第三章後編 最後の試練編

第111話 夏休みの予定について

 一学期の終業式があった日のこと。

 大樹、茜、楓哉、美羽、皐月、光希の六人はRIMEのグループ通話を行なっていた。


『いやー、夏といえば海!海といえば夏!ってわけで海水浴行かない?』

「良いなそれ。俺は茜さえ良ければ参加するかな」

『私も良いですよ』

『カップル一号は参加と。二号は?』

『皐月どうする?』

『もちろん行くわ。楓哉も行くわよね?』

『もちろん』

『余り物その一もいっくよー!』

『じゃあ余り物その二も参加させてもらおうかな』


 そんなわけで六人全員で七月の終わりに海水浴が決定した。




 それから完全に雑談会になりそれが終わったあと調べ物をしていると茜からRIMEが来た。


 アカネ 『電話かけても良いですか?』

 大樹  『おっけ』


 そのように返信すると数秒後に電話がかかってきた。ノータイムでそれに応答する。


『もしもし大樹君』

「もしもし茜。どうした?」

『その、今度デートしませんか?』

「良いけど、珍しいな。茜から誘ってくるって」

『お泊まりは私から誘いましたよ?』

「あ、ほんとだ」

『コホン、それで、行きたい場所はAtOmです。その、水着を新調したいと思いまして』


 水着という単語に大樹は茜の水着姿を妄想して、すぐにやめた。


「……ああ、おっけ。いつにしよっか」

『そうですね。では、明後日とかどうでしょうか』

「おっけー」




 秦明では夏休みの課題はほとんど出ない。

 その分自分に必要な勉強をしていかなければならない。

 夏休み初日のお昼すぎ、三年生の縁は煌くんと勉強デートをするべく外出している時に茜は草宮家に来た。


「暑かっただろ」

「はい。でももっと暑くなるんですよね……」

「今度から俺がそっち行こうか?」

「お願いしても良いですか?」

「任せな」


 茜の格好は薄手で水色のワンピースである。清楚で爽やかな印象が入っていて茜の雰囲気によく合っているように思える。


 茜は持っていたカバンを下ろしてその中から分厚い赤色が特徴的な参考書とノートを取り出した。


「最近は過去問解いてるんですよね」

「うわ、俺もそろそろやった方がいいかな」

「いえいえ、高三の夏休みくらいからが普通だと思います。それに私がやってるのは解くと言っても得意科目だけですし」

「その、茜の得意科目って」

「数学と化学ですね」

「解けるのそれ」

「まあ、合格者平均くらいは毎回いけてます」

「ちょっと数学教えてくれない?数Bが苦手すぎてやばい」


 大樹は自分の部屋から数Bのテストを引っ張り出してきてそれを広げる。茜はそれを見て納得顔で頷いた。


「統計ですか。確かに細かい計算がめんどくさいですよね。見た感じ解き方はほとんどあってますし」

「茜先生教えてください」

「大樹君、教えてあげましょう」


 茜は小さな胸を張って自信ありげな顔をした。


「そこの標準偏差間違ってます」

「まじ? ……ほんとだ」

「大樹君もしかしなくても『√』の計算苦手ですよね」

「ご明察。ほんとに一年の時とか分母の有理化もままならなかったもん」


 無論中学の範囲のそれは簡単にできるが高校に上がると慣れ親しんだ『√』の計算すらも難しくなって帰ってくる。

 それに苦しめられたのは記憶に新しいしなんなら今も苦しめられている。


「分かりました。教えますね。んーと……」


 茜が大樹のワークを覗き込むようにしてうなる。


(うーわ、めっちゃいい匂い)


 茜から香る爽やかでそれでいて甘い香りに脳がクラクラとさせられて、ただその動揺を悟られないようにして大樹はワークに目を落としたのだった。




「まあこのくらいですかね」

「本当にありがとうございます茜先生」

「報酬を要求します」

「なんでしょうか」

「その、ほっぺに、きす、を」


 途端にすごく恥ずかしそうな表情で大樹を見つめる。そんな彼女を大樹は抱きしめて右頬に口付けを落としたのだった。

 茜が大樹の背に腕を回す。


「ちょ、大樹君、吸い付いちゃダメです……跡が残っちゃいますよ」

「いや?」

「これで外に出るのちょっと恥ずかしいです」

「分かった」


 大樹は茜から離れた。頬には少し赤い点が見えるものの目立たないものであった。

 茜はスマホのカメラを使ってそのキスされた場所をしきりに気にし、しばらくした後に頷いた。


「ありがとうございます。このくらいの跡なら好きなだけつけてもらっていいですよ」

「おう、ありがと?なのかな」

「どういたしまして、ですね」


 茜は大樹のことをぎゅっと抱きしめたまま離そうとしない。


「大樹君、好きです」

「俺も好きだ」


 いっぱいに背伸びをして耳元でそっと囁く彼女に囁き返して、今度は二人でそっと唇を重ねた。




「茜さんだ。こんにちは」

「あ、縁ちゃん、お邪魔してます」


 その後しばらく勉強をしていると縁が帰ってきた。


「兄さん。ボクがいない間に茜さんを家に連れ込んで何してたのさ」

「勉強会」

「他には?」

「ヘルファイ」

「他には?」

「何もないな」

「ダウトで」

「おいマジかよよく分かったな」

「いや兄さん茜さんのこと好きすぎるからそんな茜さんと二人きりの時に何もしないなんてありえない」

「くそ、正解だ……」


 大樹が芝居がかった口調でうめくと隣から不思議な声がした。


「ふぇっ?」


 なにそれかわいい。





次回投稿

10月17日予定


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