第四話 何の変哲もない町『カルモ』
「こんちゃーす!」
「お、この辺りじゃ見かけない奴だな。だが、元気がいいのはいいことだ」
色々考えたが、やはり気さくに挨拶をするのがいいと判断した俺は、奇をてらわずに片手を上げながら門番らしき人へ声をかけると、人の好い笑顔で頷いていた。そのまま言葉を続けてくる門番さん。
「ここは『カルモ』の町……見ての通り田舎だが、この町は初めてか?」
「ええ、見聞を広げるため旅をしている途中なんですよ、丁度、こっちに町があるって看板を見て来ました」
「……そんな丸腰でか?」
俺が笑顔で応対していると、別の門番が鋭い指摘を俺に放ち、ビクっと笑顔のまま体が震える。い、いや、別に丸腰でも悪いことは無いよな。
「ま、まあ逃げ足だけは速いので……」
「あれだろ、法使いだろあんた? だったら羨ましいこった!」
「そ、そうなんですよ! えっへっへ……」
「それにしても珍しい恰好だな、どこか遠くから来たのか?」
ピシっと俺の顔がまたも凍りつく。んも!? 何なんだよこの人! 早く町へ入れてくれよ!
「そ、そんなところです……で、町に入っても?」
笑顔は変えず、だが冷や汗をかきながら、擦り手、揉み手で門番へと尋ねる俺。悪い事はしていないのに何故か焦ってしまう。
「ああ、問題ない。通っていいぞ!」
「ふう……ありがとうございます。でも、もっとこう、入るのは厳しいチェックがあるもんかと思ってました」
「? 他の地域じゃどうか分からんが、こんな田舎にゃ犯罪者を特定するような魔法なんか導入されてないから、せいぜい武器を持ったやつを警戒するくらいなもんだ。もちろん町中で暴れたりしたら治安部隊にしょっぴかれるから変な事はするなよ?」
「勿論ですよ、好き好んで厄介ごとに首を突っ込むほど俺の心臓は強くない!」
ドンと俺は胸を叩いてドヤ顔で言い放った。
「自慢げに言う事か……?」
「それじゃ通らせてもらいますよっと」
俺が二人の間を抜けようとした時、またしても声をあげる門番。
「む! その黒髪と黒目! 珍しいな……」
「ひぃ!?」
「もう止めてやれ!?」
「す、少し触らせてもらってもいいだろうか……?」
「いけ、兄ちゃん! ここは俺が止めておくから!
「わ、分かった! 頼む!」
「その服だけでも……!」
◆ ◇ ◆
「はあ……はあ……町に入るだけで何故こんな余計な体力を……しかしあの門番、本当にただの好奇心だったのか……? 怪しいヤツ認定されたのかと思った……むしろあの門番が怪しいのか……?」
ちょっとビビりすぎて涙目になってしまったが、誰も見ていないのでノーカンにしておこう。
というわけでグダグダしたが、無事に町へと入る事ができた。俺は一旦息を整え落ち着いて町並みを観察することにした。
「へえ、やっぱり異世界って中世っぽいんだな、家屋がよくあるタイプの形をしている。それに服もアニメ化されたラノベなんかで見かける服装だなあ」
おのぼりさんっぽいが、やはり珍しいものは目移りしてしまう。そこでふと我に返って俺は呟いた。
「わかっちゃいたけど、異世界、か」
外を歩いていた時は景色もさほど元の世界の山などと変わらなかったので気にならなかったが、やはり町に入ると痛感するな。まあ死んだとはいえ、家族親族と呼べる人達は居なかったし、恋人も『勿論』いなかったからそこは良かったと考えるべきかな、一応生きていられたわけだし……あ、でも、向こうの世界での俺の扱いってどうなるんだろうなー。
そんな事を考えていると、男性がすれ違い様に声をかけてくれた。
「お、兄ちゃん見ない顔だな!」
「ええ、旅の途中で寄らせてもらいました。いい町ですね」
「おう、ゆっくりして行ってくんな!」
軽く挨拶をして、男性は去って行く。金は無いけど、今後のためにどんな店があるか見てみるか。まずは近場の店へ入ってみる事にした。
「ここは道具屋か? あまり見慣れないものあるけど……」
「見ない顔だな、何か買っていくか?」
「ああ、今日は様子見だけです。すいません、また今度!」
またよろしく、と見送られ、俺は次の店へと足を運ぶ。今度は武器屋のようだった。ずらりと並んだ重々しい武器が所狭しと立てかけられていたり、壁に飾られていた。
「お、剣と斧! これこれ、やっぱこういうのはテンション上がるよな!」
「お目が高いな兄ちゃん! 見ない顔だけど、冒険者か? 安くしとくよ!」
「あ、はあ……きょ、今日は持ち合わせが無くて、また今度きますね!」
何となく違和感を感じつつ、さらに次の店を覗くと、今度は薬屋のようだった。三角フラスコみたいな瓶やガラスの瓶がたくさん並んでいる。
「ポーションってやつかこれ? 緑の薬ってヤバそうだよな……」
すると奥から婆さんが出てきて、俺に話しかけてきた。
「ふぉっふぉ。キレイな花にはトゲがあると言うてな。薬も鮮やかなものほど毒だったりするもんじゃ。そういや、ここらじゃ見ない顔じゃのー」
「……失礼します」
俺は薬屋を後にして空を見上げる。きっと気のせいだろう。
あ、そうだ! 仕事を探さないと! はは、お金が無いと店に入っても意味ないじゃないか、なあ? そう思い一歩踏み出したところで子供と目があった。
「……何かな?」
「兄ちゃん見たことない顔だな!」
「はは、今日この町に来たばかりだからね。それじゃ」
スチャッっと手をあげて爽やかに去った所で、すぐに屋台のおっさんに声をかけられた。
「そこの見たことない顔の兄ちゃん! 串焼き、串焼き買わねぇか! 熟成させたブロークンバッファローの肉だぜ!」
「ははは、また今度!」
おっさんにやんわりと断りを入れ、俺はスタスタとその場を離れる。目指すはさっきチラリと見かけた公園の奥。ポツンと忘れ去られたかのようなベンチに腰掛け、俺は一息ついた。
「……ふう」
そして一度目を瞑り、たっぷり溜めた所でカッと目を開く!
「怖い……!」
何だよもう! どいつもこいつも『見ない顔、見ない顔』って! そんなの俺が一番よく知ってるんだよ! いちいち口に出すなよ! そんなに今日初めて来た人間が珍しいか!? もしかして転生者ってバレてたりするのか! ああもう、疑いだしたらきりがないぃぃぃ! あいつも! あの子も! 俺を監視してるんじゃないだろうな……!
そう思うと怖くなり俺は頭を抱えてベンチの上でゴロゴロと悶絶する。や、やられる前にやらないと……。
と、いよいよ思考がおかしくなってきたあたりで俺は誰かに話しかけられている事に気付く。
「――い、大丈夫か?」
「聞こえてるのか……? 何かぶつぶつ言ってるが……」
「……ん?」
「お、気付いたな」
上半身をあげると、そこにはおっさんというには若く、かといって若者と呼ぶにはちょっと……という微妙な年頃の男二人が立っていた。腰には剣、もう一人は短剣だろうか? を、差していた。それに皮鎧をばっちり着こなしているので、冒険者というやつかもしれない。
「何だ? 俺に何か用でも?」
「ああ、ちょっとな……」
俺が眉を曲げて訝しんでいると、二人組は語り出す。
話はこうだ、さっきの俺の様子を見ていたらしく、今日初めてこの町に来たのだろうと推測した。で、右も左も分からないであろう旅人にこの町を案内してやろうと思って声をかけた、ということらしい。
「そりゃ助かるけど、タダって訳じゃないんだろ?」
「ま、まあ、そう言われちゃ身も蓋もねぇが……代わりといっちゃ何だが、ちっとばっかでいいんだ。酒代を都合してくれねぇか?」
すると短剣の男も俺の肩を掴んで懇願してくる。
「いい身なりしてるんだから、そこそこ持ってるんだろ? お前さんは町の事を知れる。俺達は今日の酒にありつける。いい関係だとは思わないか?」
「いや……俺は……」
すると剣を差した男が逆の肩に手をおき、ぐっと力を込めてきた。
「なあ、頼む!」
そこで俺はようやく気付いた!
「もしかして俺は今、集られているのか!」
「気づくのがおせぇ!? ああ、もう面倒くせぇそのカバンに貯めこんでるんだろ? 貸しな!」
「あ! こら! 勝手にさわるな!」
くそ、面倒なのに目をつけられたな……! 男がリュックを強引に引っ張ってきたので俺は振り回されながらも食らいつく。力強いな!? 回復魔法しかない今の状況で、男達が武器を抜いたらかなりヤバい。
こうなったらパラメータ変更で力をあげるか? などと思いつつ抵抗していると、リュックの口が開いてしまいリンゴが転げ落ちた。
その時である。
「見つけたわよ! このリンゴドロボー!」
「え? ドロボー?」
声のする方を向くと、茶色の髪をした女の子が、頬を膨らませてそこに立っていた。
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