第百二十四話 レヴナントさんの戦い
<ラウの村>
「ガア」
「グエ……」
「ガア」
「やれやれ、アヒルのお守りとは私も丸くなったもの……ん?」
宿の一室でレヴナントは椅子に背を預けてテーブルの上で鳴くアヒルたちを見ていたが、ふと、外に殺気を感じて窓へと寄る。
「……何だこの気配? ……! 火の匂い! 君達、ここを動くんじゃないぞ!」
「ガア!」
バサっ! と、どこからか取り出したマントを翻すといつもの仮面姿となり、そのまま宿を出て走り出した。闇夜の中、周囲を見渡すと焦げ臭い匂いと赤い光が見えた。
「あっちか!」
村の入り口に近い動物小屋へと一直線に向かうレヴナント。狭い村なので、すぐに現場へと到着すると、小屋の周りに黒いローブを纏った人影がいくつか確認できた。
「ガイサックのやつは? ギルベイダー」
「どうやら来ていないようだよ、グスタフ。まあ、あいつはいてもいなくても問題ない。我々で終わらせればよい」
「村を焼き払うなんてしょぼい仕事、さっさと終わらせようぜ。俺はもっと大きな破壊を楽しみたいんだ」
「焦るな、ゲーター。ガイサックの研究成果がこれだ、明日から忙しくなるぞ」
「ガアガア!!!」
「人間を動物にねぇ……まあ、血が見れればそれでいいけどな俺は」
数は三人。いずれも顔は見えず、武器を持っているかも分からない。が、油と松明を使って広げているようで、動物小屋が段々と燃え始める。
「(様子見して奇襲する? いや、その前に火を撒き散らされると厄介か、仕方ない)」
幸いメリーヌや冒険者が変化させられたであろうアヒルは宿へ移送しているが、無意味に殺させる意味も理由もないと、レヴナントは彼らに、できるだけ意識を向かせるよう大声で叫んだ。
「おい、君達は何者だ! そこで何をしている!」
「なに! この時間で起きている村人がいるとは!?」
黒いローブの人影は心底驚いた声をあげて、レヴナントの声が聞こえてきた方へと向いた。
「質問に答えてないね。一つ質問を増やそうか。君達は何者で、何をしようとしている?」
「声からすると女か。その問いは無意味だ」
黒ローブが平静を取り戻し、レヴナントへ答える。
「何故だい?」
そして、横にいた人影が揺らりとしながら言い放った。
「そりゃこの村ごとお前も死ぬからだよ! <赤い軌跡>!」
「!」
ボボボボ……! 炎の矢がレヴナントに向かって放たれる! 数は五本、それなりのスピードで襲いかかってきた!
「なら、無力化して聞かせてもらうとしよう!」
「む! 速い。 <砂塵の壁> グスタフは油を撒いて焼き払う作業を続けろ、こいつは私とゲーターでやる」
「ああ、任せた」
レヴナントが炎の矢をあっさり回避したのを見て強敵と判断したのか、砂を巻き上げて視界を封じてくる。ならばと、レヴナントが回り込もうとしたが、それは最初に炎の矢を撃ってきた黒ローブが先読みをして立ちはだかった。
「そうくるよな! そら!」
ピシュ! レヴナントの頬を何かが走り、ツゥ……と、血が流れた。
「珍しい武器を使うね!」
「はっはー! 鞭はいいぜ、肉を引き裂く感触が良く分かる! それそれ!」
「当たらなければ問題は無いよね、そして……!」
ヒュ!
「ぐ……やりおる!」
レヴナントが鞭を避けながら、持っていたダガーを真後ろに投げると、砂の壁を作った黒ローブの肩に刺さった。
「やるな、だがまだだ!」
ゲーターが鞭を振るい、レヴナントへと迫る。だが、レヴナントは華麗に回避しながらローブ達に言う。
「気配がバレバレだからね。よっ、ほっ……殺気を隠せない所をみると素人だね」
「チッ、それがどうしたあ!」
ぐるん
鞭がレヴナントの腕に絡みついた!
「このまま引けばお前の腕はズタズタだ……! その顔も拝ませてもらうぜぇ! 苦痛にゆがんだ顔をな」
黒ローブの男が歓喜の声をあげた瞬間、レヴナントが首元にあるアクセサリーを見て呟いた。
「……その首飾り……君達はヘルーガ教か!」
「……それがどうした」
「そのまま抑えていろゲーター。正体を知られたことはどうでもいいが、証拠はきっちり消さねばな」
「馬鹿言え! 腕はもらうぜぇ!」
ギルベイダーと呼ばれていた男が剣を構えて襲いかかり、ゲーターと呼ばれた男は鞭を引く力を込める。すると、レヴナントはため息をついて言い放った。
「村の放火といい、暗殺といい相変わらず下種な連中だ。悪いけど私はカケル君のように甘くは無い。尋問する相手は一人でいい、他は……死ね」
「その状態で何が出来る!」
「貰ったぁ!」
「『斬光閃・桜華』」
ボソリとレヴナントが呟いた瞬間、右手に持っていたダガーが光り輝き、刀身が伸びる! 鞭が引かれる前に、自分から前に出て、ゲーターの首を刎ねた!
「は? え……?」
ボトリ
「ゲーター!? おのれ……!」
「遅い」
ギルベイダーが激昂して剣を振りかぶる。だが、レヴナントの動きは素人の手に負えるものでは無かった。首を落とした後、すぐに身を捻って横薙ぎにダガーを振るった。
「ぐ……が……!? エアモルベーゼ様……! 世界に混沌を……!」
上半身と下半身が真っ二つにされ、叫びながら地面へ崩れ落ちた。直後、砂の目くらましが消え、グスタフと呼ばれていた男だけが残っていた。
「ギルベイダー! ゲーター!? ……こいつ、何者だ! ええい!」
ぼっ!!
「いけない!」
「うはははは! 燃えろ! そうら!」
グスタフが油を投げ捨て、その上に松明を投げると一気に燃え広がった。地面にはわずかに草が生えているので、広がるのが早かった!
「ガア! ガア!」
「コケー!?」
「メェェェェ……」
「あばよ! ガイサックと合流すれば計画は続行できる!」
「待て! くっ、火が……!」
小屋にも燃え移り、中にいた動物達が目を覚ましてけたたましく鳴きはじめる。男は自分とレヴナントの間にも火を放ち、追跡を困難にしたうえで逃げ去った。
そして、騒ぎを聞きつけた村人が家から次々と出てきた。
「な!? 火事だと!? これをやったのはお前か!?」
「違う、そこの死体になった連中だ! 私が火を消すから、消えたら君達は動物達を小屋から出してあげてくれ」
追いかけたいところだが、このまま小屋が燃え続けるとすぐに他の家屋にも燃え移るだろうとレヴナントは追跡を諦めた。
「で、でも、どうやって……!?」
「こうやってさ! <激流>!」
村人がレヴナントに尋ねると、レヴナントは手を空に掲げた。
すると小屋の上に魔方陣が現れて大量の水が滝のように落ち、みるみるうちに小屋の火が消えて行った。
「す、すごい……」
「感想はいいから早く動物達を」
「あ、はい!」
レヴナントに言われて、村人たちが慌てて小屋の鍵を開けて、動物達を連れ出した。何とか焼き鳥やジンギスカンにはならなかったようで、弱々しかったものの動物達が地面へと横たわっていた。
「ガア……」
「メェェェ……」
「コケー……」
「よしよし、良かったね」
レヴナントが羊の首をなでながら微笑み、ひとしきりもふもふした後、残り火を消火していき、やがて完全に消火できた。
「あ、ありがとうございました……しかし、この人達は一体……? あ!」
村長のマルタが死体を見ながら呟くが、レヴナントはそれに答えず出口へと向かった。
「(間に合うとは思えないけど、やらないよりはいいよね)」
出口に到着すると、村の入り口近くでぼんやり光が灯っていた。
「あれは……?」
目を細めて走る速度をあげると人影が見えた。どうも、言い争いをしている声が聞こえてきていた。徐々に近づいていくと、見知った顔であると分かった時、向こうもレヴナントに気付き、話しかけてきた。
「お、レヴナントか! 今こいつが村から出て来たんだが、この騒ぎはこいつらか?」
「あ、ああ。……いいタイミングだよカケル君。村に火を放とうとしていたんだ」
「やっぱりか。俺も黒幕らしきヤツを捕まえて、仲間が村を焼き払うって聞いたからんで慌てて帰って来たんだ。でも、この様子だと終わったみたいだな」
「その通りだよ、この大盗賊レヴナントにかかれば大したことないからね」
「無い胸を反らされてもな……」
苦笑するカケルが騒いでいた男を黙らせて近づいてくる。
「(無い胸は余計だけど、君のタイミングはナイスだ。もしかすると今度こそ終わるのかもしれないね)」
「どうした?」
「何でも無いよ。さ、村に戻ろう。話を聞かせてくれ。……? リファはどうしたんだい?」
「ガ」
「それが――」
カケルの背からティリアが降りながら説明を始め、そのままカケル達は村へと戻って行くのだった。
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