第百八十話 真実の水晶
――夕食後、俺達はティリアの部屋へと集合していた。
カルモの町から始まり『光翼の魔王』を探すために旅へ出たが、なんやかんや……ホント、なんやかんやあって『真実の水晶』を使うに至らず、ここまで来た。
……正直な話、すでに世界を救うと言う目的に流されている俺にとって、今から視る『真実』が必要なのかわからない。
では何故、今この時期に真実の水晶を使うのか? それは俺をこの世界に送ったアウロラがエアモルベーゼ、もしくは偽物だった場合、この謎めいた世界について手がかりになることが無いだろうか、という考えがある。
300年前に召喚された芙蓉、世界を救った英雄が魔王に、そして準備が整ったという現在。何かしら因果があってもおかしくなさそうだが、果たして――
「それではカケルさん。私の手にある水晶に手を重ねていただけますか?」
「……こうか?」
向かい合って座るティリアの手に、角度を変えてみると色が違って見える、細長い六角形の水晶があり、俺はその上に手を重ねる。ニコッと笑うティリアと目を合わせるのがちょっと気恥ずかしい。
「はい、大丈夫です。芙蓉さんもこの水晶を使っていたんですよね?」
「うん。宝具は勇者の力がないと意味がないから私はもう使えないけどね。さて、鬼が出るか蛇が出るか」
「魔王の宝具を目の当たりにできるとは。長生きはするものじゃのう」
少し微笑みながら、しみじみ師匠が頷く。死ぬつもりだったくせに……とは、口が裂けても言えないので心の中で思っておく。
「お兄ちゃん、早く」
「あ、ああ。で、この後はどうすればいいんだ?」
アニスが目を輝かせて袖を引っ張るので、俺はティリアに向き直り尋ねる。
「後は私が魔力を込めれば、カケルさんの頭に真実が浮かびます。カケルさんが許可してくれればそれは私にも流れてきますので、見せたくないと思えば拒否していただいて構いません」
「なるほどな。意識レベルで考えればいいのか?」
俺が聞くとティリアの代わりに芙蓉が答えてくれる。
「その感覚で大丈夫よ。必ず先にカケルさんの脳裏に"囁きかけてくる”から、共有するかどうか選べばいいの」
「オッケーだ。よし……ティリア、頼む」
「……分かりました。『かの者を取り巻く真実、そのベールを今、包み隠さず知らしめよ。幸も不幸も有りのままに』」
ティリアが目を瞑り、なにやらそれっぽい文言を発すると俺の意識がぐらりと揺れた――
――そして次に意識が覚醒した時、ぼんやりと声が聞こえてきた。
『あなたの真実、見事暴い――もとい、映し出して見せましょう。さあ、どんとこいです!』
ハッと目を覚ますと辺りは白い空間に包まれていた。すぐそこが壁のようで、でもどこまでも続いていそうな、そんな部屋だった。やけにテンションの高い、女の子の声がなおも言葉を続ける。
『ヘイ、ボーイ! ボーっとしてないで、ここに来たからには何かしら真実が欲しいんでしょ? 早くどうぞプリーズ!』
「というかどこに居るんだ? それにあんたは?」
『オウ! そんなのは些細なことです。どこにでも居てどこにも居ない。それがこの私、真実の水晶。私に関することはきっと美少女ということ以外話すことはできません。それ以外ならだいたい映せます! ささ、何を知りたいのかしら?』
曖昧な……だが、俺は自分のことが知りたいので、確かにさっきの質問はどうでも良かったな。さて、どこから聞いてみるか……
「なら……まずは俺がこの世界に来た本当の理由だ。アウロラはたまたまだったようなことを言っていたが、それが本当かどうか確認したい」
『はいはい、少しお待ちを』
カチャカチャ……チーン!
数秒、なにかを操作している音が聞こえ、何かが完了した。
『あなたが死んだ理由から申し上げますと、仕組まれていますね。ダンプで轢かれたのは間違いありませんが、外的要因が絡んでいます。あ、ここですね』
ふわっと目の前にあの時の光景が浮かび上がる。ノリノリで歌を口ずさんで信号待ちをしている恥ずかしい自分が映し出される……そして青信号になったのを確認し、足を運んだ瞬間、それは起きた。
「!? 赤信号に変わった!?」
『ですねー。一瞬青信号になったので、あなたは歩道を渡ろうとしました。ですが、この時はまだ赤信号だったみたいです』
そして轟音と共に派手に吹き飛ばされる俺が血だらけになったところでブツンと映像が切れた。
『はい、それでは次のペンデュースに来た理由ですね』
「……頼む」
自分が死ぬところを見るのは中々エグイ体験だ。それもどうやら意図的に何かの力で死んだ、そういうことらしい。そして声の主は事務的に次へと進めていく。
次に映し出されたのは、横たわる俺とアウロラの姿だった。ガラケーで何かを話している様子だが……?
『音声を拾ってみましょう』
『――ええ、目標は確保したわ。苦労したけど、魂を引っ張ることが出来たわ。後はそっちに送り込むだけね』
……やはり、たまたまなどでは無かったか。アウロラは俺を知っていて送り込んだのは間違いなさそうだ。そしてさらにとんでもないことを言いだす。
『あなたの約束は守ったわ。でも、それ以上のことは自己責任。この男については覚悟しておいた方がいいと思うわ。ん? 封印? ああ、それは助かるけど、どっちでもいいわ。それじゃ、またね』
そして、アウロラが俺の体に手を触れ、何かを呟くとそのまま担ぎ上げて――目を覚ますところへ繋がった。
「……なあ、このアウロラは本当にアウロラなのか?」
『あなたのことではありませんので、その真実にはお答えできません』
「そうか、俺自身の真実にしか答えられないんだな?」
『YES! 理解が早い人は好感が持てます! この真実、光翼の勇者へ共有しますか?』
お、これが共有するか選ぶってやつか。しかし、この水晶から見てティリアは「勇者」なんだな。
「頼む、アウロラが怪しいってのは分かったからこれは共有しておくべきだろう」
『分かりました。むむむーん……! はい、OKです。では次の真実へいきますか?』
めちゃくちゃ胡散臭いな……だが、ここは流石に第三者が手を加えられない場所だろうから、真実で間違いなさそうではある。
なら次は――
「俺の中にある力、『回復の魔王』についての真実を明かしてくれるか?」
アウロラ(?)がわざわざ俺を選んでこの世界に送り込んできたんだ、この力も何かしら裏があってもおかしくない。
「……もしかしたら、芙蓉やティリアと同じ勇者系ってこともあるかもしれないけど」
『かしこまりました、では少々お待ちを……』
カチャカチャ……チーン!
例の音がして、水晶の声が響いた――
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