第9話 文化祭は星空に

 翌日、教室に入ると速攻で楓哉と美羽に連行された。


「なんだよ」

「昨日のインスクの女の子!誰なの?」

「言わない」


 こういう時は聞かれたことに最低限のことだけで答えれば良い。


「うち知ってる?」

「多分」

「じゃあうちとの交流はある?」

「ないんじゃない?詳しくはわからないけど」

 そして楓哉が何か言ってきそうだったが、

「これ以上は黙秘権を行使する」

「ねえ僕一個も質問できてないんだけど!?」

「これ以上やると本当に絞り込まれそう」

「ふーん。一回楓哉戻ってて」


 美羽が楓哉にそう言い、楓哉は渋々と言った様子で教室に戻って行った。そして美羽はすごい速さでスマホに何かを入力し、満足げに頷いていた。


「なんだ」


 ニヤニヤと笑っている美羽を見て、嫌な予感がした。


「この前うちが佐渡さんの机に腕ぶつけちゃった日あったじゃん」


 急に話が飛ぶ。しかし、美羽を舐めてはいけない。頭の良さを他に活かせと思えるほど、彼女の頭の回転は早い。


「あったな」

「その時うちがタジュの先に行く前、佐渡さんと話してたよね」

「そうだな」


 バレたな。これは。


「その時スマホ持っててなんだっけ?へるふぁいあぶるー?ってゲームじゃん。この前タジュに教えてもらったやつ。その画面だったよね」

「そうかもしれないな」

「もしかして佐渡さんもそのゲームやってるんじゃないの?」


 それにさ、と言い、美羽はスマホを見せてくる。そこにはアニマーテの広告があった。そしてその後マップを開いてサイズリアの位置を見せてきた。


「結論は?」


 大樹は降参というように両手を上に上げた。すると美羽は、


「あのインスクの子、佐渡さんでしょ?」

「……そうだな」

「いやー、良いね。探偵が犯人を追い詰めてくときってこんな感じなんだ。気持ちいいー!」


 大きく伸びをした美羽はすぐに真面目な顔になり、


「2人って付き合ってるの?」

「いいや、ただのヘルファイ仲間」

「ねえ、タジュ。ちょっと、注意しなよ」

「何に?」

「分かってるでしょ?あんまりこういうの言っちゃいけないんだろうけど、タジュと佐渡さんはクラスの中でも正反対って思われてるのは知ってるよね?」

「そりゃな」

「うちは別にタジュの交友関係に文句を言うわけじゃないしそれは皐月も楓哉も一緒だと思う。でもね、それでもどっかにはケチをつける人はいる。学年問わず女子からモテてるタジュなら想像できるでしょ?」

「だからさ、「ちょっとストップ」なにさ」


 このまま突き進んでいきそうな美羽を静止する。


「それさ、俺が佐渡さんに対して好意を抱いている前提で話進んでない?」


 すると、バレたか、と美羽は意地の悪い笑みを浮かべて、


「だって、恋愛感情に発展させるには周囲の後押しが必要だって言うし」

「余計なお世話だ」

「まあ、それはそれでいいけどさ。じゃあ、そろそろ戻らないとね」




 朝から疲れた大樹は頑張って授業に集中しようとしていた。

 やっぱり集中できずにいた大樹だが、ふと周りを見るとどうやらそれは大樹だけでなくクラス全体のことらしい。


 大樹は頭の中にカレンダーを呼び出し、何か今日あるのかと考えた時に、6限目のLHRが思い出された。

 この時期だと、そろそろ文化祭の時期だろうか。結構みんなそれが気になっているのかソワソワしている。


 そして、この教科の担当は担任で、そのクラスの状況を見かねたのか時計を見て、


「頑張ればあと10分で一区切りつく。だからその残りの15分くらいはLHRの追加時間としようか。どうせみんな今日何やるか予想ついてるんだろ?」

「畑中先生、最高っす」

「ありがとう楓哉、と言うわけであと10分頑張ってくれ」




「じゃあ、今から畑中先生のご厚意によりLHR議題、"文化祭の出し物"についての会議を始めるわ」


 クラス委員を務めている皐月が前に出て黒板に文化祭の概要を記していく。


「私たち1年生は店は禁止、使える予算も先輩たちに比べると少なめになっているわ」

「じゃあ、限られた予算でできそうな案を何かあったら教えて」


 さまざまな生徒が手を挙げて意見を発表し、それらを皐月は黒板に書いていく。

 しばらく経って意見が出なくなると、皐月がそのうちのプラネタリウムと書かれたところを指差しながら、


「私的にはこれがおすすめね。材料によってはすごく安価で済むし作業内容も簡単。それでいてできた時の迫力もある」


 こういった時、皐月の影響力は非常に高いのだと改めて思い知らされる。

 皐月がプラネタリウムの案を出した途端にクラス全体の雰囲気が一気に好意的な期待を持ったものに変わり、そこからはトントン拍子に進んだ。




 ちなみに、プラネタリウムを発案したのは大樹である。小中の合計9年間宇宙にハマり、今も部屋には大量の図鑑がある大樹は出し物がこれに決まったことに大満足であった。




 LHRの時間。大樹達1年4組はプラネタリウムを作ることに決定し、それについての話し合いを行なっていた。


「まずは設計から入るわ。プラネタリウムの場合教室を全力で暗くするかちょっとしたドームを作るかで後の作業がずいぶん変わってくるからかなり重要な議題よ」

「やっぱクオリティ上げたいよね」

「でもドーム型ってどうやるんだろ」


 少なくとも教室内には作るはずだ。


「骨組みとかは技術部のオレたちがやるからそこは不安がらなくて良いよー」


 そう言ったのは技術部の樋口。軽薄そうな見た目に反して実はなんでもできて気遣いも上手な良いやつ。周りの技術部の面々もやる気だ。

 皐月は彼の方を一瞥してから、


「ありがとう。樋口くん。じゃあ、そっちは技術部に任されるし、ドーム型で良いかしら?その方がクオリティも上がるし」


 そうしてトントン拍子に出し物の話し合いは進んでいくのであった。



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