せるしのう」


 「……そんないいものじゃ無かったけどね。痛みはあるし、腕を切断されたらきちんと治療しないと再生するわけじゃないし」


 やけに生々しいが、もしかするとエアモルベーゼとの戦いは相当激しかったのかもしれない。すると今度はルルカが質問をする。


 「それじゃあ『偽装』はどうして?」


 「……言い方は悪いけど、万が一勝てなかった時のことを考えたから」


 「どういうことだ?」


 「さっきメリーヌさんも言っていたけど、私は死なない。もし負けてしまった場合、私以外は必ず消える。だけど、鍛え上げることさえできればきっと倒すことができる……そう考えて、元の姿を隠し通せる能力が欲しかったの。まあ、あまり元の姿で旅をしたくないってのもあったけど」


 「光の勇者にしてはネガティブな……」


 リファが呆れたように言うと、レヴナントは肩を竦めて反論する。


 「平和な時代に生きている学生がいきなり『破壊神を倒せ』なんてゲームみたいなこと出来る訳ないでしょ? もしリファさんが剣士でなくて、お姫様として魔物達を相手にできる? まして破壊神よ?」


 「う、確かに……」


 「生き延びるために、いつか帰れると信じて頑張ったのよ」


 何故かドヤ顔でリファに勝ち誇るレヴナント。そこで俺はさっきの言葉で違和感を感じ、尋ねてみる。


 「待てよ、平和な時代に生きている学生だったとすると、お前は俺と違って死んでからここに来たわけじゃないのか?」


 俺が疑問に思った事を口にすると、レヴナントの表情が曇る。


 「あ、うん……私は、私達は死んでからじゃないわ。カケルさんは死んでから、なの?」


 「ああ。ダンプに轢かれてあえなく……だな。目が覚めたらアウロラが俺をどこかに落とそうとしていたから慌てて張り倒して説明させたが……」


 「落とすのはよく分からないけど、そうなのね……やっぱりアウロラは……」


 「どうした?」


 「……カケルさん、スマホ持ってる?」


 何かを警戒し出したレヴナントが俺にスマホを要求する。ポケットからスマホを取り出し、渡すと電源をOFFにした。


 「?」


 「これでもちょっと心配だけど……カケルさん、みんな。今から私が言うことはここにいる人間と魔王と呼ばれる者達以外に話してはダメよ?」


 『いい?』と神妙な顔をして口に指を当てるので、俺達はコクリと頷いた。


 「カケルさんを送り込んだアウロラは恐らく偽物。それもただの偽物じゃないわ。中身は……今、ヘルーガ教徒が封印を解いて回っている、エアモルベーゼ本人よ」


 「んな……!?」


 「そ、そんなはずはないじゃろ!? じゃ、じゃあ封印されているのは一体なんだと言うのじゃ!?」


 珍しく師匠も慌てる。それほど、矛盾と荒唐無稽な話だからだ。しかし、レヴナントは確信しているらしく、俺の手を握ってから申し訳なさそうに告げてくる。


 「……そしてカケルさんが死んだのは偶然じゃない……ね、私のこと、覚えてない?」


 「いや、どこかで見た気がするんだけど……」


 「ちょ、ちょっと! レヴナントさん急にどうしたの? カケルさんを口説くならまずボクを通してよね!」


 ルルカが謎の主張をするが、ティリアとリファに抑えられていた。じっと顔を見るが、やはり思い出せない。


 「カケルさんにとって私は敵も同じだったかもしれないから記憶から消しているのかも……なら……私の名前が分かれば思い出せるかも」


 「名前……」


 俺が間抜けな呟きをすると同時に、レヴナントは手を強く握って決意したように言う。


 「私の名前は月島……『月島 芙蓉つきしま ふよう


 「月島……? そんな知り合い俺には……」


 名前を聞いても分からない……と思っていたが、俺はあることを思い出す。


 「月島……月島だと……!? 俺が殺した教祖の男、そいつが確か月島って名前だった……!」


 「何だって!? じゃ、じゃあもしかしてレヴナントは……!」


 俺の過去を知っているクロウが椅子から立ち上がって叫ぶ。そうだ、この子は……芙蓉は……!


 「教祖……月島 影人つきしま かげとの妹……!?」


 俺が叫ぶと、レヴナント……芙蓉は寂しい笑いを見せながら……涙を流した。


 「久しぶりね。あの人を殺してくれたあの日から、私は私になれたんだよ」




 ◆ ◇ ◆




 <あの世>



 『……スマホの電源が落ちた? いや、落とされたかしら。まさか、あの盗賊娘が元・光の勇者だったなんてね』


 ヘッドセットを取りながら、トロピカルジュースに口をつけるアウロラ。パチンと指を鳴らしてビーチチェアを出して寝そべる。


 『これくらいの力じゃこれが限度ね。あの娘、余計なことを言いそうだけど……ま、どっちにしてもカケルさん達は封印を解かざるを得ないだろうし、私の計画は変わらないわ。全ての力を取り戻したら今度は必ず始末してみせる』


 アウロラはズズズ……と、ジュースを飲みきってから上半身を起こす。


 『……そろそろあの男にも動いてもらいましょうか。そのためにカケルさんをこの世界に呼んだのだから……』


 アウロラは再度ヘッドセットを取り、どこかへ通信を繋げた――

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