第8話 集中砲火

 少し冷静になった大樹は頭を抱えた。


(やばい。なんかとんでもないことばっか言った気がする!)


 気づけば女子大生2人組はいなくなっており、茜は近くのベンチで座って俯いていた。


 まずは一旦茜に謝ろうと彼女に頭を下げると、彼女は大樹の方を見ながら、首をブンブンとふり、


「いえ!むしろ私が詰め寄られている時に助けてくれて草宮君には感謝しています」

「でもさ、ごめんな。付き合ってもないのに彼女とか言ったりして」


 すると茜は、目を泳がせながら、


「それは。確かにそうですね」


 ですが、と彼女は続けて、


「少しだけ、自信が持てました」

「それは、なんで?」

「家族以外に『頭が良い』以外のことを言われた経験がほとんどなかったので」

「そっか」


 大樹はスマホを見て次の電車の時間を確認する。


「そろそろ帰ろうか」


 そう声をかけると少し呆けた表情の茜はいつもの表情に戻り、


「ええ、そうですね」


 ゆっくりと歩みを進めるのだった。




「では、私はこっちなので」


 行きと同様、2時間ほど電車に揺られて大樹達は街へと帰ってきていた。


「オッケー。時間的にも1人で帰れるか」

「はい。お気遣い、ありがとうございます」


 そうして歩き出そうとする茜だが、ふと振り返り、


「今日はとっても楽しかったです。ありがとうございました」

「こっちこそありがとう。俺も楽しかったよ」


 そして、大樹と茜はそれぞれの帰路を辿るのだった。




 家に帰った後、大樹はインスクでサイズリアでの写真を投稿することにした。


「ハッシュタグはどうしようかな。まずはサイズリアでしょ。リア友、ナポリタン……」


 そうしてそれをアップする。

 大樹のインスクは1ヶ月に1回動く程度だ。しかし、フォロワーは2000人程度いる。原因は美羽。美羽がリア友として大樹、楓哉のアカウントを紹介して一気に増えたのだ。


 大樹はスマホを充電器に差し、ヘルファイグッズに整理を行っていた。


「兄さん。入るよ」

「りょーかい」


 ガチャリとドアが開き、顔を見せたのはボーイッシュな少女。彼女は大樹の妹、草宮縁くさみやゆかりだ。中学2年生で、秦明学園を目指しているらしい。


 女子テニス部に所属しているが運動神経が終わっており、一度試合を見に行ったのだが、逆に芸術的なほどの完敗であった。


 しかし地頭は大樹以上で、ワンチャン秦明学園を首席で合格できるかもしれないと言われているらしい。ちなみにボクっ子。


 そんな縁は大樹の部屋を見て、


「アニマーテでめっちゃ買ったんだね」

「見ろ、1万円程度だ。買すぎじゃない」


 すると、ふーんと大樹の部屋を見渡したのち、


「2次元もいいと思うけど3次元の彼女作ってよ。兄さんなら簡単でしょ?この前のバレンタインとかボクビックリしたんだからね」

「マジであれは狂ってると思った」

「ギリ200gだっけ?本当にやばいよ兄さん。早く彼女作ろ」

「そういう縁は彼氏いるのか?」

「この前告白されたけど振った」

「お前も彼氏作れよ。簡単だろ?」


 同じことを言い返した大樹は縁が言葉に詰まったのを見て縁を部屋から追い返したが、


「あ、そう言えば今日は母さん遅いらしいから夜ご飯ボクが作るね」

「ああ、頼んだ」

「頼まれた」


 そうしてドアが閉まり、同時にスマホで通知が鳴った。インスクのDMで楓哉から、


『手前は大樹だろうけど奥誰?』


 さて、なんと説明しようか。茜だとバレてはいけないし、できれば異性の友達だともバレてはいけない。

 一応逃げ道はある。縁だと言う。


『大樹ならもし写ってる人がめっちゃ仲良い人なら例えばいつメン、みたいにつけるから家族も違うし美羽、皐月も違うね』


 初っ端から逃げ道が思い切り閉鎖された。

 楓哉の頭の回転は時々すごく早くなる。勉強の時以外で。

 そして、


『あれ、これワンピースだよね。じゃあ女の子?』


 鋭すぎる。何か良い感じに楓哉を撹乱させられる返事は、と考えているうちに次のメッセージが来た。


『まあ、答えたくないなら別に答えなくて良いよ。例えばネットで出会った人とかでも大樹に被害がなければ僕は関係ないし』

『楓哉、お前、良い奴なんだな』

『まあ、一旦美羽にも聞いてみるよ』

『やってんなお前』

『返信早!』


 マジで美羽はやばい。彼女の情報発信力を舐めてはいけない。流石に常識と良識は持ち合わせているが、クラス内で広められたらたまったもんじゃない。


 そんなことをしてると、美羽からDMが来た。恐る恐る開けると、


『タジュ彼女できたんだー』


 大樹がアップした写真とともにその文が送られてきた。


『できてない』

『どんな子?今度紹介してよ』

『存在しないものをどう紹介しろと?』

『けちー』

『おーい』

『返信まだー』

『おーい』

『😄』

『😄』

 ………




「はぁ」

「兄さん疲れてそうだね。どうしたの?」

「いや、縁には関係ない」

「あ、兄さんのインスク見たよ。あの女の子誰なの?」

「なんでみんなそればっかり聞いてくんだよー!」

「なるほど、兄さんはさっきの間友達にそれを質問されて疲れたと」

「その通りだ」


 大樹はソファでスマホをいじっている縁の隣に腰掛け、テレビをつける。


「日曜の夕方だから面白いのやってそうだな」

「あ、クイズ番組。ボクこれ見たい」


 某有名クイズ番組、帝大王を見ながら縁はソファに座る。


「オッケー。勝負な」

「冷凍庫のアイスを賭けよう」


 その勝負で大樹が惨敗したのはまた別のお話。


(俺の妹の頭どうなってんの?)

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