第百九十八話 狂気か正気か



 「わああああ!?」


 壁に激突してグシャっと潰れるであろうと誰もが思ったが、その先にはフェアレイターが待っていた。すぐにキャッチし、気絶したクロウを床に寝かせる。


 「あやつ、わざとわしのところに投げおった。皆の者、呼びかけるのだ!」


 「は、はい! カケルさん正気に戻ってください!」


 「元に戻ってリファとルルカを助けてあげてください!」


 「このままじゃトレーネが死んじゃうよ!」


 <カケル様!>


 全員でカケルを囲み、それぞれ言葉を投げかける。


 「ウルサイ! ウルサァァァイ!!」


 「きゃ……!?」


 激昂し、近くにいたウェスティリアへ殴り掛かるカケル。それをフェルゼンが止めて語りかける。


 「おう、ちょっと見ない内に変わり果てちまったなぁ! 何かに操られてんのか? そら!」


 フェルゼンが投げ飛ばして床に叩きつけられるカケル。すぐに立ち上がりフェルゼンに攻撃を仕掛けようとしたその時、カケルは頭を抱えて呻きだした。


 「グ……ウウウ……! マダ、ジガヲ……! ハヤクワレラのイチブニ……ナレ……ガ、ガアアアアア!!」


 ドン!


 「あ! カケルさんが!!」


 カケルは叫び声を上げた後、素早く走りだしてメリーヌが破壊した壁の穴から逃げ去った。あまりの速さに、ナルレアも追いつくことができず、立ちすくんだ。


 <ステータスパラメータ操作をあの状態で使った……? いけない……!?>


 ボン!


 「ああ、ナルレアさんが!」


 <しまった……カケル様と離れすぎました……>


 カケルがその場を去った後、ナルレアが派手な音共にナイスバディのお姉さんから、小さい女の子へと姿を変えてしまう。


 「逃がしたか……望みはありそうじゃったが……今は仕方あるまい。それより、ネーベルにグラオザムがどうしてここに居るのか聞かせてもらうぞ?」


 フェアレイターがクロウを抱えて呟くと、柱の影からもう一人男が出てきた。


 【わ、私も居るぞ!】


 「あ、シュラム。アンタもいたんだ?」


 【ふむ、情報交換と行こうか、フェアレイターよ】


 「わ……」


 グラオザムがウェスティリアに芙蓉を預ける。そこへ体の自由が戻った国王がリファに駆けより大声を上げる。


 「おお……リファルがこんな姿に……光翼の魔王ウェスティリアよ、説明できるのだろうな! 聞けば出て行ったあの男がリファルを助けられるようだが、リファルが助からない場合、分かっておるな!」


 「……はい、お怒りはごもっともです。私が知る限りの情報を提供します。その前に、初代光の勇者である彼女の目が覚めてからでよろしいでしょうか?」


 「よかろう。会議室を使うがいい。その間、私は城の修復を指示させよう。ジェイグ、起きんか!」


 「ありがとうございます。場所が私が知っていますので、みなさんこちらへ……」


 国王が息子のジェイグを助け起こしながらそう言い、ウェスティリア達は会議室へと移動を始め、氷漬けの三人はフェアレイターやフェルゼンといった力自慢が抱えて持って行った。




 ◆ ◇ ◆




 「で、どういうことなのだ?」


 フェアレイターが会議室へ到着するや、破壊神の力の一部である、グラオザム・ネーベル・シュラムへと声をかけると、ラヴィーネが手を上げて口を開く。


 「ネーベルについてはわらわから話そう。ヴァント王国からユニオン経由でエアモルベーゼの復活について通達があったのでな。血を使って最小限の力で復活させることも聞かされておったから、一滴の血で復活させておいたのじゃ」


 「いやあ、びっくりしたよ。復活した矢先、300年前に死んだ妹がそこにいるんだもん」


 横から挟んできたネーベルを見て、フェアレイターが眉をひそめて聞く。


 「妹? お主の妹は死んだのではなかったか?」


 すると、ラヴィーネが口をへの字に曲げて反論を示した。


 「……わらわは妹君ではありませぬぞ。ご先祖」


 「まあ、そうなんだけどさ。アタシは300年前、妹の復讐でエアモルベーゼの力を欲したけど……どうも、あの時、妹は生きてたみたいでさ。この水氷の魔王は妹の子孫みたいなのよ。いやあ、瓜二つの顔を見れた時は心底嬉しかったねぇ♪」


 「抱きつくでない! ……そう言う訳で復活させた後は他の魔王と合流を果たすべきだと考えたわらわは、魔王感知でこの大陸に二人集まろうとしているのが分かったのでこちらへ来たと言う訳じゃ。……力強っ!?」


 グググ……と、抱きつくネーベルを引きはがそうとしながら経緯を説明するラヴィーネに、フェアレイターが頷きながら納得していた。


 「なるほど。まあお主はわしと同じような境遇じゃったから、一緒にいてもおかしくは無いか。グラオザム達は?」


 「……というか、やはり生きていやがったんだな? 俺達を殺しにきたか?」


 フェアレイターが尋ねると、壁に背もたれていたフェルゼンが腕組みをしながら口を開いた。それもそのはずで、ヴァント王国でフェルゼンとグランツ達は死闘を繰り広げたのだから。


 「まだ俺は弱いかもしれないが、一矢報いるつもりだ」


 【ふむ。慌てるな、私達もお前達魔王と似たようなものだ。復活している破壊神の力の一部と合流しようと思ってな】


 【そ、それで来てみれば、貴様等と戦った後に森で出会ったあの男が――】


 「お前達、さっきの男を知っているのか?」


 【ふむ。お前達にやられた傷を癒す為、森に潜伏していた時、女を連れた男が現れたのだ。それが先程の男だった】


 グラオベンが涼しげな顔で言うと、エリンが眉をひそめて声を出す。


 「……もしかして、その女の人を……」


 【いや、丁重にお断りした。人間に施しを受けるのはプライドが許さない。で、その男は我々に『まあ、君達には今更用は無いからどっちでもいいけど』と言って、女と共に去って行ったのだ。そんな時、フェアレイターの封印が解けたことに気付いてな? 追跡をした結果ここにいるというわけだ】


 【さっきのエアモルベーゼ様の言葉も聞いていたよ。アウロラと入れ替わっていたようだったけど、どうして私達をさっさと吸収しないのか気になるね……それが分かるまで休戦といこうじゃないか、なあ?】


 「……それを信用できるとでも思うか?」


 軽く言うシュラムを睨みつけて言うグランツにびびり、グラオザムの後ろに隠れるシュラム。それを制してフェルゼンが肩を竦めた。


 「グランツ、とりあえずここは抑えておくぜ。ただし、暴れ出したら、その首は今度こそないと思え?」


 【ふむ、その言葉……そっくりお返ししよう】


 バチバチと火花を散らす二人をよそに、芙蓉をひざまくらをしていたウェスティリアが口を開いた。


 「あ、芙蓉さん。大丈夫ですか?」


 「……ここは……? 私、攫われそうに……!? カケルさんは!」


 「カケルお兄ちゃんはどこかへ行っちゃった。ルルカお姉ちゃん達もどうなるか分からない」


 クロウを介抱しているアニスがうつむきがち呟き、芙蓉が伏せる。


 「……起きたばかりで申し訳ありませんが、国王が話を聞きたいと言っています」


 「分かったわ。あの男絡みなら、私がいいでしょうね」


 芙蓉は頷き、ウェスティリアへ国王に目が覚めたことを伝えてもらうようにお願いをした。


 







 「……お前のご主人か?」


 「~」


 チャコシルフィドが氷漬けのトレーネの前で落ち込むへっくんに声をかけると、振り向かずコクコクと頷く。


 「今でこそ吾輩もアニスという新しいご主人がいるが、少し前にご主人を失ったから気持ちはよく分かる。あの男に報復をするなら、手伝うぞ」


 チャコシルフィドがそう言うと、へっくんはバッと振り向き、チャコシルフィドの首に抱きついて頭を振っていた。何もない空洞の目が何となく泣いているように見えると、チャコシルフィドは思った。

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