第12話

『あぁ、そうさ。天月めぐるは『魔界の巫女』としての力を持つ。だからエリュシオンの安定のために見つけ出して、その秘めたる力を役立ててもらう。――女王ディスパーザ様がボクのパートナーをこの世界に差し向けたのは、そのためだ』

「っ……!」


 アインの言葉に少なからず衝撃を受けつつ、私はかつて学院長たち……先々代の『天ノ遣』から聞いた話を思い出していた。


『天月の家には、曰くがあるのです。確かに、過去においては神無月や水無月、それに如月と並ぶ『天ノ遣』の役目を担った一族でした。その秘めたる力は他の一族を凌駕し、まさに最強と謳われたこともあるほどです』

『『天ノ遣』……最強の一族……?』

『ええ。……ですが、とある事件があってから事実上、彼らは追放されることになってしまって――』


 その「とある事件」が何なのかは知らないし、特に知りたいとも思わない。……でも、今のアインの言葉はひとつの推論への大きな手がかりを提示してくれていた。


「めぐるには、魔の力を何倍にも増幅する力がある……それが、あなたたちがここに来た目的ってこと?」

『魔の力、か……。何度聞いても嫌な言い方だけど、お前たちの言葉なら当たらずといえども遠からず、ってところかな。そして、『魔界の巫女』としての力と素質を持つ者は、もうボクたちの世界の中でも数えるほど……いや、ゼロと言ってもいいだろう』

「…………」


 アインの話をそのまま信じると……メアリが狙って、大魔王復活のために利用しようとしためぐるの力は魔界に由来し、この世界には存在し得ないものであることを意味する。つまり、あの子は魔界の人々と何らかの接点か、あるいはそこに出自を持つ可能性が出てきたということだ。


「(だとしたら……めぐるは人間じゃ、ない……!?)」


 考えられない……いや、想像するだけでも怖気が走るような疑念に、全身から血の気が引くような感覚が駆け巡る。

 無邪気で、闊達で……そして、とてもあたたかいその笑顔。それが、この世界の人間のものじゃないと知らされた時、……私は今までのように、彼女に笑って向き合うことができるのだろうか……?


『……っと……』


 考え込む私の前で、アインは腕に刺さった点滴を引き抜く。怪我は完全に癒えていないはずだけど、体は動くらしい。


『うん……大丈夫そうだな。で、今度はそっちの番だ。何が聞きたい?』

「……質問というより、確認ね。正直に答えて」

『なんだよ?』

「あなたも、ゼルシファーのように……この世界を暗黒に堕とすつもりなの?」

『はぁ?……んなことするかよ、バカ』


 警戒しつつ、私としては大真面目に問いかけたつもりだったが、アインは呆れたようにため息をついた。


『ボクたちは、ボクたちの世界で生きている。干渉したくないし、されたくもない……少なくとも、ボクはそう思ってる。そうじゃないやつもいるけどな』

「そうじゃない……やつ?」

『あぁ。とはいえ、その話は長くなるから省略だ。それよりも今は、天月めぐるの行方が知りたい。どこに行った?』

「……知らない。あなたのパートナーが連れ去ったんじゃないの?」

『……ってことは、一足遅かったってわけか。くそっ』


 そう語りながら、彼女は全身に巻かれた包帯をほどく。貼られた湿布やガーゼを剥がし捨てる度に、傷一つない白い肌が露わになる。


『天月めぐるがここに居ないってんなら、もう用はねぇ。今頃は、『エリューセラ』復活に向けて準備が進められている頃だろう……そうなったら、もう手遅れだな』

「……『エリューセラ』が復活したら、どうなるの?」

『エリュシオンの再生……といいつつ、実際のところは逆の現象が起きちまうらしいんだけどな。いずれにしても天月めぐるは『マナ』を安定させる礎になって、ここのイデアと切り離された存在になる――』

「っ? それはつまり、めぐるが私たちの世界から、あなたたちの世界の人間になるってこと!?」

『当然だろ。そのために、ボクのパートナーが派遣されたんだからな』


 そういって、アインはベッドから裸足のまま飛び降りる。さっき目覚めたばかりとは思えぬほどにしっかりと床を踏みしめた彼女は、緑色の病院着を脱ぎ捨てた。


「ちょっとあなた、なにを……!」

『なにって……決まってるだろ。戻るんだよ、エリュシオンに』


 特に何も気にせず半裸になったアインは、ベッド脇に畳んだ状態で積まれていた服を掴むと身につけ始める。彼女と共に薄汚れた服は綺麗に洗濯されており、着替え終えた彼女はピンと背を張ると、よし、と気合いを入れるように呟いていった。


『まぁ、世話にはなったことだし、一応礼は言っておくぜ。この借りはいつか必ず……』

「……っ!」


 そしてアインは、部屋を出て行こうとする。――その腕を、私は無意識に掴んでいた。


『っ? な、なにすんだよ』

「……いつかじゃ、ダメ。今、借りを返して」

『今って……何で返せってんだよ? ボクが知ってることは全部話した、あとは――』

「私をエリュシオン……あなたの世界に、連れて行って」

『んなっ……!?』


 それを聞いたアインは、唖然としたように目を大きく見開く。その頼みがどれほど困難なことなのか想像もつかなかったが、彼女の驚いた反応の度合いを見ると、危険で無謀なものであることだけはなんとなく理解ができた。


『ば、バカ言ってんじゃねーよ! イデアの民がエリュシオンに行くなんて自殺行為だぞ!? 『マナ』の流れに肉体が耐えきれずに、死ぬだけだ!』

「でも、あなたはここに来ることができた。……なら、逆もできるはずよね?」

『……逆は無理なんだよ。説明しても、理解できるとは思わねーけどさ』


 そう言ってアインは悲しいものを見るような……同情しているような、複雑な表情で首を横に振っていった。


『断っておくが、別に意地悪で言ってるわけじゃねーんだ。お前が、その天月めぐるってやつのことを心配してるって気持ちは一応、理解してる。だけど……』

「嫌よ!」


 ここが病院であることも忘れ、私は叩きつけるように叫ぶ。突然の剣幕にアインは一瞬気圧されたように身を退いたが、抑えて押さえつけて、すでに爆発寸前だったこの思いはもう、止められなかった。


「なにも出来ずに待ってるのも! 迷って躊躇って、後になってから悔やんだりするのも、嫌なのっ!! 自分の気持ちに言い訳して、ごまかすのも、もうたくさんよっ!!」


 一度は我慢した。物わかりのいい子として、テスラさんとナインさんを見送った。

 だけど、今に至るまで私はその選択をずっと後悔している。もう、こんな思いは絶対に嫌だ……!


「私を連れて行きなさい……アイン! どんな手を使ってでも、私は『魔界』へ行かなきゃいけないの!」

『……断ると言ったら?』

「私はここで、あなたと戦う! そして、『魔界』に行く手段を渡してもらう……たとえ力づくになってもっ!」


 宣言とともに、アインの眼前にコンパクトとメダルを突きつける。

 彼女はすでに、私がどういう存在かを理解している……そして、これがただの脅しではないことも感じているのか、鋭い視線のままその場から動かない。

怪我人と戦うことに、躊躇がないわけでもない。だけど私も、ここで引くことは出来なかった。


『…………』

「…………」


 時間が止まったと勘違いするほどに、硬直したままにらみ合う。窓の外から聞こえる子供のはしゃぐ声が、この瞬間も時は進んでいることを示していた。


『……はぁ』


 先に動いたのはアインだった。彼女はため息と共に大きく肩を落とすと、呆れたように私を一瞥していった。


『言っとくけど、死んでも文句は言うなよ』

「そのつもりは無いわ。でも……死ぬつもりも無い」


 ポケットに手を入れて、めぐるが欲しがっていた犬のマスキングテープを握りしめる。 彼女が浚われたと聞いてから、いつなにがあってもいいようにずっと持ち歩いていたものだ。


「エリュシオンが……『魔界』が、どんな地獄だとしても……」


 少なくとも、約束したこのマステを渡すまでは死ねない。絶対に……!


「私は、めぐるを連れ戻す……! あの子は私の大切なパートナーで、一番の友達だから!」

『……。ったく、なんでこういうところまで似てるのかねぇ……』


 宣言する私に、アインは複雑そうに顔を歪めた。


『その勢いは嫌いじゃねぇ。……けどまぁ、ひどい勘違いをしてくれるもんだな』

「勘違い?」

『お前が思ってるような、エリュシオンは地獄でもなければ魔物だらけの場所じゃねぇ。ヤバくなってるのは事実だけどな』


 アインは自分で引っこ抜いた点滴のチューブを指に絡めながら、半笑いで答える。


『そりゃ、ある意味でイデアはいいところさ。エリュシオンじゃ死んでるような重傷人も、こっちの技術だとこうやって助かるんだから』

「……あなたたちの世界は、医療が発達していないの?」

『あぁ。医療の他にもボクたちの世界は、いろんなものがこの世界よりずっと遅れてる。科学じゃなく、魔法が発達した文明の限界ってヤツだ』

「科学じゃなく……魔法の文明?」

『そういうことだ。イデアから技術や物を奪うつもりはさらさらねぇ。まして、イデアを侵略するなんて論外の話だ』


 淡々と語るアイン。

 私は、彼女が語る言葉にずっと違和感を覚えていた。その原因に、ずっと気付かなかった……いや、違う。気付いてはいたけど、勘違いだと思い込んでいた。

 でも今、ずっと燻っていた違和感の正体が見えた気がして。思い切って尋ねてみることにした。


「『魔界』は、私たちの世界を奪うつもりじゃないの?」

『そういうことを考えるヤツもいるにはいる、ゼルシファーみたいにな。だけど、そんなバカはボクたちの世界でも千年に一度現れるかどうか、ってレベルの異端児だ』

「じゃあ、あなたたちは……この世界を乗っ取るつもりはないのね」

『さっきも言ったよな? エリュシオンの民は、自分たちの世界を維持するだけで精一杯だ。こっちの世界を支配することなんざ興味ない。みんな、のんびり毎日食って仕事して、遊んで寝て……そんな毎日を過ごしたいだけさ』

「……『魔界』にも、いろんな人がいるのね」

『当たり前だろ。それとも、お前たち人間とか他の動物とかはみんな、同じことを考えて生きてるってのか?』

「…………」


 今度は、私が黙る番だった。

 私がご飯をたくさん食べることを、みんなと違うと揶揄されたように。ルンルンとリンリンだって同じ犬種で、顔や声はそっくりでとっても仲良しだけど、性格は全く違う。

 同じ種類の存在だからといって、全く同じだなんてあり得ない。そんなことは私が一番わかっていたはずなのに……無意識のうちに、『魔界』の人はみんな同じだと思い込んでしまっていたようだ。


『理解できたみたいだな。天月めぐるをエリューセラとして覚醒させたいヤツもいれば、ボクたちのようにそれを危機と感じて阻止したいヤツもいる。そんだけの話だ』

「……だったら、なおさらわからないわ。どうしてあなたは……」


 あなたは、どうやって『魔界の巫女』が危険をもたらす存在であることに気づいたのか――そう尋ねようとした、その時だった。


「っ!?」


 彼女の足下に、一輪の白いバラが突き刺さる。顔をあげると、開かれた病室の出入り口を塞ぐようにマントを大きくたなびかせていたのは……。


「ミスティナイト……!?」


 仮面とマントをまとった、ミスティナイトだった。いつの間に現れたのだろう、全く気付かなかった。

 アインは突然現れた男を注意深く睨み付け、先程とは違い全身から敵意を漲らせながらゆっくりと構えた。


『……この花はどういう意味だ?』

「見舞いだ、魔界の少女よ。意識が戻ったようで幸いだ……」


 アインが下がるたびに、ミスティナイトは病室に踏み込んでいく。

 一見すると彼に気圧された故の反応に見えるけれど、彼女の身体は窓際に向かってじりじりと後退し始めていた。


「できれば、お茶でも飲みながらゆっくり話を聞かせてもらいたい。どうだろうか」

『お気遣いどーも……けど!』


 瞬間。アインはカーテンを掴むと力任せにそれを引き寄せた。轟音と共にカーテンレールが文字通り壁から引き剥がされ、一瞬その姿が消える。


『あいにく、こっちは急いでんだ!』


 カーテンが落ちきった瞬間、彼女の姿は見たことのない衣装へ代わっていた。

 白と紫色を基調に、金色の刺繍が入った薄い布を幾重にも重ねたそれは、華やかかつ繊細な輝きを放っている。

まるで教科書で見た太古の女神か神官……いや、巫女のような厳かさ。ツバメを彷彿とさせる二股に分かれたマントが四階の突風に吹かれて踊って、その風はアインがカーテンレールと共に窓ガラスを破壊したため……と私が理解した頃には、彼女は窓枠に足をかけていた。


『アイツをとっ捕まえて、ぶん殴らないといけないんでな!』


 そして彼女が両足で窓枠を蹴り、勢いをつけて窓の外に向けて飛ぼうとした寸前。


「――待ってっ!」

『んがっ!?』


 アインの白いマントの裾を右手で掴んだ瞬間、ふわりと足下が床から離れた。エレベーターが上がる瞬間に似た浮遊感を感じた次の瞬間、私は彼女に引きずられるようにして病院の外へ飛び出していた。


「っ、ま、待てっ!!」


 窓枠に飛び付いたミスティナイトの姿が、どんどん小さくなっていく。病院の中庭で散歩していたおばあさんが、ぽかんと口を開けて私を見上げているのが見える。それも当然だ、今の私は生身で空を飛んでいるのだから。


『っ……! どっ、どういうつもりだテメー!』


 文字通り上から浴びせかけられた罵声に顔を上げると、焦燥と怒りを浮かべたアインが青空の中で私を見下ろしている。私がマントに飛びついたせいで、時折体勢を崩しそうになっているのを必死にコントールしているようだ。

 風圧で、まともに呼吸が出来ない。……それでも、私は彼女を睨みつけながら力の限り叫んでいた。


「約束よ! 私を、『魔界』に連れて行きなさい!」

『はぁ? 約束までした覚えはねぇぞ!』

「なら、ここで墜落しなさい……私と一緒に!」


 メダルとコンパクトを握りしめた左手を、見せつけるようにかざす。

 ここでアインを逃したら、私は今度こそ、めぐるに繋がる手がかりを全て失ってしまう……絶対に、手放すわけにはいかなかった。


『わかったわかった!……あぁ、くっそ! 伝説通り、天使ってヤツはしぶとい上に根性座ってやがんな!』


 どこかすがすがしい様子で叫びながら、彼女は私に右手を差し出した。


『ソレをしまって、こっち掴まれ! マント握られたまんまだと、真っ直ぐ飛べねぇ! エリュシオンに戻る前に、マジでボクごと落っこちるぞ!』

「っ……!」


 一瞬、コンパクトを手放すことを躊躇した。いつでも変身できるように構えていなかったら、彼女は私を振り落として一人逃げ去るかもしれない。

 彼女は『魔界』の住人だ。みるくちゃんが言っていた……先代の快盗天使たちを、そしてめぐるを苦しめたのと同じ存在。


「(でも、この子は……)」


 アインはさっき、私をまっすぐに見つめながら言っていた。めぐるを『魔界の巫女』にしたい人もいれば、自分のようにそれを反対する人もいる、と。

 彼女がパートナーと呼ぶ子に逆らってまで、それに抗う理由は……わからない。それがある以上、その言葉を全面的に信頼することは出来ない。

 あるいは、アインもまた何かの思惑があって利用しているだけなのかもしれない。けど……。


「信じるわ……アイン!」


 私はポケットにメダルとコンパクトを収め、開いた左手を差し出す。すると彼女はニヤリと笑い、私の手を力強く握った。


『身体の力を抜けっ。風の『マナ』を同調させる!』

「同調って……きゃっ!」


 その瞬間、地面と平行に浮いていた私の足が宙に浮きはじめる。まるでアインの浮力が私に分け与えられたかのように、身体が安定した状態で飛行を始めた。

 速度も安定性も、さっきまでとは桁が違う。彼女は『魔界』は技術的に劣っているといっていたけど、生身で空を飛べんでいるのはどういう原理なのだろう。


『……おい、お前。如月すみれ、っていったな』

「ええ。なにか……?」

『ボクとしては、信じてくれるに越したことはないんだけど……なんで、信じる気になったんだ?』


 一人考え事に没頭していると、不思議そうにアインが尋ねてきた。


「全部信じたわけじゃないわ。でも……あなたはおそらく、私の敵にならない。あくまで今のところは、という条件付きだけど、……そんな感じがしたの」

『よりにもよって、一番証明しにくいことを根拠にしてくれたな……』


 呆れたような、それでいて楽しそうにアインは笑顔を浮かべた。獣を思わせる、獰猛な笑顔。

 そしてそれは、人外の雰囲気を感じさせて一瞬、背中に戦慄が走った。


「……ねぇ、アイン」


 さっきまで風圧で苦しかったのに、今は嘘みたいに呼吸が楽になった。髪が風に乗って踊る感覚が、今は心地良いぐらい。だから、今なら聞ける気がした。


「めぐるを連れ去ったのは、やっぱりあなたのパートナーで間違いないの?」

『おそらくな。アイツがしくじるとも、思えねぇし』

「……それは、強いってこと?」

『困ったことに、ボク一人だと戦っても勝負にならねぇよ。だから先に天月めぐるを確保して、そこで説得を持ちかけるつもりだったんだが……この分だと、多少の荒事は避けられねぇかもな』

「…………」

『それに、あの襲撃現場……問答無用でボクや、この世界の連中に危害を加えたってのが、気になるんだ。ボクの知ってる限り、あんなことをするヤツじゃない……』


 ぼそりと呟いたアインの声が、妙に物悲しく風にかき消される。目的のためには手段を選ばない……そんな非道の輩が神社を襲撃し、めぐるをさらったのだと思っていたけど、それは違うということなんだろうか。


「(じゃあ、いったい誰が……?)」


 そんな疑問に対して、私の頭の中に浮かび上がってきたのは、……先日テスラさんとナインさんから聞いた、ブラックカーテンという存在だ。

 かつては邪悪の象徴だったダークロマイアに属し、大魔王ゼルシファーを慕う幹部の一人。もしそれが今回の一件になんらかの関わりを持っていたのだとしたら、あの襲撃があったこともうなずけるだろう。

 その可能性と、危険性について考えをめぐらせかけた――その時。


『くっそ……早すぎだろ!』

「どうしたの?」

『後ろだ、後ろ!』


 焦った声に思わず振り返ると、遥か後方からぐんぐんと迫る黒い点……いや、飛行機が近づいてくるのが見えた。遠目すぎてコックピットの中までは見えないけれど、そのカラーリングには見覚えがある。


「あれは、長月さんの……」

『やっぱ追っ手か!』


 そう叫んだアインは、懐に手を入れると黒い石のような物を取り出した。

 小指の先程しか無いそれは宝石のような輝きを放っており、彼女はそれを睨み付けると苦々しげに舌打ちした。


『緊急用だったんだが……仕方ねぇ!』


 彼女は石をぎゅっと握りしめると、水平線にそれを虚空へ投げる。すると石は突然黒く輝き始め、飛行進路上に楕円形に光るサークルが現れた。


「あれはなに!?」

『強制的に時空間の転送ゲートを開いた! このまま突っ込むぞ!』


 私の手を握りしめたアインは、一段と飛行速度を上げた。背後から巨大なジェット音が聞こえる。もうすぐそこまで、追っ手が来ている……!


『振り落とされんなよ!』

「言われなくてもっ……!」


 間近に迫る黒い闇。ぞわりと背筋を這い上がるような悪寒を、めぐるの姿を思い浮かべることで押さえ込んだ。


「(こんなの、めぐるに会えないことと比べたらっ……!)」


 そして、私たちは闇の中を切り裂きながら突き進む。全身を締め上げるような圧迫感の中でも、私の意思と、そして目的は変わらない。


「(待っててめぐる……今、行くから!)」

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