第一八話 事の顛末と、口に出した瞬間傍から見ると頭がおかしい人に見えるスキル
「……ん? ここは……?」
俺は窓から入ってくる日差しを顔に受けて目が覚める……何で寝てるんだっけ?
そうだ、アンリエッタの家の前でぶっ倒れたんだっけ。倒れる前に色々聞こえた気がしたけど何だったのか? それはともかく、ここはどこだ? ユニオンの大部屋にしちゃ薬臭い……。
身を起こすと見たことの無い部屋だった。大部屋でも無ければアンリエッタの家でもない。ここはどこだ?
マウンテンパーカーとシャツは脱がされていて、周りを見渡すと狭いながらもどうやら個室のようだった。誰か居ないものかと声を出そうとしたところでガラリと正面の扉が開いた。
「あ! 目が覚めたのね!」
「アンリエッタ、それにビーンか」
「……ちっす」
入ってきたのはアンリエッタとビーンだった。俺がベッドから降りようとするとアンリエッタに止められた。
「まだ動かない方がいいわ。先生が血を流し過ぎているから二、三日は安静にって」
「そ、そうか? 回復魔法を使えば多分大丈夫だと思うけど……」
あの時すぐにかけていればこんなことにはならなかったと悔やまれる。
「最後に倒れただろ? あの時あんた、石に頭をぶつけて相当血が出てたんだ、正直オレはちょっと引いた」
そっち!? 剣で斬られたりダガーで刺されたりしたけどそっちぃぃ!? どこかのラノベの主人公みたいにまた死ななくて良かった……あ、死なないのか……。
「まだ混乱してるみたいね。そういうことだからゆっくり休んで。ミルコットさんとゼルトナさんに目が覚めたことを伝えておくから」
「オッケー、あの二人にも礼を言っておかないとなあ」
「あ、そうそう、これ、お母さんからパンとスープよ。お母さんも来たいって言ってたんだけど、警護団に事情を聞かれてるの」
アンリエッタに俺が気絶した後の事を聞いてみると、まずゼルトナ爺さんとビーンが俺をこの場所……病院まで運んでくれたそうだ。何でも深夜に叩き起こして即入院……ますます肩身が狭い。で、丸一日眠っていたらしく、事件からすでに二日が経過していた。
そんな中、村長と二人組は無事(?)警護団の地下牢へ叩きこまれ、怖くて見れないというニルアナさんの代わりに、事情を知り、なおかつ被害を受けたビーンと、駆けつけたゼルトナさん、それにミルコットさんが牢に入っている所を見届けたそうだ。
「二人組は言葉も出せないほど憔悴しきってた。村長は……終始わめいていたよ」
村長はアンリエッタの父親を殺した件と、二人を殺そうとしたということで犯罪奴隷としてどこかの強制労働施設へ移されるそうだ。冒険者二人も同じく。奴隷、あるのかと思ったのは内緒だ。
村長が死刑にはならないのが不思議だけど、強制労働施設はかなり過酷(鉱山とか危険な場所だとか)なので、殺すより生き地獄を味わって生涯を閉じさせた方がいいという理屈なんだそうだ。人手はいつも足りないのもあるそうだが……。
「それじゃ、また明日ね! 治ったら色々聞かせてよね? ……本当は死ぬはずだった私の事とか」
んぐ……!? リ、リンゴが喉に詰まった……!?
「げほ! げほっ!?……あ、ああ、気が向いたらな。ニルアナさんによろしく言っておいてくれ。ありがとな」
一通り喋った後、アンリエッタが無理させちゃいけないと帰り支度をしはじめると、ビーンが先に出てくれと言い、病室には俺とビーンが残った。
「? どうした?」
「……ありがとう、ございました」
「ひぃ!?」
敬語で頭を下げるビーンに、俺は戦慄した。
「どうして驚く!? ……アンリエッタの事もそうだけど、オレの事も助けてくれただろ……? あんたの言う事を聞いて一緒に行っていればもっと早く終わったかもしれないのに……」
「ああ、別に気にしなくていいんだ。一日、二日顔を合わせたヤツの言う事なんて信じにくいだろうしな。むしろアンリエッタの所に行ってたんだから、俺を信じたって事でもある。だから、俺は嬉しかったよ」
「……変な人だな……また来るよ」
「余計なお世話だ! じゃあな」
ガラガラと引き戸が閉まり、一人取り残される。先程までの喧噪が嘘のように静まり返っていた。ふと、ポケットからスマホを取り出し時間を見る。
「……10時か」
昼には少し早いが丸一日眠っていたせいで腹はペコちゃんだったので、アンリエッタからもらったパンとスープを食べながら俺はオープンでステータスを見る。
「お、レベルが5になってる! あいつら魔物じゃないけど、対人でもレベルって上がるのかね? ゼルトナ爺さんに聞いてみるか」
パラメータを元の数値に戻してみると、相変わらずHPとMPの上り幅がおかしい。それと『魔』だな。今の所活かす方法がないからパラメータ変更用としてみておくのがいいだろう。
「そういや、ズボンとマウンテンパーカーもボロボロだな。≪ハイヒール≫」
とりあえず体と一緒に癒すと、傷が無くなり元に戻ってくれた。服を買いなおさなくていいから便利だな、と思っていたけど甘かった。
「臭っ!?」
そう、血と汗の付着と匂いまでは取れなかった! 洗濯は必須らしい……。
「とりあえず後回しにしよう……」
俺はパーカーとシャツを放り投げてベッドへ横たわり、再びステータスとにらめっこする。新しいスキルと、説明文が付くようになったみたいだ。
「運命の天秤、ね。俺の寿命が減っているのはアンリエッタとニルアナさんに分けたからか?」
多分ビーンの分も分け与えたのだろう。元々生きるであろう寿命を分け与えているので三人ってとこか。完全には返さなかったが、冒険者の寿命を吸い取っているから『減っていない方』と捉えるべきか……。
「後は『音声説明アシスト』か。こりゃなんだろうな?」
俺が呟くと、ピロンと音が鳴った後、どこからともなく声がした。
<音声アシスト。知りたいスキルや魔法についてお答えします。なお、手持ちのものだけになります>
おお、どこからともなく美人秘書っぽい声が聞こえてきた! なるほど、これが音声アシストか! 心の声でもいけるかな……? 『運命の天秤』を詳しく。
するとまたもピロン、と音がして美人秘書の声が聞こえる。
<死ぬ運命にあった人間を助けようとすると、自身の寿命が減る代わりに死の運命を傾ける事が出来る。ただし#$%&>
「やっぱり最後は聞き取れないのか……寿命が減のはどのくらいの割合なんだ」
<助けた人が本来生きるべき年数が引かれます>
やっぱりそうか。となると、迂闊に死にそうな人と関わったら俺の寿命はゴリゴリ削られるってことね。うーん、今回はアンリエッタが助けられたからいいけど、全然知らないおっさんとか何となく助けちゃったことになって寿命が減ったら嫌だな……。
<カケル様『が』助けようとした場合のみ適用されるスキルになりますので、近くに居るだけではスキルは発動しません>
「お、そうなのか。ま、九千万年あるし色々試すのもアリか……ふあ……腹が膨れたら眠くなってきたな……少し寝ておくか……」
◆ ◇ ◆
『スキルは覚醒したみたいね、期待通りに動いてくれるといいんだけど』
アウロラは神殿のような場所にある池のような場所からカケルの動向を見ていた。するとそこにもう一つ声があがる。
『この男? アウロラが選んだのは』
『ノア』
『ええ、私よ。この男で大丈夫なの?』
ノア、と呼ばれた水色の髪をした女性が呆れた様に呟くと、アウロラは髪をかき上げながら椅子に腰かける。
『恐らく、ね。失敗しても私は痛くもかゆくもないし、いいでしょ? 面白かったらなおいいんだけど』
『私が口を出す事じゃないから好きにすればいいと思うけどね……回復魔王、か。適任といえばそうかも……』
それを聞いたアウロラは口元に笑みを浮かべ、考えるノアを細い目で見つめる。
『他の魔王と会った時にどうなるか、そこが見物よ。まだまだ先だろうけど』
『本当に楽しんでいるんだ。なら、私も見させてもらおうかな? この世界の行く末を』
ノアはそう言って池を覗き込みはじめた。
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