第百七十六話 VS爺さ……フェアレイター



 「え、いや別に嫌ならいいけど……お構いなく?」


 「なんじゃとぉぅ!?」


 俺が手を振って答えると、爺さんは驚愕の表情で叫んだ。


 「来たくないならいいってことだよ。戦ってまで来てほしい訳じゃないしな」


 「ぐ……」


 爺さんが呻くと、ルルカが続けてくれる。


 「そうだよおじいさん。戦って勝ったら、なんて言うけど、最初から戦うつもりがない相手にする交渉じゃないよ?」


 「ルルカの言うとおりじゃな。メリットが無さすぎるわい、お主は何となく同行理由ができてラッキーじゃろうが、芙蓉が諦めた時点でそもそもそれほど必要がないと言っておるようなもんじゃし」


 「必要ない……」


 「だな。嫌がっているのを無理やり連れて行くのは良くない」


 「あ、あの、それくらいにしてあげた方が……」


 「あはは、言いたい放題だねみんな」


 爺さん、ボロクソである。だが、リファの言うとおり嫌がっている人を無理やり連れて行くのは後々面倒になるに違いないのでここはやはり置いていくのがベストだろう。


 「そういうことだ。悪さはしなさそうだけど、何かことを起こすなら全力で止めにくるからな」


 「ぐぬぬ……言わせておけば……そりゃあ!」


 シュルルルル


 「あ」


 「あ!?」


 長い鞭のようなものを使い、アニスを絡めて手元に寄せていた。


 「ふはははは! これで戦う理由ができたろう。この娘を返して欲しくば、わしと戦えぇぇ!」


 「何て奴だ……!」


 「あらら……こうなったら戦うしかないね。アニスちゃんを置いていくならこのまま帰れるけど?」

 

 「僕がそれを許すと思うかい? 一人でも戦うよ」


 芙蓉が困った顔で腰に手を当てて言うと、クロウがチャクラムを取り出し前に出る。


 「ほう、坊主の魔法はわしには効かんぞ? それでもやるのか?」


 「もちろんだ。とっとと倒してそこの元魔王に力を返す」


 「いい気迫だ少年。俺も及ばずながら力を貸そう。破壊神の力がどれほどのものか、試させてもらおう」


 ベアグラートもクロウの横に立ち、いつの間に取り出したのか黒い爪のついたナックルガードをカチンと鳴らす。


 「これだけか? わしと戦うには少ないのではないか?」


 「カケルさんは?」


 「とりあえず様子見させてもらおうかな。クロウ、頼めるか?」


 俺がクロウに尋ねると、一瞬驚いた顔をし、すぐに微笑んで頷いた。


 「小僧は来んのか? まあいい、すぐに引きずり出してくれるわ! ……嬢ちゃんはここでにぶら下げってっと……ゆくぞ!」


 「クロウくーん、助けてー」


 アニスが石碑の破壊跡にぶら下げられた。その瞬間、クロウとベアグラートが襲いかかる!


 「うおおお!」


 「ガァァァァ!」


 クロウが駆け出しつつチャクラムを放ち、爺さんはそれを難なく回避。しかし避けた先にはベアグラートの爪が待っていた。


 「くらえ!」


 「中々の速さ。じゃがその程度ではわしを捉えることはできんぞ?」


 「なに!」


 ひゅるん……


 「んな!? どういう避け方だ!?」


 爪は確かに脇腹を捉えたと思ったが、爪のある腕に絡みつくように自ら体を預けてくるくると回りながら背後に回り込み、ベアグラートの背中にゼロ距離からの拳を叩きこんだ。


 ミシィ……!


 「ぐあ!? こいつ!」


 ドゴ!


 ベアグラートは拳を食らいながらも、後ろ蹴りで反撃を行う。爺さんはそれをガードすると、大きくノックバックする。


 「いい反応じゃ。しかしバランスが悪ければ威力も半減じゃ……む!」


 「解説している場合かな? この距離なら……出力アップ版≪漆黒の刃≫!!」


 グオン、とクロウの手からでかい剣のようなものが出現し、それを爺さんに叩きつけようと振り切った。おお、遠距離だけかと思ったけどそういう応用もできるのか。


 「ふん、わしに闇の魔法は効かんと言ったはずじゃぞ! そおれ!」


 ざっくりと肩口に漆黒の刃が食い込むが爺さんにダメージは殆どなさそうだ。食らいながらも爺さんはクロウに掌底を叩きこむ。


 「ぐふ!? あばらがいった……!? だけど掴んだぞ」


 「む? わしの手を掴んでどうしようというのじゃ? すぐに振りほどいて――」


 爺さんがクロウを振り払おうとした瞬間、クロウが体を入れ替えた!


 「そうはいくか!」


 ザクン!


 「ぬお!? これは坊主の……!?」


 体を入れ替えると、爺さんの背中にチャクラムが首に突き刺さった! なるほど、戻ってくるタイミングを見計らっていたのか! 


 そして首狙いとはエグイ。爺さんの首に食い込んで血がボタボタとしたたり落ちる。


 「はあああ! “牙咬”!」


 ズドム! 


 ベアグラートの腕がさながら狼の牙を模した動きで背中を抉る。鈍い音が爺さんの背中から聞こえてくるが、あれは腰をやったくらいでは済まさない音……! だが、爺さんはクロウを壁にぶん投げ、ベオグラートに乱打を繰り出した。


 「うわああ!? ぐえ……!」


 「ぬうう! 鋭い拳だ! まだだ!」


 クロウが呻き、ベアグラートが殴られながらも反撃をする。しかし押されているのはベアグラートの方だった。


 「爺さん、一滴の血で復活したのに強いな……!?」


 「元々が強いから彼は。まだ破壊神の力を使ってないし……あ、今から使うみたいね」


 俺の呟きに芙蓉が俺の呟きに反応し、爺さん方を指差す。すると爺さんの拳が黒く、怪しく光り出した。


 「技を使うならこれくらいはせねばならんぞ! “暗黒の指”!」


 「ぐおおお!?」


 腹に掌底で一撃を加えると、そのまま黒い魔力の塊が爆発する。たまらずベアグラートはその場に崩れ落ちた。

 

 「つ、強い……!?」


 「わっはっは、そうじゃろう! さて、ではわしは嬢ちゃんとひっそり暮らすとしよ――」


 「まだだ!」


 爺さんが後ろを向くと、クロウがチャクラムを握りしめて襲いかかる!


 「ぬう!? 坊主、なぜ動ける!? ……あ!」



 「大丈夫か? ≪ハイヒール≫」


 俺はベオグラートにハイヒールを使うと、すっかり傷が塞がり立ち上がった。


 「すまぬ。これでまた戦える」


 「ああ、回復は任せろ」


 俺がサムズアップして答えると、爺さんがクロウの攻撃をいなしながら近づいてくる。ちょっと動きが気持ち悪い。


 「小僧! 貴様が回復魔法を使ったのか! 汚いぞ!?」


 「え? いや、だってダメとは言われてなかったし」


 「この状況でいいわけあるか! ええい、貴様も参加とみなすぞ、どけい坊主!」


 「うわわ!?」


 クロウを軽く投げ飛ばし、俺に前進してくる。しかしベアグラートが立ちふさがり爺さんを牽制する。


 「お前の相手はオレだ!」


 「やかましい! もろともくたばるが良いわ! "千覇! 拳皇気闇斬”!」


 「なんかカッコいい名前!? うおお!?」


 繰り出された技は闇の刃を形成し、俺とベアグラートを取り囲むように広がっていく。爺さんの合図とともに俺達に降り注いできた!


 「ぐわああああ!?」


 「カケルさん!?」


 「ふわっはっはは! 殺しはせんが、血だるまになるがいい!」


 ティリアの叫び、勝ち誇ったような爺さんの声が聞こえる。


 「≪ハイヒール≫≪ハイヒール≫……キリが無い、ナルレア!」


 <カケル様、どうしますか?>


 「この闇の刃から抜けるのは難しそうだ。とりあえずベアグラートをここから脱出させて、その後はナルレア、お前がハイヒールを使っていてくれるか?」


 <かしこまりました。容易いです(アレを使うにはまだ早いですしね)>


 「何か言ったか?」


 <いえ、なんでも。では『力』を!>


 「よっしゃ!」


 力を上げた俺がベアグラートの首根っこを掴み、ハイヒールをかけながらティリア達のところへと投げ飛ばす。これなら万が一脱出で怪我してもすぐ治してくれるはず! 刃の隙間を塗って(ズタボロになりながら)ポーンと飛んでいき――


 「ぎゃああああ!?」


 ベチン!


 やべ、壁にぶつかった。


 <……ちょっと強すぎましたかね>


 「……まあ、後で治してやればいいだろ。次は俺の番だ!」


 <分かりました! ≪ハイヒール≫……ぶつぶつ……>


 ナルレアがハイヒールを使っているので俺単体はフリーだ。ズタズタになりながら俺は槍を持って突撃する。


 「何と!? まだ動けるのか!? ならばわし自らトドメを刺してくれるわ!」


 「させるか! ナルレア!」


 <今回は荒いですね!? 『速』を限界値へ!>


 ナルレアが叫び、フッと体軽くなる。俺は一気に背後へ回り、足を貫こうと構える。だが、爺さんの反応も凄い……!? くるりと振り向き、俺に技を叩きこんできた!


 「やりおる! ″暗黒の指”」


 「ぐううう!? ハイヒールを切らすなよナルレア!」


 <はい!>


 「ぬう!?」


 ドチュ! ドゴオオン!


 俺の槍が足を貫いたのと、爺さんの技が俺の腹で爆発したのは同時だった! 爺さんは縫い付けられ、俺は派手に吹っ飛んだ!


 「カケル! このおおおお!」


 「坊主か! うおおお!」


 クロウがルルカに回復され、また爺さんに突っ込んでいくのが見えた。縫い付けられた爺さんの足から血が流れ出し、身動きができないようだった。


 「よし、クロウ傷口を狙――あいて!? ガクリ」


 派手に吹き飛んだ俺は石碑に頭を打ちつけ、気絶するのだった。

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