第百四十六話 出た!

みゅいーん……みゅいーん……



 「何だこの音は!」


 「気をつけろグランツ、エリアランドではこの音が鳴り終わった後、破壊神の力の一部が出てきた!」


 「ほ!」


 ニドがグランツの元に駆け寄ると同時に、トレーネが音に気を取られ呆然としていたゴルヘックスの手から逃れ、グランツの元へ戻る。


 「……む! まあいい……とりあえずの目的は成った……」


 「無事で良かった、トレーネ」


 「頑張った」


 ふんすと鼻息を出しつつ、石碑へと振り向くトレーネやグランツ達。そして、音が止む。


 「この後、光の玉が出たんだが……あ!」


 エリアランドと同じく、ふよふよと光の玉が飛び出し、ゴルヘックスの前で機械的な声を発し始める。


 『封印を解いたのはお前達か?』


 「……そうだ。お前はなんだ?」


 『我は女神アウロラの力の一部なり。我を解き放つ、すなわち破壊神の力の一部を解くと同義なり。必ず倒せ、さもなくば世界は滅び去ることであろう。頼むぞ、勇――』


 と、何かを言いかけている途中、光の玉はスッと消えて行った。


 「あの時と同じだな。さて、来るか?」


 剣を握る手が固くなり、滝のような汗を出しながらドアールが呟く。その呟きを待っていたかのように、石碑が細かく揺れた。


 「……大丈夫か、パンドス。やったぞ」


 「……はあ……はあ……わ、私はもう……ダメだ……あ、後はたの――」


 「≪炎弾≫」


 ぼっ!


 トレーネが倒れていたパンドスへ炎弾を撃ち込むと、見事に尻が燃えた。


 「どうわあっちぃぃ!? おおおおおおお!?」


 ゴロゴロと転がり尻についた火を消すパンドス。そこにトレーネが言う。


 「傷はそんなに深くなかった。白々しい」


 「やかましいわ小娘が!? ええい、エアモルベーゼ様! あの小娘に罰を!」


 パンドスが叫ぶと、それに呼応するかのように石碑が割れ、人影が飛び出してきた!


 「来るぞ……!」


 グランツが剣を構えると、ゴルヘックスとパンドスの前に一人の長身の男が降り立った。


 【おお! なんと清々しい! 復活できた! ははははは!】


 ぶわさ! と、マントを翻し茶髪のロンゲがサラリと揺れる。そしてニヤリと笑いながらグランツ達へと口を開く。


 【こっちの二人が復活させてくれた、ということはお前等は敵だな。お初にお目にかかる。私は『シュラム』土と地の破壊を司るエアモルベーゼ様の力の一部だ! まあ、ここで死ぬ貴様等には意味のないことだが】


 はっはっはと笑うシュラムを見ながら、ひそひそとニドが全員に言う。


 「(グランツ、恐らくこいつには勝てん。カケルが居れば何とかなったろうが、俺達では瞬殺されるのがオチだ。隙を見て逃げるぞ……)」


 「(……くっ……少しは強くなったと思ったけど、確かにこの圧力は……)」


 【ふっふ……驚いて声も出ないか】


 「シュ、シュラム様! あいつらを倒しちゃってください! 特にあの小娘! 私の尻を焼いたこの屈辱を……!」


 【いや、復活させてくれたことは感謝するが、そんなことまで知らんよ……】


 なにこいつ、みたいな目で地団太を踏むシュラム。その隙にグランツ達が動いた!


 「今だ! 神殿から出るぞ!」


 「うん」


 「ドアール、遅れるなよ!」


 「援護は私が!」


 撤退するグランツ達を前には、神殿の入り口でシュラムに向かって矢を放つエリンがいた。しかしシュラムはそれをものともせず、魔法を放った。


 【逃がさぬよ! ≪ストーンスクラップ≫!】


 「なに!?」


 シュラムが手を翳すとエリンの立っていた付近の天井に亀裂が入り、音を立てて崩れ始めた!


 「グランツ!」


 「エリン下がれ! 下敷きになる!」


 エリンが手を伸ばすが、グランツの声で一歩引いた。その瞬間入り口は完全に塞がる。


 「くそ!」


 【はっはっは。耳がいいのが自慢でね。私は数キロ先の地面にいるミミズが土を食べる音すら聞き分けられるのだ。逃げる算段をしていたことは聞いていたよ】


 「兄貴、こいつ気持ち悪い」


 「……うん、ちょっと例えが分かりにくいしな……」


 容赦ない兄妹の言葉にシュラムが激昂する。


 【気持ち悪いとはなんだ! 折角復活したからもう少し遊びたかったが縊り殺してやる!】


 シュラムがグランツへ向かって突撃してくると、ニドが斧を握りしめて叫んだ。


 「抵抗はさせてもらうぜ! グランツ、俺達は左右からいくぞ!」


 「ああ! ドアール、トレーネを頼む!」


 「任せとけ! つってもどれだけ持つか……!」


 【ふはは! 恐れろ我が力を!】


 「だありゃあ!」


 「ふん!」


 ガッ! ドン! ガキン! ズブシュ!


 斬りかかる二人に対し、シュラムはニドを標的にした。斧を片手で受け止め、もう片方の手でニドの脇腹を殴る。そして開いた背中にグランツの剣がバッサリ入った!


 【ぎゃあぁぁぁぁ!? い、痛っ!? 痛ぃぃ!?】


 ゴロゴロと血を流しながら転がるシュラム。


 「≪炎弾≫」


 ボン!


 【うおおお! 尻がぁぁぁぁ!?】


 トレーネの炎弾でシュラムの尻が燃え、ゴルヘックス達の元へ転がり叫びだした。


 【おい貴様等! どうやって私の封印を解いた! 全然力が戻ってないじゃないか! この封印を解く時、血と肉と魂を生贄として捧げなければ我等は力を得られんのだぞ!】


 「は! 存じております!」


 【なら何故!】


 「……子供を30人ほど生贄を用意しておりましたが、あやつらに邪魔をされ、パンドスの血が石碑にかかったとたんシュラム様が復活されたのです」


 グランツ達を見ながら淡々と喋るゴルヘックス。それを聞いて口をあんぐり開けたシュラムは再度激昂する。


 【ぐぬう……おのれえ……! 復活しているか分からんが、これでは他の六魔傑のいい笑いものだ……仕方ない、疲れるが全力でいけば四人くらいなんとかなるであろう】


 「圧力が上がった……これが本気か?」


 【……行くぞ! ≪グランドネイル≫ ≪アースブレイド≫】


 シュラムが指をくいっと上にあげると、グランツ達の足元に亀裂が走り、バランスを崩させる。そこへ岩で形成した剣を握りグランツ達へ襲いかかる。


 「重い……!」


 「チッ、こっちだ!」


 【なんの!】


 グランツとニドを相手に立ち回り、ほぼ互角の勝負を繰り広げる。ドアールも様子を伺いながら飛び出す機会を待つ。


 【これで互角か!? せめて肉か魂を食らえば……】


 「≪炎弾≫」


 【うわっちぃ!? 娘!? 私の尻に何か恨みでもあるのか!?】


 「たまたま」


 「隙あり!」


 【ん、ぐう……! こいつ!】


 「ぐあ!?」


 しれっと言うトレーネを無視し、グランツとニドは猛攻を繰り出す。だが、一進一退。そしてグランツかニド、どちらかが倒れればバランスが崩れてしまい、一気に負けてしまうだろう。


 「はあ……はあ!」


 「エリアランドのやつよりはまだいいが、二人がかりでこれかよ……」


 【はああ……き、きつい……】


 息を切らせてお互い攻撃の手を休めると、ゴルヘックスがシュラムを呼ぶ。


 「……シュラム様。肉と魂、私を食らっては如何でしょう……?」


 すると驚いてシュラムが言う。


 【何と、貴様死ぬと言うのか? 人間は生き汚いもののはずだ】


 「……私の願いは世界の破滅。妻も子も失った時から私はもう死んでいる……せめて世界を道ずれにできればとここまで来た……!」


 【……よかろう】


 「いけない! 力をつけられたら俺達は負ける!?」


 ぐぐぐ、と力を振り絞り、走るグランツ。


 だが――


 【我が糧となり、永久に我の中で生き続けよ……! ……貴様の名は?】


 ドス! シュラムの手刀がゴルヘックスの心臓を撃ち抜く。


 「……ゴルヘックス……」 


 【さらばだ、ゴルヘックス】


 「……ぬあああー!?」



 ブシュっと心臓を握りつぶすとゴルヘックスから青い光が立ち上り、あっという間に骨だけになってしまった。


 【病に侵されていたか。いずれにせよ近いうちに死んでいたようだな。病もちならそれほど力にはならんが……】


 「骨に……!? たああああ!」


 隙だらけのシュラウへグランツが背後から斬りかかる! だが、今度はその剣が背中を切り裂くことはできなかった。


 「がっ……!?」


 【今の貴様等を倒すくらいはできるぞ】


 後ろを向いたまま蹴りを放ち、グランツが吹き飛ばされる。その衝撃でプレートアーマーにひびが入った。


 「グランツ!」


 「だ、大丈夫だ……!」



 「お、おおーい……ゴルヘックスよう……何も死ぬことはなかったじゃないか……無口だったけど一緒に破滅を見れば良かったじゃないか……」


 【貴様も後を追うか?】


 「ひ、ひい……!? ま、まだ死にたくない……!」


 【そうだ。それが人間というものだ。安心しろ、貴様のようなやつなど欲しくない。むしろ……】


 ギン! と目を輝かせて口元を歪ませる。


 【あやつらのような生にしがみつく者達の方がよほど食う価値がある!】

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