第百二十三話 アヒル化の目的

 扉に頭をぶつけた男を回収し、ふんじばってからティリアと共に洞窟内を探索する。デブリンとの戦闘で荒れたが、実験道具は奥の方にあったので無事だった。


 「何の道具かさっぱり分かりませんね」


 「だな、俺の元居た世界でも実験はあったけど見たことない道具もちらほらあるな。……こいつは、資料か?」


 散乱した書類の束を拾っていると、その中にアヒル化の薬に関する資料があった。そいつを拾いって内容を確認しようとしたところで男が目を覚ます。


 「う……」


 「気が付いたか」


 「貴様は……」


 忌々しげに俺の方を見ながら呟く。俺は男に近づいて、身体を起こしてやると、片膝をついて目線を合わせて質問をする。


 「で、お前は結局何者だ? アヒル化を戻すことはできるんだろうな?」


 「……」


 パァーン!


 プイっとそっぽを向いたので、俺は力いっぱい頬を叩いてやった。


 「ん、んな!? 何をする!?」


 「何って、口を割らないから叩いたんだが……」


 「ぐ……そ、そんなことをされても私は……」


 パァーン!


 「ぐは!?」


 今度は反対側を叩き、首がぐいんと曲がる。これは主観だが、殴ったり蹴ったり、はたまた剣で斬られたりするより、頬を叩かれる方が屈辱的だと思う。こいつの話し方だとプライドが高そうなので効くかなと実践してみたが……。


 「この程度の拷問で口を……」


 パァーン!


 「いたあ……」


 三回目にして割と素の言葉が出てきた。『力』を上げているので威力は高いからだと思う。あと一息で落ちそうだが、ここで手段を少し変えることにした。


 「中々しぶといな……なら、もう少し寿命をいただくとしようか」


 「え?」


 間抜けな声が上がった瞬間、俺は男の首を掴み『生命の終焉』を発動させる。さらに老いていく男の顔がようやく事態を理解できたようだった。


 「わ、分かった! は、話す! ひゃなすふぁらやめふぇふれえ……」


 「お、やりすぎたか……ちょっと返すな」


 もう余命いくばくもない状態になってしまったので、俺は慌てて寿命を戻すと、ティリアが後ろでごくりと息をのんで口を開いた。


 「そのスキル……怖いですね……近づきさえすれば即死ですよ?」


 「まあそうだな。ま、ちゃんと戻してやるし、お前達には使わないから大丈夫だ」


 複雑な表情をしたティリアをよそに、男が息を吹き返して語り出した。


 「ま、魔王め……死ぬかと思ったぞ。……私はヘルーガ教徒だ。アヒル化の実験をここで行っていた。理由は……アウグゼストの人間、ひいては聖女をアヒルにして壊滅をするためだ!」


 ヘルーガ教か……黒いローブで何となくそんな気はしたけど当たりだったな。しかしまさか聖女を狙っているとはな。


 「聖女をアヒルにしてどうする気なんですか? それで何をしようと?」


 ティリアが男に聞くと、さも当然と言わんばかりに鼻を鳴らして言い放った。


 「知れたこと。アウロラの加護を受けた者を消し去り、この世界を混沌にするためだ。エアモルベーゼ様を復活させてな」


 「ということは封印を?」


 「ほう、知っているのか? 遠い昔、復活を恐れたデヴァイン教の神官共に隠蔽されたはずだがな。そう、その封印を解くのが我等が使命よ!」


 「……隠蔽だと? ちょっと詳しく聞きた……」


 俺が身を乗り出して聞こうとしたところでティリアが俺を制して、男に質問をした。


 「気になりますけど、まずはアヒル化を戻すことが先ですよ。それに破壊神のことを聞くならみんなで聞いた方がいいかと思います。アヒル化はどうやって戻すのですか?」


 すると男は諦めた顔で奥のテーブルの上を顎でさしながら俺達に言う。


 「仕方ないか……テーブルの上に緑の玉があるだろう? それを何でもいいから容器に入れて、血を一滴足らせ。出来あがった水を振りかけると戻るはずだ」


 「はず?」


 「試してはいないからな。本来なら証拠となる村を焼き払う予定だったからな。どうせエアモルベーゼ様が復活すれば世界の半分は破滅だ、村の一つくらい構わんだろう」


 「いいわけあるか。お前達の勝手な理論で平和に暮らしている人を殺していいはずないだろうが」


 「ふん……」


 何か言いたいことがありそうだったが、それ以上は喋らなかった。その間にティリアが水の入った洗面器と緑の玉を持ってきた。


 「血は私が……」


 「いや、俺がやる。女の子に傷をつけるわけにもな」


 俺は槍で指先を傷つけて血を洗面器に垂らす。


 「これでいいのか?」


 「……私が聞いた話だと、そうだ」


 誰から聞いたのか分からないが、とりあえずアヒルリファに水をかけてみることにした。


 「ガ」


 相変わらず虚ろな目をしていて、怖いが、大人しく座らせて水を頭から被せる。


 ザパー


 「ガ!」


 しかしリファアヒルはぷるぷると水しぶきを払う仕草をしただけで……特に変化は無かった。俺は男の襟首を掴んで大きく揺さぶる。


 「おい、どういうことだ!」

 

 「し、知らん!? 私とて実験しただけだ! ほ、ほら、お前達は魔王だろ? もしかしたら人の血じゃないからダメなのかもしれん」


 男が言うには、緑の玉を水につけて、動物の血を混ぜると、その水がその姿を変える魔法水に変化すると言うのだ。だから村人をアヒルにした時はアヒルの血を使ったらしい。


 「こいつの血でいいか」


 俺がカバンに入れていたナイフをもって振り向くと、男は不敵に笑っていた。


 「ふ、ふふ……」


 「何です?」


 「ナイフを見ておかしくなったのか? 尖端恐怖症とか……」


 「そんな局地的な恐怖はないわい!? さっき私は村を焼くと言ったぞ。私一人でできるとでも思っているのか?」


 それを聞いてティリアが声をあげた。


 「まさか、他にも仲間が!?」


 「そのまさかよ。そろそろ0時を回るか? 現地で落ち合う予定だった者達が村へ到着するはずだ……船着き場に潜伏していた者達がな。そこで村を焼き払い、騒ぎをかぎつけた者達をアヒルに変えてやる。そう言う計画なのだよ」


 そうか、こいつらの仲間が実験のため冒険者を直接村に誘導していたってことか!


 「今は23時47分……間に合うか!? ナルレア!」


 <はいはい、丁度デブリン二匹を倒してレベルも上がりましたし、いけますよ!>


 「よし、ティリア俺の背中に乗れ! こいつは俺が抱えて連れて行く」


 緑の玉をカバンに入れて、俺は男を小脇に抱える。もちろんステータスは『力』と『速』にできるかぎり全振りだ。


 「は、はい! あ、ランタンは私が持ちますね。それと急ぐなら……<光明>」


 ティリアが魔法を使うと辺りが一気に明るくなり、視界が広がった。ランタンより全然いいなこれ。後はリファを回収だ。


 「リファ! こっちにこい!」


 「ガ」


 リファアヒルはもぞもぞと虫を食べながらあくびをしていた。緊張感の欠片も無い。


 「リファ!」


 「ガ」


 ダメだ、まったく言うことを聞きゃしない!? 俺はリファアヒルも小脇に抱えて部屋の外へと躍り出る。


 「走るぞ、舌噛むなよ!」


 「ひ、ひえええ!?」


 「ガ」


 ドン! と、一気に加速し、俺は暗がりを走る。村にはレヴナントは居るが……間に合ってくれ……!











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 【ジュミョウ=カケル】


 レベル:13


 HP:4300


 MP:43000

 

 力:47→20


 速:44→145


 知:31→11


 体:43


 魔:67→20


 運:37→30



 【スキル】


 回復魔王


  Lヒール・ハイヒール


  L還元の光


 魔法:炎弾 風刃 氷の楔 地獄の劫火


 剣技:斬岩剣


 能力値上昇率アップ 全魔法適正 全武器適性 ステータスパラメータ移動 全世界の言語習得:読み書き


 同調


 【特殊】


 寿命:99,999,619年


 魔王の慈悲:相手に自らの寿命を与えて回復させることができる。


 生命の終焉:触れた相手の寿命を吸い取る事ができる。スキルが強力になると一瞬で絶命させる事も可能


 ナルレア:レベルアップやスキルを覚えた際、音声で色々と知らせてくれる。(音声説明アシストとTIPSが合成されました)


 追憶の味:自身が飲み食いした料理について限りなく再現可能になり、食材を見極めることもできる。


 運命の天秤:死ぬ運命にあった人間を助けようとすると、自身の寿命が減る代わりに死の運命を傾ける事が出来る。ただし#$%&――


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