第三十三話 学校に一人はいるよね、こういうやつ
――実技訓練当日の朝
俺達は朝食を食べながら依頼についての話をしていた。適当に過ごしているように見えたかもしれないが、俺とグランツは交代で学院内をぶらついたり、トイレに行くフリをしてソシアさんを中心に周りを確認したりと色々やってきたが何もそれらしい影は無かった。
「……しかし、ここまで動きは無しか。」
「ですね。俺達が周りについたので動きづらくなったのでしょうか?」
グランツの言う事も一理ある。最低でもエリンかトレーネが付きっきりになっているので、手を出すのは中々難しいと俺なら思う。
「でもこのままパーティまで何も無ければ依頼達成だしいいんじゃないかしら?」
この数日でエリンもだいぶ慣れてくれ、ようやく敬語を止めてくれた。
確かに依頼の内容からすればその通りだが、ソシアさんの頭に浮かぶ『寿命残:17日』を無視はできない。運命の天秤の能力『死ぬ運命にあった人間を助けようとすると、自身の寿命が減る代わりに死の運命を傾ける事ができる』となっているから、本来ならこのまま何も無ければ俺の寿命が減ってソシアさんがパーティへ出席できるハズだがそうなっていない。
……そういえば『傾ける事ができる』となっているな。もしかしてアンリエッタの時みたいに原因を取り除かないとダメなのか?
「カケル、難しい顔をしてる。ちゅーする?」
「……お前は慣れ過ぎだよな……いい、それは大事な人ができるまでとっておけよ」
「いいのに……」
そこでソシアさんが困り笑いの顔でまあまあと言いながら俺達に尋ねてくる。
「でしたら一度離れて行動してみますか?」
「うーん、それもあまりいい方法とは言えないんだよな。連絡手段が無いから……」
「ま、今のところは大丈夫だし警戒をしっかりして生活しましょうよ。後二週間とちょっとでこの生活ともお別れだと思うと寂しいけど……よよよ……」
「うふふ、エリン達ならいつでも遊びに来ていいわよ?」
「ありがとう!」
と、友情が芽生えたところで時間となり、俺達は学院まで移動を始める。
……話を戻すと、俺が気がかりなのは二つ。
一つはソシアさんの寿命は『パーティの日付の二日前』であるということ。
もう一つは『その日までに原因となる者や事件を潰すことができるのか?』ということだ。
アンリエッタの時は無我夢中で冒険者と村長をぶちのめしたが、あれは当日になるまで何も起こらなかった、というよりも何が起こるか分からなかったので当日カタをつける事になった訳なんだけどな。
その日まで何も起こらないのであればそれこそエリンの言うとおり何もしなくて、寿命日に警戒を強めれば良さそうだが……。
考えをまとめることが叶わないまま、俺は実地訓練とやらに参加することになった。
◆ ◇ ◆
「よーし、お前等の大好きな実地訓練だ! どうせ大した事ないと思うがな! がはははは!」
「何だありゃ?」
俺は近くのクラスメイトに声をかけ、あのツンツン頭のゴリラについて尋ねてみる。
「そっか、カケル君は編入したばっかりだから知らないよね。あいつはマレウスって先生でね、まあ見ての通り脳筋さ。あ、僕はオライトって言うんだ」
インテリ眼鏡っぽい男子生徒がうんざりした感じで話を続けてくれる。そういやウチのクラスで男子生徒と話すことがあまりないな……何人かはすごい睨んでくる奴も居たし。
「貴族びいきして、庶民生徒にはくっだらない雑言を吐いてくるホント嫌な奴だよ……僕も庶民だからあいつには散々いびられてきたし……おっと、喋りすぎたね。せいぜい目をつけられないよう気を付けるんだよ?」
「サンキュー。大丈夫だ、俺は目立つ事が嫌いだからな」
「良く言うよ……ソシアお嬢様と登校してくるわ、あのレムルお嬢さんとも絡んでしかも恥をかかせたって言うじゃない」
むう、俺の隠密スキルがまるで役に立っていない……。
<そのようなスキルはお持ちではありません>
言ってみただけだよ!? 真に受けるな!
<では>
クソ……ケチがついた。それはさておき、尻尾を掴みにくくなりそうだから大人しくしないといかんな。学院は噂が広まるのが早い……。
「――には気をつけたほうがいいよ? ところで君達と一緒にいるトレーネさん、か、可愛いよねー? その、ぼ、僕も今度お話させてよ」
「え? 何だって?」
「聞いてなかったの!? そっちから話しかけてきたのに!?」
「悪い、ちょっと考え事してた。で、トレーネがどうした?」
「だから……」
「呼んだ? カケル」
「うひゃあ!? な、何でもないよ! ほら、ゴリラの言う事聞いておかないと怒られるよ」
「だな、色々助かった」
「?」
まったくとため息を吐きながら前を向くオライト。さて、あまり聞いていなかったけどそろそろ実技訓練とやらが始まるみたいだ。
「よぉーし! まずは魔法からだ。お前達はレベルが大したことないだろうから、あの的に当てれば合格をやろうじゃないか」
するとクラスメイトがざわざわとし始め、当てられるかな? なんていう声も聞こえてくる。
「当てるだけなら難しくないんじゃ……?」
「カケルはできるからいいけど、魔力が低いと発動させるだけでも一苦労。私みたいにジョブを持っていればもう少し楽になるけど」
「じゃあジョブが無い俺は?」
「おかしい」
「うるさいよ!? こうしてやる!」
「ふにゃにゃ、ほっぺはダメ」
「そこ! さっきからうるさいぞ! ……ほう、最近編入してきたソシア様の付き人じゃないか」
ゴリラが目を細めてニヤリと笑うのを見て俺は背筋がぞっとした。
「やだ、あの人怖い。何で俺を知ってるんだ……もしかして……」
「あれは犯罪者の目」
「やかましいわ!? 先生が生徒の事を知ってて何が悪い!」
それもそうだ。
「じゃあそういうことで」
「どういうことだ!? ふん、ソシア様の近くにいるようだが、貴族ではないようだなお前。丁度いい、お前が最初に実践して見せろ」
にやにやと笑いながら俺の所に来て肩をバンバン叩く。痛くは無い!
「面倒なんで……」
「先生の言う事が聞けんのか? ええ?」
ぐりぐりと拳で頬を押し付けられていると、ソシアさんが声をあげた。
「先生、カケルさんはこの学院に来たばかりです。慣れた人がやったほうがいいと思います」
「いえ、逆ですよお嬢様。この学院に入ってこれる実力があるかを確認しないといけませんからなあ。ネーレ先生は可愛いですが甘いですし? ここはこのマレウスが確かめてやろうと言うのですよ」
「しかし……」
なおも人の頬をぐりぐりと押し付けてくるゴリラに少々イラっとしていると、トレーネがぷんすかしながらゴリラを蹴った。
「カケルから手を離す。私も編入生、私がやる」
「痛っ!? おーおーこいつの彼女か? イモっぽいが可愛いじゃないか、ええ? ダメだ。俺はこいつにやれと命令したんだからな」
と、蹴っていたトレーネを突き飛ばし、よろよろとトレーネは尻餅をついた。
「痛い」
「大丈夫トレーネ? このゴリラ……!」
エリンが助け起こして食って掛かろうとしたが、俺がそれを遮った。頬はまだぐりぐりされている。
「……いいぞ、俺がやってやる。だけど一つ条件がある」
「何? そんな立場か? まあいいだろう、言ってみろや、ええ?」
「俺が的に当てたら、別の課題に変更してもらおう。そうだな……得意な魔法ができたらOKとか」
ゴリラは目を細めた後、ニヤリと笑い俺の頬から拳を放して口を開く。
「よかろう! 出来なかったら……全員不合格として1時間ずっとマラソンだ!」
「え? 嫌ですけど」
「嫌ですけどじゃねぇよ!?」
「だって、あんたが俺を指名したんだろ? それに対して俺が条件を出したんだ、この時点でおあいこだろ?」
ゴリラ、歯ぎしりをしながら悔しがってるな。馬鹿め、そうやすやすと思い通りになると思うなよ?
「もういい! できなかったら覚えてろよ」
捨て台詞もそこそこにゴリラは定位置について、俺は的の前に立つ。だいたい二メートルくらいか? なら炎弾で良さそうだが、俺は一つ試したい事があった。
この世界の魔法はイメージで魔法を創る事ができる、と、トレーネが言っていた。なら俺が魔力をいじってイメージしたらどうなるのか?
力:26 →6
速:23 →5
知:12 →8
体:22 →10
魔:32 →100
運:17 →3
これでよし……的の近くに立っているなゴリラめ!
「早くしろ!」
「分かったよ」
俺はアニメや漫画とかでよくある、でかい炎の技をイメージする。それを魔力で形作り……的に向かって放出する!
「≪地獄の劫火≫!」
俺の掛け声が訓練場に響き渡った!
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