第65話 伊達ではない実力
大樹君はそろそろ試合に出ているころでしょうか。私は先ほどの試合の反省点を色々と振り返っていました。
もう少し安定した指し方はなかったかとか、逆に終盤戦で大胆に攻めれたのではないかとか。
私は将棋歴が長いわけではありません。ですが自分の思考力には多少の自信を置いています。
どうすれば自分が有利になれるか。相手が不利になるか。それを考えるのが得意なのです。
ですが、次の相手は思考力だけで言えば全国トップレベルの高校生です。服部先輩。天才であり狂人でもあるやばい人。ですが尊敬する先輩でもあります。
スマホの通知に気がつき私は画面を開けます。するとRIMEにはこんな通知が。
『茜ちゃん!勝負といこう!手加減はしてくれよ?』
手加減。なんてことを言っているのでしょうか。先輩がなんなら手加減して欲しいものではあります。私はそう返信して
(そろそろですかね)
スマホに映る時刻表示を見て席を立つのでした。
『試合時間の五分が経過しました。ただいまの試合───────』
大樹は結城の蹴りを回避してその放送に耳を傾ける。まあ、結果は分かりきっているが。
『有効打数八対〇で草宮選手の勝利!』
「よっしゃ」
同じクラスの生徒からの歓声が聞こえる。
大樹は結城に向き直って、結城もまた大樹に向き直って
「「ありがとうございました」」
「大樹くん凄かったよ!結城くんの攻撃全部避けてたもん!」
「草宮空手できたんだな。帯も黒色だったし」
あと三十分で準決勝が始まる。みたところ大樹と楓哉以外に残っているのは二年生だけであった。受験の近い三年生は自由参加となっているが空手には一人もいない。
「次の相手は見たことある人だな」
東海優勝の時の大会の県大会で当たったことがある人だった。
『服部選手は鬼殺しを選択。佐渡選手は冷静にそれに対して金を一マス上に上げたわね』
私は服部先輩が狙っているであろう攻撃を防ぐために守りを固めます。
「茜ちゃん。角行の頭がスカスカだよ」
スカスカ?金を使って固めてあるはず───────!?
その数手後、金と角行を失い飛車が成った駒、龍王が私の陣地で暴れ回ります。一気に破壊される陣形。ですがまだ勝機はあります。
先輩が私の陣地を破る前に既に私は先輩の陣地に拠点を置いてあるのですから。
「すごいね茜ちゃん。生徒会にいる将棋部の子でもここまで強くなかったよ」
「そんなこと言ってるけど余裕そうですね……!」
『服部選手が佐渡選手に王手を掛け続けているわね。でも佐渡選手も負けじと凌いでいるわ』
周りにたくさん人がいるのを感じます。
「頑張れ服部!」
「会長!勝てる!」
対局の内容は口に出してはいけませんが応援はOKとのこと。
観戦に来た人は会長を応援しています。実際私の自陣の守りは段々弱まっています。
「どこからそんなに攻めが湧いてくるんですかっ……!」
「最初からこれ狙ってたんだよね」
「プロ目指せますよ」
「研修会でA2だったんだよねついこの間まで。飽きたからやめちゃったけど」
研修会の最下位クラスでも入るには二段程度の実力は必要とされているそうです。それの中でもA2というのは上から三つ目のクラスだそうで……
下手したら女流棋士としてテレビに出ていたかもしれない実力を伴っています。
「化け物ですか先輩は……」
「秦明学園最強の女は伊達じゃないのさ。ほら、王手だよ茜ちゃん」
形勢は絶望的。これから続けてもこの先輩に勝てるとは思えない。
みっともなく負けるなら潔く降参すれば……
「参りま───────」
そう言って頭を下げようとした瞬間
「まだやれる!」
「……え」
私はゆっくりと後ろを振り向きます。
「……草宮君……?」
危うく大樹君と呼びそうになりましたが直前で自重できました。
大樹君は優しそうに微笑んで
「隣の席の女子が頑張ってるって聞いたら観に来るでしょ普通」
ギリギリ間に合った、のか?予定ではもう少し早く着く予定だったが思った以上に茜はもうほぼ負けかけている。
ここから逆転ができるとあまり期待してはいないが、それでも最後まで頑張ってほしい。
茜は目線を盤面に落とし、持ち駒の中から金を取り出した。
茜は金を盤面に打ち付けてチェスクロックを止めた。
気づけば、接戦だった。お互いの王将は守りを剥がされ、盤面には至る所に駒が効いている。少しでもミスをしたらその瞬間に負けが決まる。
「王手っ……!」
茜が会長の王将に迫る。会長は眉を顰めて間に駒を置いてその攻撃を防ぐ。
「王手」
会長が連続で王手をかけて詰ませにかかる。茜は王将を必死に逃していく。
段々と会長の攻め駒が減ってきた。ここで逃げ切れれば茜は大量の駒を手にして会長は四面楚歌となる。
「茜ちゃん、覚悟!」
「絶対に負けません……!」
そして───────
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