第25話
「宿れ、雷……! 閃光の、剣にっ――!!」
「――ファントム、アウトレイジ!!」
テスラさんが放った雷撃を受けて光銀に彩られたナインさんの剣が、大地を叩き割らんばかりの勢いでダークトレーダーへと振り下ろされる。
全力が込められたその斬撃は、まさに必殺の一撃。たとえかわしたところでほとばしる電磁の嵐が同時に襲いかかり、無事で済むはずがない――。
だけどダークトレーダーの動きと対応は、こちらの予測と目論見を軽々と越えて打ち砕く「ありえない」ものだった。
「……ふんっっ!!」
「っ?――ぐうぅぁっ!!」
大剣の刃が男の脳天をとらえたかと思った刹那、ナインさんの大剣はなにか壁のようなものに阻まれる。続いて裂帛の気合と同時に生み出された衝撃波によって、彼女の身体は軽々と跳ね返されてしまった。
「なっちゃ、……きゃぁぁっ!?」
とっさに反応したテスラさんは飛んできたナインさんを全身で受け止めたが、その勢いに踏みとどまることもできず壁際まで吹き飛ばされる。二人はもんどり打って地面に倒れ、すぐに起き上がろうとしたが……相当のダメージを負ったせいか、呻き声とともにその場へ崩れ落ちていった。
「テスラさん、ナインさんっ……!?」
『な……なんだあの、でたらめなヤツは!?』
驚愕の表情を浮かべて、アインは悲鳴に近い声を上げる。
フェリシアとカシウスの時と同じく、圧倒的な力の差。鎧袖一触というが、あの歴戦の彼女たちが一太刀も浴びせることができないなんて……!
そして、そんな私たちを見据えながらダークトレーダーは先ほどとなんら変わることがなく、悠然とした姿勢のまま立っていた。
「っ、……アイン!」
『うまく合わせろよ!――はぁああぁぁっっ!!』
短い合図とともにアインは勢いよく跳躍し、天井すれすれにまで舞い上がると石造りのそれを力強く蹴って急降下をかける。
ダークトレーダーに対する、頭上からの突撃。バイザー越しに見上げた彼は、その手をすっと持ち上げて迎撃の構えを取った。
……刹那、私に向けた注意がわずかにそれる。その空いた隙が、やつの間合いへと飛び込む一瞬の好機だった。
「(真上と、下からの同時攻撃なら……っ?)」
私は『サファイア・ブルーム』を構えながら、ダークトレーダーの死角から一息で接近する。
頭上からのアインと、地上の私。めぐるとは何度も仕掛けた、二方向からの同時攻撃だ。どちらの攻撃が防がれたとしても、もう片方の攻撃が届けば……!
「ふんっ!」
だけど、あと数ミリでアインの足と私の切っ先が届く――その寸前で、無造作に掲げたダークトレーダーの右手が突如まばゆく光り出した。
「なっ……きゃぁああっ!?」
『うわぁっ!?』
その光の正体を確かめるよりも早く、腹部に衝撃が走る。そして次の瞬間、私は地面に叩きつけられていた。
「かはっっ……!?」
口からきな臭いものがこみ上げ、激しくむせ込みながらその場にうずくまる。鋭い痛みが全身に伝播し、そこでようやく私は迎撃されたことを理解した。
『っ、くっそ……!』
気づけば、すぐそばでアインも倒れている。反撃を想定していた分テスラさんたちよりはまだましに見えたが、彼女の表情は苦痛よりも驚き、そして困惑に彩られていた。
「っ、ぐっ……!!」
『サファイア・ブルーム』はすぐそばに転がっていたので、私はそれを手に取ると身体を起こして膝をつく。……頭も少し打ってしまったのか意識が一瞬揺らぎかけたが、なんとか立ち上がることができた。
「あ、アイン……大丈夫っ……?」
『なわけ、ないだろ……っ。魔力も跳ね返すのか、あいつは……!』
そう言ってアインはゆっくりと身を起こすと、憎々しげにダークトレーダーを睨み付ける。私も顔を戻して、反撃に備えるべく腰を落として身構えたが……その視線の先で男がその手に、何か光るものを持ってかざしている姿が目に映った。
「(あれが……さっきの、光の正体……?)」
薄暗いのと、少し距離があるのでよく見えないけれど、……鎖のようなものに吊されたそれはペンダントか、御守りのようだ。そして、いったいあれは何なのかと目を凝らしたその時――私たちから離れた場所で立ち上がったテスラさんが、あっ、と声を上げた。
「あれは、『天使の涙』……?」
『なんだ、その天使の涙ってのは、いったいなんなんだ?』
「私たちが通う、聖チェリーヌ学院が所有する宝石……セブン・アミュレットの一つです。雌雄一対で聖杯の力を強く宿すとされている、アスタリウムの結晶体……!」
その説明を受けて、私も思い出す。確か、以前に聖チェリーヌ学院の高等部を訪れた時に、改築されたばかりの特別聖堂の中で展示されているのを見たことがあった。
その時は素直に綺麗な宝石だな、と思っただけだ。だけど、まさかこんなところで再び見ることになるなんて……!
「『天使の涙』は、お父様が若い頃に『天ノ遣』からその一方を奪い取り……もう一方を奪う使命を帯びて、私たちは一年前に聖チェリーヌ学院へ潜入したのです。遥さんや葵さん、クルミさんと知り合ったのはそのことがきっかけ……」
「……それで、お二人はどうしたのですか?」
「……。結局、私たちはそこでお父様に裏切られて……危うく命を落とすところでした。その後彼は首尾よく一対の『天使の涙』を手に入れることになったのですが、遥さんたちの活躍で両方とも奪い返され……現在は、再建された特別聖堂で厳重に保管されているはずです。なのに……!」
ここは1000年前のヨーロッパで、私たちの住んでいる世界とは明らかに違うところだ。……にもかかわらず死んだはずのダークトレーダーが現れた上、その手には聖チェリーヌ学院にあるはずの秘宝が握られている……?
落ち着いて整理しなければ、混乱しそうだ。そんな思いで頭を抱える私の横で、テスラさんはいち早く理解したのか呟くようにいった。
「『天使の涙』を持っているということは……やはり、あれは私たちの知らない「お父様」なんですね……!」
「では、あれが先々代の天ノ遣が戦ったという、あの……?」
「ええ。……お父様は、かつて時を遡る力を手に入れたと言っていました。だからもし、それが『このこと』だったとしたら……!」
「――いえ、違います」
だけど、そんな推測をあっさりと否定したのは、私のそばで浮かぶ天使ちゃんだった。
「て、天使ちゃん……?」
「あれは、あなた方が知っている「ダークトレーダー」というものではありません。先々代の天ノ遣が戦った相手とも、ハルカたち快盗天使が倒したのとも違う。まして、テスラとナインの父親代わりであった男とも『違う存在』です」
「……っ……!?」
ようやく理解しかけた疑問に対する答えを全部ご破算にされ、私たちは言葉を失ってその場に立ち尽くす。とりわけテスラさんとナインさんの動揺は激しく、戸惑いは怒りにすら染まって天使ちゃんに迫っていった。
「じゃあ、あれはいったい何者なんです!? まさか、お父様に姿形が似た全くの別人とでも言うつもりですかっ?」
「……それが、一番正解に近いのかもしれません」
「なっ……!?」
「っ、……意味、不明……っ!」
「言ったはずです。ここは、可能性の世界の分岐点だと。そして、この世界があなた方の世界に直結していると私は断言していない……いえ」
そして、その可愛らしい外見がかえって恐ろしく思えるほどの淡々とした響きで、天使ちゃんは……告げた。
「この世界の結末に、イデア――あなたたちが暮らしている未来は存在しません。ここが最終的に行き着く先は、エリュシオン。……魔界です」
「……! それって――、っ!?」
意味がわからずなお質問を重ねようとしたその瞬間、ぞっとするほどの殺気を感じた私たちは反射的に左右へと飛びすさる。……その直後、さっきまで立っていた地面が吹き飛び、散らばる瓦礫と塵芥の向こうには攻撃を繰り出すダークトレーダーの姿があった。
「……何度も言ったが、私には時間がない。話がしたかったら、そのゲートの鍵を渡してからゆっくりとするがいい」
「……っ……!」
天使ちゃんの説明に不可解さは残っているものの、目の前に立ち塞がるダークトレーダーを無視するわけにもいかず、私たちは身構える。
だけど……若かりし頃というならまだしも、正体が不明である現状ではやつの戦闘能力は未知数だ。おまけに、その手には私たちがアストレアから渡されたものと同じ……いや、下手をするともっと強い力を秘めたアスタリウムが握られている。
まだ攻撃を仕掛けたのは数回だけど、正直言って私たちが束になってかかっても勝負にすらならないのは明白だった。
「(そんな相手に、どうしろっていうの……!?)」
私たちの攻撃は、全て阻まれた。そんな状況で己を叱咤しようとしても、自分の思考はもはや現状の打開策を模索することに対してすら恐怖を抱いていた。
それはきっと……テスラさんとナインさんも、同じだろう。いや、むしろ姿形が全く同じなのに別人だと断言されて、……戸惑いと絶望感は私たち以上かもしれなかった。
「(ここでペンダントを奪われたら……二度と、めぐるに会えなくなるかもしれないのに……!)」
そのことを理解しているはずなのに……そして、そのためにはあの強大な存在を打倒しなければならないのに、……気持ちが挫けそうになってしまう。
今までは、どんな敵でも立ち向かうことができた。勇気を振り絞ることができた。……だけど、あの男に対してだけは……どうやって立ち向かっていいのか、わからない。
アインとともに旅立ってから、ここまでたどり着いた。だけど今この瞬間になって、私はどうやってこの先を進めばいいのか、答えが出せなくなっていた。
『お前らが何いってるのか、さっぱりだけどよ……』
だけど、彼女――アインだけは顔を上げて、瞳から力を失わないまま目の前のダークトレーダーに対峙していった。
『あのペンダントがあいつの手にある限り、こっちの攻撃は全く通らないってことか。……ずいぶん、おかしな展開になってきたじゃねーか』
「あ、アイン……」
『……だけど、まだ終わっちゃいない』
口元を乱暴に拭い、アインは足を踏み出す。ただ足取りはおぼつかず、まだ十分に戦えるような状況ではないことは明らかだった。
『肝心の、エリュシオンに向かうゲートの鍵は奪われてないんだ。……なら、まだやりようがあるってことさ』
「…………」
無理だ、と私は思わず言いかけたが、その言葉を口にすることは負けを認めることと同義と思い直し、寸前で口をつぐむ。
アインの発言は、蛮勇を通り越して無謀の域にすら足を踏み入れたものかもしれない。……だけど、ここまで絶望的な状況下でも諦めない彼女の強さこそが、今の私が守るべきものだった。
『ボクは、あいつを……エンデを、止めなきゃなんねーんだ。ここで立ち止まるわけにはいかないんだよ……っ!』
「…………」
そんなアインの姿を、ダークトレーダーは無表情を貫いたまま見つめている。……いや、見ているかどうかはその目がバイザーに隠されているために、はっきりと判別することができなかったが。
「……ならば、お前から先に逝くか。アースガルズの民よ……?」
『っ、……くっ……!?』
「……待って、父さま……っ!!」
「止めてください、お父様! あなたは……あなたは、間違っています!」
テスラさんたちの悲痛な叫びが、なおもダークトレーダーに向かって投げかけられる。しかし、
「……しつこいな。貴様らに、父と呼ばれる筋合いは無いと――」
「それでも……それでもっ! あなたは、私たちの大切な人です! だからっ――!!」
突き放すようなダークトレーダーの声にも、テスラさんとナインさんは動じない。そして再び電撃を、剣をとって身構えていった。
「あなたが、何者であったとしても……たとえ、巡り合わせを違えて関係が耐えていたのだとしても!……あなたをここで、止めなければいけないのです! そうしなければ、いずれ……あなたが、苦しむことになるから!」
「…………」
「父さま……っ……!」
決意に満ちた瞳で、ナインさんが剣を構える。おそらく困惑はまだ続いているのだろうけど、それでも彼女たちは自分のやるべきことを選択していった……!
「お願いです、お父様……! 私たちの話を聞いてください、そして……!」
「まだいうか……小娘どもがっ!!」
すると、それまで一歩も動かなかったダークトレーダーが苛立ちまじりに叫んだかと思うと、マントを翻して宙を飛ぶ。そして、烈風のような勢いで私たちへと突進してきた。
「遅い……!」
「きゃあぁあっ!」
構える間もなくその攻撃をまともに受けて、私たちは吹き飛ばされる。地面に叩きつけられ、全身の痛みで遠のきそうになった意識を奮い立たせて顔をあげると、その先には男の攻撃をかろうじて防ぐ、テスラさんとナインさんの背中が見えた。
「やめて、父さま……っ!」
「あなたが何をしようとしているのかわかりませんが、それは……それは、そんなにも価値があることなのですかっ!?」
「――――」
決死の呼びかけもかかわらず、ダークトレーダーは無表情で自分を父と呼ぶ姉妹を振り払う。そのまま胸倉を掴み、二人の体を地面へ叩きつけた。
「あぐっ……!」
「ぐっ、ぅ……!!」
「テスラさん! ナインさん!」
返事は無い。かろうじて二人とも呼吸はしているようだけど、また攻撃を食らえば本当に死んでしまうかもしれない……!
「……ダークトレーダー! あなたの目的はなんなの!?」
「…………」
「応えなさい、ダークトレーダー……いえ、クラウディウス! そこまで波動エネルギーを憎んで否定するのは、どうしてなの!?」
答えなんて、最初から期待していない。テスラさん達から意識をわずかでもそらせて、彼女たちが体勢を立て直す時間稼ぎができれば、と呼びかけただけだ。
だけど……。
「……私はこれから、人間たちが積み重ねてきた愚かさを正すのだ」
意外にも、ダークトレーダーからの答えが返ってきた。
「そして、この間違った歴史を変えて正しき歴史を導き、過ぎたる力を封印する」
「過ぎたる力…… それって、アスタリウムのことなの!?」
「そうだ。波動エネルギーを、この世界から消し去る……」
そう口にしながら、ダークトレーダーは一歩、また一歩とゆっくりした足取りで私へと近づいてくる。
見上げるその体は遠くから見た時よりもずっと大きく……強く……恐ろしかった。
「アースガルズの民がもたらした波動エネルギー……あれは、この世界にあってはならぬものなのだ。異世界からの過剰な恩恵は、その反応によって闇を生み出す……!」
『わかわかんねーこといってんじゃねーぞ、この野郎!』
瞬間、アインがダークトレーダーに向けて突撃する。その手には光る刃のようなものがある。
おそらく、彼女が隠し持っていた武器なのだろう。この距離なら、あるいは――?
「ふんっ!」
「ぐっ……!?」
「アイン!」
だけど、その刃をダークトレーダーへと突き立てようとしたその攻撃は、やはり障壁によって阻まれる。そして繰り出された衝撃波が、彼女の身体を容赦なく地面へと叩きつけた。
「しっかりして、アイン!」
『っ、……全然、……歯が立たねぇ……っ、くそ……っ!』
「アイン……!」
『ほんと、なんなんだよ……! ボクたちは何と、何のために戦ってるんだ……!?』
「っ……!」
その言葉は、そのまま私の疑問だった。
めぐるの失踪に、アストレアの謎めいた戒め。そして味方のつもりでいた天使ちゃんの奇妙な発言……。
そしてここに至っては、私たちが立ち向かうにはあまりにも強大すぎる敵の存在だ。いくら正義のため、そして天使ちゃんに託されたからといって、ここまで自分たちの思惑を越えたものだらけだと……正直言って、心を保つことが苦しかった。
「(こんな時、めぐるなら……めぐるならどうする……!?)」
めぐるなら、きっと正義であることに理由なんか求めない。どんな相手だろうと、必ず立ち向かうだろう。だけど今の私たちでは、どうやっても相手にならない。
立ち向かわなければ、道は閉ざされる……だけど立ち向かっても、殺されて終わる。
これを八方塞がりと言わずして、何をそうだと言えるだろう……?
『おい……すみれ……』
と、その時だった。
弱々しいものの意志の強さを感じさせる声が、耳朶を打つ。はっと顔を向けると、アインが片腕を抑えながら立ち上がろうとしていた。
『……お前、まだ戦える……か?』
「え、えぇ……。でも……!」
初撃は『天使の涙』を用いた壁に弾かれた。このまま攻撃を続けても、同じことを繰り返すだけじゃないか――そう言い返そうとして、息を飲む。
アインの瞳は、今までになく強い輝きで私を見据えていたからだ……!
『戦えるかって、聞いてるんだ……!』
「…………」
アインはまだ諦めていない。あんな強大な敵を前にしても尚、立ち向かおうとしている。その姿が一瞬めぐると重なった私は、何とか挫けそうになる気持ちを叱咤し、頷き返した。
「……えぇ、大丈夫」
『そうか……なら、まだ策はあるな』
アインはゆっくりと立ち上がり、荒い息を吐き出す。先ほど地面に叩きつけられたダメージがまだ残っているようだけど、……そんな身体で、彼女はいったい何をする気なのだろうか。
『ちょっと前に、一緒に飛んだ時から思ってた。お前なら……あいつを倒せるかもしれない』
「えっ……」
『だから頼む、協力してくれ……!』
「協力……?」
『ボクたちエリュシオンの民は、『神の武器』に宿る精霊の血を受け継いでいる。だから、自分の宿主と決めた相手と融合することで、祖先の力を蘇らせることができる……』
「神の武器……? 融合……?」
聞きなれない単語が次々と流れ込んできて、うまく飲み込むことが出来ず混乱する。そんな私の顔を見て、アインはにやりと笑っていった。
『そんなしかめっ顔すんなよ……話は簡単だ、武器をやる。そいつで戦え』
「その武器で、あいつを倒せるの?」
『それはお前次第だ。とはいえ、これが最後の手段……もう他に方法が……ねぇ!!』
「きゃっ!?」
その瞬間、アインは私を抱えて後方へ飛んだ。上空から見下ろすと、私たちが座り込んでいた場所には巨大なクレーターが発生し、またしてもすれすれのタイミングでその中心でダークトレーダーがこちらを見上げているのが目に映った。
『覚悟決めろよ、すみれ!』
「わ、わかった……!」
熱をはらんだ夜風の中、アインは再びにやりと笑うと私の手に自分の手を重ねる。その手は温かいを通り越し、強い熱を帯びていた。
『へへっ……まさか、イデアの人間と『契約』をすることになるとはねっ……!』
そして聞いたことのない、アインの厳かにすら響く叫びが周囲をうち震わせた。
『――幾百幾千の、わが同胞たちに告げる!』
「……っ……?」
『われは長き旅路の果て、ここに安住の地と身命を捧ぐ主を見つけたり!』
焼け焦げた世界を癒すかのような清廉とした宣言が成された瞬間、風が一瞬止まる。
背中に強い光が差し込み、アインの手が少しずつ輪郭を失い、光の粒子となって手の中に収束し、……幼生が一度その身を溶かして蝶へと姿を変えるように、アインを構成していた光の粒子が再び形を成していった。
『告げよ、わが名を!』
「っ……!?」
『――――』
一瞬、アインの声でささやくような一つの名を。それに戸惑いながら、私はぎこちなくそれを反芻していった。
すると、高らかな宣言と共に、再び世界に風が吹き荒れて――。
『われは『アイン・ゲイボルグ』! 全てを穿ち貫く、はじまりにしてただ一つの『破邪の矛』なり!!』
「なっ……!?」
「こ、この力は……!?」
困惑と驚きに満ちたテスラさんとナインさん、そしてダークトレーダーの声がぼんやりと遠くから聞こえてくるような感覚だった。
目を閉じ、そして全身に熱い昂ぶりを感じて勢いのまま再び目を開けたその瞬間――。
「……。これは……なに……!?」
そして気が付けば、私の手は一本の槍を握り占めていた――。
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