第七十三話 穏やかな船旅



 ――出航から一日が経った。


 とりあえず現時点ではトラブルも無く快適な船旅を満喫できており、このままフエーゴまでのんびり過ごさせてもらうことができそうだった。


 「……というかこの世界にきてからトラブルしかなかった気がするな……」


 思い返してみれば死にかけるか追い回されるかばかりだった。この世界にきてようやく周りの目を気にせずゆっくりできる。一応、『運命の天秤』で船員やティリア、ルルカ、リファを見てみたけどトラブルになりそうな感じは無かったということも付け加えておこう。


 そんな俺は今、甲板にあったベンチシートのようなものに寝転がって太陽の光を浴びながらむにゃむにゃしているのだ。


 「たまにはステータスを見ておくか……」



 【#壽命 懸__じゅみょう かける__#】


 レベル:6


 HP:383


 MP:3797


 ジョブ:回復術士(主:槍 副:剣)+回復魔王


 力:26


 速:23


 知:12


 体:22


 魔:32


 運:17


 【スキル】


 回復魔王(ヒール ハイヒール)


 地獄の劫火


 炎弾

 

 能力値上昇率アップ


 全魔法適正


 全武器適性


 ステータスパラメータ移動


 【特殊】


 寿命:99,999,824年


 魔王の慈悲:相手に自らの寿命を与えて回復させることができる。


 生命の終焉:触れた相手の寿命を吸い取る事ができる。スキルが強力になると一瞬で絶命させる事も可能

 

 ナルレアレベルアップやスキルを覚えた際、音声で色々と知らせてくれる。(音声説明アシストとTIPSが合成されました)


 追憶の味:自身が飲み食いした料理について限りなく再現可能になり、食材を見極めることもできる。


 運命の天秤:死ぬ運命にあった人間を助けようとすると、自身の寿命が減る代わりに死の運命を傾ける事が出来る。ただし#$%&――


 


 「『ナルレア』と『追憶の味』、それと寿命が少し減ったくらいか。相変わらず運命の天秤は良く分からんし、レベルも上がってないな。新しい町に着いたらユニオンに行って魔物を倒してレベリングしとくか? 師匠に会う前に鍛えておかないと色々言われそうだし……あれ、そういえばジョブがついて消費MPの表記が消えた?」


 <はい、回復魔法ばかり使っていたので回復術死……もとい術士として認識されたようです。消費MPはカケル様の魔法は消費を変えることで効果も変わるためあえて標準値を消しました>



 ナルレアが声をかけてきて説明してくれた。物騒なワードはスルーしておこう。


 「とりあえずあまり変わり映えしないことは分かったから、まあ次の町へ着いてからだな……ふあ……」


 <まだ寝られるのですか?>


 「ああ、たこ焼き屋は仕込とかで割と朝早かったからな。後一日くらいがぐだぐだしておきたい……」


 俺がベンチシートで寝返ると、眼前にビーチソファのような椅子で寝転がっている三人を見つけた。鎧を外したリファとルルカの足が眩しい。


 <……声をかけないのですか?>


 「勿論だ。あいつらとは行き先が同じなだけだからな。あえて面倒事に首を突っ込む必要もないだろ。話し相手ならお前が居るし」


 <そ、そうですね! では、そっとしておきましょう……あ、寝ないでくださいよ。話相手ですよ、ほら!>


 「少しだけでいいから……」


 ナルレアとそんな押し問答をしばらく繰り返していると体を揺すられた。


 「カケルさん? 寝ているんですか?」


 ティリアだった。目を瞑っているが、影が差したことを感じられるのでおそらく覗き込んでいるのだろう。しかしあえて俺は寝たふりを続行する!


 「……寝てますか……」


 「いえ、お嬢様、カケルは起きているはずです。さっきボク達の方へ嫌らしい目を向けていましたから」


 見られていた!? 恐るべしルルカ。お前本を読んでいただろうに……!


 「リファ」


 「分かった」


 リファが返事をすると、同時に俺の鼻と口がふさがれた!?


 「ふむ!? ふむむむむ!?」


 「あ、起きてますね!」


 「フフフ、顔が真っ赤だぞカケル! うひゃあ!?」


 「そら、鼻と口を塞がれたそうなるわ!? お前も仲間に入れてやる!」


 「あ、ちょ……ふごごご!?」




 カンカンカン!




 「ふう……で、どうしたんだ、リファをけしかけたりして?」


 ベンチシートにぐったりしたリファを寝かせながら俺はティリアに尋ねると、ティリアは念のために、と前置きをして聞いてきた。


 「一つ気になったんです。カケルさんの能力、それを聞いておきたくて。例えば私なら光翼の魔王なので、光属性の能力は十全に使えます。今から行くフエーゴの炎烈の魔王は火や炎全般といった感じですね。属性はすべて埋まっているのでカケルの能力はなんだろうと思いまして」


 「能力、か? ジョブで見ると『回復魔王』ってなっているな」


 「回復魔王、ですか?」


 「ああ。アウロラがこっちに送ってくれる時に何でも好きな能力をくれるってんで『回復魔法』って書いたんだよ。でも、到着してみたら『回復魔王』になっててな……スキルについては弱点になるから教えられないけど、ヒールとかハイヒールが使えるぞ」


 すると今度はルルカが聞いてくる。


 「じゃあカケルさんはアウロラ様が遣わした異世界人ってことなんだ。魔法と魔王を間違えた、ってのは考えにくいけど……スキルをちょっと教えてくれない?」


 賢者だけあって知識欲が勝るのか、キラキラした目で俺を見てくるルルカ。ここで全適性とかを言うと「やっぱりついて来て欲しい」などと言われそうなのでここははぐらかしておこう。


 「いや、レベルも6だし、回復魔法と簡単な攻撃魔法しか使えないな」


 「……『魔王の慈悲』」


 ティリアがボソリと呟き、ギクリと俺の体が強張る。こいつ……覚えていたのか……。


 「……忘れろ」


 「ちょっとだけ」


 「ダメだ」


 「私だけになら」


 「……言うなよ?」


 コクコクと頷くティリアの耳に口を近づけ、能力について教える。


 「エグイですね……それは何にでも使えるのですか?」


 「試したのは人間だけだなあ。あんまり使いたくはないとは思ってるけど、脅しになるから丁度いいんだよ」


 「えーずるいずるい。ボクにも教えてよー」


 「はは、俺と次の町で別れてからティリアに聞きなー」


 「……やっぱりついて来てくれませんか?」


 ルルカが可愛く食い下がり、ティリアがポツリと呟くが、それをスルーし、俺は手を上げて自室へと戻った。食い下がって来ないので何となく口にしただけなのかもしれない。


 夕飯、就寝を経てさらに二日が経過。ティリア達と話す機会も無く、穏やかに過ごしていたが、三日目にまさかの事態が起きた。


 

 「緊急事態ー!! クラーケンが出たぞ!!!」


 朝っぱらからけたたましい鐘の音が鳴り響き、強制的に目を覚まさせられ、俺は慌てて甲板へと駆け出す。すると、すでに来ていたティリア達と合流し、後からぞろぞろと数名の冒険者が躍り出てくる。


 そして目の前には……


 「イカ、か?」


 「いえ、クラーケンです。海の暴れん坊とも言われるAクラスの魔物ですね」


 まあイカだな。そのイカが巨大な頭を海から突き出し、さらに触手で船を抑えている。そのせいで前に進まないようだ。それより気になるのは攻撃してくる素振りが無く、でかい目をぎょろぎょろと動かして何かを探しているようだった。


 「何だ? 攻撃してこないのか?」


 「ならばこちらから仕掛けましょう! なあに、行きでも倒したんですし、今回も……」


 と、リファが叫んだところで、こちらと目があった。ティリア、ルルカ、リファを順番に見た後、白かった体がみるみる内に赤く染まっていき、触手を叩きつけてきた!


 ビターン!!


 「うわ!? な、何だ?」


 俺は横っ飛びで回避して、触手を目で追うと、他の人間には目もくれず、何故か執拗にティリア達を攻撃していた。


 「ほ! っは! せい!」


 「あ!? も、もしかしてこのクラーケン……来るときに倒したクラーケンの親、だったりして……」


 「言われてみれば……そうであれば私達を狙うのは分かりますね」


 リファが剣で器用に触手をあしらっていると、ルルカが何かに気付いた様に小さく呻きながら声を出した。


 「ルルカ! どういうことだ!」


 「実は行きの船でもクラーケンに襲われたんだよ。その時、めっためたにして海の藻屑に変えちゃったんだけど、どうやらこのクラーケン、そいつの親みたいなんだよねー……」


 「マジか……!? おわ!?」


 狙いはティリア達だけのようだが、とばっちりは充分にあるくらいこいつはデカイ。このままじゃ船が沈んでしまうだろう。


 「はあ……レベルアップの足しにさせてらもうか……」


 仕方なく俺は槍を取り出し、クラーケンへと向かっていった。


 

 南海の大決戦が始まる……!

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