第二十八話 討伐依頼を手伝ってみよう
「それでは、いつからお伺いすればいいですか?」
「学院が始まる一週間後、それでお願いします。でも良かった、カケルさんが引き受けてくださって!」
――翌日
俺はトーベンさんに頼んで再びソシアさんとの話し合いをしていた。すぐにソシアさんがユニオンに来てくれ、話をし終わったところで、入れ違いにトーベンさんが応接室に入ってくる。
「契約自体はこれで問題ないが、良かったのか?」
「気になる事もあるし、大丈夫だ。どちらかと言えば強力な魔物と戦う依頼の方が不安だよ」
「俺だったら恐れ多くて依頼を受ける気にならないがな。で、あいつらの事も?」
「ああ、グランツ達次第だけどな。その話の前にまずはジャイアントビーを倒す事からかな」
「物好きな奴だよななお前……」
「ボア丼を作らせたあんたの言う事じゃないと思うが……」
トーベンさんを軽く睨みつつ、俺達は下へ降りて訓練場へ向かうと『燃える瞳』の面子が待機していた。昨日と違いしっかり装備を身に着けての登場である。
「すまない、待たせたか?」
「いえ、大丈夫です! それより、本当に一緒に来てくれるんですか?」
「お前達が良かったらだけどな」
俺が言うと、トレーネが笑いながらぴょんと前へ出てきて俺の服を引っ張る。
「私は大歓迎。すぐ行こう」
「あたしも賛成! でもいいんですか? 報酬は山分けできますけど、他にやりたい事があるんじゃ? 今もその話をしてたんじゃないですか?」
エリンは中々鋭いな、俺がツイテ行くのは実はこいつらの為でもあるが、俺の為でもある。今はまだ言わないが。
「構わないぞ? ちなみに報酬も貰わなくていい」
「そ、それは流石に……でも、心強いので是非お願いします!」
「俺の方がレベルが低いんだ、こっちこそよろしく頼むよ」
リーダーのグランツに確認すると、依頼も人数制限がある訳ではないので問題ないらしい。という事で早速討伐へ向かう事に。久しぶりにレベルアップできたりするかな?
「気を付けてなー」
のんきなトーベンさんの見送りを背に、俺達はユニオンを後にした。
◆ ◇ ◆
カルモの町に続く門とは逆の門から外へ出て十五分程歩くと、道が二つに分かれていた。標識には『右:ポロスの村』『直進:港町エポラール方面』と書かれている。
「今日はこのポロスの村へお邪魔する事になります」
「? どうしたのカケル?」
「いや、なんでもない」
小粋なレポーターチックに言ってみたが、誰もそんな事が分かるはずもない。その後、また20分ほど歩くと、柵に囲まれた村に辿り着く。が、そこへは入らずぐるりと、外側から裏へ回るように移動をする。
「……お邪魔しなかったか」
「何です? さて、とりあえずもう少し先に進むとジャイアントビーの巣があります。前は巣の周辺に居る奴らを片づけようと躍起になっていましたが、巣からどんどん出てきて結局……」
結局囲まれそうになったところで逃げ出したそうだ。逃げる途中、後ろから何度か刺され重傷を負い、近くの村では医療施設が無いので町まで一直線に戻ったらしい。
「蜂ってのは巣で女王蜂が子を産みまくるからな、巣から出てこないようにまず巣を破壊してしまうのがいいと思う。その後周りの兵隊蜂を片づけるのがいいだろうな」
「そうね……でも近づくには結構骨ですよ? あたしの矢でも壊すのはきついし……」
「そうなのか? この世界の蜂がどんなもんか見てからだな、行ってみよう」
「……? 今?」
「どうした? 案内してくれ」
「え、ええ、こっちです」
グランツが前に出てくれ、草むらを慎重にかき分けて進むとそこには……
「でけぇ……!?」
スズメバチの何倍あるんだあれ!? 大木にべたっとくっついている巣は俺とグランツを足したくらいの高さと丸太を何本も合わせたような太さを持っていた。周りに飛んでいる蜂も子供の頭くらいの大きさはあり、あれに囲まれたらかなりの恐怖だろう。
「ありゃ確かに一筋縄じゃ行かないな」
「人を襲う事は滅多にない。けど、縄張りに入ると攻撃的になる。この辺は村の人がキノコや山菜を採りに来る場所だから困るの」
トレーネが困った顔でしゅんとなっていた。
「なあに、今日倒してしまえばいいだろ? グランツはどうするつもりだ」
「そうですね……俺が囮になって、二人が巣を叩くという感じで行きたいですね、トレーネの魔法が一番効果がありそうだし」
「だな……俺も数に入れていいぞ? 一応【小さき火花】を覚えたから遠距離もいけるし、槍もある」
槍を肩に置きながらグランツに言うと、慌てたように返してくる。
「わ、分かりました。ではトレーネと一緒に魔法で巣を狙ってください! エリンは周りの蜂を射落として」
「うん」
「よーっし! それじゃやりますか!」
「行くぞ!」
グランツがスモールシールドを構え、前へ出る。巣のある大木周りは少し広くなっており見通しがいい。それに気づいた兵隊蜂が一斉にグランツへと目を向けた。
「うおお!」
「撃つ【炎弾】!」
珍しく、気合いの入った声で炎の魔法を放つトレーネ! 小さき火花とは違い、本格的な攻撃をするための魔法だ。グランツの脇を大きな火玉が巣へと直撃した。
「浅いか!?」
少し表面が焦げて剥がれたが、それほどダメージがあるように見えなかった。
「この!」
グランツにまとわりつく蜂をエリンが頭を撃ち抜き落としていく。巣からはまだ出てこないが、この騒ぎで出てくるのは時間の問題か。
「トレーネ、俺も使わせてもらうな」
「うん!」
「【炎弾】!」
俺が最大限に魔力を使って魔法を使うと、とんでもない大きさの炎が目の前に出現した!?
「げ!? 避けろグランツ!」
「は? うえ!?」
ピギィィ!?
こっちをみて驚いたのはグランツとジャイアントビーだった。無理も無い、巣ほどではないがかなりでかい。俺はたまらず巣へ向けてそれを放り投げた。
「えい!」
「掛け声が可愛っ!?」
くそ、焦って変な声になってしまった……エリンにツッコミを入れられつつ、炎はポーンと巣へと吸い込まれるように着弾した。
ドゴォォォン!
「うわ!?」
巣に当たった瞬間大爆発を起こし、巣が吹き飛んだ。木の周辺がメラメラと燃えていた。そこから一際巨大な蜂がよろよろと飛び出し、逃げ去ろうとしているのを確認した。
ぴろろん
「グランツ! 女王蜂だ! 逃がすと黙阿弥だ、トドメを刺すぞ」
「「は、はい! エリン、トレーネ援護を!」
俺は槍を手にグランツの元へ駆けながら叫び、飛び立とうとした女王蜂の羽を槍で貫く。
ぴぃぃぃ!
バランスを崩し胸の高さまで落ちてきた所でグランツが躍り出て胴体を剣で斬り裂いた!
「可哀相だけど、村の人が迷惑しているからね! たあ!」
バシュ!
ぴぃぃぃ……
「残りを片づける【炎弾】」
「それそれー!」
「俺も一匹くらい!」
エリンとトレーネが残った兵隊を倒していくのを見て、俺も槍で倒していく。俺の炎弾で巣の蜂は全滅していたのですぐにそれも終わった。
「……終わった……こんなあっさり……」
「カケル凄い。帰ったらいいことをしてあげる」
「うへへ、お金お金♪ あ、クィーンビーの死体は素材と達成証明になるから回収してね!」
エリンは変な笑い声を上げながら兵隊蜂の羽と針の回収を始めた。何でもこれはこれでお金になるそうで、魔物を倒した時はユニオンに売るか自分で解体して素材を売るかをした方がいいそうな。
「そういやフォレストボアもいいお金になったしな」
「あ、フォレストボアの討伐があったんですか? ユニオンで売ってもいいですけど、自分で解体できれば旅の食料が無い時いいんですよねアレ」
「あー確かにそうだな。解体も覚えたい気はするなあ」
しばらくエリンの回収を手伝い、俺達は村へと足を運ぶ。
「あら、あなた達! 大丈夫だった? この前大ケガしたって聞いたけど……」
村長さんの家へ行くと、奥さんが出てきて招いてくれ、奥へ通されると初老といった感じの人の好さそうなおっさんが挨拶をしてくる。
「今から討伐かい? あいつら厄介だからなあ、死にかけたらしいし無理しなくてもいいからな? あそこに近づかなけりゃ何とかなるしな! はっはっは!」
「いえ、さっき討伐に行ってきまして倒してきました!」
グランツがそう言って女王蜂の上半身をカバンから取り出すと、村長が椅子から転げ落ちた。
「おお!? すげぇな!? 依頼が達成できなくても別のヤツに頼めばいいと思っていたが倒してくれたか!」
「うん、カケルのおかげ」
「お、そういやこの前挨拶に来た時には居なかった見ない顔だな」
「うぇっぷ……」
いかん、トラウマが……!?
「大丈夫?」
トレーネが背中をさすってくれ、何とか持ちこたえる事ができた……意外と根に残ってるもんだな……。
「まあなんにせよありがてぇ! また何かあったら頼むわ! ユニオンで報酬を受け取ってくれや」
「是非お願いします! それでは俺達はこれで」
◆ ◇ ◆
「『かんぱーい♪』」
まだ昼を少し過ぎたくらいだが、俺達はもう酒盛りを始めていた。トレーネはまだ15歳なのでジュースなのだが。
あの後早速ユニオンへと戻り、依頼達成の報酬をもらい、女王蜂や兵隊蜂の素材を売り払った。報酬の三万セラに合わせて女王蜂の素材が1万5千、兵隊蜂は丁寧に針を集めていたから全部で8千セラが今回の合計報酬となった。
「それじゃカケルさんの分ね」
エリンが果実酒のグラスを置いて俺に封筒を差し出してきた。恐らくお金だろうけど、俺は受け取りを辞退する。さて、話はここからなのだ。
「ありがとう、といいたい所だけど、それはいい。俺は討伐ってのがどんなものか見たくてついて行っただけだからな」
「回復魔法で助けてくれた上に討伐を助けてくれたのに報酬を受け取ってもらなかったら、俺達はどうお礼をしていいか分かりませんよ!? お願いですから受け取ってください」
「私を身売りしてもいい」
俺はトレーネの頭にチョップをしながらみんなの顔を見渡して深呼吸をし、三人に告げる。
「アホな事を言うな。意味分かってるのか……? 報酬は要らない、その変わり頼みがある」
「頼み、ですか?」
「ああ、俺は一週間後、とある護衛依頼をする。相手は領主の娘であるソシアさんだ」
「す、すごいですね。貴族の護衛依頼なんて滅多に冒険者に回ってくる事なんてないのに……何かあるとぐちぐち文句を言う人達ですからね」
エリンが肩を竦めながら果実酒に口をつける。なるほど、だからトーベンさんも面倒そうにしていたのか? とりあえずそれは置いて話を続ける。
「その護衛依頼に、お前達も手伝って欲しい」
「任せてください! このグランツ誠心誠意……ってえええ!? お、俺達が貴族の護衛に!?」
「ああ、断ってくれても構わないが、一応ソシアさんにはその事を言って了承を得ている。知り合いがグランツ達しかいないと言うのもあるけど、正直一人だと手に届かない所もある気がしてな。実力よりも人柄が良い方がいいと思うんだが、この数日一緒にいたけど、お前達なら問題ないだろう」
そこまで言うとトレーネが椅子から立ち上がり高らかに宣言を始めた。
「もひろんわらひはやる。兄貴とエリンもカケルに助けてもらったからてつだふ」
何か呂律が回ってない……おかしいと思いよく見てみると俺の果実酒を手にしていた。
「あ!? お前俺の酒飲んだな!」
「これはわらひの、じゅーす……うへへ」
「ちょ、飲み干したらダメよ!?」
ゴクゴクと飲み干すトレーネをエリンが止める。しかし慣れないお酒のせいか、すぐにノックダウン。テーブルに突っ伏してうへへと笑っていた。
「それで、どうだ? 報酬はかなりいいぞ」
「かなりいい……」
ゴクリと喉を鳴らすエリンに、グランツが少し考えて腕を組む。口直しに酒を飲んだ後、グランツは決断を俺に告げた。
「俺達は……」
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