第百六十五話 圧倒的な力

 


 「ここだと囲まれる、一旦廊下へ出るぞ。チャーさんはどっちから敵が来るか教えてくれるか?」


 「分かった。アニス、行こう」


 「うん」


 「承知した!」


 俺達が扉を開けながら部屋から出ようとすると、槍を手にイグニスタが襲いかかってきた!


 「なぁにが『タダで済むと思うな』だ。調子に乗るなよ!」


 ブン! シュ! カキン!


 元・竜の騎士隊で副隊長をやっていただけのことはある感じで、鋭い攻撃を繰り出してくる。


 「だぁりゃ!」


 「チッ! やるじゃねぇか! そらそら!」


 「がら空きだ! あら!?」


 俺が胴体へ槍を横なぎに振ろうとしたが、開いた扉に引っかかってしまった! そういや室内戦で槍を使って戦ってないな!?


 「馬鹿が! こういう場所では横の動きじゃななくて縦の動きを使うんだよぉ!」


 シュ! ビシュ!


 「おっとっと。ご教授どうも! おらよ!」


 「ぶは!? ちくしょう。おい、起きろギルドラ! 巫女が逃げるぞ!」


 俺の肩を槍が掠めるが、同時にバックステップしながら槍を引っかけて扉を閉め、イグニスタを挟む。ふいにダメージを受けたイグニスタはギルドラに大声で呼びかけていた。


 「ぐぬ……やりおったな……! アニス、さっきのは嘘だ、戻ってこい……!」



 「絶対嫌」


 「急げカケル、足音が近くなってきた! 数は4だ」


  アニスがベーと舌を出していると、チャーさんが廊下から戻ってくる。4なら半分ってとこか? なら各個撃破でいけるか。


 「よし、クロウ、アニス! 壁際だ! そこなら囲まれる心配はない」


 「オッケー、僕も戦うよ!」


 ドタドタドタ……


 ちょうど俺達が壁を背に展開し終わると、チャーさんの情報通り、L字になった廊下から騎士が4人現れる。先手必勝!


 「どこ見てやがる!」

 

 ドシュ! ビュ! シュン!


 廊下に目を向けていると、イグニスタが三段突きをかましてくる。それを避けながら俺は叫んだ。


 「おっと! ちょっと待ってろ! まずはこっちだ≪地獄の劫火≫!」


 ゴォウ!


 「うわ!?」


 「ぎゃあああ!?」


 「な、なんだ!?」


 俺の放った魔法が順繰りに出てきた騎士達を燃やす。だが巻きこめたのは二人だった。出力を落とし過ぎたか? しかし、そこへクロウの魔法が飛んでいった!


 「≪漆黒の刃≫だ!」


 「しっかりしろ!? ぐあ!」


 炎に巻かれた仲間を助けようとしたところで、背中に黒い刃を受けて倒れた。鎧があるから死なないだろうが、しばらくは動けまい。


 「お前等!? 野郎……」


 「残りも出てきた瞬間魔法で潰してやるよ。そっちの『嘘つきおじさん』は仲間を呼ばなくていいのか?」


 俺が皮肉めいた笑いをしながらそう言うと、歯ぎしりをしながら呟く。


 「ふざけおって……!」


 「≪炎弾≫!」


 「ぬお!? ≪氷塊≫!」


 ボン! と、音を立てて、お互いの魔法がぶつかり爆散する。


 「ふざけるなはこっちのセリフだ! アニスの両親を操って引き離したと言ったな……! そういう人を騙したり操ったりするのは大嫌いなんだよ!」


 「ヒッ……!?」


 俺の激昂にびびり身を強張らせるギルドラ。ああいう搦め手を頭だけで考えるやつは大抵肝は小さいものだ。俺は槍を構えると、『速』をさらに上げてギルドラの肩を串刺しにして壁に縫い付けた。


 「ぎぃやぁぁぁぁ!?」


 「ちょっとそこで苦しんでろ。アニスの痛みの万分の一にも満たないだろうがな」


 「ゴクリ……」


 「カケルお兄ちゃん、すごい……」


 クロウが喉を鳴らし、アニスが「ほー」と声を漏らす。


 「待たせたな。残りの騎士が来る前に片づけるぞ。クロウはそっちの騎士を頼む」


 錆びた剣を抜きながらクロウへ告げると、騎士の方へと向かい合った。



 「う、うん……」


 「チッ、冒険者風情が中々やるじゃねぇか……お前等みたいなのに使いたくなかったが、こうなったら仕方がない。カァァァ……」


 「ん……?」


 イグニスタが目を瞑り、力を込める。そして次に目を開いた瞬間、俺は驚愕した。


 「……目が赤い……!?」


 「は!」


 ドシュ!


 「速い!?」


 「よく避けたな! まだまだ!」


 ガン! ガキン! カン!


 「くっ……その目、それは魔王の証のはずだ! 何故お前が……!」


 「知れたこと、俺様が魔王を倒したからだ!」


 ドッ! イグニスタの槍の柄が俺の腹に突き刺さり、俺は胃の中のものを吐きそうになるが、構わず剣を振り抜いた。


 ザシュ!


 「やるな……!? 魔王の力を覚醒させた俺を斬るとは、てめぇマジで只者じゃないな!」


 「知るか! 俺をすぐ倒せないヤツがどうやって闇狼の魔王を倒した!」


 「ふん、ちょっと毒を盛って血祭りに上げただけよ。心が折れれば倒した奴に力が継承される。下剋上だな。それはどの魔王でも等しく同じだ」


 なるほど、そういやゼルトナ爺さんの授業で言っていたな。相手を倒せば時期魔王になれるって。卑怯な手段でもそれはお構いなしってことか。


 「うおおお!」


 「はっはっは! 遅いぜ!」


 ドゴ! ザシュ!


 「ぐう!?」


 「カケル殿!?」「カケル!」


 頬と腕に傷を負い、俺は呻く。ステータスが他より少し高いからさっきまでは圧倒出来ていたが、地力は経験豊富なイグニスタの方が上か……!


 「おらおら! タダじゃおかないんじゃなかったのか!」


 「くそ……!」


 槍でよくそんなに小回りを利かせられるぜ! 今後の参考にしよう。


 <カケル様、魔法で一気に蹴散らしたらどうですか? 魔王ですし、地獄の劫火は耐えられると思いますが。もしくは思い切って『力』に全振りとか>


 イグニスタと切り結んでいると、ナルレアが声をかけてきた。そうだな……やってみるか。まずはクロウの恨みを晴らすとしよう。


 俺は剣を左手に持ち替え、力を最大限に上げて右拳をイグニスタの顔面に振り抜いた……!


 「なんだ? 素手だと? はっはー馬鹿にされたも――」


 メゴシャ!


 顔の形がぐにゃりと曲がり、手に頬骨だと思われる固い感触があった。イグニスタはそのまま壁に激突し、バウンドする。


 「あ、あがぁ!? な、何だと……!? お、俺は魔王だ! こんな攻撃くらいで……!」


 「<地獄の劫火>!」


 「ぎゃぁぁぁ……! あ、熱い……!?」


 「頑丈でなによりだ、殺さないで済む!」


 「く、くそがぁ……あが!? ぐあ!?」


 左手の剣と右の拳で燃えるイグニスタをフルボッコにする。顔の形が変わって来たあたりで、イグニスタが反撃をしてきた。


 「クソ野郎が! 俺様は魔王だぞ!」


 「おっと……!」


 と、イグニスタの拳を避けたのがまずかった。そのまま体を入れ替えるようにして、やつは……アニスの元へ駆け出した。


 「アニス狙いか!? クロウ!」


 「こ、このお!」


 「ぐああああ!」


 クロウに声をかけると、騎士を何とか倒してアニスの方へ振り返る。戦いの最中に離れてしまったようだ。イグニスタは槍を拾い、その凶刃をアニスへと向ける。


 「こうなったらこのガキだけでもぶっ殺してやる……!」


 「間に合え……!」


 俺も追うが、この短い距離だ、ヤツの方が早い……! 


 「逃げろアニス! ……なに!?」


 アニスに声をかけると、スッと目を瞑る。死ぬつもりか!?


 「……」


 「アニス! ≪漆黒の刃≫ぁ!」


 走りながらクロウも魔法を使う。


 「それはさっき弾いたろ? 闇の力の魔王に闇の魔法はきかねぇんだよ!」


 片手で漆黒の刃を打ち消す。だが、その一瞬は意外な結末を辿った。


 「ご主人の仇だ! フゥゥゥゥ!!」


 バリバリバリ!!


 チャーさんが飛び掛かり、顔に張り付いて顔をズタズタにしようと爪を立てたのだ!


 「うわ!? クソ猫が! また邪魔をしやがったな!」


 「ふぎゃ!? まだだ! ……!?」


 床に叩きつけられ、チャーさんが態勢を立て直す。その間、槍はアニスへと向かう。



 そして――



 「危ない!」


 「あ!」


 ドブシュ……!


 チャーさんの渾身のタックルで、アニスの体が後ろに倒れた。


 だが、前からのタックルを行ったため、槍はチャーさんの身体を刺し貫いた……!

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