第八十三話 本日二度目の救出劇
ギャェアア!?
「いたか?」
「いえ……まだ奥かもしれません。進みましょう」
洞窟に入ると外の騒ぎを知らないゴブリンの残党がいくらか残っていて、それを倒しながら進んでいた。中はきちんと部屋も扉もついており、先程の待ち伏せといい、ゴブリン達は知能が高いのだと改めて思う。
「悪いなリファばかり倒させて」
「構わない、これが仕事だからな。そういえば槍をもっていないがどうしたんだ?」
「うむ、デブリンに攻撃したらこの通り」
ぐにゃりと先から曲がった槍をカバンから取り出すと、ルルカが口を開いた。
「それってユニオンに登録した時にもらうやつだよね? 流石にデブリン相手には無理だよ。せめて銀鉱石クラスの武器がないとジリ貧かな。魔法はなんでも効くから魔法で倒すのが一番だけど」
ちなみに俺の槍は銅鉱で出来ているらしい。それから鉄鉱、黒鉄鉱、銀鉱、白鋼、金剛と続くのだとか。
「うーん、使い勝手が良かったんだけどなあ。後は錆びた剣しかないし」
「どこかで買った方がいいかもしれませんね。武器が良ければ苦戦しなくても倒せたり、レベル差を埋めるのも難しくないですし」
ティリアの言葉に思わずなるほど、と思った。正直、武器はそのままでもいいかと思っていたけど、言われてみれば相手の武器を壊したりなどで有利を取ることができるかもしれない。そんな話をしながら進んでいくと、リファが手だけで『止まれ』と合図してきた。
「……ここが最後の部屋だ、ここに居なければ二人はデブリンの胃の中だと思う……」
「まだ決まった訳じゃ……「おねえちゃーん!?」無かったな!」
俺が言いかけたところで中から叫び声が聞こえてきたので、リファが扉をぶち破ると中は想像以上にヤバイ状況だった。
ギャ!?
宴会場か何かだろうか、体育館より少し狭いくらいの場所にゴブリンが十五匹はいた。こちらに驚いて振り返るがそれよりもその奥が問題だった。
檻のようなものが設置され、泣き叫ぶエルフの女の子。その視線の先には裸にされたエルフが磔にされ、太ももや腕に矢が刺さっていた。見ればその姉妹以外にも人間の女の子も数人、檻の中で泣いていた。
「あ、ああ……」
俺の裾を掴んでいたチェルがへたりこみ、リファが前に踏み出した。
「おのれ醜悪な……!」
「ナルレア!」
<かしこまりました>
『力』『速』が飛躍的に上がっていくのを感じ、俺は錆びた剣を抜いて即座に走った。あれ? いつもより体が軽いな?
「え?」
ギャ?
場に似つかわしくない声をあげたのは両陣営。ゴブリン共に容赦はしない。
「え、援護する隙がありません……」
ティリアがロッドを構えてポカーンとしているが、そこはとりあえず置いておく。
ギャァ!?
ゲギャア……!
「わ、私も!」
俺が次々とゴブリンの頭を潰し、首を刎ねていくと、リファが思い出したかのようにゴブリンへ向かっていき、倒していく。すぐに戦闘は終わった。
「ふう……くだらないもの見せてくれやがって」
「まったくだ」
血を払い、鞘に剣を収めていると、ティリアとルルカが檻を開け、探していたエルフの姉妹を助けていた。
「おねえちゃん! おねえちゃん!」
「――ム……だい……よ」
「しっかり! ああ、酷い傷……目が潰れて……ルルカ!」
「分かってます! ≪ハイヒール≫!」
おお、賢者だけのことはある。ルルカがハイヒールを使うと傷が癒されていき、息も整ってきた。
「……でも目は……」
「え!? 目は治らないのか!? ハイヒールだろ?」
「ハイヒールは傷を癒しますが、失った部位や血は戻らないからね……」
ルルカが残念そうに首を振る。え、いや、そんなことないだろ!?
「そ、そんなはずは……ちょっと俺もかけていいか?」
「ええ? 別にいいけど、意味ないと思うよ?」
「……いえ、カケルさん。お願いします」
ルルカが口を尖らせて渋々女の子を見せてくれ、ティリアがお願いをしてきた。俺は頷いて魔法をかける。
「≪ハイヒール≫」
ぼやっとした光がエルフの子を包むと、抉られた目が形を成してきた。それを見たルルカが見たことも無いくらい目を見開いて叫んだ。
「はあ!? いやいやいや! はあ!?」
語彙が無くなったのか?
「ほら、気合いを入れれば治るじゃないか。大丈夫か?」
「あ……はい……た、助けて頂いてこんなことを言うのも申し訳ないのですが……は、裸なので、その……」
「おねーちゃーん!!」
「わ!? クリムも無事で良かった……」
「えー……喋れるまで元気になるの?」
「……」
姉妹感動のハグを見ながらルルカが呆れた様に呟くと、ティリアが無言で自分の上着を姉エルフに着せていた。見るなと言われると見てしまうのは男のサガか。慌てて視線を逸らそうとしたところで……
「あ、す、すまな……い"!?」
「……」
いきなりあらぬ方向に首を曲げられ、俺は呻く。視線の先にいたのはなぜか無言でむくれているチェルだった。
「こっちはケガも無い、少し衰弱しているが全員無事だ」
リファが檻から助け出した子を連れてきて安堵していた。これでここを拠点にしていたゴブリンは全滅したとみて問題なさそうだ。
女の子達を引き連れ俺達は洞窟を出ると、イクシルが出迎えてくれた。
「ウェスティリア様、如何でし……目的は達成したようですね」
ティリアの後ろにいるエルフの姉妹を見てメガネをあげると、さらに後ろにいる女の子達を見て眉をあげる。
「その子達は?」
「エルフの姉妹と一緒に捕まっていたんだ。親御さん達、探しているんじゃないだろうか」
すると訝しみながらイクシルは一人の女の子の前で中座して声をかけた。
「……君達はもしかして、王都かその近くの村の子ではないか?」
「う、ぐす……そ、そうです。わたしはベリーの村……」
「はい……私は城下町に住んでいます」
年齢的に歳が上であろう二人が答えるとイクシルは続けて質問をする。
「辛いかもしれないが、もう一つ答えてくれ。君達はここに連れてこられて何日経った?」
「……二日、くらいです」
「私は三日……食べられるかと……」
「ありがとう。すまなかったね」
イクシルは礼を言った後立ち上がり、顎に手を当てて考え始めたので、俺は今の質問について声をかけてみた。
「どういうことだ? 三日経って無事なのが不思議なのか?」
「それも喜ばしいことだが、三日経っていればユニオンに捜索願が出てもおかしくないのだ。それがエルニー支店に回ってきていないのがな」
「あ、そういうことか。ならセフィロトが不具合を起こしているんじゃ?」
レリクスがぽろっとそんなことを言っていたような気がする。最近調子が悪いだのとかぶつぶつと。それを聞いてイクシルが答えた。
「それも考えられないことはないが……まあいい、帰ってから考えるとしよう。問題はこの子達をどうやって送るかだな……」
「私達はこのままエルフの集落へと向かわねばなりませんので、お手伝いができそうにありません」
ティリアが残念そうに言う。
「構いません。救出していただけただけでもこちらとしてはありがたい。この子達は我々が責任をもって送り届けます。救出していただいた報酬はもお支払いいたします」
「お気遣いありがとうございます。エルニーの町には一週間後に出る船に乗る予定ですので、その時に寄らせていただきたいと思います」
「ちゃんと受け取るんだな」
俺が呟くと、ルルカが耳打ちしてくる。
「(お嬢様はある意味、慈善事業で旅している訳だからね。旅費があるに越したことはないんだよ? 先代から貰ってはいると思うけど、ほら、食費がね)」
「ああ……」
何となく納得していると、今後の指標が決まったようだ。
「ブルーゲイルの諸君、悪いが夜が明けたらこの子達を連れて王都オルカンへ運んでくれ。五人パーティはここではお前達だけだからな。一度戻るより、ここから向かった方が早かろう。馬車も一台使っていい」
「了解しました。みんな、それでいいな?」
「もちろんです」
「可愛い子なら大歓迎だ」
「それと……」
そこでイクシルが俺の方へ向く。
「お前もブルーゲイルに着いて行ってくれないか?」
「そうだな……」
エルフの姉妹はティリアが連れて行ってくれるだろうから安心だろう。戦力的にも。ブルーゲイルもコトハとサンがいるので女の子の移送は心配ない。と考えを巡らせていると、姉エルフが手をあげて口を開いた。
「あ、あの……! そちらの男性は助けてくれたお礼をしたいので私と来ていただきたいのですが……」
「え? ああ、別にいいよ、回復魔法使っただけだし、そんなに気を使わなくても」
「ダメです。お礼をしないとエルフの先祖の笑いものになります」
「あ、ああ、そう、なの?」
さっきまであんなに弱っていたのに、譲らない気配を纏わせ言い切った。おい、チェル、尻尾を立てて威嚇するなって。
「ふむ……このご時世だ……では、エルフの集落へ頼む」
「マジか。それは強制か?」
「いや、そうじゃないが、おそらく意地でも連れて行かれると思う」
チラリと姉エルフを見ると、鼻息を荒くして俺を見ていた。まあティリア達もいるし、いいか。
「オッケー、それじゃあニド達、そっちは頼むな」
「任せとけ、帰ってきたら酒でも飲もうぜ」
「……話、聞かせてね……!」
「さ、とりあえず休んで? 夕食を用意するわね」
コトハとサンが女の子を野営地へ連れて行き、続いてニド達がついていく。うん、このパーティは信用できるな。
「もう出発されるのですか?」
「はい、ここからそれほど遠くありませんし、早く無事を伝えたいですから」
「それではお気をつけて。お前の報酬はカードに入れておいてやるから、後で確認しておけよ」
イクシルが偉そうな態度に戻り、それだけ言い放って冒険者達のところへ戻って行った。
「それじゃ行きましょうお嬢様」
リファがもう寝そうになっている妹エルフを背負って声をかけ、俺達はうなずいた。
しかしそこで予想外の人物が現れた。
「……エルフの集落、俺も連れて行ってもらえないだろうか?」
「クリューゲル?」
槍を肩に担いだクリューゲルだった。月明かりを背にしたイケメンが俺達にニヒルに笑いかけていた。
だが……
「人間はダメです」
姉エルフが譲らない気配を纏わせ即答し、ハッキリとダメだと言いきった!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます