第百九十話 新大陸到着と移動手段


 「よっと……結構入港に手続きがかかるんだな? 獣人の国は別に船着き場があったから気にならなかったけど」


 「うん。定期船なら別にそこまでじゃないけどね。個人の船だと、海賊みたいな人達が乗っている可能性もあるから厳しいのよ」


 「そもそも、貴族でも個人船を持っているものは多くないがな。危険なやつを入れないという意味合いもあるが、他にも不正な奴隷を守るためもあるわい。ほれ、きりきり歩かんかい」


 「ぐ……空の次は船……わ、私をどうするつもりだ……」


 「このまま同行してもらうぞ。ガリウスとかが出てきたら牽制になるかもしれないし」


 「……」


 ――と、芙蓉と師匠が俺の質問に答えてくれ、ロープでぐるぐる巻きにされたギルドラがぼやく。


 さて、突然の始まりだったがここは港町フルス。


 長い船旅が終わり、ようやく地に足をつけることができた。ただ、冒頭で言ったように検閲が中々終わらず、結局待ちぼうけを食っていて、ようやく町の中へと入ることができたところである。

 

 もろもろの手続きが終わり、ロウベ爺さんがみんなを呼びに行ってくれたので、俺達はティリア達が出てくるのを待っているのだ。



 「おじちゃん、おばちゃん、またね」


 「おお……アニスと離れるのは寂しいが、そうも言っていられないからな。気を付けてな」


 「帰ってきたら美味しいご飯を作ってあげるよ」


 「うん」


 アニスは船旅中、ツィンケル達夫妻にとてもかわいがられていた。クロウと違ってすぐ懐くので、その辺りはお察しである。もっとも二人に中々子供ができない、というのもあるらしい。


 「わしが着いておるから問題ないわい。チャーもおるしの」


 「うむ、吾輩も命を賭して守ろう」


 「頼んだよ爺さん、チャー公!」


 フェアレイターの爺さんとチャーさんが下船し、今度はティリア達が降りてくる。ナルレアも師匠の服を奪……借りうけスミレ色のワンピースを着ている。見た目だけならゴーレムには全く見えない。


 ちなみにナルレアが食事をすることができるのは、有機生命体だからではなく体内に食べたものを魔力変換することができるなにかがあるらしい。ドラ〇えもんのお腹に近い感じと言えば伝わるだろうか……そのおかげで人間っぽくなったが、排泄物はでないのでトイレの必要がない。


 「はぁーい! ナルレアさんですよ」


 見た目は完全に美人なので、注目を集めていることに気付いたナルレアは、笑顔で手を振る。すると、男達が歓声をあげていた。その後ろからティリアが歩いてくるのが見えた。


 「久しぶりに帰ってきましたね。もっと長旅になると思っていましたから、良かったです」


 「思えば、ボク達も無茶ぶりに付き合わされていたよね……陸路だったらカケルさんと会うどころじゃなかったし……」


 「ま、まあまあ、結果良しということで、な?」


 「まあ、カケルさんと合流してからはだいぶ気が楽になったけどね」


 満足顔のティリアに疲れた顔をしているルルカをリファが慰める。ま、お嬢様とお姫様相手じゃ疲れもするか。苦笑しながらそんなことを考えていると、最後に降りてきたクロウに声をかけられた。

 

 「これで全員かな? ……なんだかローブがきつくて着るのが大変だったよ」


 「遅くなったのはそのせいか? ま、修行しているし、成長期だからなお前は。すぐに筋肉がムキムキに……」


 「いやだあぁあぁ!? それ以上言うなよカケル!」


 「お、おう……」


 頭を抱えて叫びだすクロウにちょっと怯んだ俺は、そっとしておいてやることにした。これもある意味年頃だからだろう。


 「降りたのはいいですけど、このまま港町を出ても馬車がありませんからここで借りないといけませんね。徒歩だとさらに二週間はかかるので……町まで野営をすることになると思います」


 「馬車は……そうか、エリアランドに置き去りにしてきたもんな。ファライディは?」


 ティリアの話だと、馬車でも一週間はかかる道程だそうだ。ではドラゴンなら、と提案するとリファが微妙な顔をして口を開く。


 「事情を説明していなから、他国のドラゴンが飛ぶのはあまり好ましくないかな。ウチにもドラゴンライダーと呼ばれる騎士が数人居るから攻撃をされかねないぞ?」


 「むう、しかし急ぎたいのは事実……」


 「とりあえず乗って行ったらどうじゃ? 攻撃されたらリファに説得してもらえば良かろう」


 師匠が手を上げて『やってみたらいいじゃん』みたいな軽いノリで言うと、ギルドラがへたりこんで抗議の声を上げ始めた。


 「ド、ドラゴンだと!? また私を吊るすつもりか!?」


 「え? まあ、背中には乗れないし……」


 「ねえ?」


 俺と芙蓉が目を合わせて呟くと、ギルドラがゴロゴロと転がる。


 「い、いやだ!? もうあんなのはごめんだ! そ、それなら私はここを動かんぞ!」


 「そうか……残念だ……ならここでお別れだな」


 俺は近くに立っていた鉄柱にギルドラを括り付け、みんなと一緒に歩き出す。


 「ギルドラおじちゃん、さようなら」


 「え? ちょ……ロープは!? ロープは解いてくれないのか!?」


 アニスがバイバイと手を振り踵を返すと、気付いたようでジタバタとし始めた。


 「一応、罪人だから流石に自由にするわけにはねえ? 夜は結構寒いらしいから暖かくして寝るのよ? 明日のは警護団の人が迎えにくると思うから」


 芙蓉がそれだけ言って肩を叩き、スタスタと歩く。それを見届けた俺はパンパンと手を叩いてみんなに言う。


 「よし、それじゃファライディに乗って行こう。あいつならすぐ――」


 「待ってくれぇぇぇ! 私が悪かった! 拘束されていてもいいから連れて行ってくれ! でも馬車がいいですぅぅぅぅ!」


 「ギブ早かったな」


 「そろそろ人の目が気になるんでやめませんか……? では、馬車を手配しにユニオンまで行きましょう」


 ティリアが言うとおり、ひそひそされていたので、早いところ移動しよう。鉄柱からロープを外しながらギルドラに囁く。


 「馬車代はお前持ちな」


 「鬼か貴様!?」




 ◆ ◇ ◆



 <アドベンチャラーズユニオン 港町フルス支店>



 「いらっしゃいませ、ユニオンへようこそ! 本日のご用件は?」


 「すまない、仲間と別れたいんだ」


 「え!?」


 「お、おい、カケル! 私達に飽きたのか!」


 俺の冗談を真に受けて訳の分からないことを言うリファにおしおきをしつつ、受付の……珍しく男性だな。そいつに用件を言う。


 「この人数が乗れる馬車を借りたいんだが、あるかな?」


 「そういうことでしたら……ああ、申し訳ありません。レンタル馬車は全て今で払っていますね。一番早いやつで明日のお昼には戻ってきますけど、ご予約されますか?」


 なるほど、油断していた……いつでも借りられると思い込んでいたが、そりゃ他にも借りる人はいるよなあ。しかし、昼ならまあいいか。


 「頼む」


 「かしこまりました、ではカードをお願いします」


 受付のイケメンにカードを渡し、一瞬魔法板が光った。


 「では明日、お昼くらいに取りに来てください。日程とお金などはその時で大丈夫です」


 「ありがとう。なら、一泊するか」


 「ま、仕方ないわね。こうなったらゆっくりしましょう」


 俺がやれやれと呟くと、芙蓉が微笑みながらそんなことを言う。すると、ティリアとルルカに近づいてくる人影があった。


 「あ、あの、もしかして『光翼の魔王』様ではありませんか?」


 「え? あ、はい、そうですけどあなたは?」


 ティリアが答えると、男性はパッと顔を明るくして、喋り出す。


 「やっぱり! いやあ、覚えていないと思いますから言いますけど、盗賊から町を守ってもらった時の警護団の一人です! 戻られていたんですね!」


 「ああ、隊長さんと一緒にいた!」


 「(誰だっけ?)」


 「(覚えていない)」


 ティリアとは対照的に、薄情な二人がひそひそと話していると、警護団の男は話を続ける。


 「今日はこちらにお泊りになられるのですか? でしたら、食事をご用意させてください! あの時はすぐに旅立たれたので満足にお礼ができなかったと思ってたんです」


 「お、良かったな。なら俺達は別に食事を取るから行って来いよ」


 俺が気を利かせていると、男は首を振って叫んだ。


 「いえ! 魔王様ご一行にそんな真似はさせられません! では、準備ができたら宿へ行きますので待っててください! お腹をすかせておいてくださいよー!」


 慌ただしく出て行くのを、呆然と見送る俺達。しばらくして、師匠が口を開いた。


 「ま、タダで食わせてくれるのはありがたいからありがたく受け取ろう。ティリア達のおかげじゃな」


 「えへへ!」



 その時の話を聞きたいとかそんな話になり盛り上がる中―― 



 「まだ、ご飯はお預け……?」


 大人しかったナルレアの顔が絶望に染まっていた。腹が減ってたから大人しかったのか……


 「お前、腹ペコキャラはティリアと被るからやめとけよ」


 「あ……そうですね……申し訳ありませんティリア様……」


 「わ、私は腹ペコじゃありませんよ!? 美味しいものが好きなだけです」


 ティリアの叫びがユニオン内に響き渡った。そういやグランツから何か伝言残ってないかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る