第百八十九話 わがままボディのナルレアさん


 「あれ、お前達も今からか?」


 「む、目が覚めたか。うむ、少し休憩をしておった。あまり鍛えすぎるのも良くないからの」


 芙蓉と食堂へ向かっていると、クロウと爺さんが娯楽室から出てくるところだった。クロウは目が死んでいて言葉を発さないし、ちょっと涎がでている。


 すると、芙蓉が抱っこしていたチャーさんがクロウの頭に乗り、尻尾でぺしぺしと叩いた。仲悪そうに見えるんだけど、結構いい関係なんだよな。



 「大丈夫か、クロウ少年」


 「ハッ!? チャーさん!? あれ、僕は娯楽室で師匠のマッサージを受けていたはず……」


 すでに師匠呼びになっているのか。俺がそんなことを考えていると、爺さんはクロウの頭をぽんぽんと叩きながら言う。


 「気持ち良すぎて気絶したのじゃ。どうだ、身体は?」


 「う、うん……あ、全然違う! 肩が楽になったよ!」


 「これでしっかり食べて寝れば超回復して筋肉が増える。体力作りも楽になるぞ」


 「凄い! ……って筋肉!? う、うーん……今日はあまり食べるの控えようかな……」


 「なぜじゃ!?」


 あーだこーだと言う二人を後ろから見ながら、芙蓉と二人で苦笑しながら食堂へ再び歩き出す。遠い道でも無し、すぐに食堂へと辿り着いた。


 「待たせたか」


 「あ! カケルさん! 大丈夫?」


 「芙蓉殿から聞いたと思うが、厄介なことがあったよ」


 「こけた時、派手な音がしたのじゃが、頭は平気かのう?」


 「師匠、その言い方は止めてくれ」


 「ん?」


 「いや、いい……で、ナルレアはどこだ?」


 さりげなく手を繋ごうとするルルカを牽制しつつ聞くと、口を尖らせてルルカは指差した。その先に、青い髪をした俺と同じか、少し上くらいの女性が……肉を頬張っていた。


 <カケルふぁまー!! わらひでふ! なるれふぁですふよー!!>


 「ええー……」


 顔立ちは美人。だが、口をパンパン膨らませて言うその姿はかなり醜い。隣に座っているティリアもリスみたいになっていてかなり不細工だ。


 「色々ツッコミどころが多すぎるが、とりあえず晩飯は待っててくれても良かったろうに!」


 「あ、そこなんだ」


 ルルカが困った顔で笑いながら、席へ案内してくれた。すぐにコックのツィンケルから飲み物を渡され、シャルムさんが料理を運んできてくれる。


 「あ、サンキュー」


 「いいってことよ! 無事に戻って来たしな。あの二人は我慢できないからと食わせたが、これからが本番だ。盛大に行くぞ」


 「ふむ、良い酒は体にもいいわい」


 「僕はこりごりだよ……アニスと僕はジュースで」


 「チャーさんおかえり」


 「うむ。吾輩はミルクを頼む」


 爺さんは割と常識があるので、クロウ達を任せ、俺は早速ナルレアに色々と聞くことにした。


 「で、何でまた俺から離れたりしたんだ?」


 するとナルレアは口を拭いてから俺の目を見て喋り出す。髪だけじゃなく、目も青いのか。


 <もちろん、カケル様をお守りするためです。戦力は多い方がいいでしょう? 今のところ、この中では恐らく私が一番強いと自負しております>


 「それはティリアに聞いているから分かるけどな。体を用意してまでするこっちゃないだろう」


 俺が頬杖をついて骨付き肉をかじると、ナルレアはそのまま悪びれた様子も無く答えた。


 「まあ、食事をしてみたかった、というのが8割くらいありますけどね! 期待通りの美味しさです!」


 「アホかお前は! まあいい……いや、良くないけど、こうなってしまったのは仕方がない……俺が気絶しなければこんなことには……んで、最初は小さかったらしいじゃないか? それがなんでナイスバディのお姉さんチックになってんだ?」


 <……それは>


 ナルレアがもったいぶって目を瞑る。おうむ返しにルルカが聞いた。


 「それは?」


 <カケル様のスキルを拝借しました♪>


 「何!? ど、どういうことだ!? 成長させるスキルなんてあったか……?」


 ステータスを開いてみるが、特に今までと変わりが無い。しかし、ナルレアはとんでもない策でこれをこなしたらしい――



 <まず、肉体に入るため、『同調』を使ってこのゴーレムの体へと入り込みました。幼女は私の”びじゅある”的に受け入れがたいと思い、『魔王の慈悲』で”カケル様の”『寿命』を使って成長させました♪ おっぱい大きいのが好きですよね?>


 「何だと!? あ! 寿命が15年減ってる!?」


 寿命:99,999,604年


<大丈夫です! その分働きは一級品! もう少し改造すれば夜のお供もきっと可能に!>


 ベチン!


 <痛いです……カケル様……>


 「やかましいわ!? 勝手に外に出るわ、人の寿命を使うわ、自由か!? ……その体が朽ちたらどうなるんだ? 死ぬのか?」


 <いえ、カケル様の中へまた戻りますよ?>


 「無敵か!? 何かミニレアとかいうのが喋りかけてきたけど、これも?」


 <それは私のサブ端末みたいなものですね。最悪そっちで復元できるように、バックアップとしての役割を持たせています。もちろん、今まで通り戦闘補助もできますからご安心を!>


 「へえー、ナルレアさんは優秀なんだねぇ。……夜のお供は聞き捨てならないけど」


 「まったくじゃ。お主はいわば新参者。わしらを通してもらわねばな」


 「向こうに着くまではダメだからな?」


 <フフフ……それは楽しみですね……>


 どこをどう安心すればいいと言うのか……ルルカと師匠にリファが睨みあうなか、俺はすでに疲れていた。しかし、スキルの一部がスキルを使うというのはどういうことなのだろう。ナルレアが特別なのか、アウロラがなにか仕込んでいるのか……俺のスキルを使用できる点で俺の一部だろうから心配はないと思うけど。


 結局、いつものように夕飯はめちゃめちゃ盛り上がり、そしてお察しの通り惨劇を起こした。モザイクレベルなので、今回は割愛させていただく。


 まあ、楽しいことはいいことだと、俺もはっちゃけて酒を飲んだ。今回は何事も無く、船内で適当に過ごしたり、怠けるからとファライディのお願いで空の散歩をしたりと穏やかに過ごすことが出来た。


 爺さんとクロウとの修行に混ざることもやったし、アニスが師匠に魔法を教わるのを眺めているのも面白かった。


 そして船で約二週間ほど過ごし、俺達はティリア達の故郷、”エスペランサ”へと到着した――

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