第百九十九話 それぞれの戦いへ


 <トーテンブルグ城>



 「――ということで、あの男は向こうの世界で私の兄だった者です。姫君を傷つけられたお怒りはごもっともでございます。必ずやカケルさんを元に戻し、リファル姫を救出することをお約束します」


 芙蓉が瓦礫の片づけられた謁見の間でいつもとは違う口調で国王へ話す。エアモルベーゼや影人のことといったあらゆる情報を。


 それを全て聞いた国王は、頬杖をついてからため息を吐く。


 「事情がある、ということは把握した。だが、はいそうですかと納得できるものでもない。で、これからお前達はどうするというのだ?」


 そこでウェスティリアが一歩前へ出る。


 「はい。まず必要なのは回復魔王のカケルさんを確保することです。彼でなくてはあの三人の傷を治すことは不可能でしょう。そして、影人を追いかけるというのであれば、影人を追いかけるのが近道になると思います」


 「理には叶っているが……その者の行方は分かるのか?」


 「はい。この人から話を聞くことができましたので……」


 ウェスティリアが縛られていないギルドラに目を向けると、一瞬体を震わせた後に冷や汗を流しながら口を開いた。


 「わ、我々ヘルーガ教は拠点を持たぬ……だが、教祖は屋敷を持っているのだ。ここで仕掛けてきたのも恐らくそのせいだろう……この大陸の、極北に近い場所に高い山があるのは分かるか? そこの麓に居を構えている。逃げるとすればそこだと思う……」


 「おじさん、良かったの?」


 ギルドラがそう告白すると、アニスがギルドラに向かって言う。


 「……裏切り行為だが、あの時あいつらは私を回収すると言っていたが、恐らく始末する気だったのだろう。教祖の目がそう語っていた。私は世界を混沌に陥れたいと思っているが、死ぬのはごめんだ……」


 「勝手なことを言う」


 グランツが呟くが、エリンがそれを制す。そんなやりとりがある中、ウェスティリアは国王へ話し出す。

 

 「彼の言葉が本当であれば、ですがそこへ向かうつもりです。ここからかなり遠い場所ですが、私達にはドラゴンがありますのでそれを使います。それと、同時進行で女神の封印を解きます」


 「む。それは後回しにできんのか? まずはリファル達を助けるのが先では無いか?」


 「お言葉ですが、カケルさんを元に戻すのに時間がかかる可能性も考慮しなければなりません。そして今、エアモルベーゼとして封印されているのは、女神であるアウロラ様です。女神様であれば、命を助ける方法も分かるかもしれません」


 凜として喋るウェスティリアに国王は少しだけ眉を動かし、すぐに口を開いた。


 「……あい分かった。お主の父とは知らぬ仲でも無い。光翼の魔王ウェスティリアよ、信じているぞ?」


 「ご配慮、いたみいります。それでは、急を要する為私達はすぐに発ちます」


 ぺこりとおじぎをした後、声をかけてくる人物がいた。


 「た、頼むよ君達! 妹をこのまま死なせたくはない、必ずあの男を連れて帰ってきてくれ……! 必要であれば騎士達も派遣する!」


 ジェイグの言葉に少し微笑みながら、芙蓉がその言葉に対し返答をした。


 「もちろんです。リファは私にとってもかけがえのない友人なのです。あの男の狡猾さは異常です。話術で同士討ちを狙ってくることも考えられますので、お気持ちだけ受けておきます」


 「……分かっているとは思うが、逃げようなどと思うなよ?」


 国王の言葉には返答せず、頷いて肯定すると、ラヴィーネが手をあげて発言を求める。


 「わらわは『水氷の魔王』ラヴィーネじゃ。あの三人の氷は時間と共に溶けてゆく。だからわらわが残って、氷の様子を観察させてもらう。そして――」


 「私が残る。この中だと一番役に立たないし、力も無いからもしクロウ君達が逃げたら好きにしていい」


 「えー、じゃあじゃあアタシものこ――ふぐあ!?」


 ラヴィーネがアニスと共に城へ、あえて人質として残ると宣言し、ネーベルが前へ出ようとしてラヴィーネに右フックをお見舞いされてKOされた。


 「これでいかがでしょう?」


 ずるずるとシュラムに引きずられるネーベルを無視して、ウェスティリアが国王に尋ねると、若干引き気味で国王が「分かった」と承諾した。

 

 そして一行は城を後にした。





 ◆ ◇ ◆





 <城の外>



 「ぷはあ……!! き、緊張しました! 見てくださいこの手の汗……! 知っているからそこまで言われませんでしたけど、あの様子では一刻を争いますね」


 ティリアが『この汗すごくないですか?』と芙蓉に見せつけるのを尻目に、黙っていたクロウが静かに口を開いた。


 「僕はカケルを追うつもりだけど、割り振りはどうするんだい?」


 「うむ。一応、謁見する前に考えておいたことを話そう。今回やらねばならんことは三つ。カケルを追う、影人を先に潰す、そして封印を解くことだ。まずカケルを追うメンバーじゃが、クロウとウェスティリアにナルレア、それと燃える瞳の二人で頼む」


 フェアレイターが指折りしながら確認するように告げる。


 「もちろんだ。僕はクロウ、グランツさんだっけ?」


 「ああ。俺はグランツだ。こっちがエリン。もう一人氷漬けになっている妹と合わせて燃える瞳と言うパーティを組んでいるんだ。カケルさんには命を助けられてからの縁だよ」


 「……僕もある意味そうなのかな? よろしく頼むよ」


 「あたしがエリンよ。よろしくね光翼の魔王様」


 「ウェスティリアです。必ず助けましょう」


 <ナルレアです。仲良くやってくれたら嬉しいです!>


 「小さくなった人ね? よろしくね!」


 <あ、ちょっと! 私はおねえさんですよ!>


 お互い握手をしたり、エリンがちいさくなったナルレアの頭を撫でたりしている中、フェアレイターが次のメンバーを決める。


 「影人を潰すのは……戦力的に考えて、わしとグラオザムは外せまい。それとフェルゼンだったか? 頼めるか?


 「おう。任せろ! 野郎、強かったからな、面白くなりそうだ! 爺さん、道中ちょっと修行に付き合ってくれ」 


 【ふむ。まあ、妥当なところか】


 「フェルゼンの言うとおり、ヤツは強い。できれば、くらいで考えておくぞ? 最後は封印を解く者だが……シュラムとネーベル。それとギルドラだ」


 「わ、私か!? ど、どうしてだ!? 情報は与えただろう! そ、そろそろ解放してくれても――」


 ギルドラが悲鳴に近い叫び声をあげると、クロウが目の前に立ってからニヤリと笑ってギルドラへ言う。


 「お前、封印を解いて回りたかったんだろ? 良かったじゃないか、続きが出来てさ。場所は分かってるんだろう?」


 「ば、馬鹿な!? も、もうそれどころじゃないぞ!? 教祖が本気を出したら……あ!」


 ギルドラが自らの口を塞ぐが、時すでに遅く、両脇に破壊神の力の一部である同行者二人肩に手を置いていた。


 【ほう、本気を出したらどうなるのだ? ぜひ移動中の暇つぶしに聞かせてくれ。仲良くしようじゃないか! はっはっは!】


 「おっさんと頭のおかしいヤツと一緒とか拷問じゃないのさ……アタシが可愛いからって襲ってきたら容赦しないからな?」


 「ひ、ひい……こんなことならアニス、私と代わってくれぇぇぇぇ!!」


 「それじゃアタシ達は行くよ? さっさと終わらせてラヴィーネのところに戻りたいしさ♪」


 ずるずると涙目のギルドラを引きずっていくネーベル。それを見てクロウが笑いながら手を振っていた。


 「ははは、アニスを殺そうとしたお前の罪だと思うことだね。それじゃ師匠、僕達は馬車でカケルを追うよ。まだ教えて欲しいことがあるんだから死なないでくれ……よ!?」


 クロウが生意気なことを言うと、拳骨がクロウの頭に落ちた!


 「愚か者が! わしのことより自分のことを心配せんか! あのカケルはかなり危険だ。説得が聞き入れられん場合は……始末することも考えておけ」


 真面目なフェアレイターの言葉につばを飲み込むクロウ。


 「か、回復はどうするのさ!?」


 「……その時はその時だ。さ、行け」


 「わ、分かったよ……行こう、ティリアさん」


 「はい! 急ぎましょう!」


 「これ、私の直筆の書よ。港町の船員に渡して? それでファライディまで案内してくれるはずよ。あなたなら一緒に来たから分かるでしょう?」


 「うむ。助かる。気を付けてな」


 カケルを追うウェスティリア達もフェアレイターの達と別れる。姿が小さくなってきた頃、フェアレイターが声を出した。



 「……アニスのところにいなくていいのか?」


 すると、建物の脇からチャコシルフィドと、背に乗ったへっくんが現れた。


 「吾輩とこやつは影人に用がある。悪いが、同行させてくれ」


 「へえ、猫が喋るのかよ……何かあっても自己責任だからな?」


 「~!!」


 へっくんは剣と盾を手に両手を掲げて戦闘の意思を出す。フェアレイターはチャコシルフィドとへっくんを抱えて歩き出した。


 「行くか。わしらは恐らく一番遠く、危険だ」


 【ふむ。どこかで力を補充しておきたいところだが……】


 「美味い飯でいいだろ? 腹減ったし、先に食っていこうぜ」


 グラオザムのぼやきにフェルゼンが笑いながら、的外れなことを言う。


 カケルは無事、戻ってくることができるのか?









 ギシャァァァァ!



 「ジャマダ!」


 ズブシュ!


 グィエェェェ……


 「ツキシマ……コロス……必ず、おレ、ガ……」



 

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