第百三十七話 交錯する青い疾風と燃える瞳
「山合いの町か、いいところだな」
「お金が貯まったらこういうところで暮らしたいわね」
徒歩で三日ほどかかるカルモの町まではトーベンが用意してくれた馬車で移動し、一日半ほどかけてようやく到着となった。
「馬車はアドベンチャラーズ・ユニオンに置いておくんだったな」
ニドが馬車を引きユニオンへ向かっていると、白ローブの集団がビラを配りながらブルーゲイルの面々へと声をかけてきた。
「そこの冒険者パーティさん達、デヴァイン教に興味は無い?」
声の調子からすると若い男のようだが顔は見えない。
「ん? デヴァイン教?」
ドアールがビラを受け取りながら『どこかで聞いたような』と、呟く。それにアルが耳打ちをする。
「(あれだよ、アウロラ様の封印を解くため俺達より先に洞窟にいたやつらだよ)」
「(ああ、それで聞いたことがあったのか……)」
二人がひそひそと話していると、サンが近寄ってきた白ローブへと答えていた。
「……デヴァイン教へ入信するつもりはありません……私は僧侶ですけど、人を救うのに入信する必要はないと思っています……」
すると白ローブが額に手を当てて大げさな調子で声を上げた。
「おう! 残念ですね! あなたのような可愛らしい方なら 大・歓・迎! なんですが。まあ、そこは人それぞれなので無理強いはできませんからね」
「……あの、手を放してください」
「おっと、これは失礼。他の方は如何ですか?」
失礼と言いつつ、手を放そうとしない男にアルが苛立たしげに男を突き飛ばした。
「おやおや、乱暴ですねえ」
アルは男に顔を近づけて指差しながら諭すように言い放った。
「俺達も入る気は無いんだよ。またとんでもない目に合わされるのはごめんだからな。行こうぜ、ニド」
「ああ。悪いがそういうことだ。あ、そうだ、ここでビラ配りをしているなら、ここのところ起こっているらしい誘拐事件について何か知らないか?」
男は立ち上がってローブの埃をパンパンと払い、ビラを拾いながらニド達へと答えた。
「……誘拐、ですか?」
「そうです。ユニオンから通達があったと思いますが、怪しい人物を見た……といった情報はありませんか?」
コトハの言葉に男は少しだけ沈黙し、口を開いた。
「記憶を辿ってもそういった不審人物は覚えがありませんね。この町は特によそ者に対して警戒が強いので、見ない顔は……あ、ほら」
「お、兄ちゃん達見ない顔だな! こんな田舎町で稼げないぞ? がははは!」
「見慣れない顔だけどどっからきたの?」
「お、おう……港町からだ」
「あれ? あいつは……?」
町の人達がすれ違い様に次々と挨拶をしてくる。顔をじっとみながら。気がつけば男は姿を消していた。
「どこかへ行ったか。まあ、俺達には関係ない、行こう」
「ん? なんだこれ?」
ニドが再び歩き出そうとしたところでドアールが足元に落ちている紙を見つけた。
「どうしたドアール、行くぞ?」
「ああ! 待ってくれよ!」
◆ ◇ ◆
「相変わらず目撃証言も無しか」
「ええ、私達が調査に乗り出してからはぱったりね。不本意だけど、トレーネを囮にするのはアリかもしれないわよ?」
「仕方ない、一肌脱ぐ」
「まあエリンじゃ子供というには……痛っ!?」
迂闊な一言でまたも脛を蹴られるグランツ。
「ちんちくりんじゃない」
「言ってないだろう! それじゃ、いつ決行する?」
「早い方がいいと思う。そうね、あの子達が帰る時に一緒に動くのはどう?」
エリンの言葉に目を瞑って考えるグランツ。トレーネはいいとして、他の子が巻き込まれないだろうか心配していた。
「……いや、夕暮れに公園でトレーネを置いていく形にしよう。子供たちが巻き込まれるのは避けたい」
「それもそっかー。じゃあ、今日?」
「準備もあるし、明日にしよう」
「レムルに頼んで新しい服を買う」
「喧嘩してる割に意外と仲いいよなレムル様と……あとちゃんと『様』をつけろ」
グランツが二人を連れてカウンターにいるミルコットの所へ行こうとした時、ユニオンの扉が開け放たれた。
「いらっしゃいませー。アドベンチャラーズユニオンカルモ町支店へようこそ! お見かけしない顔ですが、この町は初めてですか?」
「うぐ……ここでもか……町の人間が外の人間を警戒しているってのは本当らしいな……」
「流石にちょっとうんざりしてきました……」
入ってきたのは5人組のパーティだった。見たことがない顔だ、とグランツは思い、恐らく相当数な町人に声をかけられ、まいっているのだろうと気付く。……プラス、見たことが無い人物であれば警戒をしないといけないか、とグランツが笑いながら声をかけていた。
「はは、最初はみんなそうなんですよ。俺達も最近来たんですけど、夢でうなされるくらい言われましたからね。でも一日でみんな覚えてくれるから明日からは大丈夫だと思いますよ。町の人と一緒だったりすると声をかけられなくなります」
「そ、そうなのか……教えてくれて助かる。ありがとう」
「どういたしまして♪」
と、何故かエリンがにこやかに答え、カウンターを譲ると、女性二人がエリンに笑顔で会釈しながら前へ出てきていた。
「(胸が大きい。あれはエリンよりすごいかも。でも僧侶は私とどっこい)」
「(やめなさい)」
エリンがトレーネを窘めていると、リーダーらしき男がミルコットへ声をかけた。
「俺達のパーティ名は『ブルーゲイル』という。カードだ」
ミルコットがカードを手渡され確認をすると、小さく頷き『確かに』とカードを返却してから目的を尋ねる。
「依頼ですか? 見ての通り田舎町ですからそれほど大きい金額の依頼は……」
と、いいかけたところでリーダーの男が遮って言葉を続ける。
「問題ない。『燃える瞳』というパーティと話をしたいんだが、連絡は取れるか?」
「え、俺達!?」
「え?」
「私達に何か用? おっちゃん」
「お、おっちゃ……俺はまだ25だぞ!」
「おふ……! おっちゃん……ニドがおっちゃん……!」
アルのツボに入ったのか腹を抱えて笑うと、グランツがトレーネを叩きながら頭を下げる。
「こ、こらトレーネ! す、すいません妹の口が悪くて……」
「い、いや、構わん……お前達が燃える瞳か? 俺達はトーベンというユニオンマスターからお前達を手伝うように頼まれてきたんだ」
「……聞かせてください」
ニドはコクリと頷き、グランツは人が少ない奥のテーブルへと案内をはじめる。
意外と早く見つかったと安堵しているニド達と、緊張した面持ちのグランツを見ている人影が三つ、ひそひそと話しだした。
「(トレーネ姉ちゃんが囮だって、大丈夫かなぁ……)」
と、最初に声を出したはふとっちょの少年、オッソだった。それに続き、ゴルが鼻息を荒くして拳を握る。
「(……こりゃチャンスだ、オイラ達も一緒にいって犯人を捕まえてやろうぜ! 友達を助けないとな!)」
「(でもでも、連れってくれるかな?)」
スィーが首を傾げて言うと、そりゃ無理だとオッソが返し、ゴルがスィーの肩に手を置いて笑いながら言った。
「(こっそりついて行けば分からないって! 明日って行ってたな、家に帰ったら準備だ!)」
「「(おー!)」」
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