第百三十二話 地下書庫へ
「大丈夫か?」
「う、むう……すまぬ」
エドウィンを回復し、助け起こしているとクロウ達が駆け寄ってきた。
「逃げられたね、ボク達の魔法をかき消すなんて……」
「まさかガリウスがヘルーガ教徒だったなんて……まったく気づきませんでした……」
ユーティリアが青い顔をして呟くと、クロウが元気づけようと声を出していた。
「陰気なやつだった……でしたけど、表向きはきちんとしてましたから仕方ありません。僕達にも責任はあります」
そこに師匠が先程のガリウスの言葉を思い出し、口を開いた。
「そういえば他の神官達がどうのと言っておらんかったか? もしかするとマズイことになっているかもしれん」
「そ、そうだ! カケル、すまないけど一緒に来てくれ!」
「分かった」
クロウとエドウィンに案内され、俺は聖堂内を駆け巡った。クロウの同僚である六神官の五人はギリギリ生きていたが、全員意識不明。信者はあの場にいた人以外に犠牲が無かったのは幸いだった。レオッタやトロベル、他の司祭や司教なんかも不意打ちを食らったらしく、割と血まみれだったりしたが、もれなく『還元の光』を使ったのでしばらくすれば戻るだろう。
「……ふう……ありがとうカケル」
「気にするな。こんなところで死なれたら寝覚めも悪いからな。しかし、どのタイミングで正体を現したんだろうな……」
「アヒルの村のことは気付いておらんかったようじゃから、わしらがここに来たタイミングではなかろう。あるとすれば聖女様が礼拝を休んだことで疑惑に。そして、枢機卿が呼びにいったことで確信に変わったというところかのう」
「でもそれだったらクロウ君の同僚たちを襲ったのが時間が分からないよ?」
むう、アリバイトリックみたいな感じになってきたな。もしかすると、アヒル村の連中を潰したことで、連絡が途絶えたから暴れ去る予定だったのかもしれないが……。
俺が考えあぐねていると、ふとあることに気付く。
「ん? そういえばレブナントはどうした」
「あれ? 言われてみればいないね」
ルルカがきょろきょろと見渡すがレヴナントはどこにもいない。次いで師匠が口を開く。
「あやつは部屋に残っておったはずじゃ。ついてきておらんかったぞ」
「あいつが居たらもうちょっと楽だったかもしれないのに何やってんだ……」
仕方なく、全員で部屋に戻るとレヴナントは笑顔で俺達を迎えてくれた。
「おかえりダーリン! どうだった?」
「お前な……いや、いい。村じゃ頑張ってくれてたしな。ガリウス大司教はヘルーガ教徒だったよ。後少しのところで逃げられた」
「なるほどね。で、これからどうする?」
特に興味がないと言った感じであっさり話題を変えてくるレヴナント。うーむ、協力してくれるのはありがたいが何を考えているかさっぱりわからん。だが、追及したところでこいつが何かを言うとは思えないので、とりあえず今後のことを話し合うことに決めた。
「……師匠の生存確認と、デヴァイン教の真実、それにアウロラの封印について聞くことが出来たからここにはもう用は無いかな。お前も分かっていると思うが……」
「封印の解放だね。あの電話の声は本当にアウロラなのかい?」
ん? 何か違和感が……レブナントに問いに俺は主観ではあるが答える。
「ああ、俺がこっちに来るときと同じ声だし、あの態度は間違いないと思う」
「ふうん。まあカケル君が言うならそうなんだろうね」
レブナントは淡々とした感じで誰ともなく言い、椅子の背もたれに体を預けて何か考え始めた。俺は肩を竦めてレヴナントから目を離し、ユーティリアへと声をかける。
「と、いうわけで俺達は封印を解きに各地を回ることにする。何かあっちこっち壊れてすまない」
「もしあなた方が居なかったらホットケーキは食べられ……いえ、命が無かったでしょう。窮地を救って頂き感謝します。これもアウロラ様の導きだと私は思います。すぐに発たれるのですか?」
「そうだな……ガリウス達ヘルーガ教も封印を狙っているし、できればだな。できれば『光の勇者』について調べたかったけど、アウロラも分からないんじゃユーティリアも分からないよな?」
ユーティリアは俺の言葉に頷き、申し訳なさそうに言う。
「……そうですね。私も聖女となったのも5年ほど前ですし。エドウィンは何か知りませんか?」
「私もさっぱりです。地下書庫なら何かあるかもしれませんが……」
「地下書庫! そういうのがあるんだ! ボク行ってみたいかも」
「……」
エドウィンの言葉で、ルルカがぴょんと飛んで歓喜の声を上げる。反対にレブナントは興味なさ気に目を瞑って椅子をぎこぎこしていた。
あー、知識欲に火がついたか……まあ、一日くらいならいいか?
「ユーティリア、エドウィンさん。地下書庫は俺達が入っても問題ないか?」
「本来は問題ありだが、アウロラ様の封印を解く者ということであれば話は別だ。私達と一緒で良ければ許可しよう」
「わしも興味あるのう。なら、外で待っておる二人も呼んで探すのはどうじゃ?」
「あ、そうだな。なら俺が行ってくるよ」
「わしも一緒に行くか? 迷子にならんか?」
「なるか!?」
師匠に怒声を浴びせて、俺は『速』を上げたまま宿へと戻る。
「戻ったのかカケル! ……みんなはどうしたんだ?」
「……さっきかすかですが爆発音が聞こえました。何かありましたね?」
俺はティリアの言葉に頷き、戻りながらここまでの経緯を話し、すぐに二人を連れて再度聖堂へと戻ってきた。聖櫃のあった部屋へ戻ると、ティリアがユーティリアの前で挨拶をする。
「初めまして、あなたが聖女様ですね? 私は『光翼の魔王』ウェスティリアです」
「(また女の子……)これはご丁寧に。私はユーティリア。おっしゃるとおりこのアウグゼストのシンボルである聖女を務めさせていただいております」
「あ、何だか私達名前が似てますね」
「そういえば……フフ、宜しくお願いしますね。そちらの方はリファル様ですね」
「あなたが聖女になられた時、一度お会いしただけなのに、覚えて頂けて光栄です」
二人と握手を交わし、エドウィンが早速地下書庫へ案内してくれる。聖堂の修理手配は無事だった別の司教達に頼んでいたようだ。少し長い階段を降り、突き当りに扉を見つける。
「こちらです」
カチャカチャ……ガチャン
いくつもある鍵穴のを順番に回し、鍵が開く。防犯対策で、鍵穴を順番通りに開けないとダメな仕組みのようだった。
ギギギ、と重い扉が開き中へと入る。
「≪光よ≫」
エドウィンが呟き、部屋の中に明かりが灯る。
「……うわあ……!」
「これはすごいですね!」
ルルカとティリアが嬉しそうに言う。無理もない、俺も圧倒されたからだ。
「高さも広さもあるのう」
「僕は初めて入ったよ」
「……」
「それでは探しましょうか『勇者』なるものの手がかりを」
ユーティリアの言葉に頷き、俺達は捜索を開始した。
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