第九十話 今後の相談中に大暴露!


 「賑やかなもんだな」


 「不穏な空気ではあるが、町民には知らされていないからこんなものだろう。まずは俺の屋敷へ行こう」


 検問所を通過すると、少しばかり長い門をくぐって町に足を踏み入れることになる。完全にくぐりぬけるとそこは城下町と呼んでいただけあって人の多さに驚く。移動して人が少ない時を見計らい俺は御者台に声をかけた。


 「もう出て来ていいぞ」


 「は、はい……」


 御者台の下からチェルが這い出てきたので、フードを被せて荷台へと移動させる。耳と尻尾は隠せるが、チェルがこの町出身なら知った顔がいてもおかしくないので外には出せない。そういう意味でも速やかに移動する必要があったのでクリューゲルの屋敷を優先した。


 「遠いのですか?」


 ティリアがクリューゲルに声をかけると苦笑いをしながら答える。


 「貴族居住区だから城に近いところだな。この道をまっすぐ行くと右手にある区画だからすぐさ。色々剥奪されたけど、屋敷は自分で買ったものだから一応住んでいられる。ここならチェルの住んでいた通常の居住区と違うから見つかる恐れもないはずだ」


 それは好都合と思いながら、俺は馬車から町の様子を見てみる。


 なるほど、店は通りに面しており広場なんかは別の通りにあるって感じだな。この商業通りをそのまま一直線に進むと城へと到着するのか。観光地としての機能はそれほど無さそうで、あくまでも生活するための町というのが見て取れる。


 「……ダメですよお嬢様」


 俺が頭の中で地図を描きながら右左と見ていると、俺の後ろにいつの間にかティリアが張り付いていた。それを見てリファが声をかけたところだ。


 「……何のことですか?」


 「今、食べ物の屋台を追っていましたね?」


 「……そんなことはありません! 決して山芋のステーキに目を奪われたりしていません!」


 そんな屋台あったの!? 

 

 もはや目がいいとかそういうのじゃないな、たこ焼きの件から思っていたがティリアは食い意地が、というより美味しい物や珍しい物に目が無い。好奇心なんだろうけど、何となくいつか詐欺っぽいのに引っかかりそうな気がする。


 「涎を拭け。そんなんじゃ説得力ないぞ? 気になったのがあったら言ってみろ、俺が食べたことがありそうなやつなら作ってやるから」


 「ほ、本当ですか! ではあれとあれと……」


 「これが無ければちゃんとお嬢様って感じなのにねえ」


 「まあ外にあまり出してもらえなかったんだ、仕方ないか」


 ルルカとリファがそれぞれ言っていると、その内クリューゲルの屋敷へと到着した。


 


 ◆ ◇ ◆




 「もう使用人も居ないから適当に座ってくれ」


 クリューゲルに言われ応接室へ入ると、俺は周囲を見わたしながらクリューゲルへ話しかける。


 「結構でかい屋敷じゃないか、竜の騎士は給料が良かったんだな?」


 「まあ、これでも大隊長だったし、危険そうな任務は率先して出撃していたから手当も悪くなかった。今はしがない冒険者だけど、これはこれで楽しんでいる」


 「それでは早速ですが今後の動きを話しあいましょう」


 「そうしよう。俺からの情報はエルフの集落で言った通り、ローブの集団が怪しいことと、王が操られているのではないかという二点だ。それ以外だと、王妃と王女の二人が居るんだが、城から出て以来会っていないのでどうなっているか分からない。操られているか、監禁されているのか……せめて無事が分かればいいのだが」


 クリューゲルは俯きながらそんなことを言う。この心配ぶりだと、王女といい仲だったりしそうだがとりあえず今はおいておこう。


 「ティリア達はどうするつもりだ?」


 「明日にでも城へ行ってお話をさせていただこうかと思っています。魔王である私であれば無下にはできないと思いますので、王の様子などを探ってきます」


 ティリアは魔王の立場を使って探りを入れるつもりらしい。それにリファが続けて言う。


 「できれば、異種族狩りやエルフとの戦争を止めさせるように説得も行うつもりだ。他国のことに口出しをしたくないが、こうやってチェルのように困っている者を放っておく訳にもいかない」


 「……何故リファが?」


 さも当然のように説得をするというリファに、俺は疑問を口にすると、ルルカが説明をしてくれた。


 「そういえば言ってなかったっけ? リファはボク達の国『シュトラール』の第三王女なんだよ。継承権とかないから自由にしているけど、これでも王女様なんだよね」


 「初耳だぞ!? というかティリアのことをお嬢様って言うし、剣騎士のジョブだから一般の人かと思ってた……いや、喋り方は確かに尊大な感じはしていたけど……」


 「はっはっは、気にするなカケル。父上と一番上の兄は良くしてくれたが、母上は姉上を良い所に嫁がせようと必死で私にはあまり構ってくれなかったから姫という感覚はそんなに無いんだ。構ってくれなかった代わりに、姉上と違い自由にできているから気にもならないし、感謝している」


 本当の名前は『リファナ=シュトラール』というらしい。


 「お姫様とは驚いたな。継承権が無いとはいえ、よくティリアとの旅を許可してくれたな」


 「あ、ボクもそう思った。王妃様はともかく、国王は溺愛してたし、兄はシスコンレベルでリファを大事にしていたからお嬢様と旅に出るぞ! って言われた時はちょっと驚いた」


 すると、馬車でティリアが目を逸らした時と同じくらいの勢いで目を逸らした。


 「……リファ?」


 その様子をおかしいと感じたティリアが声をかけると、リファから滝のような汗が流れ出した。


 「……おい、まさかとは思うが……」


 「……ってない」


 「何?」


 「父上と兄上には言ってない……」


 「え? 嘘でしょう!?」


 ルルカが聞くと、上目づかいでモジモジしながら語り始めた。


 「だ、大丈夫! 母上には言ってきたし『気を付けてね』って言ってくれたからその内二人には伝わると思う!」


 「いやいやいや!? 王妃はあんたに対してそれほど興味がないからでしょうが!? おおお……国王様とあの兄上に知られたら……」


 ルルカが頭を抱えだして呻き始めたので俺は嫌な予感がして尋ねてみる。


 「知られたら……どうなるんだ?」


 俺の言葉にハッとして向き直ると、じっと目を見ながらポツリと呟いた。


 「……誘拐犯に仕立て上げられて処刑……よくて一生幽閉……一緒にいて危ないのはカケルさん、あなたですね。男と一緒だった、なんて知られたら……」


 「なんでだ!? ティリアとリファが説明してくれれば済むだろ!?」


 「それが怖い所なんです。例えば今回の件だと、頭ではリファが悪いことは分かっている。けど、心配と怒りの感情を魔王であるお嬢様にぶつけることはできない。……そうだ、きっとカケルさんに唆されたに違いない……彼が悪い! こうなるよ……ボクも誘拐犯として指名手配に……! いや、もうなってるかも……!」


 「冤罪じゃないかい!?」


 「普段はとてもいい人達なんですけどね……」


 ティリアがため息を吐くとリファが慌ててルルカを制した。


 「ま、まあ、父上も兄上も言えばきっと分かってくれる。もしカケルやルルカがそういうことになったら私は一緒に城から出ていくことも考えるぞ!」


 それは火に油を注ぐだけだと思う。できればシュトラールには近づかないでおこう。


 そこでクリューゲルが苦い顔をしながら口を開いた。


 「……話を戻していいかな?」


 「……お願いします……」


 俺が力なく言うと、咳払いを一つして話を続けた。


 「魔王様達が謁見を申し出てくれるなら、その間に俺は城内を探索しようと思う。何か証拠となるものがあれば御の字だ」


 「潜入ですか? でもどうやって……」


 「エルフの集落に入った時と同じですよ。ジャンプには自信がありますから、城壁を外から登って行きます」


 「それは目立つだろう……」


 夜ならともかく、遠くから城を見た限り視界をさえぎるものはないので昼は無理だと思う。


 「むう、ならどうする? 城内にしか証拠となりそうなものはないと思うぞ?」


 クリューゲルの言うことも尤もだ。だが、ここでクリューゲルが捕まってしまうと、この屋敷と言う拠点が無くなるのは少々厳しい。


 「ならこの手で行こう……俺もティリア達と一緒に城へ行く。で、怪しいローブの集団、というのは聞いているから俺が城内を探索してこようじゃないか」


 「カケルさんが? 危険じゃありませんか? それにどうやって抜け出すんです?」


 「途中まで一緒に行くが、クリューゲルが言うみたいに隠れて城内に入るさ。それなら万が一見つかっても知らない人で通せるだろ? クリューゲルは顔が割れているし、捕まってこの屋敷に突入されたらチェルが危ない。だから関係が無さそうな俺が一番いい」


 「しかしそれだとカケルさんが一番危ないのでは……」


 「ああ、他に方法を……」


 あまり納得していない感じのリファとルルカだったが、ティリアは即座に決めていた。


 「分かりました。カケルさんも魔王の一人です。捕まっても逃げ切れる、そう信じましょう」


 「オッケーだ。ならいつ決行する?」


 「早い方がいいでしょうから、明日で」


 ティリアがそう言い、俺達は頷いて了承する。


 準備は入念に、と思っていたが、予想外の出来事が起こってしまう。

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