第二百十五話 その差は


 ゴウ!


 目の前が白くなった瞬間、部屋の一部どころか半分以上が蒸発し、すっきりした大穴が開いた。俺の全力、ちょっと威力が上がったような……


 <出力100%で放ちました。MPの消費も分母が大きいので大したことはありません>


 ナルレアが頭の中でオペレータをし納得する。直後、煙の中から刀が俺に向かって伸びてくる! やっぱり避けていたな!


 ビュン! フォン!


 「少々驚いたが、避けられんほどではないぞ」


 「ま、俺も簡単に倒せるとは思ってないさ。だけどな!」


 ヒュ! ガッ! ドッ!


 「がは!? そんな……!? 正気で私の動きについてこられるはずは……!?」


 刀を避け、鳩尾と左頬に一発ずつお見舞いしてやると距離を取るためバックステップをする。


 「カケル、荷物だ!」


 クロウが俺に見慣れたリュックを投げてくる。月島が警戒する間にカバンから槍を取り出し構えた。そこで久しぶりの声を聞く。


 「カケルさん! グランツも助けて!」


 「あれ!? エリン!? それにグランツ!? どうしてお前達までいるんだ? ま、いいか。『還元の光』」


 スパッとグランツを治療すると、さらに近くで見知らぬ顔を発見する。


 「お、誰だ?」


 「え!? お、覚えていないんですか!?」


 すごく村娘っぽい子が驚いた様に俺に詰め寄ってくるが、さっぱり覚えてない。


 「あ、うん……ごめん……」


 「そんな!?」


 パン!


 その瞬間、女の子と俺の間で風船が割れたような音がした。


 <カケル様、どうやら『魔王のフェロモン』の効果が消えたようです。この娘は暴走状態にあったカケル様が助け、倒れたところで解放してくれたのですよ>


 ナルレアが事情を話してくれるが、やっぱり覚えていない。何か盗賊っぽいのと戦っていたような気はするけど……


 「そっちの男もダメージがあるか」


 とりあえず怪我人を治すのが先かと、女の子の足元で倒れている黒ローブの男を治療する。こいつ、ヘルーガ教徒じゃないか?


 <そちらの男性は芙蓉様達をここまで案内してきてくれたのです。ヘルーガ教徒ですが、月島影人のは気にいらないといったところですね。そして彼女、リンデさんを庇って傷ついたのです>


 へえ、中々男気があるじゃないか。それとナルレア、ナビゲーターとして久しぶりに大活躍だな。


 <フフフ、カケル様が復帰したんですもの、当たり前です!>


 そんなことを話していると、グランツが目を覚ました。


 「良かった……流石カケルさんね」


 「ん……カ、カケルさん!? 無事ですか!?」


 「そりゃ俺のセリフだけどな? こんなところまで、ありがとなグランツ」


 「ああ、カケルさんだ……間違いなく……良かった……後はトレーネ達を……」


 「そういやトレーネがいない……?」


 するとエリンがグランツに代わって俺に言う。


 「駆けつけた時にその月島ってやつに剣で貫かれて……瀕死なの……」


 「……なるほどな」


 俺が前へ出ると、ティリアが横に並んで声をかけてくれた。


 「本当に良かったですカケルさん。トレーネさんとルルカ達はカケルさんが暴走して、すぐに水氷の魔王が氷漬けにしたのでまだ生きています。後は『還元の光』があれば、きっと助けられますよ」


 ニコッと笑いかけてきたその顔は涙が浮かんでいた。ダメだな、心配させたうえに無理をさせすぎたか……


 「……カケルよ。お前は誰も助けられん。芙蓉以外はここで皆殺しだ! 同じ異世界人同士ならレベルが高い方が勝つ!」


 「……そうだな」


 「どうしたんだカケル!? 諦めたのか!? ≪漆黒の刃≫!」


 月島の言葉を肯定する俺にお退きながら、クロウは月島へ魔法を放つ。


 「この"獄潰”で斬れないものはないぞ、魔法とてな!」


 漆黒の刃を真っ二つにしながら向かってくる月島。俺は迎撃する為、『力』と『速』を上げた。


 「寿命が多いなら、その分苦しみも増すというものだ! 死ね! 死ねぇ!」


 「……」


 カンカンカン! ガキン!


 「速い!? どうしてだ……! どうして私の刀はお前に届かないのだ」


 ビュオ!


 ブシュ!


 「ぐぬ!?」

 

 斬撃をすべて受けきった後、反撃に転じる俺。撃ち抜いた槍が脇腹をかすめて血が噴きだす。手を休めず、月島へ攻撃をし続けながら先ほどの質問に答えてやることにした。


 「自分で言ったじゃないか。異世界人同士ならレベルが高い方が勝つってな。忘れたか? 俺は『魔王』なんだぞ?」


 「それがどうしたというのだ」


 ザシュ! 


 逃げてばかりでは俺にダメージを与えられないと思ったか、前へ出てきた月島。躱したつもりだったけど、腕を斬り裂かれていた。なんだかんだでこいつも強いな。


 だけど――


 「どうもティリア達みたいに、情報操作されての魔王じゃなくて、『真の魔王』として覚醒したせいか、ちょっと面白いことになっててな」


 「知ったことか」


 カキン!


 鍔迫り合い状態になり、俺は不敵な笑みを、月島は憮然とした表情をして顔を突き合わせる。そこで俺は現状を教えてやることにした。


 「俺はな――」



 【ジュミョウ=カケル】


 レベル:777


 ジョブ:魔王


 HP:38000000


 MP:データ不明


 力:だいたい4万くらい


 速:おおむね4万くらい


 知:多分3万くらい


 体:実は4万くらい


 魔:どうやら6万くらい


 運:おそらく3万くらい


 

 【スキル】


 真の回復魔王

  L還元の光(統合され一つに)


 魔法:炎弾 風刃 氷の楔 地獄の劫火


 剣技:斬岩剣


 能力値上昇率アップ 全魔法適正 全武器適性 ステータスパラメータ移動 


 全世界の言語習得:読み書き 同調 



 【特殊】


 寿命:99,997,989年


 魔王の慈悲:相手に自らの寿命を与えて回復させることができる。


 生命の終焉『ナルレア』:触れた相手の寿命を吸い取る事ができる。使用者のものさしで絶命させることが可能。ナルレアが生命の終焉を吸収しランクアップ。+????


 追憶の味:自身が飲み食いした料理について限りなく再現可能になり、食材を見極めることもできる。


 運命の天秤:死ぬ運命にあった人間を助けようとすると、自身の寿命が減る代わりに死の運命を傾ける事が出来る。生きる意志を放棄した者には効果が無い。


 魔王カケル:????



 「って感じだ。よくわからんスキルもあるけど、ステータスなら多分負けてないだろ?」


 「HPがそんなバカな数値……それに他の能力も4万などふざけた嘘をつく……」


 「手加減してるからな、それじゃ……本気で行くぞ!」


 「ぐぶ……!? み、みえな……私の『速』は1万5千だぞ!? そんなばかなことがぁぁ! ぐあ!? ぎゃあああ!?」


 本気で力を込めた俺はきっと誰の目にも見えていないであろうほど速く、一撃は重く鋭かった。月島も目で追い、必死で刀を振るうが止まって見えるので、手で弾いてから腹に槍を突き刺す。

 もちろん、微塵も許すつもりは……ない。


 「だ、だが、私は不老不死だ。いくら攻撃されても死ぬことはない」


 「それならそれでいいけどな。どこまで耐えられるか見せてくれよ」

 

 ドッ! ゾブシュ! ザシュ!


 「ああ!? ああああ!? くそ! くそぉ! こんなはずじゃ……! エアモルベーゼ! 私を助けろ! 芙蓉! 芙蓉! 助けてくれ! 痛い……死なないけど痛い……!」


 いよいよ取り乱し始めた月島。槍で突き刺し、俺がやられたように壁へ貼り付けると、ぼそぼそと何かを呟いていた。


 「私が芙蓉を守るんだ……父さんと母さんが事故で死んだあの日に誓ったんだ……私はその為だけに生きてきた……金が要る……金が……」


 「……」


 何か思い当たる節があるのか、芙蓉は目を見開いて月島を見ていた。俺が芙蓉を見ると、首を振りながら口を開き、月島へ言う。


 「その気持ちに嘘は無いと思う。小さいころは本当に大切にしてくれて嬉しかったわ……でも……でもね……他人を不幸にしてまでしてそんなことを欲しくなかった……お金が無くてもお腹がすいても、二人で頑張って暮らせればそれで良かったのに」


 「他のヤツなど……みんな、居なくなればいい……脅かすものは……全て……そうだ、それがいい! それがいいぞ! 私も芙蓉も死なないのだ! 芙蓉を連れて逃げればいいじゃないか! カケル以外の人間には負けない! 行く先々で殺してまわってやる!」


 「何を馬鹿な――」

 

 クロウが口を開こうとした瞬間、すでに月島は壁から姿を消していた。狙いは、芙蓉か! 俺はすかさず芙蓉のカバーに入るが、月島はニヤリと笑い、俺の視界から姿を消した。


 「だと思っただろう?」


 「何!?」


 「きゃああ!?」


 「くそ、こんどばかりは死ぬか……? リンデとか言ったな、俺の後ろに!」


 しまった!? 狙いはリンデとヘルーガ教徒か!? 全力でギリギリ間に合うか!?


 「はははははは! 首を刎ねて蘇生できるかな? 見ものだ!」


 「届け!」


 槍を伸ばす。が、一歩及ばない!? 万事休す、そう思った矢先のことだった!



 「~!! (怒)」


 ガツン!


 「な!?」


 「ハニワ!?」


 俺と月島が驚愕する。どこから現れたのか分からないが、ボロボロのハニワが刀を持つ手に体当たりし、月島が取り落とす。床に落ちたハニワが頭部に穴を開けて倒れた。


 さらに!


 「ふぎゃぁぁぁぁ!!」


 「うおおおお!? 猫だと!? 生きていたのか!?」


 「チャーさんか!」


 なんとチャーさんが白い毛を真っ赤に染めて月島の首へ噛みついていた! 


 「この一瞬を狙っていたのだ! 吾輩達を認識していないこの瞬間を!」


 ブシュ


 「ぐあ……!」


 頸動脈から血を拭きだしながら、片膝をつく。


 「カケル! とどめを!」


 「よし、行くぞ!」


 槍で足を切断すれば流石に動けなくなるだろうと思い、槍を握りしめるが、ナルレアに声をかけられた。


 <カケル様、お任せください!>


 そう言った瞬間、俺の背中から黒い何かが出てきた――

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