第二十七.五話 ウェスティリアの実力
ルルカの交渉によりめでたく海路を使う事になったウェスティリアご一行は一路、港町フルスを目指していた。最後の村を出てからすでに二日。
この辺りでウェスティリア達の住む領とは別の地方へと入ることとなる。
「そろそろスダカ領に差し掛かりますね」
「丁度看板がそこにありますね」
街道沿いに矢印型の看板に『ようこそ! スダカ領へ!』と書かれた標識を見つけ、ウェスティリアは声をあげた。そこへルルカがウェスティリアに新たな魔王を見つける目的を訪ねていた。
「やっと港町がある領に入った……それでお嬢様、新しい魔王を探してどうするんです?」
「そう言えば伝えていませんでしたね。ルルカはこの世界のマナが少なくなりつつある事に気付いていますか?」
「えーっと……いえ、ボクには分かりませんね」
それを聞いて頷くと、ウェスティリアは言葉を続ける。
「すぐに枯渇するような事はありませんし、殆どの人は気付いていないはずなのでルルカが気付かないからといって問題はありません。ですが、確実に、段々と少なくなっているのです。私はそれに気づき、その原因と解決を突き止めたいと私は常々思っていました。しかし、他の魔王達は聞く耳を持ってくれなかったのです」
「そんな事が……ただ美味しい物を食べるたいから家を出たわけじゃなかったんですね……それで新しい魔王を見つけて協力を?」
「ルルカとは一度キチンと話をするべきかなと思いますが、とりあえず話を続けます。ええ、どういった方か分かりませんが、急に魔王として覚醒し、右も左も分からないかもしれません。そこに颯爽と私が登場し、色々助けるのです。そして私に信頼を寄せた新たな魔王と共に、他の魔王達の説得にあたるのです!」
「結構ゲスい計画……」
呆れた顔でドヤ顔のウェスティリアに聞こえないようボソリと呟いたルルカに対し、今度はリファがウェスティリアに訪ねていた。
「しかし、お嬢様。他の魔王も我が強いですよ? 聞いてくれるでしょうか」
「その時はブチボコ……力づくで行きましょう。こっちは二人、向こうは一人。有利は取れています」
「最低っすね」
もう色々諦めたルルカが投げやりに答えるが、ウェスティリアは真面目な顔で語り出した。
「例え私がどうなろうと、マナを枯渇させるわけにはいきません……なので、協力をお願いしますよ」
ニコッと笑うウェスティリアにため息を吐くルルカに苦笑するリファ。
「まあボクは自分の研究ができれば何でもいいんで、できることはしますよ。こんなことに巻き込んでくれたリファと、お嬢様のお父上からふんだくってやります!」
「え!?」
リファがルルカの言葉に驚いたが、すぐに目を細め辺りを警戒し始める。ルルカとウェスティリアも荷台から顔を出して周囲を見渡す。
「……そう言えばこの地方、領主はいい人みたいですけど、最近盗賊の類が多くなったって噂を聞いたことがありますよ」
「なるほど……<サーチ>……数は五人かな? 先にある木の影に隠れているわ」
ルルカが『サーチ』という魔法で、魔力の波動を飛ばした。目に見えない波動が生き物に触れるとそこの波が不自然に崩れるので「何かが居る』と分かるのである。動物にも同じ効果なので、人かどうかまでは判別できないが、今回は木の影にぴったりとくっついて動かないため、待ち伏せであろうと推測した。
「止めるか?」
「その前に先制するわね<ファイア・ボム>」
荷台から立ち上がったルルカが手にスイカくらいの火球を作りだし、それを勢いよく遠目の地面に投げつけると炸裂し火の粉が舞い散った。そると、木の影からバラバラとナイフやダガーを持った男達が現れた。
「チッ、バレていたのか! 女ばかりだと思っていたが魔術士の類とはな」
「お嬢様、強行突破します……!」
「いえ、止めてください。野放しにしておくと他の人達に襲いかかるでしょう? ここで倒しておきます」
「は!」
リファが馬車を止め、三人は馬車から降りて男達と対峙する。剣を抜きながらリファが叫んだ。
「恐れ多いぞ貴様等、こちらをどなたと心得るか! 光よ……」
「リファ、リファ」
口上の途中でウェスティリアに手を引っ張られ中断を余儀なくされ、残念そうに向き直る。
「お、お嬢様、今いい所だったのに……どうしましたか?」
「私が魔王だという事は伏せてください」
「盗賊相手ならいいじゃありませんか?」
「いえ、万が一逃して私が動いている事を悟られてはどんな影響があるかわかりません……そうですね、商家の娘、ということにでもしておいてください。本名もアレなのでティリアとでも」
「あ、いやお嬢様? だったら名乗らなければ……」
ルルカは嫌な予感がして二人を止めようとしたが、リファは構わず
「分かりました! おい、盗賊共! こちらの方をどなたと心得る! とても大きな商家の娘ティリア様であらせられるぞ!」
その向上にドヤ顔で胸を張るウェスティリア。
しかし盗賊達がポカーンとした表情で三人を見たあと、互いに顔を見合わせ、一番先頭にいる男が口を開いた。
「あ、ああ……絶好のカモだな……身代金とか……」
「わざわざ自分から言うとか頭おかしいんじゃないか……」
「へへ、こりゃ今日は美味い酒が飲めそうだ! かかれい!
「『え!?』」
襲いかかってきた盗賊達を見て驚くウェスティリアとリファ。そこいルルカが突っ込みを入れる。
「自分から『お金持ってます』って名乗ってどうするんですか!? 商家の娘なんて盗賊からしたらお手軽にお金が入るラッキーアイテムと同じですよ!」
「そっちの姉ちゃんは分かってるじゃないか!」
「! させるか!」
「もう、さっさと魔法で蹴散らせばよかったよ! <大地の牙>!」
「どわああああ!?」
すでに迫っていた男の攻撃をすかさずリファが受け止め、ルルカが土属性魔法『大地の牙』で地面を剣山のようにして盗賊を攻撃する。
「チッ、護衛だけあってやるな。狙いはあの娘だけでもいい、囲め!」
「あの剣術士の姉ちゃんが欲しかったが仕方ない……ちょっと貧相だが可愛がってやるよ」
ピクッ
「大人しくしてれば殺しはしねぇよ。貧相な体でも使い道はあるぜぇ」
ピクピクッ
「……誰が貧相ですか?」
「ハッ! お前に決まってるだろお子様!」
ピクピクピク!
ウェステリィアのこめかみに青筋が相当数浮かんだその時、背中から四枚の光の翼が現れた!
「分かりました、あなた達は滅ぼします」
「はえ?」
スーッと上空へ飛んで行ったウェスティリアが手にしたロッドに魔力を集約させ始め、盗賊達はまたしてもポカーンと口を開けたままそれを見ていた。
「お嬢様! パンツ、パンツが見えますよ!」
「馬鹿!? そんな事言ってるばあいじゃないわ! 避難するわよ!? あの魔力はやばい!」
リファと馬車を引っ張ってルルカが林の中へ飛び込むと、ちょうど準備が整ったところだった。
「≪光の雫≫」
一言、それを呟いた直後、ロッドから光線のように地面に向かって光が降り注いだ!
「ああ、綺麗だ……」
キュボ!
着弾と同時に地面が膨れ上がり、盗賊達がまるで人形のように宙を舞う。何度も地面に叩きつけられ、宙を舞い、それが終わるころには盗賊達はボロボロになっていた。撃ち終えたウェスティリアがするすると空から戻ってくる。
チーン
「ふう、思い知りましたか。手加減はしたので生きているでしょう? さっきの言葉を取り消しなさい!」
ビシっと指を突きつけるが、盗賊達はまるで動かなかった。草むらからルルカが出てきて盗賊達に近づくと首を振った。
「お嬢様、ダメです。全員気絶しています」
「……情けない人達でしたね。では縛って連れて行きましょう、しかるべき所で裁いてもらいましょう」
「十分裁かれた気はするな……」
ロープでぐるぐる巻きに縛り、荷台に乗せるとルルカは盗賊達に魔法を使った。
「≪お口封印≫≪重さ軽減≫と」
「それは?」
「喋られるとうるさいから口封じね。後、人数が増えて馬が走れなくなっちゃうからこいつらの体重を軽くしたわ」
「流石は賢者ですね……それにしても『お口封印』……ふふ」
「い、いいじゃないですか! 子供の頃閃いた魔法だったからそのままになってるんですよ!」
「ははは、ルルカが顔を赤くして焦るのは珍しいな。それじゃ、出発しましょうお嬢様」
リファの声でそれぞれ荷台に乗りこみ、次の町を目指した。
この五人組の盗賊、果たして本当にこれだけだったのだろうか……?
程なくして町に到着するウェスティリア達。
彼女達を襲った、三人にとって脅威でも何でもない出来事とは……!
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