第九十四話 竜の騎士


 カケルが王妃の治癒を行っているころ、ウェスティリア達も部屋の中で足搔いていた。しかし、魔法を封じられた部屋ではリファ以外の二人は力が乏しいので無力だった。


 ダン! ダン!


 「くそ、開かない……!」


 「リファの力でもダメですか……」


 「馬鹿力スキルは?」


 「使っているが、ビクともしない。多分、魔法障壁みたいなものだと思う」


 大人しく捕まって、反撃にでようとしたものの、思ったよりこちらの対策をされていたことに驚きながらもルルカはソファに座りなおして二人に言う。


 「こうなったらここを誰かが開けてくれるのを待つしかありませんね。今度は魔法、使わせてもらいますよ?」


 「ええ、すいません。私の判断でこのようなことになって……」


 先の件もあり、何か嫌みの一つでも言われるかと思っていたが、ルルカは笑いながらテーブルのフルーツに手を伸ばしながらウェスティリアへ言った。


 「あはは、魔王様が謝らなくていいと思いますけどね? それにヘタをすれば本当にリファの首は飛んでいたかもしれませんし……カケルさんが居ない状況で致命傷は避けたいです」


 「……随分とカケルさんを信用していますね?」


 「あのハイヒールもどきを見れば、ってところですかね。ボク自身興味があるのは間違いないですけど、お嬢様の目的にもあの人は必要だと思っています」


 「回復の力、か?」


 リファが言うとルルカは頷いて続ける。


 「そもそも、ケガだけじゃなくて服が直ったりするのがおかしいんですよ……本人はハイヒールだと信じて疑っていませんから使っていないみたいですけど、あの曲がった槍も多分、元に戻せます」


 「思っている以上に魔王としての質は高い、ということですね」


 「カケルさんとの目的がお嬢様と相容れないのであれば、ボクが一緒に行って追及する、そういうことですよ」


 「そういうことだったのか。だが、今はここから出ることを考えないと。ローブの集団が怪しいのは間違いない。国王を操っているのだとしたら、ヤツラを倒せばいいだろう」


 リファがそう言うと、ウェスティリアが口を開く。


 「そのとおりです。私は魔王……このくらいの扉、なんとしましょう!」


 「あ!? お嬢様!」


 グキ……


 「いたぁ……」


 気合いを入れて扉を殴るも、手首を挫き座り込むウェスティリアだった。


 「何か方法は……」


 リファが扉に向かって呻いた時、外から声が聞こえてきた。



 『ここです!』


 

 「ん? 誰か来たみたいですよ、お嬢様!」


 「僥倖ですね、それにしても一体誰が……?」


 さらに耳を澄ますと、聞きなれた声が聞こえてきた――



 




 ◆ ◇ ◆




 「おい、ティリア! リファ! ルルカでもいい、居たら返事をしてくれ!」



 「その声はカケルさん!? どうしてここに!?」



 くぐもったティリアの驚いた声が聞こえてくる。ビンゴだったと安堵しつつ、俺は叫ぶ。


 「出られないのか?」


 すると今度はルルカが声をあげた。


 「魔法を封じられているからボクとお嬢様は無理だよ! リファの馬鹿力でも開かなかった!」


 リファの馬鹿力……? 今はいそれを気にしている場合じゃないか、なら外側から破壊するまで。


 「シエラ、この辺がちょっと風通し良くなるかもしれないがいいか?」


 「え、ええ? ……お父様を止めるためであれば私の権限で許可します!」


 「良く言ってくれた! ティリア、今から魔法を使って扉を吹き飛ばす、端っこへ避けておいてくれ。なるべく奥がいい」


 「分かりました! ……すいませんがお願いします……」


 少し悔しげな声を出して気配が遠ざかっていくのを感じた。俺は深呼吸を一つし、手を突きだす。シエラに角まで避難するよう指示し、魔法を放った!


 「手加減はしな……あ、いや、ちょっとしておこう! ≪地獄の劫火≫……!」



 キュゥゥゥゥン……!


 ゴッ……!



 あ、これまず――



 劫火というには収束し過ぎた炎が弾けて爆発する! 見た目は派手じゃないが……


 ごがぁぁぁぁぁぁぁん!!!


 「ぐわああああ!?」


 放った俺も轟音と爆風にやられ壁に叩きつけられたが、煙の向こうに三人の影が見えて成功したとほくそ笑む。


 そう、着弾と同時にこれこの通り……!


 「あわわ……」


 「こ、殺す気ですか!?」


 「うーん……」



 「扉など最初から無かった。そう思うことにしよう」


 俺が目を細めて誤魔化していると、げほげほとこっちに来たシエラが目を丸くして叫んだ。


 「へ、へ、へ……部屋が……半分消えた……!?」


 「見晴らしが良くなったな!」


 「馬鹿ね! 木が燃えてるじゃない!?」


 おっと、被害はそこそこあったか。


 

 MP:17020/19220


 MP消費は2000ちょっとか、全力で撃ったら辺りが焦土と化さないか?


 <一定以上は威力が上がりませんから大丈夫です>


 解説サンキュ。


 「シエラ。俺達は竜の騎士達を追う。弁償は……できないが、何とか親父さんを連れて帰ってくる!」


 「はあ……いいわ、早く行きなさい。と、言いたい所だけどワイバーンに着いて行けるとは思えないから、いいものを用意するわ……!」


 「いいもの?」


 「ふふ、ちょっとワクワクしてきたわね! 来なさい!」


 「なんだあ?」


 「行ってみましょう、カケルさん状況を教えてください」


 ティリアが俺の袖を引き、そんなことを言ってきた。


 「追いかけながらでいいな? いくぞ」




 ◆ ◇ ◆



 

 「――結界もありますし、バウムさん達が簡単にやられるとは思いませんが、急いだ方が良さそうですね」


 シエラに獣臭い場所に連れられた俺達は一つの檻の前に到着する。しかし、そこには先客がいた。


 「無事だったか! それに姫も!?」


 「クリューゲル!?」


 何と檻の前に居たのはクリューゲルだった。シエラがそれに気づき駆け寄った。


 「クリューゲル! あなたこそよくぞ無事で……ここに居るということは、お父様を……?」


 「ああ、カケル達が入ってからそれなりに時間が経ったから城へ来たんだが、直後に大軍が飛び立つのを見たんだ。とりあえずサンデイを確保しないとまずいと思って強行突破してきた」


 兵士や騎士は説得で通してくれる者もいたが、気絶させる必要もあったとか。それにしてもサンデイってのは何だ? 俺の疑問を払拭するかのようにリファが訪ねていた。


 「サンデイ、とは何だ? それにこの檻は……」


 「フッ、ここはエリアランド。竜の騎士が防衛の要だ。なら、おのずと答えはわかるだろう。久しぶりだなサンデイ、少し俺に付き合ってくれ!」


 「グォォォォォ!」


 クリューゲルが檻をガラガラと開けると、ズシンズシンと音を立てながら、緑の鱗を体に纏った……ドラゴンが出てきた。


 「これ、ドラゴン!? 本物!?」


 「ああ、師団長クラスから乗れる本物のドラゴンだ。ウインドドラゴンで、名をサンデイという。ワイバーンとはまるで違うぞ? こいつで追いかけるつもりだ」


 「クリューゲル以外に背を預けないからずっと閉じ込められていたの」


 「良い顔つきですね! でもクリューゲルさんが乗ったら私達は乗れないのでは?」


 ティリアの言葉に、シエラはふふんと鼻を鳴らし、他の檻も開ける。


 「チューズディ! ファライディ! あなた達も出番よ!」


 「ガオォォォ!」「グルォォォ!」


 同じく緑の鱗をまとったドラゴンが二匹、シエラの元へ歩いて来た。サンデイと比べると少しだけ小さい。


 「ブリーズドラゴンだけど、この二匹を貸してあげるわ。速度はワイバーン相手なら途中で追いつけるはずよ。 ……お願い、お父様を止めて……!」


 「これは心強いな! チューズディ、と言ったか? よろしく頼めるか?」


 「ぐるるる」


 リファが足をポンポンと撫でると、頭を下げて軽く鳴いた。どうやら人なつっこいらしい。


 「ボクはリファと一緒に乗るよ」


 「じゃあ俺とティリアでファライディか」


 「グオウ!」


 すると、嬉しそうに吠えるファライディ。しかしティリアは首を振って俺に言う。


 「いえ、私は飛べますので、後を着いていきますよ? 速さなら魔力を駆使すれば……」


 といった所で、あからさまにがっかりした感じでファライディが項垂れた。


 「……おい、俺じゃ不満か?」


 「グルウ」


 言葉が分かるのか知らないが、軽く首を振った。が、目はちょっと嫌そうだ。こいつは雄に違いない……俺はティリアに提案をすることにした。


 「ティリア、この後の戦いは激戦になりそうな気がする。魔力はなるべく温存しておいた方が良くないか? 一緒に乗って行こうぜ。な?」


 すると、目が輝き、うんうんと頷くファライディ。中に人が入っているんじゃないだろうな……。


 「そ、そうですか? ……では、私もご一緒させてもらいますね」


 「よし、じゃあ乗せてくれ」


 「グル」


 「ん? ……よろしくな」


 俺が背に乗ろうとすると、でかい手を差し出してきた。握手を求められているのだろう。こいつはきっと賢いに違いない。一方的な友情が芽生えた気もした。


 「乗ったか? 手綱は俺が持つから、ティリアは掴まっててくれ」


 「は、はい!」


 「厩舎の屋根開けるわよ!!」


 下を見ると、シエラが厩舎係か何かに指示し、きこきことクランクを回すのが見えた。じわじわと屋根が開き、太陽が差しこんできた。入り口が小さいからどうやって出るのかと思ったけど、こういう仕掛けか。


 「俺から行く、カケル、着いて来てくれ」


 三匹の竜はゆっくりと上昇し、地面が遠くなってゆく。


 まさかドラゴンに乗る事になるとはな……封印とやらに向かったローブの集団も気になるが、今はバウムさん達を助けるのが先だ!


 「追撃戦だ、頼むぜファライディ!」


 「グォォォォォン!」


 俺達は国王達を追って空を懸けはじめた!

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