第百九十一話 急変
飲めや歌えの大騒ぎ!
……ティリアとルルカ、リファが旅立つときにこの港町を助けたという話を肴に、俺達は貸し切られた料理屋にて宴会を繰り広げた。
過去形なのはすでに終わったからである。
三人の活躍は一緒にいる俺からすれば当然のことなので、特に驚きは無い。ただの盗賊が魔王を倒せるとは思えないからな。
始まったかと思ったら終わってた、と大爆笑する町の人達から、あっさりと片付いた捕縛劇を飲みながら聞かされたのだった。
それより驚いたのは、この国では『魔王』が人々の間では最上らしく、国を治めている国王よりも尊ばれるようで、リファがティリアのことを『お嬢様』と呼ぶのもその一端らしい。ベアグラートのように国王であれば話は分かるが、そうでもないのに尊敬されるのはいかがなものか……
先代であるティリアの親父さんもそう思っているらしく、『今の世では何もしてないから恐縮だ』ということで、城から遠い町で暮らしているのだとか。そんな姫様視点ではない国の情報を仕入れつつ楽しんだ。
自国だからか、ティリアは自粛していた。
それはともかく、出発前にユニオンで伝言を確認すると、ブルーゲイルがフエーゴの魔王に会うことができたという伝言があった。封印の件も分かっているだろうから、ここはニド達に任せておけばいいだろう。
ただ、一つ気になったのは、グランツ達からは何も残されていなかった。まあ、もうすぐ追いつくしそれが分かっているからかもしれない。多分、リファの城がある町のユニオンに居るはずだ。
「気持ちのいい連中だったな」
「この国は他の国と違い、適度に森と水があるし、町や村もそれなりに国を挙げて開拓している。だから、国民に不満がそれほどないと父上は言っていた」
「ま、それでも野賊みたいなのは居るけどね。魔物はそれなりに居るからユニオンとかで仕事を貰えばいいのにとボクはいつも思っているよ」
リファが自慢げに語ると、ルルカがやれやれと肩を竦めて言う。
俺達はすでに一泊して港町を出発しており、ユニオンから借りた馬車をぽくぽくと歩かせている。それなりに速いが、ファライディと比べるとやはり見劣りする。御者台には爺さんとクロウ、そしてアニスが座ってくれていた。
「ヴァント王国に近い感じがするのう。あっちは山が多いから、平地が多いこの国なら町や村を興すのはかあんり楽じゃろうな」
「ええ。でも、領地が広がると色々面倒もありますけど」
師匠の言葉にリファが苦笑しながら返していた。貴族に治めさせる時に角が立たないようにするのも大変そうだ。そんな他愛もない話をしていると、ギルドラが口を開いた。
「……この国のことはいい。それよりこの先の話だ。エアモルベーゼ様の封印を解くことは私の悲願だからそれは構わない。が、その後はどうするのだ? 倒すつもりか?」
「んー、まずは会話だな。復活させたエアモルベーゼが本物かどうかを見極めないとだからな」
「本物……?」
訝しむギルドラに、芙蓉が俺の代わりに続ける。
「ええ。どうもアウロラとエアモルベーゼが入れ替わっている気がするのよね。カケルさんを送り込んだアウロラが怪しいのよ」
「ならば私は宿敵アウロラを復活させようとしていたのか!?」
「ううん。そう言う簡単なものでもないよ? 君達ヘルーガ教徒に神託を出したのはエアモルベーゼだと思うけど、もし封印されているのがアウロラ様ならわざわざ復活させる意味がわからないんだ」
「ん? んん……? ということは封印されたまま我等に神託を授けた可能性もある、ということか?」
ルルカの言葉にギルドラが首を傾げる。それも一つの謎だ。俺の見たアウロラがエアモルベーゼなら余裕だろうが、アウロラに扮しているならルルカの言うようにわざわざ封印を解かせる意味はないんだよな……
「結局、封印を解かねばどうなっているかが分からないのじゃよ。芙蓉は間違いなく封印したようじゃが――」
「アウロラがエアモルベーゼに最後の一撃を叩きこむのを見てたから、間違いないと思うわ」
「なるほど。理解した。だが、謎が解明された暁には雌雄を決さなければな! 痛い!?」
フフフと笑うギルドラの頭を俺がポカリとやり、目を細めて改めて分からせてやる。
「いや、お前はもう負けてるからな? もしかするとガリウスや他の……いや、幹部ってもうガリウスしかもう居ないのか? まあそれが、助けに来るかもしれないと考えて、この面子に勝てると思うか?」
俺達を見わたし、ギルドラがごくりと喉を鳴らす。
「……調子に乗ってすいませんでした」
「よろしい。というか、爺さんがこっちに居る時点でかなりあやふやだけどな」
するとギルドラがため息を吐きながら俺に言う。
「まあ、そうだな。ヴァント王国とエリアランドの破壊神の力もどこへ行ったのやら……」
「その内現れるじゃろう。わしが目覚めたことを知っておるじゃろうから、合流しようとするわい。その時に説得をするつもりじゃ」
爺さんが前を向いたまま、会話に加わっていた。
「……ふむ、それにどうやら――おっと、話は後じゃ、魔物じゃぞ」
何かを言いかけた爺さんが呟くと、馬車に向かって矢が放たれた。爺さんが馬車を近くの林に突っ込ませて矢から身を守るため止まると、ゴブリンや狼が襲ってきた!
「お約束だよな」
<それを言っちゃあってやつですね! 私がやりますよ>
この世界の知識を増やしたいと、ルルカから借りた本を読んでいたナルレアがいそいそと馬車を飛び降りて鼻息を鳴らす。
「いいのか?」
<はい。この体できちんと戦えるか確認しないといけませんからね。できればお馬さんを矢から守ってあげてください>
それだけ言うと、スカートを翻え、一気に走り出す。
ギャァアギャア!
女を見て興奮したゴブリンが一斉に飛びかかる。剣やダガー、斧など武器は多彩だ。そういえばこいつら自分で武器を作っているのだろうか……
<あ、危なくなったらちゃんと助けてあげてくださいですよ!?>
と、ミニレアが言うが、ナルレアをまったく心配していない俺。グラオザムをあっさりやっつけたなら、これくらいで負けることはないはずだしな。
<ほああ! ちょいやー!>
どご! ベキ! ベコン!
案の定ゴブリン達は蹂躪され、あっという間に全滅した。
<まあまあですかね。まだ、戦いに馴染んでいないので、数をこなしたいです♪>
「ふむ。クロウの特訓にもなるし、森を突っ切るかのう。良いか、皆の者」
爺さんの言葉に異を唱える者はおらず……無慈悲な戦闘マシーンが野営をする場所まで暴れまわっていたとさ……
さらに二日ほど何事もなく進むことができたんだけど、三日目の夜にそれは起きた。
「カケル、今日のご飯は?」
「吾輩、鶏肉が食べたい」
「お、チャーさんのリクエストに合ってるぞ。今日は照り焼きチキンだ」
醤油に似たセイユがあるので、それほど難しくは無い。ベアグラートのお金で食材はかなり買ったからこの人数でも一週間くらいは食べていける。
「ああ……懐かしい……照り焼きバーガー好きなのよね♪ パン無いの?」
「今日のところは米にしとけ。一人だけそう言うのはダメだ」
ちぇーと、口を尖らせて納得する芙蓉が座り、焚き火の前に全員が座り食事を始める。
「むう……昨日食べた”親子丼”も美味かったがこれも凄いな……」
「鶏肉はこの世界でも安いし、色々料理があるから飽きなくていいわよね」
「うまっ……! 僕はこれ好きだな」
「私は皮が苦手かも」
アニスがむぐむぐと皮を飲みこみきらないようなので、俺は細かく切ってから串に刺して焚き火で再度焼いて、焼き鳥にしてやった。これなら皮もパリッとするから食えるだろ。
「やっぱり……カケルさんのさんの料理は……美味しいです……」
「食うか喋るかどっちかにな? ……ん?」
ガサガサ……
「……お客さんかのう?」
師匠が素早く身構えて、魔法を使う態勢を取る。しかし爺さんが動かないところを見ると敵ではないみたいだ。すると、茂みから転がりこむように女が出てきた。
「た、旅のお方、申し訳ありません……少し、食事を分けてもらえませんでしょうか……」
「どうしたんだ? だいぶ疲れているようだけど」
女性にスープを渡しながら俺が聞くと、女性は俯いてから話し始めた。
「……つい先日、旅に出たリファル姫が亡くなられた、という話がお城に舞い込んだらしいのです。その原因は新しい魔王の手によるものだと。この国にその魔王が入り込んだということで、国王は魔王と戦争をする旨の御触れが出回ったのです。今はまだ動きはありませんが、騎士達が大勢、町を徘徊するようになって不穏な空気が……それで巻き込まれまいと町を逃げてきたのです」
「何だと!? それは本当か!」
今の話を聞いて、驚いたのは当然リファだ。女性の肩を掴んで目を見開いていた。
「あ、ああ!? あなたはまさか……リファル姫!? し、死んだのでは!?」
「それは出まかせだ! 私はこのとおりピンピンしているぞ!」
「そ、それではあの噂は……? 新しい魔王様とは一体……」
女性が困惑して呟いていると、そこで俺の頭にぴんと来るものがあった。どうやら他のみんなも同じらしい。
「……俺を狙う刺客、か?」
間違いないだろうな。
一対一で戦うと思ってはいなかったが、まさか国を使おうとするとは。正直、ここはリファの国だから楽に行けると思ったが、そう簡単にはいかないらしいな……
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