第百七十七話 決着と不穏な黒ローブとおまけ


 「――ん」


 (……ん?)


 「――ケルさん」


 俺を呼ぶ声が聞こえる……久しぶりに気持ちよく寝てるんだ、起こさないでくれよ……


 「――ケルさんってば」


 この声はルルカか? 後五分……


 「起きませんね。強く頭を打ったから……」


 「いや、この顔は寝ておるだけじゃ。このだらしない顔、何度も見たぞ」


 だらしないってなんだよ!? もういい。ふて寝だふて寝。


 <カケル様、起きた方がよろしいかと>


 ナルレアがそう言った瞬間、耳元でダミ声が響き渡った。


 「おきんかい小僧!! 坊主に任せて気絶とはいい身分じゃのう!」


 「ぎゃああああ!? 妖怪、白黒ジジイ!?」


 「誰が白黒ジジイじゃ!?」


 ゴキン!


 いい音がして俺は再び気を失いそうになる。そのギリギリのところをアニスに救われた。


 「爺ちゃんやりすぎはダメ。カケル兄ちゃん大丈夫?」


 「お、おお……サンキューだ、アニス……」


 「う、ぬう……わしは悪くないぞ……」


 痛む後頭部をさすりながら身を起こすと、ずらりと取り囲むようにみんなが立っていた。そこで芙蓉が口を開く。


 「いい戦いだったわ!」


 「気絶した後はどうなったんだよ!? そこを話してくれよ!」


 「ああ、ごめんね、端折りすぎたわ――」


 芙蓉が言うには、あの後クロウが槍に縫い付けられた爺さんをうまく牽制しながらダメージを与え、やはり回復魔法で復活したベアグラートと共に激戦を繰り広げたらしい。

 というか、あのケガで二人を相手にほとんど互角に戦っていたというのが何気に恐ろしいところだったりする。


 「で、勝敗は?」


 俺が立ちあがりながら言うと、爺さんが腕を組んで目を瞑り、ポツリと呟いた。


 「……引き分けじゃな。しかし、気迫は三人とも悪くなかった。それに万全でないとは言え、わしに槍をぶっ刺すことができたのは賞賛に値する」


 俺の肩を叩き、ニヤリと笑う。全力だったら手も足も出なさそうだな……


 「さて、引き分けは負けと同義よ。芙蓉のお願いを聞かねばなるまい。それにこやつらなら――」


 「あー! そういうのはいいから!」


 「なんだ?」


 「……何でもないわ。それじゃ城へ戻りましょう。クロウ君は魔王の力を変換するってことでいいのね?」


 芙蓉が何となく慌てて爺さんの口を止めた芙蓉はクロウへ確認をしはじめた。むう、こいつはまだ隠し事がありそうだな……


 「僕はそれでいいよ。カケルのおかげで手に入れた力だし、僕が王様なんてできっこないしね」

 

 「クロウは真面目だな。とりあえず持っておけばいいと考えそうなものだが」


 リファがクロウにそう言うと、ドヤ顔でクロウが歩きながら口を開く。


 「ま、僕は僕なりに強くなるよ。いざって時に負けないように……って、やめないかアニス!?」


 「クロウ君頑張れ」


 アニスがクロウの頭を撫でていた。爺さんがそれをみて微笑ましいといった顔で見ていると、やがて芙蓉が歩き出した。

 

 「それじゃ戻ろうか。ドラゴン君も待たせてるし」


 「あ! ま、待ってくださいよ!」


 スタスタと出て行く芙蓉。それを追ってティリア達も歩き出す。俺も槍を担いで歩き出すと、隣にルルカと師匠がやってきた。


 「ふむ、芙蓉の計画通りというところかのう」


 「多分……芙蓉さんが破壊神の力の一部と知り合い、ってのはちょっと怪しいけど、結果的には味方が増えたし……」


 ルルカはあっさり着いて来た爺さん……フェアレイターが気になっているようだった。何となくだが、あの爺さんも何か隠している気がする。


 「とりあえず行くか」


 「そうじゃな。しかしこの先、あのクラスの化け物が出るなら、わしらもちと考えねばならんかもしれんな、ルルカよ」


 「うん……正直、このままだと足手まといになりそうな気がする」


 「まあ、その辺りはおいおいだな。リファの国へ行ったら、少し訓練でもしないとまずいかなとは俺も思っているよ。エアモルベーゼはあの爺さんより強いんだろ? アウロラがエアモルベーゼと決まった訳でもないし、復活させる前にしっかりレベルをあげとかないとな」


 「うん。とりあえず向こうについたらスマホ、貸してね♪」


 「はは、結局そこか」


 俺が笑っていると、前から芙蓉が手を振って呼んできた。


 「おーい、早く行くよー! 城に戻ってちょっと休みたいー」


 「まったく、何を考えておるのかさっぱりじゃな」


 師匠がぼやきながらルルカと駆け足で進み、俺も後に続こうとする。そこでナルレアが声をかけてきた。


 <カケル様、一応あのおじい様と戦ったのは無駄になっていません。レベルが飛躍的に上がっています>


 「なんだって……? デッドリー熊さんを倒した時、レベルが上がって14だったろ?」


 俺はステータスを開き、その内容に驚愕する――



 【ジュミョウ=カケル】


 レベル:18 (戦士/魔王)


 HP:33000


 MP:328420


 力:60


 速:55


 知:43


 体:53


 魔:80


 運:44


【スキル】


 回復魔王

  Lヒール・ハイヒール

  L還元の光


 魔法:炎弾 風刃 氷の楔 地獄の劫火


 剣技:斬岩剣


 能力値上昇率アップ 全魔法適正 全武器適性 ステータスパラメータ移動 全世界の言語習得:読み書き


 同調

 

 【特殊】


 寿命:99,999,619年


 魔王の慈悲:相手に自らの寿命を与えて回復させることができる。


 生命の終焉:触れた相手の寿命を吸い取る事ができる。スキルが強力になると一瞬で絶命させる事も可能。


 ナルレア:レベルアップやスキルを覚えた際、音声で色々と知らせてくれる。


 追憶の味:自身が飲み食いした料理について限りなく再現可能になり、食材を見極めることもできる。


 運命の天秤:死ぬ運命にあった人間を助けようとすると、自身の寿命が減る代わりに死の運命を傾ける事が出来る。ただしすでに死んだ者、生きる意志を失くした者には通用しない。


 【魔王のフェロモン:#%&$#%’’@】



 「4レベルも上がったのか。HPとMPがアホみたいに高いな……」


 <いえ、それより新しいスキルが増えているようです>


 「本当だ。魔王のフェロモン? なんだこれ? ノイズがかかって効果がみえないぞ。ナルレア、何とかならないか?」


 <実は先程からやっているのです。えっへん。しかしレベルを上げるか『運命の天秤』のように条件を満たす必要があるのではないかと>


 なるほどな……俺のフェロモンとか臭そうだし、あまりいい気はしないから判明しておきたかったが仕方ないか。新しいスキルは戦闘用が欲しかったけどなあ。


 <技を習得するのが早いのではないかと。騎士ならそういうのが得意な者もいるでしょう>


 「確かにそうだな……」


 「おーいカケルさん! 早くー! みんなもうドラゴンに乗りましたよー!」


 おっと、ナルレアと話し込んでいたら歩みが遅くなったみたいだ。俺は慌てて手を振るティリアの方へ走り出した。



 ◆ ◇ ◆



 <ヴァント王国:ウェハーの町付近の山あい>


 

 【ふむ……何とかイノシシが獲れたか……】


 【疲れたな……お前弱くなり過ぎじゃないか?】


 【貴様が言うなシュラム。私が助けなければ冒険者に消されていただろうが】


 串に刺した肉を焚き火に近づけながらイラだったように言うグラオザム。彼等はあの海底洞窟の神殿から脱出した後、森から森、そして山へと移動していた。空を飛べれば早かったが、ほぼ死に仕掛けていたシュラムのせいで地上を歩くことを余儀なくされていたのだ。


 【くっ……その通りだから何も言えん……! しかしイノシシごときの肉では力が戻ってこない。人間の血でなければ……!】


 【ふむ。私だけなら何とかなるが、お前は今、その辺の人間レベルにまで弱っているだろう? 回復を優先させるのだな】


 【……そうだな】


 と、言うグラオザムもあの戦いでかなり力が弱っており、無理ができないのはシュラムと同様だった。見栄を張る二人が回復できるのはいつの日か?


 そんなこんなで夜の森の中、無言で肉を食べる二人。そこに近づく気配に気づいた。


 【……何者だ?】


 グラオザムが暗闇をじっと見ながら呟くと、黒いローブを羽織った男がスッと出てくる。顔は……隠していなかった。


 「やあ、初めまして。私はヘルーガ教の現教祖。君達を助けにきた」


 【助けだと? ……いや、ヘルーガ教はエアモルベーゼ様を崇める教団だったか。その教祖が出歩くだと?】


 くくっと笑い、教祖は黒髪をかきあげながら言う。


 「私達は根なし草でね。拠点はあるけど、殆ど出歩いているんだよ。話を聞く気になってくれて助かる、それじゃまずはこれで乾杯といこう」


 男が指を鳴らすと、影から女性が現れる。目はうつろでうっすらと微笑んでいるのが妙につやっぽく、不気味だった。


 「さ、君のその体を彼等に捧げるんだ」


 「はい……教祖様の仰せのままに」


 女性がフラフラとグラオザム、シュラムの傍へ歩き出す。


 「さ、好きにしちゃっていいよ」


 男がニヤッと笑いそんなことを言う。罠でないなら二人にとって力を取り戻す絶好のチャンスだ。


 そして彼等は――

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