第百三十四話 始まりの前に
「ん……ここは……?」
目を覚ますと俺は布団の中に居ることに気付く。確か昨日、レヴナントを追いかけて部屋に忍び込んだはず。そして、正体を見極めようとしたが返り討ちにあったんだったな。
「あいつが運んでくれたのか?」
部屋は町に借りていた宿だったので、自動的に歩いて帰るとは思……いや、ナルレアの仕業かもしれん……。
で、レヴナントだが、確実に今いるメンバーの中で一番強い。昨日背後を取られた時の感じからいくと、恐らくエリアランドで戦ったグラオザムくらいの強さは確実にあるだろう。味方でいてくれるようだが、あいつに踊らされているのは少し癪ではあるのが本音だ。
「とりあえず起きるか……」
コンコン
と、思ったところでノックがあり、ドアがガチャリと開けられた。
「起きてますか?」
「ああ、ティリアか。今起きたところだ、飯か? 他のみんなは?」
「はい! 島だけあって、メニューはお魚が出るみたいですよ! クロウ君は聖堂の自分の部屋ですね。リファとルルカ、メリーヌさんはもう食堂に降りてます」
「……レヴナントはどうした?」
「あ、一旦船に戻るって言ってましたよ。最初に上陸したところまで戻ったら迎えに来るそうです」
「そうか」
昨日の口ぶりからすると逃げたわけではないと思う。あいつの目的が終わった、そういうことなのかもしれないな。
「それじゃ、俺もご飯にするか……」
俺が布団をめくってベッドから降りると、さっきまでニコニコしていたティリアの表情が凍りついた。
「あ、ああ……!? きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「な、どうしたティリア!? 敵か!?」
「ち、ちが……違います! て、敵……真ん中にあるそれは、ある意味そうかも……そうじゃなくて! カ、カケルさん……どうして全裸なんですか!」
「え!?」
言われてみればスースーする……! 俺は目を下に向け、手で体を触ると、ぺたぺたした感触が。そして股間のアレも、悲しいかな……朝だけに「おはよう!」と俺の意思に反して自己主張をしていた。
「す、すまん!? おかしいな……寝る前の記憶が……」
<私、寝るときは何もつけない方がよく眠れるんですよ>
「お前の仕業か!?」
ナルレアが気怠そうに言い、それにツッコミを入れていると耳まで真っ赤にしたティリアが叫んだ。
「私じゃありませんよ! い、いいから早く何か着てください!」
「ご、誤解だ! 今のはナルレアにだな……」
俺はティリアの肩を揺さぶり弁解をする。しかし、こんな押し問答をしている前に早く服を着るべきだった。ティリアの叫び声でリファ達が部屋へ駆け込んできたのだ。
「お嬢様、今の声は! ええ!?」
「昨日の今日だから敵かも……ってうわあ!?」
「ほほう……わしには何もせなんだのにのう……」
リファ、ルルカ、師匠が俺を見てそれぞれ声をあげる。
「か、カケルさん! お嬢様に何をするつもりなの! ボクにもそういうことしてくれないのに!」
「そこなのか!?」
全裸→恥ずかしがるティリア→肩に手を置く俺。
確かに、俺がティリアを襲っているように見えなくもない……
「ち、違う……!? これは……!」
「問答無用じゃ! 押してくる女より、引いている女の方が好みなのかや! ≪デスヒートタッチ≫!」
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
「……朝から騒がしいね、君達は……」
俺は後からやってきたクロウの声を聞きながら、師匠の魔法で再び眠りについた。
◆ ◇ ◆
と、まあ、そんな緊張感の欠片も無い状況が3日ほど続いていた。すぐに出発したかったが、先に船に戻っていたレヴナントが物資の積み込みをしたいと、戻ってきたからだ。船の生活はそれほど長くなかったが、ティリアの食い意地は結構負担になっていたようだった。
それも終わり、俺達は再びユーティリアの所に来ていた。出発前くらいは挨拶をしておけと、クロウがうるさかったのと、ユーティリアが言いたいことがあるかららしい。
「おはようございますみなさん。先日はありがとうございました」
「いや、こっちも手がかりになりそうなものがあったから良かったよ。えっと……献上品だ」
「まあ! ホットケーキ!」
これもクロウに言われて宿で作ってきたもので、俺達が帰った後ホットケーキを食べたいとずっと言っていたそうだ。なので、最後になるかもしれないし、できたてを届けてやった。
「それでは聖女様、僕はカケル達についていきます。できれば破壊神の復活を阻止したいと思っています」
「ふえ? ……ごくん。頼みましたよ。しかし命の危険がある時は必ず逃げることを選択してください。約束ですよ」
「いいこと言ってるけどもう食べてる!?」
「カケルさんの料理は美味しいですからね。仕方ありません」
「いや、聖女様であれはダメだと思う……」
ツッコミをするルルカにドヤ顔のティリア。そして、呆れるリファという感じだ。同じ「ティリア」とつくだけあって、外に出ることも少ないため、俺の料理で火をつけたかもしれない……。
「私達には頼むことしかできぬが、くれぐれも無理はせぬようにな。いつでもここへ帰ってくれていい」
「ありがとう、戻れる場所があるのは心強いよ」
エドウィンがいつでも歓迎してくれると言い、根なし草の俺としてはとても嬉しかった。すると、ユーティリアが一冊の本を俺に手渡してきた。
「これは?」
「あの後も書庫を調べておりましたら、出てきました。魔法書のようなのですが、私達には読めない文字で書かれているのです。異世界人であるカケル様なら読めるかと思って持ってきたのです」
「読めない文字ね……これは!?」
俺には全ての言葉が読み書きできるスキルがあるので確かに読めると思う。が、この本はスキル以前の問題だった。
「これは日本語……!?」
「ニホンゴ? カケルさんの国の言葉とかかな?」
知識欲賢者のルルカがひょいっと、俺の肩越しに書物を見る。だが、苦い顔をして引っ込んでしまった。
「全然分からないや……」
「読めるのでしたら持っていってください。お役に立てればいいのですが……」
「ありがとう。気持ちだけでも十分だよ。じゃ、行こうか」
「お気をつけて!」
俺達は聖堂を後にし、ボートで上陸した地点へと向かい歩き出す。そこで、俺はメリーヌ師匠へ声をかけた。
「そういえば師匠はこれからどうするんだ?」
「ん? お主についていくつもりじゃが?」
「そうなのか……目的は達したからヴァント王国に帰ると思ってたんだが」
師匠は肩を竦めて苦笑しながら俺に言う。
「あの地にわしの居場所はもう無い。わしを師匠と言うてくれるなら、お主の近くがわしの居場所じゃ。それに昔の事件の真相はまだ掴んでおらん。ヘルーガ教の連中、ガリウスを引っつかまえてごうも……尋問せねばな!」
「ま、俺はいいけどな。しばらくはこのメンバーで旅になりそうだな」
「フフ、最初は私のお願いを断ったのに不思議ですよね」
確かに。ゴタゴタに巻き込まれるのはごめんだとか言いながら一緒にいるな。でも世界のためじゃない。師匠やクロウ達のためなのだ。今ならティリアやルルカ、リファのお願いは聞いてもいいかな、というくらいは仲良くなった気もするけど。
「世界を救うみたいな話はごめんなんだけど……」
前の世界で母親を殺した俺が世界を救うなどあってはならない。ティリアのような真面目なやつが救うべきだと思う。ただ結果的に封印を追いかければそうなりそうだ……俺は結局、アウロラやレヴナントの手の平ということか。
「ん? あれ、ユニオンの受付さんじゃない?」
「む、本当だ。慌てているようだが……?」
ルルカが目を細めてこちらに走ってくる人物を特定し、リファが様子を伺っていた。
「目がいいなお前等。お、確かにそうだな……」
近づいてきた人影は言うとおり、ユニオン職員のイザベラだった。息を切らせて俺の名を呼びながら近づいてくる。
「カーケールーさーまぁ!!!!!!!」
「やまかしい」
「痛い!? か弱い女子に何するんですか! 罰として結婚してください!」
「鼻を摘まんだだけだろ! で、名指しで突っ込んできたところを見ると俺に用事か?」
イザベラが襟をただし、咳払いをした後、俺に告げる。
「そうですね、冗談を言っている場合ではありませんでした。ニド、という冒険者からユニオン経由で知らせが来ています。火急の件ということでしたので、すぐに内容を確認していただけませんか?」
「ニドが? あいつらヴァント王国へ行ったんだっけ。何かあったのかな?」
ユニオンに向かい、ニドの報告を見た俺は驚くことになる。
ニドが関わった人物は、俺もよく知る名前がずらりと並んでいたのだから。
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